東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第255話 王女の逆鱗

 こいしと雪おばあちゃんが再会した次の日。俺は紅魔館に来ていた。

「お兄様! 遊ぼッ!」

 目的地に向かっている途中でフランに出くわす。

「あー、すまん。今日は無理だ」

「えー!! 何で!?」

「レミリアに用事があるんだよ。また今度な」

「……何かあったの?」

 俺の表情から何かを感じ取ったようでフランが真剣な眼差しで問いかけて来る。

「まぁ……色々な」

「私に言えないようなこと?」

「ああ。今は無理だ。ゴメン」

「ううん! 気にしないで! でも、大丈夫なの? 新聞で読んだけど、石になっちゃったんでしょ?」

 今度は心配そうな顔をしてフラン。

「それに関しては大丈夫だ。あ、パチュリーにお礼言わないと」

「パチュリー?」

「魔導書を通して助けてくれたんだよ。あいつはいなかったら今頃、どうなってたことやら……」

 それにこいし、猫。魔理沙に霊夢。地底の皆。今回、俺はたくさんの人に助けて貰った。天界のお酒でも渡そう。

「……」

「ん? どうした?」

「私は?」

 拗ねた様子でフランが質問して来た。

「え?」

「どうして、私を使ってくれなかったの!?」

「いや……シンクロは無理だったし」

「スキマを開いて私を呼べば『ラバーズ』、使えたじゃん!」

「あれは、気軽に使っちゃ駄目なんだ。今、俺の魂は不安定だからどうなるかわかったもんじゃない」

 俺の答えを聞いて妹は更に頬を膨らませる。

「……今度」

「?」

「今度、お兄様が危険な目に遭ったら……私が助ける。だから、無理しないで?」

「……ああ、ありがと」

 フランの頭に手を乗せて俺は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら? 響じゃない。どうしたの?」

 目的地――レミリアの部屋に到着し、中に入ると不思議そうにレミリアが話しかけて来る。

「……ちょっと、聞きたいことがあってな」

「聞きたいこと? フランのスリーサイズなら教えてあげるけど?」

「すまん。今日は真面目な話だ」

「……で? 何の用かしら?」

 目を細めて再び、聞く。

「単刀直入に聞く……リョウって知って――」

 俺は言葉を切ってしまう。いや、遮られたとでも言うべきか。何故なら――。

 

 

 

「その名前をどこで聞いた?」

 

 

 

 ――レミリアが俺の喉に貫手を突き付けたからだ。

「……やっぱり、知ってるんだな?」

「言え。どこで聞いた?」

 紅い目が俺の目を睨む。後ずさりしそうになるがグッと我慢した。

「さぁ、どこだろうな?」

「殺されたいのか?」

 レミリアの爪が喉に喰い込み、一筋の血が流れる。

「そうはさせないよ」

 だが、いつの間にかレミリアの手は払われていた。

「フラン?」

「お兄様の様子がおかしかったから、こっそりついて来たの。それより、お姉様? お兄様に酷いことしないで」

「私だってこんなことしたくないわよ。でも、私にだって譲れない物がある」

 レミリアとフランが一歩も譲らず、お互いを睨んでいる。

「……はぁ。参った」

「「え?」」

 俺が両手を上げて降参したのを見て吸血姉妹は首を傾げた。

「説明してやるよ、レミリア。本人に聞いた」

「本人って……リョウに!?」

 さすがにレミリアも驚愕する。

「言っちゃえば、俺はリョウに命を狙われている。だから、教えてくれ。お前とリョウの関係を」

「……私のこともリョウに聞いたの?」

「いや、さとりって心が読める奴にコスプレした時にリョウの過去にお前が出て来たんだ」

「そう……残念だけど、話す気はないわ」

「お姉様!?」

 俺のお願いをレミリアは断った。

「もう、私とリョウは関係ないの。思い出したくもないわ」

「リョウの記憶でお前、残念そうにしてた……なぁ? 何かあったんだろ? 俺に出来ることがあったら――」

「もう、終わった事よ。帰りなさい」

「お姉様!!」

 フランの制止も聞かずにレミリアは部屋を出て行こうとする。

「待てよ」

 それを止めた。

「……何?」

「逃げるのか?」

「はぁ?」

「お前は逃げてばっかりだな。フランから、俺から、リョウから、過去から。逃げて、逃げて、逃げ続ける人生。楽しいのか? そんな人生」

「殺されたいのか?」

 レミリアの霊力が一気に膨れ上がる。しかし、俺は止まらない。

「殺せるならな。負け犬に負けるほど俺は弱くない」

「何ッ?」

「負け犬だろ? なぁ? フラン」

「うん、負け犬」

 フランは笑顔で頷いた。

「今のお姉様、かっこ悪いよ」

「……お前ら、殺されたいようだな」

「それだよ、それ。すぐに脅そうとするのがカッコ悪いんだって。もっと堂々としてなよ。ね! お兄様!」

 俺の腕に抱き着いてフランがレミリアを挑発する。

(いい感じだ、フラン)

『そうかな?』

 俺とフランは近くにいれば心の中で会話できる。それを利用して話し合い、レミリアを怒らせようとしたのだ。

「……ああ、わかった。いいだろう。教えてやる。でも、ただで教えるわけにはいかない。私に勝ったら教えてやる」

「戦うってのか?」

「そうだ。もちろん、お前たち二人でかかって来い。これは私たちの問題だ。他の奴らを巻き込むな」

「……フラン」

「わかってるよ。お兄様」

 俺たち3人はそれぞれ、スペルを構えて――。

 

