東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第374話 おつかい

「こんにちはー」

「あ、はーい」

 キョウがとある家の扉をノックすると中から声が響き、扉が開く。そこには部屋着なのかラフな服を着た背中から翼を生やした女の子――ミスティアがいた。

「いらっしゃい、キョウ。今日はごめんね、お店の方は大丈夫だった?」

「はい、森近さんにも許可貰ってるので大丈夫ですよ」

「そう? あ、とりあえず中に入って」

「お邪魔しまーす」

 ミスティアの後を追い、キョウも家の中に入った。

 ミスティアと出会ったのは今から3週間ほど前、休憩時間を利用して何となく気になっていたという近くの森を散策しているといきなりキョウの前に現れ、弾幕を放って来たのだ。ただ向こうも本気ではなかったようで吸血鬼の力を譲渡しなくても何とか勝つことができ、いきなり襲ったお詫びとして屋台のメニューであるヤツメウナギの蒲焼をご馳走になった。どうやらミスティアはキョウを妖怪だと勘違いし、別の妖怪のなわばりに侵入する前に追い払おうとしたらしい。

 それから森を歩く時の注意などを受けて別れたのだが、森を散歩していると何度も遭遇。後でわかったことなのだが、キョウの休憩時間とミスティアが人里に買い物に行く時間がほぼ同じであり、買い物に行く途中のミスティアが上空から森の中を歩いているキョウを見つけて下りて来る、というのがいつもの流れになっていた。

「それで頼みというのは?」

 少しばかり世間話をした後、キョウが本題に入る。昨日、いつものように一緒に森を散歩していると彼女が『頼みたいことがあるから明日家に来て欲しい』とお願いしたのである。キョウと桔梗はもちろん私も出会って3週間も経っていたので何の警戒もせず了承し、家の場所を聞いて別れたのだ。

「いやー、実は最近この辺に大きな怪鳥が出るようになっちゃってさ。今、人里が大騒ぎしてるんだよね」

「あー、それ前お客さんから聞きました」

 よくお店に来る魔理沙から聞いた。魔理沙は笑いながら話していたが人里の人たちはさぞ困っているだろう。前、キョウと桔梗は青い怪鳥を倒したことがある。怪鳥の話を聞いた時、もしかしたらキョウたちが倒した怪鳥のことかと思ったが問題となっている怪鳥は橙色だったらしく別の種類だとわかった。

「それでね、今妖怪の私が人里に行くのはちょっと、ね……」

「いつものお店で買い物する分には大丈夫なんじゃないですか?」

「そうなんだけど一昨日買い出しに行ったら歩いてるだけでじろじろと見られちゃって」

「ですが、昨日も会いましたよね?」

「昨日はキョウに会いに来ただけ」

 首を傾げた桔梗の質問にミスティアが笑いながら答える。昨日はお願いするつもりでキョウを探していたらしい。

「えっと、お願いと言うのは買い出しのことでしょうか?」

「そうそう。昨日は何とかやり過ごせたんだけどこのままじゃ屋台ができなくなっちゃうから。ちょっと荷物多くなっちゃうけど……お願い、できる?」

「それぐらいのことなら大丈夫ですよ。ね、桔梗」

「はい、もちろんです。荷物も私がいれば何とかなると思いますし」

 桔梗は変形できる他に重力を操ることができる。操ると言ってもキョウが持っている荷物を軽くする程度だが。

「じゃあ、お願いね。これがお財布。中にメモが入ってるから」

「わかりました。では、行って来ます」

「妖怪に気を付けてね」

 財布を受け取ったキョウは家の外に出て桔梗【翼】を装備し、人里へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと……これで終わりかな?」

 俵を担いだキョウはメモに目を通して買い忘れがないか確認する。私も一緒に確認したが買い忘れはないようだ。

「ん?」

 確認が終わったキョウがメモを財布の中に仕舞っていると遠くの方で轟音が響いた。そちらを見るとレーザーのような光が空に向かって走っている。人里の近くで誰かが戦っているのだろうか。この時代にはすでにスペルカードルールがあるようだし弾幕ごっこで遊んでいるのかもしれない。

