東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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感想にて間違いを指摘されたので修正しました。
話の流れは変わっていませんのでよろしくお願いします。


EX8

「霊夢さん!」

 あまりの事態に迫る鎌を目の前にしても身動きが取れなかった私を庇ったのは隣を飛んでいた妖夢だった。彼女は私と小町の間に割り込み、素早く抜いた長い方の刀――楼観剣で小町の鎌を受け止める。ガキン、と金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き渡り、火花が散った。

「やっぱ、厄介だね。その直感……確実に仕留めたと思ったのに、と!」

 妖夢と鍔迫り合い(鎌に鍔はないが)をしていた小町が苦笑を浮かべながら妖夢の刀を押し、その反動で後方へと下がる。その直後、星型の弾幕が小町がいた場所に通り過ぎた。魔理沙が小町に攻撃したらしい。

「おいおい、いきなり物騒じゃないか? 本気で霊夢を殺しに来たのか?」

「まさか! ただのお遊びさ。これじゃ斬れないからね」

 そう言いながらも小町は器用に鎌を振り回した後、標的は私だと言わんばかりに鎌を向けた。確か小町は鎌を扱えないし、そもそも鎌自体も全く斬れない作り物であり、三途の川を渡る『死神は本当にいた』と死者に向けてのサービス目的で持っていたはずだ。

「……でも、気絶ぐらいはさせられる。ちょっとばかし痛い目に合ってもらおうかと思ってね」

「な、何故そんなことを……まさか今回の異変の首謀者の協力者!?」

「は?」

 早苗が目を丸くして驚くが当の本人は不思議そうにきょとんとしている。早苗の推理は的を外れていたらしい。小町の反応から早苗もそれに気づいたようで恥ずかしそうに両手で顔を覆っている。

「……ああ、なるほど。異変、か。確かに人によっちゃ異変だと捉えるかもしれないか。それでそんな大人数で固まって飛んでたわけだ」

「その様子だと何か知ってるようだけど」

「ああ、知ってるさ。きっと、大抵の妖怪たちは気づいてる。まぁ、例外もいるみたいだけど?」

 小町はニヤリと笑いながら私に鎌を向けながら鈴仙を見た。その例外が彼女なのだろう。鈴仙も腑に落ちないような表情を浮かべて紅い目で小町を観察している。

「なに、別にあんたが鈍感なわけじゃない。ただ、能力が邪魔しただけさ」

「能力?」

「波長を操れるんだろ? なら、あいつからの影響を受けた後、無意識の内に通常に戻そうと調整したかもしれない。それはあたいにはわからないけどね」

 そう言っておきながら彼女の顔には自信が満ち溢れていた。その反面、鈴仙は本当に能力を使ったのか、と思い出そうとうんうんと唸っている。あの様子では思い出すことはないだろう。いや、それ以上に気になることが一つ。

「あいつ……知り合いなの?」

「もちろん、あたいの師匠であり、そう遠くない未来、弟子になる奴さ」

 小町の発言に私たちは思わず顔を見合わせてしまう。小町に師匠がいたとは初耳だ。それにそう遠くない未来に弟子になるとは一体、どういうことなのだろうか。まるで、未来に起きることを知っているかのような。

「へぇ、師匠がいたなんて初めて聞いたな。何を教えてもらったんだ?」

 魔理沙が興味深そうに質問すると小町はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりにニタリと笑った。そして、その場でブンブンと鎌を回し、担ぐように柄を肩に乗せる。

「鎌の扱い方さ。あいつから鎌の扱い方を教えてもらって……いつかあたいがあいつに鎌の扱い方を教える予定なのさ」

「……自分で矛盾してること言ってるの自覚してるか?」

「ああ、もちろん。でも、事実なんだから仕方ない」

 訝しげに見る魔理沙の視線を受け、小町はケラケラと笑い声を漏らす。ふざけているのかと思ったが、どうも彼女が嘘を言っているようには見えない。彼女は真面目に矛盾している事実を言っただけ。

「……それで? その師匠について教えてもらえるのかしら?」

「いいや、教えない。あんたにだけは絶対に教えない」

 私がそう問いかけると小町はいきなり真顔になって断言した。

 やはり、フランの時と同じだ。私が『万屋』の読み方を間違えた途端、フランは癇癪を起こした。どうも、彼女たちは私が『万屋』のことを思い出せないことが気に喰わないらしい。

「そもそもあたいが攻撃した時点でわかってもいいと思うんだが……あたいはあんたたちの敵さ」

「おう、それはわかりやすい。なら、早速――」

「――おいおい、もう少し語らせてくれよ。あたいだって霊夢の態度を見て何も思わないわけじゃないんだ」

「それは……霊夢さんが『万屋』のことを覚えていないことにですか?」

 刀を構えながら妖夢が小町に質問する。それに対し、小町はすぐに頷き、鋭い視線を私に向けた。

「事情はわかってる。あんたが思い出せないのも無理はない。でも、納得はできないのさ。せめて、思い出してから会って欲しいんだよ、あたいたちは」

「それまで大暴れしてる妖精を放っておけって?」

「ああ、そうさ。妖精に関してはあいつがどうにかするだろう。だから、ここは引いてくれないかい?」

「……無理ね」

 その『万屋』がどんな人かわからない。少なくとも自分の『存在』を食べられる実力者であることぐらいだ。しかし、だからといってその人に任せるつもりはない。何故なら、私は『博麗の巫女』だから。

「そうか。じゃあ――」

 私の答えを聞いた小町は苦笑を浮かべた後、一瞬にして距離を詰め、私へと鎌を振るう。彼女の能力は『距離を操る程度の能力』。彼女は距離を操って私に迫ったのだ。

 回避は不可――というより回避した後、もう一度距離を操られて結局、鎌で殴られて終了。弾幕ごっこではないので向こうもこちらを気絶させるつもりだろうし、当たれば私は戦闘不能になってしまうだろう。だから、私は動かなかった(・・・・・・)

「シッ……」

 私に鎌がぶつかる直前、妖夢が再び刀を振るってそれを弾き飛ばす。更に短い方の刀――白楼剣で追撃を試みるが、それは小町の能力で回避されてしまった。

「霊夢さん、皆さん! ここは私が受け持ちます!」

「……お願いするわ」

 私たちは基本的に弾幕を張って戦う。しかし、距離を操る小町の前ではあまりにも不利である。

 その点、妖夢は弾幕の他に刀を扱えるため、私たちに比べて小町相手でも戦える上、速度も私たちの中では一番だ。距離を操られても離脱や接近も可能なはず。

 他の人も私と同じ考えに至ったのか特に反対意見も出ずに私のあとを追いかけてくる。

「おっと、これはやられたな。あんたを倒さない限り、霊夢を止められないってか?」

「……参ります」

 背後から小町と妖夢の会話が聞こえた。小町は妖夢が足止めしてくれる。当分の間、彼女は私たちを追ってはこられ――。

(――でも……いえ、今は小町の恩情に甘えましょう)

 小町の能力は『距離を操る程度の能力』。妖夢が足止めしているとはいえ、彼女がその気になれば妖夢を無視して私たちを追いかけられる。しかし、今の彼女の言葉からしてそのつもりはないようだ。最後まで小町の考えは読めなかったが私たちに不利益になるようなことはないようなので放っておく。とにかく、今回の異変の首謀者を見つけて止めなければならない。それが『博麗の巫女』の仕事なのだから。

 


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