東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第247話 変形強化

「二人とも! 乗ってください!」

 僕を呆然と見ていたこいしさんと咲さんに向かって叫ぶ。桔梗【バイク】でタックルして何とか、隙を作ったが妖怪を見るともう、立ち上がろうとしていた。

「乗るってどこに!?」

 さすがに幻想郷にはバイクはないようで、乗り方を知らないらしくこいしさんが質問して来る。

「僕の後ろです! 急いで!」

 すると、こいしさんは咲さんを抱き抱えるとバイクに跨った。そして、すぐに咲さんをこいしさんの前に座らせる。

「咲さん! 僕の腰にしがみ付いて! こいしさんは咲さんに!」

「う、うん!」「わかった!」

 やはり、未知の乗り物に乗るのが怖いのか、咲さんはギュッと僕にしがみ付く。

「桔梗! お願い!」

「了解です!」

 桔梗に合図を送ると、バイクは一気に加速する。

「「うわあああああ!!」」

 驚いたのか後ろから二人の悲鳴が聞こえた。

「喋らないで! 舌を噛みますよ!」

 右腕はまだ折れているので使えず、左手だけでハンドルを持ち、運転しながら注意する。

「があああああああ!!」

 その時、妖怪が立ち上がって僕たちの方へ近づく。そのまま、側面から3つの腕で攻撃して来た。

「桔梗!」

 そう言うと、バイクのライト付近からワイヤーが2本、飛び出す。そのワイヤーは近くの木に突き刺さった。

「しっかり、捕まってて!!」

 妖怪の腕が迫り来る中、ワイヤーを収納させる。しかし、ワイヤーは木にしっかり刺さっているのでバイクが引っ張られて更に加速。先ほどまで僕たちがいた場所に拳が通り過ぎた。

「ワイヤー、回収!」

 ワイヤーの先端は鉤爪のように4方向に開く仕掛けになっている。それのおかげでさっきは木に先端を引っ掛けてバイクそのものを引っ張ったのだ。

 今は先端を閉じたので、簡単に木から抜けた。

「このまま、この先の広場に向かいます。子供たちはどこにいますか!?」

「反対方向の川だよ! 咲が皆を集めたから!」

 こいしさんの言葉が本当かどうか確かめるために後ろにいる咲さんを見ると頷いた。

「それじゃ、心置きなく! 振動、枝に気を付けて! 姿勢を低くしてて!!」

 僕たちを守るようにバイクのハンドル付近からシールドが伸びてピザ屋のバイクのような形になる。そして、一気に森の中へ突っ込んだ。

「「うわああああああああああああ!!」」

 シールドに木の枝が叩き付けられる度にバイクが大きく揺れる。サイドミラーで後ろを見ると妖怪も僕たちを追いかけていた。

「右に旋回します! しっかり、捕まって!」

 咲さんが更に腕に力を込めて捕まる。その間に右のワイヤーを近くの木に撃ち、先端を開いて固定。軽く車体を左に傾けるとほんの少しだけ左に曲がった。その時、ワイヤーが別の木に引っ掛かり、糸が釘に当たって進路を大きく変えるように右に引っ張られる。すぐにワイヤーを回収。突然、進路を変えたので妖怪が急ブレーキをかけて慌ててこっちに向かって来た。

(もう少しだ……この先に)

「きょ、キョウ!! 前、前えええええええええ!!」

 咲さんは僕の背中に顔を押し付けているので見えなかったが、こいしさんは見てしまったのだろう。この先が崖になっていることを。

「お、落ちるぅぅぅぅぅ!」

「桔梗!!」

「はい!!」

 桔梗が大声で返事をした瞬間、僕が足を乗せている部分(フットレフト)付近から長い板が飛び出る。しかも、両足から。

「いっけええええええええええええええええ!!」

 ハンドルを力いっぱい、持ち上げた。すると、前輪が地面から離れる。その直後、道がなくなった。

 ――ジュボッ!

 重力に捕らわれる前に後ろからそんな音が聞こえる。

「……こいしさん、咲さん。もう、大丈夫ですよ」

 振り返りながら目をギュッと閉じている二人に声をかけた。

「「え?」」

 そんな間抜けな声を漏らしながらこいしさんと咲さんはゆっくりと目を開ける。

「……あれ? 飛んでる?」

 周りを見渡したこいしさんがそう呟いた。

「はい。そうです」

 そう、このバイクは陸を走るだけでなく、飛ぶことも出来るのだ。

 桔梗【拳】の時に小さなハッチから出るジェット噴射を応用してバイクに備わっている二つのマフラーからそれを噴射して飛んでいる。

 更に左右に飛び出ている翼は目に見えぬほど細かく振動しており、飛行の手助けをしていた。

「す、すごいです……」

 空を飛べない咲さんが目を丸くして眼下に広がる森を凝視している。

 その時、背後からものすごい音がした。そちらを見ると崖に気付かずに転落してしまったのか森の木をいくつも薙ぎ倒したまま倒れている妖怪の姿を発見する。

「これで――」

 ホッとした様子でこいしさんが言う。

「いえ、まだです! 来ますよ!」

 薬草を食べてから人の健康状態や怪我の具合、感じている不安などを感じ取れるようになっていた桔梗が忠告した。その証拠に、妖怪は勢いよく立ち上がり、僕たちに向かって走って来ている。

