東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第443話 手記

No.00001

 

 

 これは、どういうことなのだろうか。俺は一体、どうしてしまったのだろうか。

 いつものように仕事を終え、1人で住むには広すぎる部屋の中でちびちびと酒を呑んでいたはずだ。強いていえば仕事の関係でポニーテールの女の子(・・・)と出会い、少しばかり会話をしたところした違いはない。

 だが、その女の子と話してから少しだけ頭痛がするようになり、家に着く頃には金槌で何度も殴られていると錯覚してしまうほど酷くなっていた。それを誤魔化すために普段はそこまで飲まない酒を呑み、深い眠りにつこうとしていただけだ。

 そして、何と突拍子もなく俺の何かが弾け、その中に封じられていた得体の知れない感情が体を蝕む。熱い、苦しい、寒い、愛おしい、暖かい、痛い、憎い、冷たい、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い!

「ぁ、っ……あぁ」

 相反するいくつもの感情を一度に思い出し(・・・・)、脳が焼き切れてしまいそうになった。気絶したくてもその感情が意識を手放すことを許さない。忘れていた己が悪いのだと言わんばかりに。

(そう、か……そうだった、のか)

 感情の正体を、忘れていた記憶を取り戻した俺は机に置かれた写真に目を向け、すぐに視界がぼやける。ずっと不思議だったのだ。不思議なだけだった。別段、おかしいところはない現実。そのはずなのにどこか違和感を覚えてしまっていた。

 だから、こうやって何年も彼女のことが忘れられず、ただ何の目的もなく生きていることしかできなかった。

 でも、俺は間違っていなかった。やはり、何者かによって事実は捻じ曲げられ、彼女の死の真実は隠蔽されていた。どうやってそんなことができたのかはわからない。

「く、そっ……くそくそくそくそぉ!!」

 怒りのあまり、手に持っていたグラスを乱暴に投げ、俺に涼しい風を送っていた扇風機に激突して音を立てながら倒れてしまう。だが、そんなことを気にしている余裕はなかった。物に当たらなければ今にもどうにかなってしまいそうだったから。

(あいつ、か……あいつがやったのか)

 思い出されるのは無力な己を嘲笑うように真っ赤な鉤爪を振るう化け物、血だらけの妻、空間の割れ目からこちらを覗く無数の目、紫色のドレス、目を庇いたくなるほど美しい金髪……そして、あの胡散臭い笑顔。

「あ、あああああああああああああああ!!」

 気付けば絶叫していた。涙を零し、周囲にあった物を手当たり次第に破壊していく。

 あまりにも唐突で、自然で、不自然な妻の死だったが長い時を経て無理矢理飲み込み、彼女の分まで生きようとここまできた。何度も自殺を考えたが、そんなことをしても彼女は決して喜ばないとわかっていたので生き続けた。

 ああ、なんて俺は馬鹿なのだろう。間違っているとわかっていたはずなのに、それが現実であると自分に言い聞かせていた。

 だが、もう、間違えない。この燃え上がる怒りの炎は決して消えない。消してはならない。これは妻を殺した化け物に、真実を隠蔽した女に、なによりまんまと女に騙され、偽りの真実を信じた情けない自分自身に向けられた感情。

 ああ、やってやる。なんとしてでも成し遂げてやる。やっと生きる目的ができたのだ、どんな手を使ってでもあいつらを殺してやる。そう、殺されたとしても、何度だって蘇って復讐してやる。

 だから、覚えておけ。俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No.00013

 

 

 何となく状況がわかってきた。正直、あまりに現実味のない話に自分自身の正気を疑ってしまったが、あんな化け物がいたのだ。この現象だって絶対にありえないとは言い切れない。

 それにこの現象は俺の目的を達成するにはあまりに都合が良かった。時間はかかるかもしれないが望むところである。元々、ほとんど情報のない絶望的な状況から始まった復讐だ。

 さて、やることは山ほどある。まずは――コネクション作りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No.00504

