東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第272話 動き出した時間

「ご馳走様でした」

 お粥を食べ終えてそっと息を吐いた。今、この部屋には俺だけしかいない。どうやら、俺がお粥を食べている間に種子は部屋を出て行ったらしい。気の利く子だ。

「さてと……」

 今、俺がすべきことは熱を下げることだ。まぁ、まだ能力は使えないので熱を下げても戦えないのだが戦闘になった時、相手の攻撃ぐらいは回避できるようになっておきたい。因みに魂に話しかけても誰も返答してくれなかった。どうやら、能力変化のせいで通信が出来ないようだ。きっと、吸血鬼たちと話せるようになったら能力が使えるようになるだろう。

「ん?」

 ベッドに潜り込もうとした矢先、柊の机に置いてあった携帯が鳴った。よく見ると俺の携帯だった。風花が俺の家に偵察に行った時に持って来てくれたようだ。

「……まさか」

 ディスプレイに書かれていた名前を見て驚愕してしまう。このタイミングで電話して来るとは思わなかったからだ。

(……よし)

 前の俺ならこの電話に出ることはなかっただろう。もちろん、巻き込んでしまうからだ。でも、今は少しでも戦力が欲しい。だから、俺は――。

「もしもし」

 ――電話に出た。こいつならきっと力になってくれると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、緊急事態が起きたわ」

 博麗神社。そこで紫がそう言い放った。

「何が起きたんだ?」

 胡坐を掻いて魔理沙は問いかける。

「響の能力が変化して、こちらに来られなくなったの」

「え!? それ、本当なの!?」

 紫のスキマを使って紅魔館からここまで来たフランドールが叫ぶ。

「ええ。しかも、外の世界で事件が起きたみたい。彼は今、窮地に追い詰められてる」

「……それで、私たちが集められた理由を教えて欲しいわ」

 腕を組んで聞いていた霊夢がそっと質問する。

「そうですよ。何か決めるって言ってましたけど何を決めるのですか?」

 それに便乗して早苗。

「彼の能力は知ってる?」

「知らないよ。だって、響は何も言わないからね」

 呆れた様子で小町が首を振った。

「でも、どんな能力かは聞いたでしょ?」

「確か、能力の中身が変わるんだったよな?」

 首を傾げながら妹紅が皆に確認した。皆はそれに対して頷く。

「そうみたい。私が近づいても大丈夫なように私の曲を聞いていつも遊んでるもの」

 紫の能力で一時的に能力を封じている雛が嬉しそうに語る。

「そう。彼の能力は変化する。人間の時は『幻想の曲を聴いてその者の力を操る程度の能力』。それを利用して私の能力をコピーし、スキマを使って幻想郷に来ていた。でも、色々あって人間の時の能力が変わってしまった」

「……つまり、私たちにその対策を練らせたいのね?」

 まだ難しい表情を浮かべている霊夢が結論を急ぐ。

「いえ、対策はもう立ててある。皆にはそれを決めて欲しい」

 それから紫は件の対策の内容を言う。

「なるほど。だから、私たち……響と仲がいい奴らを集めたってわけだな」

 それを聞いて魔理沙がニヤリと笑った。

「そう。適当に決めても意味がない。響のことを知っている人がちゃんと決めてあげないと彼の能力は反応しない。でも、響を知っている皆なら……きっと、彼の能力も反応してくれる。だから。力を貸して。響のために」

 紫のお願い。それを断る人は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー、桔梗」

「おはようございます、マスター!」

 桔梗と一緒に寝始めてからもう1週間が過ぎた。相変わらず、僕たちはこいしさんたちと共に旅を続けている。

「キョウー、こっちお願いー」

「はーい!」

 桔梗と一緒にテントを出るとすぐにこいしさんに呼ばれた。急いで、鎌を背中に吊るして小走りでこいしさんに近づく。

「んー、キョウ。なんか最近、元気になったね」

 そんな僕の様子を見ていたこいしさんが笑顔で言う。

「はい、ちゃんと寝られるようになりましたから」

 まだ、咲さんと月さんのことは引き摺っている。でも、桔梗のおかげで寝られるようになった。本当に桔梗には感謝してもし切れない。

「それにしても……キョウ、髪伸びたね。女の子みたいだよ?」

「あー……そうなんですよね」

 幻想郷に来てすでに何か月も経っている。その間、僕は髪を切ることが出来ず、もう背中まで届くほど伸びていた。

「切ってあげたいけど、ハサミがないんだよね」

「いえいえ! 気にしないでください。長くても困りませんから」

 少し邪魔だなって思うだけだ。髪を洗う時はちょっと大変だけど。

「ん?」

 その時、目の前を白い球体が通り過ぎる。それは見覚えがあった。

(ま、まさか!?)

