「うぅ……」
背中が痛む。どこかに強く打ったようだ。うめき声を上げなから体を起こす。感触的にベッドの上だとわかった。
その事を疑問に思いながら視線を横にずらす。
「「……」」
ベッドの横からミスティアがこちらを見ていた。お互い、何も言わずに見つめ合う。
「うわっ!?」
ワンテンポ遅れて驚く。その拍子に頭を壁にぶつけた。ここはミスティアの家らしい。
「――ッ!」
声にならない悲鳴を上げる。
「だ、大丈夫?」
ミスティアは慌てた様子で聞いてきた。
「な、なんとか……」
悶えながら答える。困惑していた。何故、俺はここにいるのか。何故、ミスティアは俺の事を食べなかったのか。ただただ不思議である。
「ほら! 朝ごはんだよ!」
笑顔でお盆を渡してきた。お盆の上には鰻の蒲焼とご飯が乗っていた。
「あ、ありがとう……」
戸惑いながら受け取り箸を掴む。
「「……」」
ミスティアはじーっとこちらを観察している。俺はその眼差しを避けるように蒲焼を口に運んだ。
「……美味い」
「ありがとう」
俺が感想を述べると満面の笑みを浮かべる。
「あのさ?」
「ん? 何?」
「何で俺の事、食べないの?」
今、一番気になっている事を聞いた。
「弾幕ごっこで負けたから」
当たり前でしょと言ったようにミスティアは答えた。
「それだけ?」
「それだけ」
どうやら俺は一命を取り留めたようだ。
「しかし、本当に美味いな。これ」
「でしょ~! 自信作なの!」
それから蒲焼を食べながら雑談する。妖怪と言ってもこんな奴もいるんだなと思った。
「ところで弾幕ごっこって何?」
蒲焼を食べ終わった頃になって思い出した。そもそも弾幕とは何なのかわからない。
「え? 知らないで戦ってたの?」
「ああ」
俺の言葉にミスティアは驚愕しているようだ。
「じゃあ、説明するね。弾幕ごっこは――」
その後、皿洗いをしながら講義を受けた。この幻想郷ではスペルカードルールと言うものがあり、そのルールに基づいた戦いが弾幕ごっこらしい。このルールが出来たおかげで種族に関係なく戦えるそうだ。
「まぁ、これぐらいかな?」
「ありがと。わかりやすかったよ」
(あのお札はスペルカードだったのか……)
知らないのに使えたのに驚きだ。
「そういえば、PSPは?」
ミスティアに聞いてみる。
「ああ、あのからくり? それならそこに」
そう言いながらテーブルを指さす。そこにはPSPがあった。急いで手に取り、故障はないか確認する。あの高さから落ちたのだ。完全に壊れていてもおかしくない。イヤホンを耳に装着するが音が聞こえない。落ちた拍子に止まったようだ。電源を付けると正常に稼働した。スタートボタンを押すと何故か曲が再生された。選曲すら出来ないらしい。
~千年幻想郷 ~ History of the Moon ~
服が光り、青と赤のアメリカの国旗のような服に変わる。ナース帽もかぶっている。
(やべ……イヤホンが壊れてる。)
左耳の方から音が聞こえない。だが、肝心のPSPは壊れていなかったのはよかった。片耳だけでもちゃんとコスプレ出来るようだ。耳からイヤホンを引っこ抜く。
「……」
ミスティアはまたじ~っとこちらを見ていた。
「どうした?」
「いや、変な能力だな~っと」
「俺も思うよ。男なのにあんな恰好させられるなんて……」
「え!? 男なの!?」
俺の発言に驚くミスティア。
「当たり前だろ!? お前、俺を女だと思ってたのか!?」
「そうよ! だって顔も女っぽいし髪だって黒くて綺麗だし後ろで1本にまとめてるじゃない!」
そう、俺の髪型はポニーテールだ。理由は簡単。切りに行くのが面倒くさかったから。その結果、ポニーテールに落ち着いたのだ。