 

 

 今回は非常に興味深い奴を見つけた。

 『音無 響』

 一見、平凡な人間だが、あの女と繋がりがあるらしい。詳しい経歴は今から調べるが彼女(・・)の存在が奴らの弱みになればいいのだが。

 また、前に見つけておいた人材とやっと接触することができた。彼は俺と同じように妹を妖怪に殺され、あの女に記憶を弄られているようだ。彼の記憶を開放する方法を確立できればきっと手を貸してくれるだろう。彼の能力(・・)は非常に役に立つ。なんとしてでも仲間に引き入れたい。

 とにかく、今の季節は秋なので本格的に動くのはあの女が動けなくなる冬。それからが本番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No.02028

 

 

 今まで正体がわからなかった『音無 響』だが、今回の調査で少しだけ情報を得ることができた。どうやら、彼女は幻想郷で万屋を営んでいるらしい。どういう仕掛けがあるのかわからないが、幻想郷と外の世界を行き来できるようで何としてでもその方法を探る必要がある。

 また、1か月前に仲間に引き入れた笠崎だが俺の話を聞いて次々に新しい兵器を作り出していた。この調子でいけば今までの分はもちろん、俺ですら考えつかないような兵器を作り出せるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No.08092

 

 

 なんだ、あれは。あいつは一体、なんなのだ。

 あれだけ研究したのにも関わらず、『音無 響』はこちらの攻撃を簡単に凌ぎ、一瞬にして撃退されてしまった、やはり、あの能力が厄介である。また、彼女には強力な仲間がいる。こちらが束になったところで勝てないだろう。

 やはり、あの能力をどうにかするしかない。でも、どうやって? まだ研究が足りていないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No.09709

 

 

 『音無 響』だけでなく彼女の周囲にいる人物についても調査を進めていたが俺たちの敵になるのは『音無 響』だけのようである。あの『音無 奏楽』という幼女に気になる点はあるが今のところ気にしないで計画を進めることにした。

 また、笠崎がとうとうタイムマシンを完成させた。これで過去に戻り、幼少期の『音無 響』を殺せば……いや、それでは駄目だろう。彼女の派生能力の一つに時空を飛び越える類の能力があったはず。きっと、彼女のことだ。俺たちの邪魔をするに決まっている。

 もう少し作戦を練ってからタイムマシンを使うことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No.10047

 

 

 とうとう『音無 響』を倒す算段がついた。更に彼女の能力を研究し、一部だけだが彼女のコピーすることにも成功。やはりというべきか彼女の能力は制御することが難しい。だが、ここまできたのだ。焦らず、ゆっくりこのコピーした能力と向き合っていくことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No.11873

 

 

 ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。

 なんだ、あの化け物は。長年生きてきてあそこまで恐ろしい怪物を見たのは初めてだった。どうする? あれは絶対に倒せない。関わってはいけない。あの怪物を世に放ってはいけない。

 まずい。これでは『音無 響』をどうにかしても俺たちの復讐は達成できなくなってしまった。どうする? どうすればあの怪物を世に放たずに幻想郷を――『八雲 紫』を殺すことができる?

 とにかく今回は諦めて情報収集に徹底することにする。何かあの怪物をどうにかする手立てが思い付けばいいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

No.11874

 

 

 情報収集のおかげでなんとか形にはなった。上手くいくかはわからない。だが、この方法が一番確実かつ成功率が高いだろう。

 計画が完成したのなら早く動くべきである。まずは世界に黒楼石(こくろうせき)の存在を広めるところが始めなければならない。時間がないので上手く浸透させることができればいいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……『音無 響』が男だった。戸籍を調べるなど全力で調査したがやはり男だった。

 意味が分からない上、あの見た目で男なはずがない。しかし、戸籍上も、生物学上でも男だった。

 ……計画に修正が必要かもしれない。調査を進めなければ。




No.00001の文章が途中で終わっているのは仕様です。

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