東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第42話 怪鳥

 俺は目の前の光景に唖然とした。本来、後ろには某狩りゲームに出てくる怪鳥の姿があるはずだ。だが、その影は全くなくその代わりに――。

 

 

 

「う、嘘……」

 

 

 

 大きな火の弾があった。きっと、あの怪鳥が吐き出したのだ。ゲームでもペッペと吐き捨てていたのを覚えている。そんな物が現実で迫っているのだ。恐怖しない方がおかしい。

「がっ……」

 どうする事も出来ず、無防備な背中に直撃。激痛で顔が歪んだ。

 例え、自己治癒が優れていても痛みはある。更に回復させる為には俺自身の霊力が必要らしい。しかし、コスプレで霊力を水増ししても回復に使えないのだ。それだけならまだしも、先ほど紅魔館で背骨を治した時にほとんどの霊力を使い果たしてしまっている。背中に大火傷を負った俺は頭から墜落。上で怪鳥が勝利の雄叫びを挙げているのを聞きながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ」

 背中に鈍い痛みが走り、目を覚ます。どうやら落ちた時、木の枝がクッションとなってくれたおかげでそれほど怪我はしていなかった。背中の火傷を除けばの話だが。

「ふんっ……」

 無理矢理、霊力を背中に送り込み回復させる。案の定、霊力が足らず完全回復は出来なかった

(どうすっかな……)

 頭上で怪鳥が羽ばたく音が聞こえる。上からでは俺の姿は木が邪魔で見えないようだ。このまま隠れていれば飽きてどこか行くかもしれない。そう思っていたら近くに火球が落ちて来た。この森を焼き払うつもりだ。

「まぁ、そうだよな!」

 逃げる為に走ろうとしたがその拍子に治り切っていない背中から血が溢れだす。この状況で血まで流れ切ってしまえば俺は本当に死んでしまう。

「まずっ!」

 背中に気を取られ、足がもつれてこけてしまった。

「っ!」

 その音を聞きつけた怪鳥が目の前まで降下してきた。完全に追い詰められる。着地した怪鳥はギロリとこちらを睨み、鋭い嘴を俺に向けた。喰うつもりらしい。

(死んだ)

 今更、立ち上っても火の弾を吐き出される。つまり、俺の結末は死。最期に出来た事と言えば、望に『ゴメン』と心の中で謝った事くらいだ。

 

 

 

 ~有頂天変 ~ Wonderful Heaven~

 

 

 

 だが、喰われる直前に曲が変わった。服は上が白くてそれがエプロンのようにスカートの途中まで侵食している。その下は青だ。白と青の境界線にカラフルなひし形の模様が並んでいる。頭には黒い帽子。飾りとして桃がくっ付いている。リグルに変身した時もそうだったがどうやら、紫から貰った幻想郷の住人の名前が書いてあるスペルカードは弾幕ごっこの時にしか出て来ないらしい。しかし、今更コスプレが変わってもどうする事も出来ない。少し驚いた様子で怪鳥は俺を見ていたがすぐに嘴を振り降ろした。

 

 

 

 ――ガキーン!

 

 

 

 金属がぶつかり合った時のような音が森に響く。それからすぐに嘴に皹が入った怪鳥が絶叫した。

「な、何が……」

 俺の体には傷一つ、付いていない。確かに怪鳥の嘴は俺の体を貫いたはず。だが、貫通せずに嘴が砕けたのだ。怪鳥は俺を睨み、火球を吐き出す為に頭を引いた。焼き殺すつもりらしい。

「させっかよ!!」

 うつ伏せに倒れた状態から腕立て伏せの要領で上体を起こし、地面を蹴った。俺の体は弾丸のように怪鳥に突進し、頭からぶつかった。

「――ッ!?」

 怪鳥の体はくの字に折れ曲がり、真後ろに吹き飛ぶ。怪鳥は木々をなぎ倒し、2回ほどバウンドしてやっと止まった。だが、こちらは頭突きの反動で耳からイヤホンが抜けてしまい、変身が解けてしまう。更に背中がズキズキと痛む。

「はぁ……はぁ……」

 肩で息をしながら何とか立ち上がる。向こうもフラフラしながらも翼を広げ、飛んだ。上から攻撃して来るつもりだ。そうなれば戦いづらくなってしまうのは目に見えていた。

(ここで倒さないと……よし)

 ポケットに入っていたミニ八卦炉を取り出し、怪鳥に向ける。俺の霊力はもうほぼゼロ。変身していたら、上空に逃げられる。魂の住人たちから貰っている魔力や妖力、神力はまだ使いこなせない。だが、使いこなせないが使えないとは限らない。

