東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第328話 博麗のお札

「それにしても」

 霊奈との模擬戦から数時間後、皆でお昼ご飯を食べている時にふと僕は言葉を零した。

「どうしたの?」

 いち早く食べ終えた霊夢がお茶を飲みながら問いかけて来る。それにつられて霊奈と桔梗が僕に視線を向けた。口をもごもご動かしているのはご愛嬌である。

「霊奈が使ってたお札だよ。投げただけで【盾】の衝撃波が発生するとは思わなかったんだ」

 桔梗【盾】はある一定の衝撃を受けると自動的に衝撃波を発生させて相手を吹き飛ばすのはもちろん、最低でも衝撃を相殺してくれる。つまり、さほど衝撃を受けない攻撃では衝撃波は発生しないのだ。

「確かにそうですね。もし、あのままお札ばかりを投げられていたらオーバーヒートを起こしていたかもしれません」

「え!? そうなの!?」

「まぁ、オーバーヒートを起こしそうになったら【翼】とか【バイク】で距離を取るけどね」

「むー……なんかずるい」

 桔梗【盾】の攻略法を見つけたと思ったのか目を輝かせた霊奈。しかし、僕の言葉を聞いて少しだけ不貞腐れてしまった。なお、思い切り地面に【盾】を叩きつけ、その衝撃波を利用して大きくジャンプすると言う手もある。手札が多いと色々な対策を思い付けるので便利だ。扱い切れなければ意味はないけれど。

「あのお札、ただ投げてるだけじゃないのよ」

 むくれている霊奈を見て苦笑していると霊夢が口を開いた。

「博麗のお札って言って博麗の巫女、もしくは博麗の巫女候補しか使えない物なの」

「そっかー、使えそうなら僕も使いたかったなー」

 しかし、僕は博麗の巫女でもなければ博麗の巫女候補でもない。残念だ。

「えー、キョウ今でも十分強いじゃん!」

「桔梗って基本的に近接武器しかないから遠距離からでも攻撃できるようになりたかったんだよ。桔梗が遠距離武器に変形できるようになったとしても変形の隙を突かれる可能性もあるからね」

 もし、僕が博麗のお札を使えたならばお札で牽制しつつ、桔梗の変形や鎌で攻撃できる。先ほども言ったが、手札は多ければ多いほど戦術が広がるのだ。手を伸ばし過ぎるのも駄目だが、可能な限り用意しておくべきである。

「そうね……少し試してみる?」

 肩を落としている僕を見かねたのか霊夢がそう提案してくれた。

「いいの?」

「別にお札の1枚くらいすぐに補充できるし、キョウって魔力の他に霊力も持ってるから。後は博麗の巫女の素質があれば使えるわ」

「それが一番の問題なんだけど……」

 それにしても僕に霊力があるとは思わなかった。今まで扱って来たのは魔力だけだったので霊力を使った技を考えるのもいいかもしれない。まずは霊力の動かし方を覚えなければならないけれど。

「とりあえず、霊力ってどんなものか見せて貰える? あれだけじゃよくわかんなくて」

「あら? さっき普通に霊力使ってたわよ?」

「へ?」

 全く身に覚えがない。確かめるように桔梗に目を向けるが彼女もそれに気付いていなかったようで驚いていた。

「キョウすごいよねー。あんな綺麗な強化、なかなかできないよ!」

「強化って?」

「その様子だと無意識でやってたみたいね。肉体強化よ。あんな大きな盾とか鉄の拳を軽々と持ち上げたり、翼で高速移動した時の負荷とか……子供の体じゃ耐え切れないことを当たり前のようにやってたじゃない」

