東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第299話 王女の本気

 レミリアの嘲笑を見た瞬間、俺は本能的に『五芒星』を展開する。

「ぐっ」

 その判断は正しかったらしく、目にも止まらぬ速さで突っ込んで来たレミリアの貫手を『五芒星』が防いでくれた。あのまま何もしていなかったら彼女の手が俺の腹部を貫いていただろう。

「本当にこの結界、硬いわね。邪魔」

 防がれて少しだけ不機嫌になったのか笑みを消して『五芒星』を睨むレミリアだったが、すぐに右手を握りしめて結界の頂点を一発だけ殴った。それを見て足から妖力を噴出させて急いで後退する。俺が先ほどまで立っていた場所に結界の破片が散らばる。あの『五芒星』が一撃で破壊されてしまったのだ。

「そんなっ……」

 フランが目を見開いて驚愕した。よく俺に抱き着こうとして来るのを『五芒星』で防いでいたからこの結界の頑丈さを知っている。だからこそ、レミリアが簡単に破壊してしまったことに驚いてしまった。それが隙になるのにも関わらず。

「フラン!」

「ッ……」

 俺の声に反応して気を引き締める彼女だったがその時にはすでにレミリアがフランの背後を取っていた。普段のフランだったらこのままレミリアの攻撃を受けてダウンしていただろう。でも、今は――。

「転移『ラバーズエスケープ』!」

 ――俺がいる。

 『ラバーズ』を使用している間、専用のスペルカードが使えるようになる。『恋禁』がいい例だ。今回使用した『転移』は『ラバーズ』の相手と立ち位置を入れ替えるというもの。つまり、俺とフランの立ち位置が入れ替わり、レミリアと正面から対峙しているのだ。

 硬術『フルメタルボディ』

 咄嗟に魔術を使い、体を硬化させガードの構えを取る。レミリアの左足が俺の右側頭部へ吸い込まれるように振るわれた。『魔眼』で空気の流れを視て右腕で受け止める。もちろん、インパクトするのを忘れない。それでも俺の体が左へ押された。その流れに逆らわず、左へ飛んだ。レミリアが追撃しようと追いかけて来た。

 妖拳『エクスプロージョンブロウ』

 空中でバランスを取りながら近づいて来るレミリアに向かって右拳を突き出す。普通の人間なら躱せないだろう。しかし、レミリアは吸血鬼だ。持ち前の身体能力で紙一重で回避する。

「ガっ――」

 だが、彼女の左頬のすぐ近くを俺の右拳が通り過ぎた瞬間、爆発して吹き飛ばした。『妖拳』は物体に触れなくても任意のタイミングで妖力を爆発させることができる。まぁ、直撃させているわけではないのでさほどダメージがあるわけではない。でも、俺の目的は他にある。

「やあああああ!」

 吹き飛ばされてバランスを崩したレミリアの左側からフランが突っ込んで来た。そのまま、レミリアの左わき腹にフランの右足が直撃する。痛みで顔を歪ませるレミリアだったがすぐにフランの右足を掴んで投げた。その隙に俺は2人から離れる。

 投げられたフランはあえて床を転がって態勢を立て直す時間を稼いでいた。でも、レミリアがそれを黙って見ているわけがなかった。転がるフランを追いかけて何度も床を殴る。そのあまりの威力に床に小さなクレーターができていた。

「ちょ、ちょっと! お姉様! 洒落にならないよ!?」

「これは殺し合いよ? 貴女も私を殺すつもりで来なさい!」

「じゃあ、殺すわ」

 重拳『グラビティナックル』

 背中を向けていたレミリアに重力を纏わせた拳を叩き付ける。不意打ちを受けた彼女はガードなどできるわけなく俺の拳を背中で受け止めた。骨が砕ける音と共にレミリアが凄まじい勢いで吹き飛ばされる。すかさず足から妖力を噴出させ、後を追いかけた。

「レッドマジック」

 しかし、それはレミリアの罠だったようで顔を引き攣らせたまま、俺へ弾幕を放って来る。一撃でも掠れば大けがでは済まされないだろう。

「『五芒星』!」

 がむしゃらに博麗のお札を投げて弾幕を防ぐがどんどん押されていく。このままでは『五芒星』に皹が入り、弾幕に飲み込まれるだろう。

 回界『五芒星円転結界』

 『五芒星』を回転させた。これからは『防ぐ』ではなく『斬る』。回避できる弾は回避し、回避出来ない弾だけ『五芒星』で斬っていく。少しずつだがレミリアに近づいていく。

「くっ……」

 まさか『五芒星』にこのような使い方があるとは知らなかったのか、レミリアは悔しそうにしながら背筋を伸ばした。どうやら、すでに骨折は治っているようだ。さすが吸血鬼。

「……ああ、そうか。そう言う作戦か」

 レミリアまで後もう少しというところで彼女に気付かれてしまったようだ。

 A&G。『アタック&ガード』戦法。ガードナーが敵の攻撃をガードし、隙を作る。そして、アタッカーがその隙を突いて攻撃する。今度はアタッカーがガードナーとなり、敵の攻撃を防ぎ、ガードナーからアタッカーになった人が攻撃する戦術。まぁ、フランとは練習中だったし、今のレミリアの攻撃をガードするのは文字通り、骨が折れるのでフランは回避に専念。俺は攻撃を受け流すことにした。