「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 出鱈目に八卦炉に力を込める。魔力なのか妖力なのか、はたまた神力なのかそれすらもわからない。しかし、確実に八卦炉に力が充電されて行く。怪鳥が危険を感じ、攻撃するのをやめ、俺に背を向けて逃げ出す。

「逃がすか!!」

 八卦炉を地面に向け、発射。出力を抑えていたので魔理沙ほどの威力はなかったが地面は抉れた。

「くっ!?」

作用反作用の法則により、俺の体が高く上昇する。そして、今度は怪鳥とは真逆に放出。先ほどと同じようにレーザーをエンジンとし、怪鳥を目指す。

「ッ!?」

 チラッと後ろをみた怪鳥は目を見開き、更に速度を上げた。それでも俺の方が速い。

「これでも喰らえッ!!」

 放出を止め、八卦炉を怪鳥に。八卦炉を持っている右腕を左手で支える。

「魔砲『ファイナルスパーク』!!」

 スペルカードはないが宣言し、全力で八卦炉の中に込めた力を発射する。極太レーザーは真っ直ぐ、怪鳥に向かって進み、直撃した。レーザーに押され、怪鳥は遠くの方へ墜落。

「うおっ……マジか!!」

 それだけなら良かったのだが、八卦炉が暴走し止められなくなってしまった。きっと、俺が出鱈目に力を込めたせいだ。魔力と妖力、神力が混ざっているのだからコントロール出来る方がおかしい。暴走した八卦炉をコントロール出来ず、どんどん右腕が右へ移動する。

「ちょ、ちょい待って!!」

 俺の叫びは八卦炉に届かず、結果的に先ほどとは真逆に向けて放っている状態になった。レーザーは撃ちっぱなしなので空中を進んでいる。確か、この先にあるのは――。

(人里!)

 その証拠に後ろを見れば人里が見えて来た。その近くに怪鳥が倒れているのも確認出来る。そして、怪鳥の様子を見に来た人影が見えた。

「け、慧音!!」

 そう、慧音だ。俺の声が聞こえたのか慧音がこちらを見て顔を引き攣らせる。

「止めてええええええええええええ!!」

「一体、何をしているのだ!」

 慧音は急いで俺に近づき、右手首に手刀を放つ。その衝撃で手から八卦炉が零れ、放出が止んだ。慌てて八卦炉を空中でキャッチし、慧音に抱き止められた。

「響! 何があった!?」

 慧音の顔には心配と不安が現れていた。

「い、一旦、降りよう。それにこのままだと慧音の服が汚れる」

「? お前の服は汚れているようにみえ……ッ!?」

 慧音が俺の背中から血が流れているのに気付き、目を見開いた。

「……そうだな。寺子屋へ行こう。傷の手当が先決だ」

「さんきゅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……訳を聞こうか?」

 傷の手当をして貰い、更に服まで洗濯してもらった俺は今、布団に横になっている。力を使いすぎて体が上手く動かせないのだ。

「簡単に言うと魔理沙を探してる途中でさっきの怪鳥に襲われた」

「……本当に簡単だな。さっきのってあの人里の近くに落ちて来たあれか?」

 慧音の問いかけに頷いて答える。

「ふむ……好都合か。ちょっと待っていてくれ」

「? わかった」

 返事をすると慧音は部屋を出て行った。その隙に枕元に置いてあった八卦炉を振るえる手で掴み取った。

「壊れてないみたい……良かった」

 あの暴走で皹でも入れば依頼は失敗に終わってしまっていた所だ。

「待たせた」

 安堵の溜息を吐いていると慧音が帰って来る。

「はい、これはお礼だ」

 そう言ってパンパンに膨れた巾着袋を渡される。

「お礼?」

「あの怪鳥を退治してくれたお礼だ。最近、現れて人里を襲うようになってな。私は戦うつもりだったが頭が良いのか私を見つけるとすぐに逃げてしまって困っていたのだ」

「そこで俺が倒したと?」

「その通り。丁度、新しい万屋にこの依頼状を出そうとしていた所にあの怪鳥が墜落して来て吃驚したぞ」

「……その依頼状、見せて貰ってもいいか?」

 慧音は頷いて依頼状を差し出して来た。礼を言いつつ、受け取り見てみる。

(うん、俺への依頼状だな。こりゃ)

「因みに……その万屋を見た事は?」

「ない。今回はその万屋の強さを確認するのも兼ねていたから残念だ」

 そう言って溜息を吐く。

「その目標、達成されてるわ」

「へ?」

 はてな顔になる慧音。それに苦笑しつつ、自分が万屋である事を説明した。

 


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