「そうだけど口調とかでわかるだろ……普通」
「あんたのような口調の女なんて珍しくもないよ!」
確かによく女に間違えられる。それは事実だ。
「俺は男だ! いいな!?」
「う、うん……わかった」
ミスティアは戸惑いながら頷く。俺はため息を吐きながらズボンのポケットにPSPを突っ込んだ。
「あれ? それ、弾幕ごっこの時は手に持ってなかった?」
「ああ、戦う時の服にはポケットがないんだ。だから仕方なく手に持ってる」
はっきり言って邪魔だ。
「なら、いい物があるよ!」
ミスティアは笑顔でそう言うと別の部屋に行ってしまった。
いい物とは一体、何なのだろう。
「はい、お待たせ!」
少しして戻って来た。ミスティアの手にはたくさんのホルスターが握られている。だが、ところどころ破けているが縫い合わせればPSP用のホルスターも出来るだろう。
「裁縫道具あるか?」
疑問には思ったがさほど重要でもないのでスルーする事にした。
「うん。でも、縫えるの?革製だけど」
「何とかなるだろう」
それからミスティアに裁縫道具を借りてホルスターを縫い合わせる作業に入った。
「……よし。これで大丈夫だ」
1時間ほどで完成。
「すご~い! よく縫えるね」
「普段からやってるからな」
母は不器用で何か縫おうとすると必ず血だらけになり、服をダメにしてしまう。そこで俺が代わりに縫っていたのだ。ホルスターを右腕に装備する。足だとイヤホンのコードが届かないから仕方ない。そこにPSPを入れる。少しきついが落ちにくくなったはずだ。
「ありがとな。それに飯まで貰っちゃって……」
「いいの! 私がしたいようにしただけだから」
「そうか? それならいいけど……」
そう言いながら席を立つ。
「もう行くの?」
少し寂しそうな顔をしたような気がした。
「早く帰りたいからな。帰れる所とか知らないか?」
「それなら博麗神社に行けばいいよ! ちょっと来て!」
手を掴まれ、外に出た。
「えっと……」
空を飛んだミスティア。どうやら博麗神社がある方角を確認しているようだ。俺は空を飛ぶためにホルスターから伸びたイヤホンを装着。PSPを操作し曲を再生する。
~もう歌しか聞こえない~
服が光る。飛べるのがデフォだとわかっているので気にせず空を飛ぶ。
「どうだ?」
隣まで移動し話しかける。
「……」
だが、ミスティアは引きつった顔で俺の姿を凝視していた。
どうやら服を見ているらしい。気になって確認した。茶色を基調としたスカート。帽子は天辺に鳥の翼のような装飾が施されている。背中には淡いピンク色の翼が生えていた。
「これって……」
完全にミスティアの服と一緒。何もかもが同じだ。
「な、なんであんたは私の服を着てるの!?」
腕をぶんぶんと振って怒鳴って来た。
「知らねーよ! こっちだって聞きたいわ!?」
負けじと叫ぶ。
「ほら! あっちに行けば着くからとっとと行け!?」
ミスティアは顔を背けながら指をある方向に向ける。どうも俺の姿を見たくないらしい。
「わ、わかった。ありがと!」
俺はミスティアのコスプレをしたまま、その方向に向けて移動を始める。
(やっと、帰れるぜ……)
ため息を吐きながら空を飛び続ける。
私は空を飛ぶ彼の姿を見つめていた。
「う~ん」
彼を初めて見た時から気になっている事があった。
「どこかで見た事があるような……」
それはいつだったかどのような状況だったかわからない。けど、そう感じてしまう。
「まぁ、いいか~」
考えても思い出せなかったので気にしない事にした。私は屋台の準備をするために自分の家に入る。
響さん、男の娘です。
ちゃんと理由がありますので、それはまた別のお話しで(290話でもまだ書けていませんが)。