東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第277話 頼もしい背中

「はああああ!!」

 種子の前に敵が躍り出た刹那、築嶋さんが一瞬でそいつを殴る。

「<セカンド≪G≫>!」

 攻撃後の硬直を狙って突撃して来た敵を吹き飛ばす柊。すかさず、風花が団扇を振るって突風を起こし、目の前に群がっている敵たちをまとめて排除した。

「竜炎『神龍の伊吹』!」

 それを見届けた俺は振り返って口から火炎放射を放つ。俺たちを追いかけていた奴らは炎に包まれるも、手加減はしたので酷い火傷ぐらいで済むはずだ。

「音無兄、人間やめたのか?」

 そんな俺の様子を見ていたのか柊が冷や汗を流しながら問いかけて来た。

「……否定できないことに若干だが、傷ついているぞ」

 どこに左手を巨大化させたり、口から炎を吐き出す人間がいようか。

「バゥ!」

 小さなため息を吐いていると種子が唐突に吠えた。すぐに前を見ると道が3方向に分かれている。

「それじゃ、ここで一旦、お別れだ。中央の部屋で落ち合おう」

 そう言って柊と種子は西側――左へ曲がった。

「お兄さん! 必ず、助けるから待っていてくれ!」

「また後でねー」

 築嶋さんと風花も右へ曲がって東へ向かう。それを見届けて俺はすぐ低空飛行で真っ直ぐ、進んだ。

「竜撃『竜の拳』」

 目の前に現れた敵を巨大化させた左手でぶっ飛ばす。

(それにしても……すごいな)

 実は俺が攻撃を仕掛ける間、ずっと敵は銃を撃っていた。つまり、俺はひたすら撃たれまくっているのだ。それなのに、傷はおろか痛みすら感じない。

『響!』

 その時、やっと頭の中で吸血鬼の声が聞こえた。

「吸血鬼、聞こえるか?」

『聞こえるかじゃないわよ!? 一体、貴方は何をしたの!? 全く、通信できなくてひたすら声をかけ続けてたのに、突然、すごいのが魂に入って来たのよ!? それにやっと、繋がったと思ったらとんでもない姿になって!』

「あー、それについては謝る。後で説明するから今はちょっと黙っててくれ」

『黙ってて!? 私がどれだけ心配したと――』

 強引に通信を切った。吸血鬼たちには申し訳ないが、今はそれどころではない。きっと、トールあたりが吸血鬼を宥めてくれるだろう。

(……本当なら、吸血鬼を宥めるのは狂気なんだろうな)

 あいつならため息を吐きながら吸血鬼を羽交い絞めにして抑えるはずだ。それをトールが微笑みながら眺め、闇と猫は笑う。そんな光景を思い浮かべてしまった。

「……待っていろ」

 それは奏楽たちに対してなのか、狂気に対して呟いたのか俺には分からなかった。

「竜撃『竜の拳』」

 また敵を吹き飛ばして突き進む。そして、目的の場所へ辿り着いた。あの扉の先から奏楽と悟の力を感じる。

「おらっ!」

 スペルを使わずに左手をギュッと握って扉を殴って破壊。もちろん、吹き飛んだ扉が奏楽たちに当たらないように角度を調節した。

「うわっ!?」「きゃっ!?」

 そんな声が聞こえる。そりゃ、いきなり扉が吹き飛んだら驚くだろう。そう思いながら俺はその部屋へと入った。

「奏楽、悟。すまん、待たせた」

 声をかけるとやっと2人は俺を見て、目を見開く。

(あ、こんな姿じゃ驚くよな)

 その点に気付かないとは相当、焦っていたのだろう。

「おにーちゃん?」

 自分自身に呆れているとやっと我に返ったのか奏楽が声を絞り出した。

「ああ、おにーちゃんだ」

「お、おにいいいいいちゃあああああああああん!!」

「おっと」

 悟を突き飛ばして奏楽が俺の胸に飛び込んで来る。潰さないように優しく抱き止めた。

「こわかったぁ……こわかったよぉ……」

「ゴメン。ゴメンな」

「うええええええええん!」

 俺の胸に顔を埋めて奏楽は大泣きする。こんなところに1日以上も閉じ込められていたのだ。悟が励ましていたとしても不安になるに決まっている。

「……響なのか?」

 そう聞きながら悟が歩み寄って来た。その顔を見ると信じられないような物を見ているような表情だった。

「……ああ」

「……そうか。今は何も聞かない。でも、後で教えろよ? 色々」

「わかっている」

 悟の言葉に頷いてそっと悟を抱き寄せる。

「きょ、響?」

 突然、抱きしめられた悟は目を白黒させた。それに構わず、俺は立ち上がる。

「2人とも、準備はいいか?」

「「え?」」

 キョトンとする2人を放って部屋を出た。廊下の向こうを見ると敵が何人もこちらに向かって走って来ている。

「ちょっと熱いかもしれないけど、我慢してくれ。竜炎『神龍の伊吹』」

 今、俺の両腕は奏楽と悟を抱えていて塞がっている。ならば、必然と使う技も絞られた。

 俺の口から火炎放射が吐き出され、敵を飲み込む。敵の絶叫が廊下に響き渡る。

「「……」」

 それを間近で見た奏楽と悟は目を丸くして口をパクパクさせていた。

「……響、お前人間やめたのか?」

「やめろ。その言葉を聞くのは2度目だ」

 少しだけ傷つきながら、俺はまた低空飛行で中央の部屋を目指す。もちろん、立ちふさがる敵は全て、黒焦げになった。

「くっ……」

 しかし、敵の数が多い。火炎放射は連続で撃てない。撃ってしまうと廊下の酸素がなくなってしまい、呼吸困難になってしまうからだ。

(どうする?)

