東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第248話 援護

「本能『イドの解放』!」

 リョウの刀が俺の体を捉える寸前、目の前で弾幕が展開された。

「っ!?」

 怯んで体を引いたリョウ。すかさず、スペルカードを掴む。

「霊知の太陽信仰 ~ Nuclear Fusion『霊烏路 空』!」

 右腕に装備された制御棒をそのまま、前に向ける。

「爆符『ギガフレア』!!」

 そして、制御棒から極太レーザーが放出された。

「影抜『シャドウスルー』!?」

 咄嗟にスペルを唱えたリョウの姿が一瞬にして消えて、レーザーを回避されてしまう。

「……こいし」

 それを見届けた俺は前にいたこいしに声をかけた。

「キョウ、大丈夫?」

 両手を突き出しながら振り返ったこいしが心配そうに質問して来る。

「あ、ああ……でも、何で?」

「そりゃ、助けに来たんだよ! もう、あの時を繰り返すのは嫌なの!」

 『あの時』と聞いて思わず、唇を噛んでしまう。

「そうだな。もう、あんな思いをするのは嫌だ」

 頷くと同時に制御棒を右に向けてスペルを宣言した。

「核熱『ニュークリアフュージョン』」

「ちっ……」

 弾幕をリョウが舌打ちしながら躱す。

「でも、こいし。あいつの能力は……」

「大丈夫! だって、私は――」

 その時、こいしの影からいくつも黒いツルが伸びた。リョウが能力を使ったのだ。

「こいし!」

「――無意識を操るんだよ?」

 そう言い残し、こいしの姿は消えてしまう。それとほぼ同時に黒いツルもなくなった。

「消えた?」

「存在を消したんだよ」

 いつの間にか、またこいしが現れている。

「存在を消した?」

「普段は存在を消してるのが普通なんだけど、キョウの傍だとある程度、コントロール出来るみたい。だから、相手が能力を使っても存在を消しちゃえば、影も消えるってわけ!」

 ウインクしながらこいし。

「……よし、ならやるか!」

「うん!」

 俺たちは頷き合い、リョウの方を見た。

「……まぁ、いい。二人に増えても変わらない」

 両手に黒い刀を持った彼は一気に距離を詰めて来る。

「旧地獄街道を行く『星熊 勇儀』! 四天王奥義『三歩必殺』!」

「抑制『スーパーエゴ』!」

 勇儀の姿になった俺とこいしの弾幕が混ざり合いながらリョウに迫った。

「影撃『影狂い』」

 リョウの影から黒いツルが伸び、俺たちの弾幕を蹴散らす。

「影斬『飛び影』」

 スペルを唱えながら両手の刀を振り下ろした。その刀から黒い斬撃が飛び出し、弾幕の隙間を縫って俺たちを襲う。

「まかせて! 深層『無意識の遺伝子』!」

 俺の前に出てこいしが弾幕で黒い斬撃を吹き飛ばした。

「力業『大江山嵐』!」

 もう一度、弾幕を放ち、リョウに攻撃する。しかし、それは簡単に躱されてしまった。

「キョウ! あれ、使って!」

 それを見たこいしが突然、叫んだ。

「あれ?」

「ほら、あれだよ! あれ!!」

「話してる余裕があるのか!」

 リョウが刀で攻撃して来たので、一度、俺たちは離れる。

(あれ……ああ!)

「待て、こいし! あれは!?」

「出来ないの!?」

 出来るか出来ないかで言えば、出来るだろう。しかし――。

「多分、無理だ!」

「どうして!?」

 リョウから伸びたツルを必死に躱しているこいしが絶叫する。

「自分自身をコントロール出来ないから唱えることすら出来ないと思う!」

 なんせ、俺も“無意識”になるのだから。

「大丈夫だよ! 『胎児の夢』!!」

 弾幕を放ってツルを消した彼女は断言した。

「どうして、そんなこと言えんだよ! 鬼符『怪力乱神』!」

 俺も弾幕を放ってリョウを牽制する。

 

 

 

「私が傍にいるからきっと、出来るよ!」

 

 

 

「……そうだな!」

 こいしの言葉に根拠などない。だが、俺は不思議と信じてもいいと思えた。

(この曲は確か『東方地霊殿』の中にあったよな……なら!!)