 

「神槍『スピア・ザ・グングニル』!」

「禁忌『レーヴァテイン』!」

「神鎌『雷神白鎌創』!」

 

 

 ――殺し合いを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦い始めてどれぐらい経っただろう。もはや、時間の感覚なんてなかった。

「ぐっ……」

 俺は力の入らない四肢を懸命に動かして立ち上がろうとする。

「諦めろ。お前たちは私に勝てない」

 そんな俺をレミリアは見下ろしてそう忠告した。

「まだ……だ」

 正直、舐めていた。今の俺なら本気のレミリアに勝てると思っていたのだ。

 しかし、結果はご覧の通り、見事なまでにボコボコにされた。

(でも、諦めない……絶対に聞き出してやる)

 俺は負けられない。いや、負けてはいけないのだ。『生き残る』ためにはレミリアからリョウのことを聞かなくてはならない。だから、そのために俺はどんなことでもやる。

「……はぁ。全く、お前は本当に面白い奴だ」

 闇の力を使おうとするがその前にレミリアが肩の力を抜く。部屋の中を支配していた威圧感がなくなった。

「何?」

「響。もっと強くなりなさい。また戦いましょ? フランと一緒に、ね?」

 そう言い残してレミリアは出て行ってしまう。

「……これは、負けか」

 多分、レミリアにはわかっていたのだろう。今、俺が闇の力を使えばそのまま、引き込まれてしまうと。

 力が入らず、俺は背中から床に倒れた。

「お兄様……」

 右を見るとボロボロのフランが体を引き摺って俺の傍まで来ている

「フラン、ゴメンな?」

「お兄様……どうして、『ラバーズ』を使わなかったの? 私、必死に繋ごうとしたのに」

「さっきも言っただろ? 『ラバーズ』は使っちゃ駄目なんだ」

「……ごめんなさい」

 突然、妹は謝った。

「どうして、謝るの?」

「だって……お兄様、『ラバーズ』を断つことに集中してたから戦いの方は疎かになってた。だから、私のせいでお兄様が……」

「何言ってんだよ。お前、何度も俺の盾になってくれたじゃないか。お前のおかげであそこまで戦えたんだ。ありがとう」

 それに、『ラバーズ』が使えないのは俺のせいでもある。今、俺の魂は不安定だ。猫が増えたこともそうだが、やはり狂気の調子がおかしい。

(狂気……お前、大丈夫なのか?)

 戦闘中、何回も妖力が上手く使えなくなり、技が不発した。

 ――すみません、どうやら私の力でも戦闘出来るほど狂気の妖力を安定させることは出来ないようです。

「……くっ」

 レマの一言に奥歯を噛み締める。

『……正直、私は足手まといだ』

 そう、何の前触れもなく、狂気は言う。

『ッ!? 狂気! どこに行くの!?』

 吸血鬼が叫ぶ。

『猫がいれば妖力は使える。だから、私は自分の部屋に戻る』

(待て、狂気!!)

『響。今まで迷惑かけてすまない。でも、安心してくれ。私が部屋に戻れば妖力も安定するし、『ラバーズ』も使えるだろう。じゃあ、な』

 そう言って、狂気の声は聞こえなくなってしまった。

「お兄様?」

 俺の顔を見てフランが不思議そうに問いかけて来る。

「……今、狂気が部屋に閉じこもった」

「え?」

「あいつ、ずっと調子が悪かったんだ。だから、俺の迷惑にならないようにって……」

「……私、狂気の気持ちがわかるかも。狂気は本当にお兄様のことが好きなんだよ。でも、自分がいればお兄様の迷惑になっちゃう。それが許せないんだと思う」

「フラン……」

 目に涙を溜めている妹を見て俺はそう呟くことしか出来なかった。

「お兄様……私、強くなりたい。お兄様の隣にいても戦えるように。お兄様を守れるように。生きて行けるように……」

「……ああ、俺も強くなる」

 俺は右手を、フランは左手を動かして手を握り合う。

「一緒に強くなろう、フラン」

「うん!」

 今回の事件で色々なことが起きて、色々なことがわかって、色々な物を得て、色々な物を失った。

 リョウのこと。レミリアのこと。桔梗のこと。狂気のこと。気になることはたくさんあるけれど――。

 

 

 

 ――その全てが解決する、その時まで俺は絶対に“生き残る”。皆と一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――。

「報告書、お願い」

「かしこまりました」

 青年は自分の部屋で執事から報告書を受け取っていた。

「……行方不明になった?」

「はい、一日ほどですが……我々の監視を逃れたのかもしれません」

「監視を……」

 しかし、青年はそう思わなかった。

(客観的に見ても彼らの監視から逃れるのはかなりきつい……なら、どうして?)

「すまんが、もうちょっと調査頼む」

「かしこまりました」

 報告書を返された執事は一礼すると青年の部屋を出て行った。

「……響、お前は何に巻き込まれてんだ?」

 青年――影野 悟はため息を吐きながら虚空に問いかける。でも、返事はなかった。

 




これにて第7章完結です。
え?中途半端だって?
実は第7章は前編。
第8章が後編という構成になっています。
次章、リョウのと最終対決。






……20万字あるけどいいよね!

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