「種がわかってしまえば」

 ニヤリと笑ったレミリアは弾幕を撃つのを止めて全方向に霊力を撒き散らした。霊力の塊が衝撃波となって俺とレミリアの背後から近づいていたフランを吹き飛ばした。この作戦の弱点はアタッカーとガードナーが同時に敵から引き離されてしまったら、戦術が使えなくなってしまうこと。絶え間なくガードナーが張り付き、敵の攻撃を受け止め続けなければアタッカーは攻撃できないし、その時にはA&Gについて知られている可能性が高いので何かしらの対策を立てるだろう。だから、もうA&Gは使えない。

「なるほど。この日のために色々仕込んでいたのね。そんなにリョウのことを知りたいの?」

 これからどのように攻めようか悩んでいると霊力の放出を止めた彼女が俺に問いかけて来た。

「……ああ」

 あいつは俺の命を狙っている。何故、俺の命を狙っているのか。リョウとレミリアの間に何があったのか。そして、それを聞いて俺は何をするべきなのか。俺は知りたい。いや、知らなくてはならない。

「いいの? 正直に言うとリョウは手強いわ。今の私となら互角に戦えるかもしれない」

「昔は違ったのか?」

「……これ以上は私に勝ってからにしなさい」

 ふっと乾いた笑いを漏らし、俺を見たレミリア。その姿はどこか儚げだった。

「お兄様」

「……わかってる」

 俺の隣に立ったフランが俺の袖を引っ張って呼んだ。それに対して頷いて答える。リョウとレミリアの話を聞きたいなら勝つしかない。それにもうこれがラストチャンスなのだ。俺とフランが立てた作戦は一度しか通用しない。失敗すれば何もかもが水の泡になってしまう。

「負けられない」

 負けてはならない。俺のためにも。俺のために頑張ってくれているフランや魂に住んでいる奴らのためにも。俺たちは勝つ。

「……いい眼だわ。それじゃ、私も」

 俺の目を見て嬉しそうに笑っていたレミリアだったが、その小さな体から凄まじい殺気が漏れ始めた。どうやら、今までお遊びだったらしい。

「ほら、もっと私を楽しませて頂戴」

「ッ!」

 雷輪『ライトニングリング』

 俺の両手首に雷の輪が装備された時にはもうレミリアの右手は俺の胸を貫き、心臓に届く直前だった。強引に体を捻って彼女の右手の軌道上から心臓をずらす。心臓は何とか潰されずに済んだが、遅れて激痛が体を駆け巡る。目の前が一瞬だけ真っ白になったが何とか意識だけは繋ぎ止めた。

「え……お兄様?」

 俺の隣に立っていたフランは何が起こったのかわからないようで俺たちの方を見て呆然としていた。

「フランったら何驚いてるのよ。ただ、“私が響の心臓を握り潰そうとしたのを響が何とか防いだ”だけじゃない」

 真っ赤に染まった右手を俺の体から抜いて涼しげな表情で言ってのける。

「心臓を……ってそんなことしたらあのお兄様でも!?」

 死ぬ。『超高速再生』を持っていると言っても即死すれば意味がない。心臓を握り潰されれば即死間違いないだろう。もし、数秒生きていてもその数秒の間に脳を潰されて終わりだ。

「何甘えたこと言ってるの? これは殺し合いよ?」

 俺とフランは勘違いしていた。殺し合いと言ってもそれは弾幕ごっこの延長戦なんだと。でも、違った。

 レミリアは本気で俺とフランを殺そうとしている。彼女の目を見ればすぐにわかった。

「そ、そんな……」

「いいんだ、フラン」

 霊力を流して傷を塞ぎながらレミリアを睨みつける。

「レミリア。本気で行くぞ?」

「ええ、いらっしゃい」

 レミリアと戦っていて気付いたのが彼女の速度の異常さだ。確かに攻撃力も高いのだが、速すぎる。きっと『雷輪』を使っても追い付けないと思う。じゃあ、彼女の高みへ俺も行けばいい。

 

 

 

「魂同調『猫』」

 

 

 

 そうスペルを宣言した刹那、俺の体を白いオーラが包み込んだ。

 




実は感想で猫の魂同調するのがばれてちょっと焦ったのは秘密です。
本当に読者様たちは勘が鋭くて私、何度冷や汗を掻いたかわかりませんw
これからも私をひやひやさせてくださいねw

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