突如、私たちの前に立ちふさがったのは吸血鬼姉妹の『レミリア・スカーレット』と『フランドール・スカーレット』だった。しかし、問題は彼女たちが現れたことではない。吸血鬼である彼女たちが日傘を差さずに日差しを浴びていることが問題だ。
「お嬢様? 妹様?」
常に冷静な咲夜でさえ目を白黒させて吸血鬼姉妹を見上げている。彼女もレミリアたちが日差しを浴びても無事でいることに驚いているのだ。
「……で? さっきのはどういう意味なんだ?」
驚愕する私たちの中で最初に正気に戻ったのは魔理沙だった。魔理沙に問いかけられたレミリアとフランはキョトンとした後、顔を見合わせる。
「どういうって……そのままの意味よ?」
「この先に行きたければ私たちを倒していけー、みたいな」
「だから、どうしてこの先に行くのにお前たちを倒さなきゃならないんだ? この先に行ってほしくないのか?」
「いや、別に」
不思議そうに首を傾げながら答えたレミリアに思わずツッコみそうになった。つまり、彼女たちは特に意味もないのに私たちの邪魔をすると言っているのだ。
「でも……」
文句を言おうとしたがレミリアが何故か私の方をジッと見つめた。見つめられる理由がわからず、口を噤んでしまう。
「……その様子だとまだ思い出していないみたいね」
「この先に『万屋
「む……霊夢、今なんて言ったの?」
私が問いかけると今度はフランが目を鋭くさせた。何か彼女の逆鱗に触れることを言ってしまったらしい。しかし、ただ私は『万屋』について聞いただけだ。あそこまで怒る理由がわからない。
「よりによって霊夢が読み間違えるなんて……本当に、もう……もう、もうもうもうもう!」
私が怒られている理由がわからないとわかったのか、それすらも気に喰わなかったらしくとうとうフランは癇癪を起こしてしまう。さすがにこのままフランを放置するのはマズイ。私たちはいつでも動き出せるように構えた。
「全くこの子は……ほら、早くしないとこの子の能力でキュッとしてドカーンされるわよ」
「ちっ……結局、何もわかんないまま戦うしかないか」
「……いえ、ここは私に任せてください」
魔理沙がミニ八卦炉を取り出そうとしたところでいきなり敬語になった咲夜が私たちの前に移動しながら言った。すでに彼女の両手には数本のナイフ。
元々咲夜の目的は日傘を持たずに出かけてしまったレミリアとフランを探すこと。この時点で彼女の目的は達成されている。
「お嬢様、妹様……どうして日光の下でも動き回れるのか、聞かせていただいても?」
「そうね……『万屋』に頼んだから。そう言って納得できる?」
「納得しかねます!」
そう言って咲夜はレミリアとフランに向かってナイフを投擲。その後、能力を使ったのかいきなりナイフが増えて吸血鬼姉妹に迫る。
だが、ただ増えただけのナイフにやられるような2人ではない。レミリアとフランはほぼ同時に魔弾をまき散らし、ナイフを弾き飛ばす。
「さぁ、行きなさい」
「……わかったわ」
きっと咲夜に何を言っても彼女は譲らないだろう。ならば今は異変解決のために行動した方がいい。私は他の皆に目配せして迂回するように移動し始める。
「させないよ! 禁忌『レーヴァテイン』」
そんな私たちを目ざとく見つけたフランが炎の剣を片手に私たちへと向かってくるがその前に急ブレーキをかけて背後へと炎の剣を振るう。すると炎の剣と咲夜が投げたナイフがぶつかり、甲高い音が響き渡る。
「邪魔しないで、咲夜!」
「いいえ、そうもいきません。全力で邪魔させていただきます」
「へぇ、面白いじゃない。私も混ぜて欲しいわ!」
背後から咲夜たちの戦う音が聞こえ始め、弾幕ごっこが始まったのだとわかった。その音を聞きながら私たちは『死の大地』へと向かう。
「まさかレミリアたちがお天道さまの下に出られるようになってるとはな……一体、どんなトリックを使ったんだ?」
「あー、それなんだけど」
後ろを見ながらぼやくように言った魔理沙だったが鈴仙が少しだけ困ったように手を上げた。全員の視線が鈴仙に集まり、彼女は何故かビクッと肩を震わせる。依頼状の時のように何かわかったのだろうか。
「えっと、依頼状みたいに波長変えたら何かわかるかなって思って話してる最中、ずっと色々と試してたんだけど……2人の影に違和感を覚えた」
「違和感?」
「うん……具体的には説明できないけど、影に何か細工してるのはわかった。それも多分、第三者の仕業」
「そういえば『万屋』さんに頼んだって言ってましたね。やっぱり、慧音さんの言ってたとおり、かなりの実力者なんでしょうか?」
鈴仙の言葉に早苗が腕を組みながら推理する。確かに吸血鬼の長年の弱点である『日光』を克服できるほどの力を持った人物。それが今回の異変の首謀者。
(それに……)
フランの言葉が気になった。よりにもよって私が読み間違える。彼女は確かにそう言った。じゃあ、どこを読み間違えていた? そこまで長くなかったのですぐにその単語はわかった。『万屋
『万屋』を読み間違えたとは考えにくいのでおそらく『
だから、『万屋』の名前は――『
――霊夢
「っ……」
「霊夢さん? どうしました?」
「……何でもないわ」
『万屋』の名前を思い浮かべた刹那、頭にノイズが走る。痛みはなかったがその衝撃に思わず顔を顰めてしまう。それを隣を飛んでいた妖夢は見ていたのだろう。心配そうにこちらの様子を窺っていた。その問いに首を振って答えた後、
「およ?」
「……は?」
そこには今まさに大きな鎌を振り下ろそうとする死神――小野塚 小町がいた。