東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第415話 手がかりを求めて

「ふーん……なんか面倒なことになってるな」

 悟は俺の話を一通り聞いた後、書類に目を通しながら他人事のように呟いた。昨日、西さんの両親の連絡先を調べてもらったせいで仕事が溜まってしまったらしい。もう少し真剣に考えて欲しかったが調べるようにお願いしたのは俺なので言い辛く、そっとため息を吐いてソファに背中を預けた。

「それで? 西さんは?」

「家で休んでる。精神的にまいっちゃったみたいでな」

「……それもそうか。今まで手伝っていたことが全部響を殺すための研究だったんだからな。研究所の名前も場所も覚えてないらしいし発狂してもおかしくないレベルだろ」

 自分が研究所について何も覚えていないことに気付いた西さんは見ているこちらが気の毒になるほど顔を真っ青にして混乱してしまった。さすがにこれ以上詮索するのは危険だとカウンセラーの資格を持つ母さんからドクターストップがかかり、話し合いは中止。西さんはそのまま俺の部屋で休ませ、母さんを中心に彼女の看病をすることになったのである。

 そして、俺は西さんから聞き出した情報を悟に話すために『O&K』の本社を訪れたのだ。一応、霊奈に連絡して家にいてもらっている。敵が来ても式神組だけで対処できると思うが西さんを直接狙われる可能性もあるので霊夢には及ばないが守りの結界を使える霊奈に守るようにお願いしたのだ。今頃、霊奈にも今の状況を説明している頃だろう。

「しっかし……敵は技術力もそうだけど響に関する情報を持ちすぎてる。お前が生まれる前からお前の存在を知ってたんだろ?」

「ああ、笠崎はそう言ってた」

「で、今度は内容がところどころ違うレポート、か……確かお前が記憶を失ってる時、治癒術が使えたんだろ?」

「はい、ななさんの治癒術には何度もお世話になりました。ですが、記憶を取り戻したマスターは使えませんでした」

「そこなんだよなぁ……記憶が戻る前と後で何が違うんだろ」

 腕輪に変形している桔梗の言葉を聞き、ため息交じりに呟いた悟はジト目でこちらの方を見るがすぐに手に持っていた書類に視線を落とした。しかし、集中力が切れてしまったのかため息を吐いた後、書類を机の上に置いて立ち上がり、俺の対面にあるソファに腰掛けた。

「問題はお前ですらわかっていないことを敵が知ってることだよな。何か情報源があるはずなんだが……未来がわかってるとか?」

「なら、『着装―桔梗―』も対処できたはずだろ。何というかムラがあるんだよな。桔梗の変形は完璧に対処できていたのに『着装―桔梗―』には驚いたりとか」

「ムラ、か。さっきのレポートもお前のやつにはちゃんと分析結果があったのにななの方にはなかった……って、ななのレポートで確定していいのか?」

「しょうがないだろ、ななの戦闘データにしか聞こえなかったんだから。まぁ、仮にもう1つのレポートがななだとして俺もその点が気になってた。ななは弓を一度も持ったことがないのに『射撃の才能がない』と書いてあったことも変だし」

「まるで……ななの戦うところを見たことがあってそれを思い出しながら書いたみたいなレポートだ」

 悟の言う通り、ななのレポートはあまりにも根拠がなさすぎる。俺のレポートに分析結果を載せていることから調べられるところはきちんと調べるようにしているはずだし、ななのレポートにだけ分析結果が載っていないのは不自然だ。分析することができず、見たり聞いたりしたことをそのまま書いたとしか思えない。じゃあ、どうやってななの戦う姿を見た? もし、敵の情報源が未来視だとしてもななは一度も弓を持っていないのだから未来を見ても彼女に射撃の才能があるかどうかわかるわけがないのである。

「……駄目だ。情報が足りな過ぎてここで詰まる」

「でも、西さんからはもう情報は引き出せそうにないんだろ? 研究所に直接乗り込むにしても名前も場所もわからないし……研究員を操ることができるぐらいなんだから研究所が見つからないように仕掛けを施してるはずだ。虱潰しに探しても見つかりっこないぞ」