「すごい力だね」

「はい……ですが、何でしょう? とても濁ってるといいますか色々とごちゃまぜといいますか」

 桔梗の言うようにあのレーザーのような光から感じる力は純粋な力ではなかった。魔力や妖力を無理矢理混ぜて撃ち出しているようで綺麗だと言えない。

「気になるけど早くミスティアさんのところに戻ろう。悪くなっちゃうし」

 ミスティアから頼まれた買い物はほとんど保存が利く食材ばかりだったがそれでも足が早い食材もある。できるだけ早くミスティアの家に戻った方がいいだろう。

「そうですね。急いで戻りましょう」

 そう言ってキョウと桔梗は人里の出口へ向かう。人が多いため桔梗【翼】を装備したら他の人の迷惑になってしまうからだ。子供が俵など大きな物を軽々と担いでいるが人里の人たちは気にしていない。たまにだが肉体強化できる子供もいるからだ。

「よいしょっと。それじゃいこっか」

「はい」

 人里の外に出たキョウは荷物を地面に置いて桔梗【翼】を装備する。その後、左右の翼に食材を入れた袋の紐を引っ掛け、両手に俵を抱えて飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荷物を抱えたキョウがミスティアの家に帰って来ると彼女は外で屋台の準備をしていた。何か修理でもしているのか地面に工具が置かれている。

「ミスティアさーん、荷物運ぶの手伝ってくださーい」

 着地したキョウが俵を地面に置いてミスティアに声をかけた。肉体強化や翼で荷物の重さをほぼ感じないと言っても食材を保管する場所を知らないからである。

「はいはーい、ご苦労様……って、すごいことになってるね」

「まぁ、これが一番楽でしたから」

 ミスティアは苦笑しながら翼に引っ掛けた荷物を受け取った。肉体強化や桔梗【翼】で荷物の重さをどうにかできたとしてもキョウは子供。俵を抱えるので精いっぱいで全ての荷物を1人で持つことができず、人里では桔梗に袋の一つを持たせ、俵を片腕で担ぎ(かなりギリギリだったが何とかできた)空いた手にもう一つの袋を持っていた。しかし、ミスティアの家に帰るために桔梗は翼になるので袋を持つ人がいなくなり、2つの袋を翼に引っ掛けないと全てを運ぶことができなかったのだ。

「あー……ごめんね。無理させちゃって」

「いえいえ、これぐらいどうってことないです」

 買った食材を仕舞った後、そのことを話すとミスティアは申し訳なさそうに謝った。キョウが子供であることを忘れていたらしい。

「あ、そうそう。買って来てくれたお礼ってわけじゃないけど晩御飯食べてってよ。何でも作っちゃうよ、屋台のメニューであればだけど」

「じゃあ、蒲焼ください。あとご飯も」

「あいよー……ん?」

 買ったばかりの食材を持って台所に向かおうとしたミスティアだったがキョウの顔を見て首を傾げた。何かあったのだろうか。

「ど、どうしました?」

「んー……どっかでキョウに似た人見たような気がして」

「僕に似た人、ですか?」

「どこだったかなぁ……うーん、ごめん思い出せないや」

 首を傾げたままミスティアは台所へ引っ込んで行った。それにしてもキョウに似ている人、か。世界には自分に似た人が2~3人いると言うがその人が幻想郷にいる、というのは偶然にしては出来過ぎている。この時間旅行と言い――もうちょっと警戒した方が良さそうだ。

(まぁ、私が警戒したところで……)

 もうキョウに手を貸すことが出来ないので意味などないのだが――しかし、やっぱり警戒せずにはいられない。

「あ、良い匂い」

「楽しみですね、マスター」

『……はぁ。本人がこれだから、ね』

 のん気に椅子に座ってご飯を待つ彼らを見てため息を吐いた。







・響:橙色の怪鳥を倒す
・キョウ:青怪鳥を倒す
・キョウ:未来の自分と過去の自分が戦っている間、おつかい


このようにこの時代はなかなかカオスなことになっていたりします。

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