「――おしまい」
「……せつないね」
ドアの向こうで涙声のフランさんが感想を漏らす。
「うん。結局、結ばれなかった……」
僕も涙を流している。それほど感動的な話だったのだ。
「最後の所が良かったと思うよ。女の吸血鬼が死ぬ寸前の人間の男に自分の血を飲ませようとしたところ。同じ吸血鬼になれば長生きできるもの」
「でも、男は断っちゃうんだよね。人間のまま、死なせてくれって……」
この物語を読み終えるのに1週間かかった。僕がここに来てから約3週間が過ぎる。元の世界に帰る方法を探しているのだが、一向に見つからない。
「本当に人間に吸血鬼の血を飲ませたら飲んだ人間も吸血鬼になるのかな?」
「さぁ~? どうなんだろうね?」
この1週間で変わった事と言えば、フランさんを『フランさん』と呼ぶようになったのと僕の口調がタメ口(に)なった事ぐらいだ。フランさんからお願いされたのだ。
「明日は新しい本、持って来るね」
「ええ、よろしく」
立ち上がって僕は階段を上り始めた。どのような本を持って行くか考えながら――。
「神槍『スピア・ザ・グングニル』!」「禁忌『レーヴァテイン』」
レミリアは紅い槍を、響は炎の剣をそれぞれの右手に持つ。
「うおおおおおおっ!!」「……」
レミリアが咆哮しながら槍を投げ、響はそれに剣を下から当てて軌道を逸らす。逸らされた槍は、紅魔館の天井を突き破り、外に飛び出した。
「天罰『スターオブダビデ』!」
響が槍の行方を見ている内にレミリアがスペルを発動。レーザーと大玉が響を襲う。レーザーは自分の反射神経を頼りに躱し、大玉は剣でぶった切る。
「くっ!?」
「……」
響はそのまま弾幕の中を疾走し、レミリアの懐に潜り込む。その顔は無表情。
「『レッドマジック』!」
剣がレミリアの腹に届くまであと数歩と言うところでスペルを唱えた。
「……」
だが、響は無闇に突っ込まずバックステップして距離を置く。
「……」
その様子を見てレミリアが目を細める。狂気に取り込まれているのにどうしてこのような戦い方をするのだろう。そう思っているのだ。
狂気に取り込まれてしまうと理性を失くし、本能のままに破壊活動を行う。それなのに響は慎重に戦っている。
「呪詛『ブラド・ツェペシュの呪い』!」「禁忌『クランベリートラップ』」
そんな疑問に答えられる人もいない。だから、レミリアは攻め続ける。響もそれに答えるように戦い続ける。これは弾幕ごっこではない。ただの殺し合いなのだから。
「ここまで余波が来るなんて……もはや、弾幕ごっこではないみたいね」
「ああ、レミリアの槍が飛んで行ったのも見えたし」
霊夢、魔理沙、早苗、文の4人は紅魔館に移動している途中だ。先ほどレミリアの神槍が紅魔館から飛び出すのを確認した。
「ん? あれって……」
魔理沙が何かを発見し、下降する。
「っ!? 中国じゃないか!」
そこにはボロボロになったまま気絶している美鈴の姿があった。
「くっ……し、白黒?」
「だ、大丈夫か!?」
美鈴の体を起こしながら質問する魔理沙。
「は、はい……何とか。そ、それよりも今日は帰った方がいいですよ? 化け物が来てますから」
「その化け物を止めに行くんだよ」
「――ッ!? し、死にますよ!?」
美鈴は魔理沙の言葉に目を見開く。
「何とかなるって! ほら、これだけの仲間がいるんだから」
「……うわ。敵に回したくない人ばかりじゃないですか」
上で魔理沙の事を待っている3人を見て苦笑いする美鈴。
「まぁ、見てろって。じゃあ、行って来る。一緒に来るか?」
「行きたいんですが……もう少し休んでいきます」
「そうか。じゃあ、止めて来る」
