無事?にインターンシップも終え、今日から更新再開です。
これからも私と東方楽曲伝をよろしくお願いします。
午後2時。
窓の外を見て私は思わず、息を飲んでしまった。この光景を見たことがある。そう、お兄ちゃんが旧校舎でドッペルゲンガーに襲われた時だ。あの時、私たちは外にいたが電話は通じないし、いくら攻撃してもビクともしなかった。それが今、私たちの学校を覆っている。急いでお兄ちゃんに電話を掛けるがコール音が空しく響くだけ。
「どうしよ……」
今、私は単独行動をしている。お昼ご飯を食べるために散策していたのだ。だが、まさかこんな事態になるとは思わなかった。近くに知り合いがいればいいのだが。
(……しょうがないか)
今は緊急事態である。四の五の言っている場合ではない。意図的に能力を使用する。
「いた!」
運よく穴(お客さんの中にいる知り合い)を見つけ、駆け出した。確か私が向かっている教室ではファッションショーをやっていたはず。誰がいるかまではわからなかったが、とにかく誰かと合流することが先決。お客さんの合間を縫って向かっていると件のクラスから誰かが出て来た。
「っ! 弥生ちゃん!」
その子が弥生ちゃんだとわかり、大声で呼びかける。彼女も私に気付いたようでこちらに駆け寄って来た。
「望、大変! 青竜が!」
「青竜に何かあったの?」
「響の方へ移動できないって! 響に何かあったのかも!」
どうやら、弥生ちゃんは外の異変に気付いていないようだ。まぁ、ファッションショーをしていたのなら教室のカーテンを閉め切っていたはず。
「多分、あれが原因だと思う」
「あれ? あっ……」
やっと外の異変に気付いたようで顔を青ざめさせて声を漏らした。すると、弥生ちゃんが出て来た教室から霊奈さんとリーマちゃんが現れる。弥生ちゃんの後を追って来たのだろう。
「あれ、望ちゃん?」
弥生ちゃんを追い掛けて来たら私がいたので首を傾げた霊奈さん。すぐに外の異変を教える。
「これって……響に連絡は?」
「駄目でした。私もさっき気付いて誰かと合流しようとして」
「それで私たちのところに来たってわけね」
リーマちゃんの言葉に頷いてみせる。とりあえず、当初の目的は達成した。次は状況の確認。しかし、その方法が思いつかない。私の能力を使っても確実に欲しい情報が手に入いるわけでもないし、何より体への負担が大きすぎる。
「うん……わかった、向かってみる」
悩んでいると青竜と話していた弥生ちゃんがこちらを向いた。青竜から何かアドバイスを貰ったのかもしれない。
「青竜が言うには黒いドームの中に嫌な雰囲気を5つ感じるって」
「嫌な雰囲気? 何よそれ」
「わかんないけど……その一つが屋上みたいなの」
「屋上……」
その嫌な雰囲気の正体は気になるが、行ってみる価値はある。屋上なら外の様子をもっと詳しく知ることができるだろう。
「他の4つは?」
次の目的地を屋上にしようと思っていると霊奈さんが弥生ちゃんに問いかけた。
「それが……屋外みたいで。黒いドームの端っこ。丁度、校門が北だから……東西南北それぞれ1か所ずつから感じるって」
「校門から嫌な雰囲気……ちょっとまずいかも。この黒いドームを何とかしても脱出出来ないかもしれない」
「……とにかくその嫌な雰囲気がするっていう屋上に行きませんか? その雰囲気の正体がわかるかもしれませんし」
私の提案を聞いた皆は顔を見合わせた後、頷いてくれた。急がなければお客さんが学校から出られないことに気付いてパニックを起こしてしまうかもしれない。
『――あーあー。マイクテスマイクテス』
その時、校内放送が流れた。ポンポンとマイクを叩いて音量チェックをしている。
「え、何で……」
だが、私は突然、校内放送が流れたことよりもその放送の声に驚いてしまった。
『音量オッケー? よし……あー、皆さんこんにちは。株式会社O&Kの影野悟です』
そう、放送をしているのは何故か悟さんだったのだ。
1時45分。
「あれは……」
悟が冷や汗を掻きながら声を漏らす。私も言葉を失って外を眺めていた。電話も式神通信も通じず、いくら攻撃しても無効化してしまう外部と内部を完全に遮断する黒いドーム。つまり、今私たちは学校から逃げられない。さっき響は家に帰ったとすみれが言っていたので私の主は校内にいないかもしれないが、その代わり、別の場所で厄介ごとに巻き込まれている可能性が高い。
「悟、どうする?」
