東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第50話 運任せ

「「……」」

 お互いに睨み合う。

「一つ、質問が」

「何だ?」

「そのヘッドフォンってコードレスなの?」

「あ、ああ……」

 俺が装着しているヘッドフォンは妖怪少女の言う通り、コードがない。

「じゃあ、どうやってPSPから?」

「それはこうやってだよ」

 右手に持っていた特殊なプラグをPSPに差す。丁度、イヤホンのプラグを指す場所だ。

「でも、勝てるの? さっきだって追い詰められてたよね?」

「確かに俺が使えるスペルは全部、遊び用だ」

「なら「それでもたった一つだけ……勝つ方法があるんだよ」

 妖怪少女の言葉を遮って言う。

「一つ?」

「そう。だから、ここからは運試しだ。俺が狙っている姿になれたら俺の、なる前に殺されたらお前の勝ちだ」

「へ~……妖怪と戦うのに運に頼るんだ」

「因みに俺がなりたい姿の曲はたった一曲しか入っていない」

「そんなの無理じゃん」

「でも、やるんだ。勝つ為に。生きる為に」

 PSPを操作して曲を再生する。

「面白そうだね! その勝負、乗ったよ!」

 妖怪少女が翼を伸ばしながら叫ぶ。

「少女綺想曲 ~ Dream Battle『博麗 霊夢』!」

 霊夢の巫女装束を身に纏う。左手でスペルを取り出しつつ、右手を前に突き出す。指輪の力で生み出した結界で翼を防ぎ、すぐに攻撃に移れるようにだ。

「……あれ?」

 指輪が緑から白に変化しない。

(ま、まさかっ!?)

 取り出すスペルを変更し、急いでスペルを唱えた。

「夢符『二重結界』!」

 俺の周りに2枚の結界が展開され、翼を防いだ。俺の様子がおかしい事に気付いたのか妖怪少女が首を傾げた。

「霊符『夢想封印』!」

 今度はこちらからだ。8つのホーミング弾を飛ばす。

「そんな攻撃、通用しないよ!」

 8枚の翼で全ての弾を潰し、残った2枚で左右から同時に攻撃して来る。

「夢符『封魔陣』!」

 俺の体から衝撃波が出て翼を吹き飛ばす。

「やっぱり……もしかして、変身すると指輪、使えない?」

「ぐっ……」

 妖怪少女に気付かれた。どうやら、霊夢になった事で霊力が水増しされ、指輪が合成して生み出した力が表に出せないようになってしまったらしい。

「じゃあ、一撃でも与えれば!!」

 地面に両手を付いて炭素で出来た棘をこれでもかと飛ばして来た。俺の勘で霊夢のスペルでこれを躱し切れるのは『二重結界』ぐらいしかない事を悟る。しかし、それは先ほど使ってしまった。ならば――。

「停止『ストップソング』!」

 オリジナルのスペルを使う。紫に貰ったスペルの束の中にあったのだが、今頃になって使う事になるとは思わなかった。これだけは弾幕ごっこでも使えるらしい。どうして、渡して来たのかは不明だ。PSPの音楽が停まり、元の制服に戻った。すぐに合成神力で結界を貼る。棘は結界に遮られ、俺には届かない。

