東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第491話 本能力

 俺の魂構造は他の人とは違っており、いくつも部屋が存在している。そして、吸血鬼や翠炎のように魂だけの存在にその部屋を貸し与え、共存することが可能だ。

 もちろん、『貸し与える』ため、タダではない。家賃代わりの地力を少しだけ俺に与え続ける必要があり、そのおかげで本来、霊力や魔力しか持たない人間の身であるにも拘らず、神力や妖力も扱うことができた。

 それは『シンクロ』などで一時的に俺の魂を訪れた人も同じであり、魂の中に滞在している間、俺に地力を与えなければ自分の体へ強制送還されてしまう。ただし、共存している吸血鬼たちよりも与える地力量は少なく、家賃というよりも入場料と言った方が正しい。そんな微々たる地力は『シンクロ』を1秒でも維持すればすぐになくなってしまうほど少量であり、それを使って大技を繰り出すなど夢のまた夢であった。

 また、『ダブルコスプレ』や『マルチコスプレ』も宿している幻想郷の住人たちの魂は俺の魂の中へ移動し、入場料を払う(地力を与える)。特に『マルチコスプレ』は『保留(ストック)』した後、『再生(チェンジ)』で宿し直す度に入場料を払わなければ(地力を与えなければ)ならないため、今回のように住人たちが衰弱している状態では何度も『再生(チェンジ)』できない。ましてやその地力も極少量のため、それを利用することは不可能に近かった。なにより、『マルチコスプレ』は複数人の魂を同時に宿すとお互いが干渉し合い、同じ極を近づけた磁石のように魂が弾け、強制的に自分の体へと戻ってしまう。だからこそ、一人ずつしか宿すことはできない。

「皆、準備はいいか?」

 肩で息をしながらもまだ立っている東を睨みながら俺は背後に浮かぶ無数のスペルカードへと声をかける。あのスペルカード1枚1枚に幻想郷の住人たちの魂が宿っており、合図を待っている状態だ。もちろん、実体化していないので皆の声は聞こえないが一斉に頷いたような気がした。

 確かに『マルチコスプレ』は一人ずつしか魂を宿すことができない。複数の魂を宿したところで、干渉して弾かれてしまう。それでいて俺の魂はしっかりと入場料(地力)を徴収するため、質が悪い。

 だが、今回の場合、そのデメリットこそ救済の鍵。そもそも東を救済するのだからこれ以上、戦う必要がない。今、必要なのは大技一つ繰り出すのに必要な地力だ。

「行くぞ!」

 そう叫んだ瞬間、ズガン、と魂が震えた。スペルカードに格納されていた皆の魂が一斉に俺の中に入ってきたのだ。ギシギシと魂が軋む音が体の底から轟いた。こちらへ向かってくる東の姿がぐにゃりと歪む。いや、歪んでいるのは俺の視界だ。

「ガッ……」

 その衝撃に体が悲鳴を上げ、吐血。当たり前だ。いくら魂構造が人と違うと言っても部屋数には限度がある。そこへ一瞬とはいえ、大量の魂を受け入れたのだから。皆のスペルカードは俺の背中に集まり、まるで翼のように繋がっていた。

 だが、幸いにも今の俺の魂は『死』となったことで修復中であり、大部屋1つしかない。普段ならその負荷に耐え切れなかっただろうが、魂が大部屋になったことで普段よりもスペースが増え、何とか耐えることができた。『薄紫色の星』が浮かぶ瞳で成功する姿が視えていたので心配はしていなかったがこの衝撃はさすがに堪える。もう二度とやりたくない行為であり、もう二度とやらないために全てを終わらせるのだ。

『響!』

 そして、皆の魂は一斉に弾け、自分の体へと強制送還される。背中のスペルカードで形成された翼も飛び散り、周囲へバラバラに撒き散らさせた。それと同時に霊夢の悲鳴のような絶叫が体の中で響き渡る。いや、霊夢だけではない。皆が俺の名前を呼んだ。心配そうに、背中を押すように、面白がるように、怒ったように、楽しそうに、悲しそうに、様々な気持ちが俺の名前に込められ、魂を震わせる。

「ッ……ハっ、ぁ……」

 1秒にも満たない永遠に近い地獄を潜り抜け、俺は止まっていた呼吸を再開させる。そして、体の中を暴れまわっている地力に思わず、右手を握りしめた。もし、『【無題】』(俺の曲)がかかっていなければ『ダブルコスプレ』で呼ばれた2人の住人を説得して一か八かの大勝負をするところだったのだ。きっと、『ダブルコスプレ』で決行していれば地力は足りず、十中八九、俺は死んでいただろう。本当に『マルチコスプレ』が発動して助かった。

(皆の、想い……受け取ったぞ)

「音無!」

 大気を震わせるほどの怒声にハッと顔を上げればすでに身体能力を極限まで引き上げた東はすぐそこまで迫っていた。きっと、数秒後には東の拳は俺の心臓を貫き、殺すだろう。

 

 

 

 

 

 だが、一歩届かない。

 

 

 

 

 

「――」

 『死の大地』への誘導、そして、地力の確保は完了した。だから、終わらせよう。俺は右手を前に伸ばし、目を閉じる。

 『死』となった時のように『概念』そのものになってはいけない。それでは東は救うことはできても『音無 響』は『概念』に塗りつぶされ、消滅してしまう。だから、成り代わるのではなく、宿す。自分の存在を糧にしないため、消費する地力はあまりに多いが皆から受け取った地力で賄える。

「キョウ君!」

 隣に立つ咲さんが俺の左手を掴んだ。幽霊であるはずの彼女の手は温かく、ぬくもりが左手から広がっていく。

 ああ、そうだ。そうだった。皆に、母さんに、咲さんに呼ばれ、俺は自覚する。

 全てはこの名前から始まったのだ。

 『時任』、『博麗』、『雷雨』、『音無』と両親から受け継いだ苗字。その一つでも欠けていたら俺はきっと死んでいた。父さん(リョウ)が、母さん(レマ)が、義父さんが、義母さんが俺を守ってくれたから今、ここに立っている。『音無 響』は立っている。

 だから、使え。全ての始まりであり、俺がこの世に生まれ落ちた時から宿している能力を、自分の意志で、誰かを殺すためではなく、誰かを救うために。

 その身に宿せ、全てを救う『モノ』になれ。俺は『響』。全ての事象に共鳴し、何にもなれる。何にも染まれる。

 響き渡れ。

 響き合え。

 響き交え。

 そうすれば、俺は望んだ存在に昇華できる。それが俺の能力。それが俺の生まれ持った力。あまりに強力であり、影響を受けやすいからと危険視され続けた武器。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、俺がこの能力を持って生まれたのはこの瞬間のためだったのだろう。1万回以上の『死に戻り』を繰り返し、復讐を成し遂げるために抗い続けた男を止めるために。

 でも、もう安心しろ。たとえ、お前が望まなくても俺はお前を救う。それが俺から様々なモノを奪ったお前に対する罰だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――象徴(シンボル)付与(エンチャント)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、東の拳が届く寸前、俺は本能力――『象徴を操る程度の能力』を発動させ、俺の背中から真っ白な翼が生えた。

 








と、いうことで響さんの本能力は『象徴を操る程度の能力』です。


数話前にも書きましたが、感想で本能力名に関して記載はしないようにお願いします。

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