 霊夢が呆れたように教えてくれたがよくわからなかった。盾や拳は初めて変形した時から普通に扱えるし、高速移動の時の負荷は桔梗が何かしてくれているものだと思っていた。

「え? 私、何もしていませんよ?」

 そのことを桔梗に聞いてみると首を横に振った。どうやら、霊力による肉体強化は僕が無意識の内にしていたらしい。

「一通り家事を終わらせたら練習してみましょ? 強化はできてるけど、霊力の扱い方は全く分からないみたいだし」

 そう言って霊夢は湯呑に残っていたお茶を飲み干し、台所へ湯呑を置きに向かった。それを見送りながら未知(と言っても肉体強化はしていたが)の力にちょっとだけワクワクしている僕がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、霊力の扱い方だけど……まぁ、慣れね」

「大雑把だね……」

 境内で僕と霊夢は向かい合っていたのだが、そんな彼女の一言を聞いてため息を吐いてしまった。

「しょうがないじゃない。慣れは慣れなんだから」

 腕を組みながら彼女は視線を逸らす。上手く説明できないようだ。因みに霊奈は自分の修行があるので修行場へ。桔梗はお昼寝中である。チラリと縁側の方は見るとハンカチをタオルケット代わりにして気持ちよさそうに寝ていた。

「……とりあえず、霊力を感じさせてほしいかな。そうすれば何となくわかりそうだし」

 すでに僕は霊力を扱っている。しかし、僕には魔力もあるのだ。恥ずかしい話だが、今の僕には魔力と霊力の違いがわからない。いや、違いが分からないと言うより、魔力しか感知できないのだ。霊力と言う物を知れば体の中に流れている霊力を感じられると思う。

「じゃあ、お札に霊力を込めるから頑張って感じ取ってね」

 僕のお願いを受け入れてくれたようで霊夢は懐から博麗のお札を取り出すとそれに力を込め始める。仄かにお札が輝いた。

「……」

「どう?」

「……行けると思う」

 何となくわかって来た。頷いた僕を見て『そう?』と首を傾げる彼女だったがすぐにお札をくれる。霊力を持っている。霊力を扱える。後は――博麗の巫女の素質があるかどうかだ。

 目を閉じて先ほど感じた力に似た気配を探る。イメージは海。浅いところにあるのは魔力だ。今まで僕が使い続けて来たからすぐに感じられる。それに対して使い慣れていない霊力は深い、深い海の底に溜まっている。潜る。潜る。潜る。

「ッ――」

 数分経った時、僕は深海で霊力を捉えた。そして、一気にそれを手の中にあるお札に注ぎ込む。そのまま、近くに立っていた木に向かって投げた。

 ――さすがね。

 赤く輝くお札が木をへし折った時、そんな声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、僕にも博麗の巫女の素質があると?」

「……ええ、そうみたいね」

 木をへし折った後、僕と霊夢は居間でお茶を飲みながら話し合っていた。内容はもちろん、僕が博麗のお札を使ってしまった件について。霊夢もまさか僕が博麗のお札を使えるなんて思っていなかったようで、一度博麗のお札を使わせて失敗した後に一般的に使われているお札で練習させるつもりだったのだ。しかし、現実は違った。

「えっと……この場合、どうなるの? 僕も修行した方がいい?」

「そもそも、あなた男じゃない。女装するつもり?」

「……おっしゃる通りで」

 さすがに僕も女装はしたくない。まぁ、女装をする機会などないだろうけれど。

「この件に関しては師匠が帰って来たら相談しましょ?」

「あー……でも、また時空移動が来たら……」

 確かに彼女たちの師匠に相談したいが、それまで僕がこの時代にいる保障はないのだ。

「その時はその時よ。それじゃ、はい」

 僕の心配を一蹴した彼女は何十枚もの紙束をくれた。そう、博麗のお札である。

「え、こんなに貰えないよ!」

「いいから貰っておきなさい。お札は消耗品だから早く使わないと擦り切れるのよ。一応、私も霊奈もお札は作れるし、博麗のお札はその辺のお札より何倍も力があるけど、その分、他のお札よりも扱いにくいの。だから、これを全部使い切る勢いで練習しなさい」

「……つまり?」

 

 

 

 

 

「修行よ。霊奈と一緒に、ね」

 

 

 

 

 

 そこで自分と言わないあたり霊夢は本当に修行が嫌いなのだと苦笑してしまった。

 


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