「残念。こっちが本命だよ」

「ッ!?」

 そこに地面から4枚の翼が俺を狙って飛び出した。棘は囮だったようだ。

「妖力!」

 指輪が黄色に変わり、俺の両手に薄い黄色のオーラが纏う。肉体強化だ。

「ふんっ!!」

 両手で2枚の翼を弾き、もう2枚の翼に当てて軌道を逸らして、難を逃れる。

「安心するのは早いんじゃない?」

 今度は6枚で出来たドリルが迫って来た。

「神力で道を作り、妖力で強化。属性に雷!!」

 言葉で合成の内容を確認する。頭で考えるより、ずっと楽だ。俺の両手から雷を纏った棒状の物体が生まれる。

「更に霊力で補強。伸びろ!」

 棒状の物体がドリルに向かって伸び、絡みつく。ドリルの回転スピードがどんどん、遅くなり止まった。

「何っ!?」

「ショック!!」

 次に棒状の物体に纏っていた雷でドリルを通して、妖怪少女に攻撃する。

「また!」

 今度は両手ではなく2枚の翼で6枚の翼をぶった切る。

「再生『スタートソング』! 上海紅茶館 ~ Chinese Tea『紅 美鈴』!」

 連続でスペルを発動させる。『停止』で止めたPSPは『再生』で再生しなければいけない。更に曲も変わる。美鈴になった俺は地面を蹴って妖怪少女に突進した。

「くそっ!」

 4枚の翼を地面に突き刺し、即席の盾を作る。

「ハッ!」

 盾に思いっきり、正拳突きを食らわせた。衝撃で右手から血が噴き出る。

「がっ……」

 しかし、盾の向こうで妖怪少女の息を漏らす音が聞こえた。成功したようだ。

「この服は『気を使う程度の能力』を持ってる。だから、右手に気を溜めて撃ち出し、盾を貫通させてお前に一撃、食らわせたってわけだ」

 試しに指輪で合成した霊力を右手に流し込んでみる。

「お?」

 すると、治った。どうも、体の中では機能するらしい。これで気持ちに余裕は持てた。安心は出来ていないけど。

「防御無視……厄介だね」

 バックステップをして俺から距離を取った妖怪少女。

「でも、これはどう?」

 そう言うと、10枚の翼をランダムに伸ばし、俺へ差し向ける。普通ならこれを躱すのは無理だ。それほど乱暴な攻撃なのだ。

「すぅ……はぁ……」

 呼吸を整え、神経を研ぎ澄ませる。

「――」

 息を止め、迫って来た翼を躱す。気を纏わせた右手で払い、地面から飛び出した翼を左足で蹴り飛ばした。

(大丈夫……いける)

 荒れ狂う翼。それを次々に弾き、躱し、蹴り返す。不思議と落ち着いている。

「くっ……」

 妖怪少女が顔を歪ませた。その刹那――。

「……え?」

 俺の両腕から血が噴き出した。きっと、美鈴の能力が体に負担がかかったのだろう。だが、それだけなのだろうか。今の俺の体は美鈴と同じように妖怪だ。なら、これぐらいで音を上げるだろうか。

「ま……さか?」

 『ライトニングリング』だ。あれは強力な肉体強化だが、時間差で筋肉が破裂するらしい。瞬時に作ったのでデメリットを確認していなかったのだ。気付いたが、もう時すでに遅し。翼が俺を吹き飛ばした。飛ばされた俺は勢いよく木にぶつかり、肺の酸素が外に漏れる。

「えいっ!」

 妖怪少女の冷酷な呟きが聞こえたと思ったら、俺の腹を翼が突き破っていた。その翼が木に突き刺さり、俺の体が固定される。

「ぐ、あ、ああああああああああああああっっ!?」

 激痛で絶叫する。引き抜く為に腕を動かそうとしたが、筋肉が破裂しているので言う事を聞かない。

「く、そ……」

 筋肉を再生させる為に霊力を流した。その途中で妖怪少女の4枚の翼が俺の両手両足に巻き付き、拘束する。

「好きなようにはさせない!」

 筋肉の再生が終わり、動かそうとしたが全く身動きが取れない。

「これでとどめっ!!」

 残った5枚の翼を勢いよく伸ばした。頭、心臓の他にも人間の急所を狙っている。さすがに即死じゃ再生出来ない。

(っ……)

 身の危険を感じる。手足は不自由。腹には翼が生えて、血が流れている。どうする。指輪も使えない。でも――

「……大丈夫」

 直感的にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……」」

 響と妖怪少女が睨み合う。

「運が悪いな、お前」

 ぽつりと呟く響。その左手には2枚のスペルカードが握られていた。

「……何をしたの?」

 妖怪少女は目を細めて質問する。驚くのも無理はない。10枚の翼は全て、粉々に砕かれているのだから。響は解放された体を軽く動かして調子を見ていた。腹部もいつの間にか治っている。

「U.N.オーエンは彼女なのか? 『フランドール・スカーレット』。これが今、発動したスペルだ」

 その姿は美鈴からフランに変わっており、拘束されていたはずの右手は固く握られていた。

「俺はこいつになるのを待っていたんだ。本当に……運が良い」

「でも、時間制限があるよね? それまで耐えれば」

「そうはさせないよ。それに……この姿じゃない」

「え?」

 響の呟きに妖怪少女が首を傾げた。

「俺はこの姿でお前に勝てるとは思ってない。さっき知ったけど俺は人間の『目』は集められないらしいからな」

 そう、呟きながらギュッと右手を握る響。だが、その姿はほっとしているようにも見えた。

「さて、そろそろ見せるとするか……ゴメン、フラン。少し、力を貸してくれ」

(いいよ。お兄様の頼みだもん!)

 微かに笑い、左手に持ったスペルを右手に持ち替え、静かに唱える。

 

 

 

「シンクロ『フランドール・スカーレット』」

 

 

 

 その刹那、紅い閃光が響を包み込んだ。

 


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