「……まずは状況確認だ。響には通じなかったけどドーム内なら電話できるかもしれない。雅ちゃん、俺に掛けてみて」
悟の提案に頷いた後、電話を掛けた。すると、すぐに悟の携帯が鳴り始める。どうやら、ドーム内では電話は通じるようだ。これで望たちとすぐに合流できる。
「何となく状況が分かって来たよ。でも、このままじゃパニックとか起きちゃうんじゃない?」
すみれが私たちの行動を見て察してくれたのか話し合いに参加する。彼女の能力は『脳の活性化』。話し合いにはもってこいの能力だ。
「……なぁ、確か俺たちが捕まってた時、すみれちゃんたちは学校をサボって探してくれたんだよな?」
「うん、そうだよ」
「その時、サボってることを隠すために後輩の能力を使ったって言ってたけど具体的にはどんな能力なんだ? 『投影』って能力らしいけど」
「あー……『投影』は思い描いた物を出現させる能力かな。一応、実体もあるけど転ぶだけで消えちゃうぐらい脆いから戦闘には使えないけど」
悟の質問にすみれが苦笑を浮かべながら答える。私も『投影』を使える後輩――リクの能力を見せて貰ったがとてもではないが戦闘向きとは言えない。視覚や聴覚は共有できるので偵察や【メア】の消費量はそこまで多くないので大量に偽物を作り出して攪乱する、と言ったように援護に向いている能力だ。
「よし。すみれちゃん、今すぐその後輩に電話を掛けてくれないか? いけるかもしれない」
「わかった」
「次は……ユリちゃんか」
すみれが電話を掛けたのを見て今度は外を呆然とした様子で眺めているユリを見る悟。
「あ、あの……神様。あれは、一体?」
自分が見られていることに気付いたのかユリは外を指さしながら悟に質問した。とりあえず、悟を神と呼んでいることにツッコみたいが今はそれどころではないのでグッと我慢する。
「あれは……アトラクションだ」
「へ?」「は?」
悟の言葉を聞いて私とユリはほぼ同時に声を漏らしてしまった。アトラクションと言われても反応に困ってしまうのだが。
「それについては後で教えるよ。あ、そうだ。ユリちゃん、奏楽ちゃんを起こしてくれる?」
「わ、わかり、ましたです」
悟のお願いを聞いてユリは未だ眠っている奏楽を起こしに向かう。しかし、寝不足の奏楽はなかなか起きないのだが、ユリに任せても大丈夫なのだろうか。
「シャチョさん、はい」
「お、ありがとう」
すみれから電話を受け取った悟はすぐにリクと話し合いを始めてしまった。その間に何かできることはないだろうか。そうだ、式神通信が通じるか確認でも――。
「あ、そう言えばみーやん」
「何?」
――しようかと思った矢先、すみれに声をかけられた。何か気になることでもあるのだろうか。
「着替えた方がいいんじゃない? 戦闘になったらマズイと思うんだけど」
「あー……」
私は今、『音無響喫茶』の制服を着ている。さすがにこの恰好のまま戦うのは避けたい。しかし、着替えようにもここには悟がいる。男の前で着替えるのは嫌だ。そう思っているとリクと話していた悟が私に頷いてみせた後、こちらに背を向けた。なるほど、これなら見られずにでき――。
「――ないからね!? 嫌だからね!?」
「みーやん、ガンバ!」
「応援されても嫌なものは嫌だから!!」
「でも、そんなこと言ってられない状況だよ?」
「うっ……」
確かに緊急事態なのはわかっている。でも、嫌なものは嫌なのだ。せめて悟じゃなくて響だったら――って、響でも駄目だ。普通に響を女の子のカテゴリーに入れていた自分に驚きである。
「じゃあ、よろしく。タイミングはこっちで指示するから。じゃ」
頭を抱えて悩んでいると悟の電話が終わってしまった。私が着替えていないとわかっていたようですぐにこちらを振り返った。
「とりあえず、パニック対策はできそうだ。すみれちゃん、放送室って使える?」
「放送室? うん、放送担当の子、お兄さんのファンだから買収できると思う」
「なら、とびきりの物をあげなくちゃな。賄賂の準備をして来るからその間に雅ちゃんは着替えちゃってね。後、奏楽ちゃんも起こしておいて」
ナチュラルにとんでもない会話を聞いてしまったような気がする。まぁ、いい。何か問題が起きても私は何も聞いていなかったので関係ない。まずは着替えてしまおう。
「奏楽ちゃーん……起きてぇー」
「すぅ……すぅ……」
そして、その後に奏楽を起こそう。さすがにユリには荷が重すぎたようだ。