 今のところ研究所についてわかっているのはこの街のどこかにあることだけ。それだけで仕掛けを施されている研究所を探すのは至難の業だ。それこそ望が『穴』を見つけない限り、不可能と考えてもいいだろう。

「……いや、もしかしたら」

「お? 何か思いついたか?」

「ああ、確証はないけど試す価値はある」

 立ち上がった俺を見てニヤリと笑う悟。彼の手に携帯が握られているので何かお願いすれば動いてくれるのだろう。だが、昨日も迷惑をかけたし今回ばかりは彼の伝手では対処できるような案件ではない。

「1年半ぐらい前にフランが誘拐された時のことを覚えてるか?」

「え? あ、ああ……って、まさか」

「あの時にあいつらが使ってた屋敷に行ってみる。何か残ってるかもしれない」

 フランが捕まっていた地下室は四方の壁に狙撃手が入り込めるほどの穴がいくつも開いていた。つまり、あいつらはあの屋敷を改造していたのだろう。望みは薄いが可能性はゼロじゃない。行ってみる価値はあるはずだ。

「さすがにこっち側じゃない人にあの屋敷を調査させるのは危険だ。だから、俺と……リーマと弥生で調査してくる」

 西さんが襲われたとして戦場になるのは俺の家だ。そんな狭い場所では植物や髪を伸ばして戦うリーマと龍の力を使う弥生は力を発揮することができない。なので、狭い場所でも戦える雅と逃げることになった際、足になる霙を家に置いておくことにした。すでに式神通信を使ってリーマと弥生に連絡して途中で合流することになっている。当時、リーマは屋敷で召喚した上、弥生にいたってはまだ出会ってもいないので現地集合できないのだ。

「……そっか、わかった。何かわかったら教えてくれ」

 今のところ自分にできることはないとわかったのか悟は苦笑を浮かべて再び机に戻り、書類整理を始めた。忙しい中、相談に乗ってくれたお礼を言って俺は社長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、これが例の屋敷かー」

 屋敷に向かう途中でリーマと弥生と合流し、屋敷に辿り着いた矢先、弥生が感心したような声を漏らした。ここに来るのは1年半ぶりだが多少寂れただけで崩壊などはしていない。ただ中は戦闘や脱出する時にフランが色々と破壊したのでボロボロになっているだろう。

「うわぁ……結構派手に戦ったんだね」

「まぁ、あの時は余裕なかったから」

 屋敷の前に残っていた激しく戦った痕を見て呟く弥生とどこか懐かしそうに言うリーマ。雅の元へ向かうために俺は一人で雅がいる山に向かい、望、霙、霊奈、リーマ、フランの5人が残った敵の相手をしてくれたのだ。

「それじゃとりあえず中に入ってみよう」

 俺が声をかけるとキョロキョロと辺りを見ていた2人も俺の後を追って屋敷の中へと入った。中は予想通り、かなりボロボロだ。この屋敷は地上4階、地下2階の計6階で構成されている。たくさんの敵がいた地下1階やフランが捕まっていた地下2階はともかく1階から4階まではほとんど探索しなかったので全てを調べるのは骨が折れそうである。『魂共有』が使えたら分身するのだが吸血鬼は部屋に閉じ込められているのでそれもできない。翠炎に手伝って貰うか。バラバラで行動すれば効率はいいが1人だと何か見落とすかもしれない。ここは二手に別れて探索した方がいいだろう。

「二手に別れよう。こっちは翠炎と一緒に探すからそっちは2人で頼む。1階から4階を探索した後に地下に行こう」

「うん、わかった。それじゃ4階に行こっか」

「りょうかーい」

 俺の言葉に頷いた弥生が近くにあった階段を昇り、リーマがその後に続く。それを見送った俺はいつの間にか隣に立っていた翠炎に視線を向けた。

「じゃあ、よろしく」

「ああ、任せておけ」

 頼られたのが嬉しいのかどこか機嫌良さそうに笑う翠炎と共に屋敷の探索を始めた。


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