東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第24話 強いられた再会

 翌日、スキホにメールが来た。紫からではなく依頼だ。依頼が来るのは喜ばしい事なんだが――。

「これは……」

 内容は弾幕ごっこの練習相手。どうやら、宴会の時のチルノとの戦いを見られていたようだ。

「場所は妖怪の山の頂上付近にある神社、か」

 今、幻想郷の上空。時間は午前9時。弾幕ごっこの練習相手がどれほど時間を食うかわからないので望には遅くなると言っておいた。集合時間は午前11時半なのだが、迷って遅れてはいけないので早めにやって来たのだ。

「スキホに幻想郷の地図……入れてもらおう」

 決心してから天狗の姿で空を飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、早苗行って来る!」

 午前11時。神奈子が台所にいる早苗に声をかけた。

「え? どこへですか?」

 台所から顔を覗かせて早苗が質問する。

「天狗と宴会があってね~!」

 それに諏訪子が答えた。

「じゃ、じゃあお昼ご飯は?」

「ごめんね~! いらないや」

「そうですか……どうしましょう? 食材が余ってしまいます」

 早苗がシュンとなって呟く。手にお玉を持っているのでお昼ご飯を作っている途中だったらしい。

「あ! なら、これから来る万屋さんにでも出せば?」

「万屋、ですか? え? これから?」

「ああ、早苗の弾幕ごっこの練習相手になって貰おうと思って」

「ええ!? そんな事、いつ決めたんですか!?」

「昨日の宴会の時だよ。そう言えば早苗、居なかったね」

「は、はい……人探しをしていました」

 その人探しが不発に終わったのを思い出し、俯いてしまう早苗。

「人探し?」

「はい、実は――」

 早苗が昨日の事を2人に話す。

「ああ、多分宴会の料理を作ったのもその万屋さんだと思うよ?」

「え? そうなんですか?」

「ああ、昨日の宴会は珍しく八雲紫が開いたんだ。きっと、万屋の宣伝でもさせるつもりだったんだろ?」

 神奈子が推測する。

「へ~! 紫さんに認められるほどの万屋さんですか~! すごいですね!」

「う~ん……まだ活動し始めたばかりだから何とも言えないけど、多分ね」

「会うのが楽しみになって来ました!」

 早苗が目をキラキラさせているのを見て神奈子と諏訪子は必死に吹き出すのを堪える。早苗はそれに気づく事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「うわ~お……3時間、迷ったぜ」

 結果的に遅刻した。現在、正午。お昼時だ。紫から貰ったスペルカード――永遠『リピートソング』がなければ何度も『速達』を宣言しなければいけなかったのでもっと時間がかかっていただろう。このスペルは文字通り、同じ曲をリピート出来るスペル。つまり、長時間同じコスプレのままでいられるのだ。だが、制限があり仕事用のスペルにしか使用できず、更に弾幕やスペルは使えなくなる。弾幕ごっこの時には使えないスペルだ。

 疲れた体に鞭を打って神社の境内に着陸。すぐにイヤホンを耳から抜いていつも通りの服装に戻った。

「すみませ~ん! 依頼を受けて来ました~!」

 大声で神社の中にいるであろう依頼主に向かって言う。よく神社を見てみるとどこかで見た事のある神社だった。

「は~い!」

 そう思っていると中からどこかで聞いた事のある声が聞こえた。

「うおっ!?」

 その刹那、ポケットに入れていたスキホが震える。紫からメールだ。移動中に地図についてメールを送っておいたのだ。

『八雲紫:わかったわ。後でデータ送るわね』

『音無響:さんきゅ』

 素早く返事を打ってスキホを閉じる。

「お待たせしまし……た」

 神社の方から声が聞こえたのでそちらを見てみるとこれまたどこかで見た事のある――。

「いやいや……待て」

 おかしい。こんな所にいるはずのない人だ。空を飛び過ぎて幻覚でも見ているのだろう。目をごしごしと擦ってもう一度、神社から出て来た人を見る。

「「……」」

 お互いがお互いの顔を見る。うん――早苗だ。

「「え、ええええええ!?」」

 早苗の方も驚いたらしく口をわなわなさせて目を見開いていた。

「お、お前……どうしてこんなところに?」

「そ、それはこちらのセリフです! どうして、響ちゃんが!?」

「いや……依頼で」

「え!? ま、まさか……あの万屋さんですか?」

「あ、ああ……」

 早苗の様子から見て依頼を出したのは違う人らしい。もし、早苗が出したのなら昨日、俺を見ているはずだ。

「「……」」

 数分間、沈黙が流れる。

「そ、そうだ! お昼、まだですよね?」

「え?」

「一緒に食べませんか?」

「……わかった」

 一先ず、お昼を食べる事にした。そうすればいくらかは落ち着くはずだと踏んだ結果だ。

 

 

 

 

 

 

 