魔理沙はそう言って箒に跨り、上昇し始めた。それを美鈴は黙って見ている。いつもは敵同士だったのに――。いや、敵同士だったからこそ美鈴は魔理沙が本当にあの化け物を止められると思った。
「貴方……フランの所に行ってるみたいね?」
「ご、ごめんなさい。今まで黙ってて」
本を持ってフランさんの所に行こうとしたらレミリアさんに捕まってしまった。
「……もう行くのはやめなさい」
「え?」
「あの子は危険なの。貴方なんか一瞬で壊される」
「で、でも……」
「やめなさい」
「っ!?」
レミリアさんの紅い目が僕を硬直させる。これが吸血鬼。足が震えて動けなくなってしまう。逆らったら殺される。本能で理解した。
こうして、僕はフランさんの所へ行けなくなってしまった。
「……どうして、来ないの?」
最近、遊びに来てくれていた男の子がいつまで経っても来ない。
「まぁ、毎日来る方がおかしいか……」
そう、自分に言い聞かせてベッドに潜った。
「……」
男の子が来なくなってから3日、経った。寂しい。私はあの子に助けられていたんだと理解した。この寂しさを紛らわす為にベッドに潜った。
「どうして……こないの?」
1週間。時間の感覚がなくなって来た。あの子が来てから書き始めた日記は机の上に放置したままだ。書かなくちゃ。いや、やめよう。面倒くさいからベッドに潜った。
「ドうシテ、コナイの? どウシて、コなイノ? ドうしテ、こナイノ? ドウシて、コ――」
1か月経った。私は言葉に出しながら日記を書く。今日の分だけで4冊書いた。潜る為のベッドはもうない。消滅させてしまった。これからどうすればいいのだろう。
――パキ……
手に持っていた羽ペンが折れる。
「……そウダ。コこかラデよウ」
日記を投げ捨てて私は固く閉ざされたドアを睨む。そして、右手に集める。
「どカーん……」
ニヤリと笑いながら右手を握り、ドアを粉砕。凄まじい轟音と砂埃。それを無視して開いた穴から外の世界に飛び出す。この後に起きる事なんて知らずに――。
「おい……女」
「何よ。今、いそが……あら? その姿は?」
紅いスカート。枯れ木のような羽に七色の結晶がくっついたような羽。ドアノブのような帽子。右手に黒い杖のような物。目は紅く、犬歯は伸びて少し口から出る。八重歯というものだ。そんな姿をした響が天井を殴り続けていた女に声をかける。
「ここは俺の魂、何だろ? PSPぐらい召喚出来そうだったから試した」
「それで……成功みたいね。じゃあ、一緒に壊しましょ?」
「……に、しても頑丈だな」
女が殴り続けていたのに傷1つ、付いていない。
「ええ、私の手が壊れてしまいそうだわ」
見ると女の手から血が流れている。皮でも破れたのだろう。
「ああ、後。そのコスプレよ」
「あ? 何が?」
「貴方が暴走するきっかけになったの」
「え!? マジで!?」
響は驚いて目を見開く。羽もパタパタと忙しなく動いている。
「まぁ、大丈夫でしょう。貴方の狂気はもう表に出ているのだから」
その姿がかわいらしくて女が頬を緩ませながら言う。
「そ、そうか? じゃあ、心置きなく。禁忌『フォーオブアカインド』!」
スペルを発動し、4人に分身する響。
「おお! すげ~!」「これなら壊せそうだな!」「ああ、いけそうだ!」「ほら、新しいスペルを持て!」
少し会話してからそれぞれがスペルを手に持ち、宣言。
「禁忌『レーヴァテイン』!」「禁弾『スターボウブレイク』!」「禁忌『クランベリートラップ』!」「禁弾『過去を刻む時計』!」
それぞれから放たれた弾幕が空間の天井に激突する。
次回、結構グロイ描写があります。ご注意ください。