「こいしさん、咲さん! 広場に着いたらあの妖怪と真正面から戦いますので、心の準備を!」

「え? でも、このまま飛んで逃げられるんじゃないの!?」

 確かに咲さんの言う通り、このまま飛んで逃げれば戦わずに済むだろう。だが――。

「僕の……魔力がもう……」

 桔梗【バイク】は僕の魔力を燃やして動いている。普段も僕の魔力を使っているのだが、やっぱり桔梗【バイク】の方が燃費は悪い。

「キョウ、大丈夫?」

 こいしさんが不安そうに問いかけて来るも、返事をする余裕はなかった。

(もうちょっとだから……)

 車体もフラフラし始める。ジェット噴射も不安定だ。

「マスター! 見えましたよ!」

 やっと、目的地である広場が見えた。バランスを崩しながらも何とか着地する。すぐにこいしさんが咲さんを抱っこして降りた。

「桔梗!」

 僕もバイクから降りて背中の鎌に手を伸ばす。

「はい!」

 桔梗が人形の姿に戻り、すぐに僕の腰にしがみ付く。そして、また変形。僕の左右の腰に縦に長い長方形の箱が装備された。その長方形の面にいくつか穴が開いている。

「キョウ、それは?」

「説明は後です! 咲さんは隠れてて!」

「あ、はい!」

 こいしさんから離れた咲さんはそのまま、森の中に身を隠した。

「すみませんが、こいしさんは僕の援護……というよりも、僕の心を読んで合わせてください」

「……オッケー!」

 僕の心を読んだのか、こいしさんがニヤリと笑う。その時、妖怪が森から姿を現した。

「前方の木にワイヤー!」

「はい!」

 僕の腰にある左右の箱からワイヤーが飛び出す。ワイヤーは僕が指示した木に刺さってそのまま、僕の体を引き寄せた。

 それを見て妖怪が動くもその前にこいしさんが弾幕を放つ。

「っ……」

 妖怪は弾幕に気付くと体を捻って回避。だが、その間に僕は目的の木に着地することに成功する。

(こいしさん、ちょっとお願いします)

 チラリと今も弾幕を放って妖怪と戦っているこいしさんに目を向けた。向こうも気付いてくれて僅かに首を縦に振る。それを見て僕は木から木へワイヤーを使って飛びまわった。

「こっちだよ!!」

 こいしさんは妖怪の注意が僕に向かないように大声で叫びながら攻撃している。

「がああああああああ!!」

 その挑発に妖怪が乗ったらしく、こいしさんの方へ突っ込んだ。

「拳!」

 箱になっていた桔梗が僕の左手に移動して鋼の拳になった。

 ――ボシュッ!

 そして、手首のあたりからワイヤーを飛ばしてこちらに背を向けていた妖怪の右上腕に巻きつける。

 桔梗は今まで、素材一つに対して変形一つだった。例えば、桔梗【拳】になっている時に桔梗【翼】にはなれないし、拳の甲にシールドを付けるような他の素材を利用して新しい機能を生み出すことも出来なかった。だが、桔梗【バイク】を手に入れた時、とうとう変形している時に別の素材を使って新しい機能を付け加えることに成功したのだ。

「ジェット!」

 ワイヤーを引き戻しながら拳のハッチを開けて一気に加速。やっと、僕の存在に気付いた妖怪が振り返るとほぼ同時にその頬に鋼の拳を叩き込む。

「ッ!?」

 グラリと妖怪がバランスを崩す。倒れた方にこいしさんがいた。

「これでも喰らえ!」

 両手からたくさんの弾を飛ばして妖怪にぶつける。また、妖怪が苦痛の悲鳴を上げた。

「箱!」

 再び、腰に2つの箱を装備してワイヤーを飛ばす。今度は木ではなく、妖怪の首に向けて。

「っ~~~!」

 首に巻き付いたせいで息が出来ないのか、首元を両手で押さえて苦しむ妖怪。僕は地面に着地して、ワイヤーを戻す。すると、引っ張られたせいで妖怪はそのまま、地面に倒れてしまった。

「チャンス!」

 こいしさんがニヤリと笑って追撃しようと駆け出す。

「あ! 駄目です!!」

 あの妖怪の動きを止めたには止めたが、まだ上部の両腕が残っている。何の策もなく突っ込むのは危険だ。

「桔梗! 翼!」

「は、はい!!」

 右翼が折れた翼が背中に現れ、低空飛行でこいしさんを追い抜く。

「キョウ!?」

「離れて!」

 僕の忠告と妖怪が動き出すのはほぼ同時だった。桔梗が翼になったことにより、首に巻き付いていたワイヤーもなくなったのだ。

(まずっ……)

 慌てて桔梗【翼】を桔梗【盾】に変形させて、こいしさんを庇うように盾を構えた。それから数秒後、盾にものすごい衝撃が走る。

「んぐっ」

 振動で衝撃を軽減させるもさすがにあの巨大な妖怪の拳を4つ同時に受け止めるのは無理があったようで、僕の体はこいしさんを通り越して凄まじい勢いで後方に吹き飛ばされる。

「ガッ……」

 その後、背中から木に叩き付けられて肺の酸素をほぼ全て外に吐き出してしまった。

「マスター! マスター!」

 木からずり落ちる中、桔梗の声が聞こえるも返事が出来ない。

 ゆっくりと地面に倒れた僕は、気を失ってしまった。

 


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