「うん……落ち着けなんて無理だね」

「はい……もう、何が何やら……」

 早苗の手料理を食べ終えてお茶を啜るが全く味が分からなかった。

「まず、お前はどうして幻想郷に?」

「それは簡単です! 信仰の為です!」

「信仰?」

「はい! 外の世界ではもう神はほとんど信じられていませんので信仰を得るのはとても難しかったんです。その為、神社が……」

 少し視線を落とす早苗。外の世界でそれについて聞いた事があるのですぐに理解出来た。

「それでまだ神が信仰されている幻想郷に引っ越した、と」

「はい! おかげでたくさん信仰を得る事が出来ました! で? 響ちゃんは?」

「ああ、紫って知ってるか?」

「はい、紫さんですね」

「そいつの会社に入る事になって……で、万屋になった」

「……それだけですか?」

 困ったような表情で早苗が質問して来た。

「ああ、それだけだ」

「幻想郷に来た経緯とかないんですか? どうやって、紫さんと出会ったとか」

「いや~……口止めって奴?」

 話してしまえば外の世界から来ている事も話さなくてはいけなくなる。

「な、なるほど……あれ? 響ちゃんって弾幕ごっこ出来るんですか? 今回の依頼がそうですし」

「……まぁ、一応」

「じゃあ、やりましょう!」

 そう言いながら力強く立ち上がる早苗。

「はぁっ!?」

「せっかく来てくれたんです! やらなきゃ損ですよ!」

「損って何だよ!」

 必死にツッコミを入れるが早苗は無視し、俺の腕を掴んで神社の外へ出る。

(あ、あれ? 早苗ってこんな感じだっけ?)

 俺の中の早苗はドジで友達思いでもっと落ち着いていたはずだ。今は人の話すら聞いていない。

「さ、早苗?」

「はい? 何でしょう?」

 俺を引っ張りながら早苗が返事をする。

「ここで何かあった?」

 原因は幻想郷に来たからとしか思えなかった。

「いえ? 別に何もありませんでしたけど……」

 首を傾げながら答える早苗。

「いや、何かあったはずだ! 短期間でそんなに変わるのは普通におかしい!」

「響ちゃん……」

 俺の言葉を聞いた早苗は急に立ち止り、俺の方を向く。

「な、何だよ……」

「この幻想郷では常識に囚われてはいけません! 普通なんてないんです!」

 早苗は幻想郷色に染まってしまったようだ。

「ああ、あの頃の早苗が懐かしくなって来た……」

 急変した友人に眩暈を覚える。

「何言ってるんですか? ほら、構えてください!」

 気付けば早苗が俺から離れ、戦闘態勢に入っていた。

「……やるしかないみたいだな」

「スペルは6枚。3回被弾するもしくは墜落するか、全てのスペルがブレイクされた方の負けでいいですね?」

「ああ、もういいよ……なんでも」

「わかりました! では、早速!」

 笑顔でそう言うと早苗が空を飛ぶ。俺はPSPからイヤホンを伸ばし、耳に装着しながらそれを見ていた。

「あれ? 飛ばないんですか?」

 いつまで経っても飛ばない俺を見て質問して来る。

「いや、始まってから」

「? わかりました。じゃあ、始めっ!?」

 早苗はそう言うと大量の弾幕を放つ。ここからでも隙間はどこにもないのがわかった。回避不可能。だが、それらが届く前にPSPを操作し曲を再生した。すると、光り輝く1枚のお札が目の前に出現。それを乱暴に掴み取り、宣言する。

「少女が見た日本の現風景『東風谷 早苗』!」

 言い終わると同時に弾幕が地面を揺らした。

 

 

 

 

 

 

「きょ、響ちゃん?」

 私の弾幕が地面と衝突した拍子に砂埃が舞い、響ちゃんの様子が分からなかった。着弾する前に何かのスペルを唱えていた気がするがあまり自信はない。

「ど、どうしよう……」

 響ちゃんとの再会でテンションがおかしくなっていたのもある。でも、響ちゃんと弾幕ごっこが出来るのがただただ嬉しかったのだ。そのせいであんな鬼畜な弾幕を出してしまったのだが――。

「秘術『グレイソーマタージ』!」

「なっ!?」

 後ろから声が聞こえたと思ったら背中に弾が直撃。しかも、スペル名は私が使っているスペルだ。私は驚き、勢いよく振り返る。

「後、2発だな。俺のスペルはあと4枚」

 スペルを構えながら言うのは先ほどまで地面にいた響ちゃん。しかし、服装ががらりと変わっていた。

「ど、どうして……私と同じ服を?」

 そう、白い蛇の髪留め以外は私とまるっきり同じなのだ。蛇の髪留めは響ちゃんのかわいらしいポニーテールに巻き付いている。

「へ~……この服、お前だったのか。再会の衝撃が強すぎて気付かなかったぜ」

「え?」

「まぁ、いいや。早苗、本気で行くから本気で来い」

 響ちゃんはそう言いながら右手に持ったお祓い棒を私に向けて来る。その姿がとてもかっこいいと呑気に思った。

 


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