 流れは完全にこっちだ。このまま行けば――。

「何か企んでるようだが……させない」

 こいしに気を取られている間にリョウが距離を詰めて来た。

「くっ……」

 リョウの刀を体を捻って躱す。そのまま、バックして距離を取ろうとするが向こうもしつこく追って来る。

(このままじゃ……)

 冷や汗をかいていると運悪く曲が終わってしまい、次の曲が再生された。

「キョウ!」

 それを本能的に察知したようでこいしが俺の背中に飛び付く。

「ハルトマンの妖怪少女『古明地 こいし』!!」

 衣装がこいしと一緒になる。その瞬間、視界にノイズが走った。

(やっぱり、無意識に……)

「キョウ! 私はここにいるから!!」

 薄れゆく意識の中、こいしの声が耳に届く。

(そうだ……今は独りじゃない。こいしがいる)

「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 叫んで気合を入れた。すると、視界がクリアになって行き、リョウの姿を見つける。刀を振り降ろしている途中だった。

「死ねッ!!」

(スペル、間に合わないっ!)

 咄嗟にスペルを掴むが唱える前にリョウの刀が俺の体を捉えるのは明白だった。こいしも俺にしがみ付いていて攻撃できる状態じゃない。

 

 

「霊符『夢想封印』」

 

 

「ッ!?」

 突然、俺とリョウの間に8つの弾が割り込んで来た。そのせいで、リョウの刀は俺に届くこともなく、通り過ぎる。

「間に合ったわね」

 いつの間にか俺の前に霊夢がいた。

「霊夢!?」

「響! 早く、やりなさい! こっちはまかせて!」

 振り返ることなく、霊夢は俺に向かって叫んだ。

「……ああ! こいし、やるぞ!!」

「うん!!」

 背中に捕まっていたこいしが俺の正面に移動して、手を伸ばして来る。俺も手を伸ばして手を握った。それと同時に、俺とこいしの懐が光り輝く。

「これが……」

「そう、これが……俺たちの絆だ」

 俺とこいしは光っているスペルを取り出す。そこには『シンクロ』と書かれていた。

「夢符『二重結界』!」

 その声で霊夢の方を見ると自分の影から伸びて来るツルを結界で防いでいる。あまり、時間はないようだ。

「準備は良いか?」

「もちろん! いつでもいいよ!」

 使った後にこいしの体が落下するのを防ぐためにギュっとこいしを抱きしめる。

「きょ、キョウ?」

「大丈夫。俺を信じろ」

「……うん」

 安心したようで、彼女は目を閉じた。俺も深呼吸して目を開けて唱える。

 

 

 

「行くぞ!! こいし、俺はお前を受け入れる! だから、お前も俺を受け入れろ!! シンクロ『古明地 こいし』!!」

 

 

 

 赤と青のオーラが俺たちを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キョウ!!」

 木の根元でぐったりしているキョウを呼んでも返事がない。桔梗が一生懸命、体を揺すっているが効果はあまりないようだ。

「があああああああああ!!」

 その轟音を聞いてそちらを見ると妖怪がキョウの方へ走り始めていた。

「駄目っ!」

 すかさず、弾幕を放つも妖怪は止まらない。

「桔梗! そっちに妖怪が!!」

 私の声を聴いて桔梗が妖怪の存在に気付き、キョウの前で両手を広げる。しかし、桔梗の体が小さい。あれでは、守り切れない。

「えいっ!」

 その時、そんな声と共に妖怪の顔面に何かが当たった。さすがに顔面に攻撃を喰らった妖怪は動きを止める。

「こいしお姉ちゃん! 今の内にキョウ君を!」

「咲っ!?」

 泥団子をたくさん、持った咲が妖怪の傍にいて思わず、目を見開いてしまった。

「早く!」

 もう一度、泥団子を投げながら咲。

「……わかった! 咲、頑張って逃げて!」

 急いでキョウの傍に移動し、彼の様子を窺う。どうやら、そこまで大きな怪我はしていないらしい。

「桔梗、キョウを守るように盾になれる?」

「え? あ、はい!」

 頷いた桔梗はキョウの背中に飛び付き、その場で盾に変形する。その盾はかなり大きいのでキョウの体をすっぽり、収めていた。

「うん、これならしばらく大丈夫そうだね。いい? キョウを守り切るんだよ?」

「もちろんですよ! マスターをお守りするのが従者の役目です!」

 桔梗の心強い言葉に安心しつつ、咲の方を見る。

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丁度、咲の体が横に吹き飛んで行く瞬間だった。

 


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