「き、桔梗! 来た!」

「え? 何がです?」

 僕が突然、大声を出したので桔梗もこいしさんも首を傾げて僕を見る。しかし、そんなことは気にしていられない。

「何って時空を飛び越える兆しだよ!」

「え、ええええ!? このタイミングでですか!?」

「時空を飛び越えるって……まさか、前に言ってたやつ!?」

 そう言えば、こいしさんには僕たちが別の時間軸から来たことを話していた。

「こいしさん、本当にお世話になりました! すみませんが僕たちはここでお別れです!」

 桔梗が僕に掴まったのを見て頭を下げる。本当にこいしさんには色々、お世話になった。

「……キョウ、最後に一つだけ」

「は、はい!」

 

 

 

 

「また会えるよね?」

 

 

 

 

「……もちろんです!」

 正直、会えないと思った。何故ならば、僕は時空を飛び越える。そして、それをコントロール出来ない。もし、こいしさんと会うためにはこいしさんが生きている時代。更に丁度、こいしさんがいる場所に飛ばなければならない。可能性は低いだろう。

 でも、僕は頷きたかった。もう会えないと決めつけるより、また会えると言った方が寂しくないから。

「じゃあ、こいしさん! また会いましょう!」

「うん! キョウ、またね! バイバイ!」

 僕は右手を振ってこいしさんに別れを告げる。そのまま、目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

「よっと」

 時空を飛び越え、何とか無事に着地できた。

「ここは……」

 すぐに周囲の様子を確かめる。森ではなく、草原だった。時間帯は丁度、お昼頃だ。太陽が真上にある。しかし、遠いところに森が見えるだけでそれ以外、何も判らなかった。

「うわぁ、何もない場所に出ちゃいましたね」

 僕の肩に乗ったまま、桔梗がそう呟いた。

「うん。どうしよっか?」

「そうですね……移動するにしてもまだ【翼】は修理中ですし」

「【バイク】で行こう。こんなに開けてたら妖怪も襲って来ないだろうし」

「わかりました!」

 僕の意見を聞いて桔梗は肩から降りて【バイク】に変形する。因みに桔梗【バイク】はサイズ変更が可能であり、大人から僕のような子供までちゃんと乗ることが出来るのだ。

 桔梗【バイク】に乗り込み、魔力を注ぐ。すると、【バイク】のエンジンがかかった。

「とりあえず、あの森を目指そっか」

「はーい!」

 桔梗が返事をすると【バイク】が動き出す。

 

 

 

 また2人の気ままな旅が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し寝て、やっと平熱になった俺はとりあえず、状況を把握するために1階に降りた。

「――ああ、わかった。椿、サンキュ。引き続き頼む」

 居間のドアを開けるとこちらに背を向けた柊が地図に何かを書き込みながら電話している。チラリとテーブルの上を見るともう2台、携帯が置いてあった。その内の1台が鳴り響く。すぐに電話に出る柊。

「もしもし、月菜(るな)か……ああ、了解」

 それだけ言って電話を切り、地図にまた何かを書き込んだ。

「ああやって、ずっとのぞのぞたちを探してるの」

「ッ!?」

 突然、背後から声をかけられて肩を震わせてしまう。振り返ると望たちと同じ制服を着た女の子が立っていた。どうやら、トイレに行っていたらしい。

「えっと……」

「あ、初めまして。私は星中 すみれ。【メア】だよ。りゅうたちの仲間」

「あー……初めまして。音無 響だ」

「へぇー。これがのぞのぞのお兄さんかー……本当に男?」

「男だ!」

 思わず叫ぶ。何だか、失礼な奴だ。

「何、遊んでんだよすみれ。早く戻って来い」

 その時、居間から柊が出て来てすみれに注意する。

「はーい」

 すみれは急いで居間に入って行き、テーブルの上で鳴っていた携帯を手に取って電話に出た。

「今、手足り次第じゃ埒が明かないから目星を付けて捜索中だ。3チームに分かれてる」

 柊は何も聞かずに今の状況を教えてくれた。種子からだいたい、聞いているのだろう。

「その様子じゃまだ能力は使えなさそうだな。まぁ、相手の狙いはお前なんだ。ここで大人しくしていてくれ」

 確かにまだ能力は使えない。きっと、『モノクロアイ』の『幻視』で俺の中に流れる力を視たのだ。目の色がチェス盤のようになっている。

「わかった」

「……やっと、気付いたか」

 俺が素直に頷いたのを見て彼は呆れた様子で笑った。

「う、うるせっ。こっちだって色々あるんだ。悪かったよ……それと、ありがと」

 何だか恥ずかしくてそっぽを向きながらお礼を言う。

「……音無兄、お前ツンデレ?」

「誰がツンデレだ!!」

「りゅう! 大変!」

 俺たちが言い争って(俺が一方的に叫んでいるだけだが)いると居間の方からすみれが飛び出して来た。

「どうした?」

「ここに敵が迫って来てるってのぞっちが!」

 どうやら、敵は能力が使えるようになるまで待ってくれないようだ。

 


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