 敵の銃弾を右翼でガードしながら考える。

「おにーちゃん!」

 悩んでいると不意に腕の中にいた奏楽が俺を見上げながら叫ぶ。奏楽を見ると真剣な眼差しでジッと俺を見つめていた。

「……わかった。奏楽、頼むぞ」

「うん!」

 そっと奏楽を地面に降ろしてスペルカードを構える。

「契約『奏楽』!」

 そして、スペルカードを地面に叩き付けて宣言。すると、奏楽の体が輝き出した。

「な、何だ!?」

 悟が悲鳴のような声を出すが今は説明している暇はない。

「……行くよ。お兄さん」

 光が弾けるとそこには白いワンピースを着た大人モードの奏楽がいた。悟と敵は奏楽の姿を見て呼吸をすることすら忘れているようだ。

「奏楽、付けろ」

 スキホからにとりが作った腕輪を奏楽に投げ渡す。俺もすぐに対となる腕輪を右手首に装着した。

「魂剣『ソウルソード』」

 腕輪を付けた奏楽は右手に半透明な剣を握ってゆっくりと横薙ぎに振るう。動けずにいた敵だったが、何もない場所で剣を振った奏楽を見て首を傾げる。

≪がっ!?≫

 しかし、次の瞬間には目の前にいた敵、全員がその場に倒れ伏すことになった。奏楽の使った『魂剣』は魂に直接ダメージを与える技である。しかも、斬撃を飛ばすことが出来るので遠くにいる相手にも当てられるのだ。まぁ、敵に当たった分だけ地力を消費するのだが、俺が肩代わりしているので問題ない。相当な量、持って行かれたが。

「奏楽、ちゃん……」

 まさか、奏楽が敵を全滅させるとは思わなかったようで悟が呆然としていた。無理もない。あんなに小さい子が突然、大きくなって無双しているのだから。

「……悟」

 そんな彼に俺はそっと声をかけた。

「な、何だ?」

「これが、俺たちの正体だ」

 この言葉は予想以上に俺の中で冷たく響いた。何だか、もう悟とは元の関係に戻れないような気がして。

「覚悟はしてたけど……ここまでとは思わなかった」

 やはり、悟は俺たちの秘密に気付いていたようだ。

「……怖いか?」

 すでに人間をやめている俺。目の前で絶対的な力を振るった奏楽。ここにはないが、全てを見通す望。炭素を操る雅。神獣の霙。『博麗になれなかった者』の二つ名を持つ霊奈。悟の周りだけでもこれだけ、異能の力を持つ人がいるのだ。

「……いいや。怖くない。むしろ、誇らしいよ」

「誇らしい?」

 俺の問いかけを無視して俺の背中にそっと手を置く悟。

「俺の知ってる幼馴染は鈍感で、独りにしたら何をしでかすかわからないような奴だった。でも、今じゃ、師匠たちの保護者として立ってる。あんなに小さかった背中が……いつの間にかこんなにも頼もしい背中になってるなんて気付かなかった」

「……俺は変わってない」

「え?」

「俺は音無 響。今も昔も、未来もずっと音無 響だ」

 例え、考え方が変わっても、人間ではなくなっても、俺は俺だ。誰が何と言おうと、俺が俺だと言い続ける限り、俺なのだ。

「ああ、そうだな。お前は音無 響だ」

 顔だけ後ろに向けると悟は笑いながら頷く。その顔に畏怖の感情は見当たらなかった。自然と俺も笑顔になる。

「お兄さん、そろそろ……」

 俺と悟が笑い合っていると奏楽に注意されてしまった。

「おっと、ゴメン。奏楽はそのまま、飛んでくれ」

 そう言って、俺は悟を抱える。また、移動を開始した。

(それにしても……)

 奏楽と一緒に敵を蹴散らしながら俺は思う。

(俺、悟に嫌われるのが怖かったんだな)

 悟に嫌われずにすんでホッとしている自分がいた。こんな姿になってしまったが、俺はまだ人間のようだ。

「悟、ちょっと我慢していろ」

「え? あ、ああ……」

 頷いた悟を右脇に抱えて左腕を引く。

「――――――」

 俺の行動を見た奏楽は聞いたことのない言葉を紡ぎ、魂を呼び寄せて右手に集めた。俺の考えがわかったのだろう。

「竜撃『竜の拳』」

 俺の左拳が廊下の壁を粉砕し、隣の廊下に繋がる。そして――。

「魂撃『ソウルナックル』」

 ――右拳を輝かせた奏楽が隣の廊下に移動して思い切り、振るう。凄まじい衝撃と共に廊下の壁が吹き飛んだ。

「竜撃『竜の拳』」「魂撃『ソウルナックル』」

 それから何度も俺たちは廊下を破壊して行く。目指すのは中央の部屋。

(待っていろよ、皆)

 そんな逸る気持ちを抑えながら。

 




モノクローム図鑑

種子

種族:犬の妖怪

能力:基本的にメイド姿。柊家の家事を任されている(柊も手伝う)。なお、変身すると大きな狼の姿になる。もはや、霙。
しかし、霙とは違い、青い炎を操る。空を飛ぶときは足に青い炎を纏う。
因みに狼の姿になるとメイド服が脱げるため、人型に戻ると全裸である。いいぞもっとやれ。

……ここだけの話。種子は半妖半霊であり、柊が小さい頃、飼っていた犬の幽霊。
オリジナルの話では文化祭が近くなった頃、体が透け始めた種子。それを見て種子の正体に気付いた柊が文化祭の舞台で種子の為に作った歌を歌い、成仏する予定だった。
なお、成仏した後、幻想郷に行き、紅魔館でメイドとして働いている、となる予定だった。
多分、ならないけどね!

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