東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

248 / 543
第241話 少女の能力

「嘘……」

 お空の攻撃を受けてもピンピンしている男を見て私は思わず、呟いてしまった。

「全く、腕から核融合を発射するとか下手したら地球、ぶっ壊すんじゃないか?」

「そんな攻撃を受けても死なないお前もお前だけどな」

「そりゃ、死にたくないから」

「まぁ、いい。ここはまかせたぞ」

「あいよ」

 マズい。女の子が響さんたちを追うために移動しようとしている。何としてでも止めなくては。

「爆符『ペタフレア』!」

 先ほどよりも出力を上げてお空がレーザーを女の子に向かって撃つ。

「させないよっと」

 だが、また男が乱入してレーザーを受け止めた。

(何で!?)

 すぐに男の心を読んで理解する。

 あの男の能力は『関係を操る程度の能力』。関係を操るのならば、繋ぐことも出来るし、切ることも出来る。つまり、レーザーが触れた瞬間にお空とレーザーの関係を切ってレーザーを無効化しているのだ。

(でも、そんなこと出来るの?)

 そう思ったが、実際、出来ている。これでは、お空の攻撃は一切、通用しない。

「さとり様! どうなってるの!?」

「あの男、お空のレーザーを無効化、出来る!」

「ええ!?」

「へぇ、心を読んで俺の能力を知ったか。まぁ、知ったところでどうなることでもないけどな」

 ヘラヘラ笑っている男。それを一瞥して女の子は飛んで行ってしまった。

「待って!」

「おっと、この先には行かせない」

 私もその後を追おうとしたが、目の前に男が立ち塞がる。

「くっ……」

「ほら、二人で来いよ。そうしないと俺にはどんな攻撃も効かないぜ?」

「……お空! 早く、この男を倒してさっきの女の子を追う!」

「わかりました!」

「そう来なくっちゃな!」

 私とお空は同時にスペルを持ち、宣言した。

「核熱『ニュークリアフュージョン』!」「想起『ディスティニータロット』!」

 お空の制御棒からレーザーが、私の周りにたくさんのカードが出現する。

「面白い! かかってこい!」

 男はニヤリと笑うと一気に距離を詰めて来た。そして、レーザーと男がぶつかり、地霊殿の床を抉った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく、飛行を続けていると二人の陰が見える。一人は黒い帽子を被っていて、もう一人は猫耳だ。

「あ!? 来た!?」

 黒い帽子の方があたしに気付く。

「いた」

 そして、猫耳が押している猫車に響が乗っている。呪いが効いてちゃんと石になっていた。

「こいし様! パス!」

「え?! ええええ!?」

 あたしを見た猫耳が猫車を黒い帽子に渡す。

「お燐、どうしたの!?」

「あたいがあの子を足止めしておくから今の内に逃げてください!」

「でも!」

「早く!」

「……わかった!」

 黒い帽子が頷くと猫耳を置いて行ってしまった。

「さぁ、ここを通りたかったらあたいを倒してから行きなっ!」

「……はぁ。あまり、時間はかけたくないんだよ」

 ため息交じりにそう呟く。まぁ、ウォーミングアップにはいいだろう。

「贖罪『旧地獄の針山』!」

 猫耳がスペルを発動させる。それと同時にあたしもスペルを構えた。

「陰符『影踏みホール』」

 その瞬間、猫耳の弾幕が全て、消える。

「……は?」

「手ごたえがなさすぎる。もうちょっと耐えてよ。練習にもならない」

 猫耳に言いながら右手を横に振るう。すると、猫耳の弾幕が猫耳に向かって射出された。

「え!? 嘘!?」

 目を見開く猫耳だったが、すぐに別のスペルを出す。

「猫符『キャッツウォーク』!」

 今度は猫に変身して弾幕の間をすり抜けた。更に移動する度に弾を撃ってあたしに攻撃を仕掛ける。

「それぐらいやって貰わなきゃ、困るよ。影符『シャドウウィップ』」

 足元から影が伸びて猫耳の弾を全て、叩き落した。

「にゃん!?」

「次、行くよ」

 あたしはスペルを持って、一気に猫耳に接近する。

「呪精『ゾンビフェアリー』!」

 人型に戻った猫耳は変な妖精を呼び集めて、あたしに嗾けた。もうちょっとだけ楽しめそうだ。

 

 

 

 

 

 ――お久しぶりですね、響。

 

 おう、レマ。久しぶり。

 

 ――今、自分の身に何が起きてるのかわかりますか?

 

 多分な。きっと、前にかけられた呪いは2段構えだったんだろ?

 

 ――さすがですね。正解です。貴方に隙が出来るのを待っていたようです。

 

 全く。厄介な相手だな……。

 

 ――無意識状態になってしまったのが原因のようです。そのせいで、干渉系の能力無効が切れてしまい、それを突かれました。

 

 だから、吸血鬼たちと通信できなかったのか。

 

 ――はい。

 

 ……はぁ。さて、ここからどうするかな?

 

 ――前にも言ったように待っているしかありませんね。

 

 マジ?

 

 ――今、貴方の体は石になっています。少しでも壊れれば体が戻った時、とんでもないことになるでしょう。

 

 本当に変なのに絡まれたな。呪いってことはアロハシャツとあの女の子だろ?

 

 ――……そうです。

 

 どうした?

 

 ――いえ、何でもありません。ですが、霊力の膜で体を覆ったのはファインプレーでした。それがなかったら、ここにすら来られなかったでしょうから。

 

 でも、石化した体を元に戻すのってどうやるんだ?

 

 ――……さぁ?

 

 え?

 

 ――私にだってわからないことぐらいありますよ。

 

 いやいや、なら俺はずっとこのままか?

 

 ――私的にはお喋りできるのでいいです。

 

 よくねーよ!

 

 ――冗談ですよ。それより、石化が治った後のことを考えましょう。

 

 考えるって言われても……。アロハの方はいいけど、女の子の方は全く、知らないんだぞ?

 

 ――……一つだけ言えるのはその女の子はものすごく強いということです。

 

 それぐらいわかってる。

 

 ――なら、よかった。油断しないでください。

 

 まずは石化を治して貰わないとな。

 

 ――大丈夫ですよ。貴方にはたくさんの仲間がいますから。

 

 ……ああ、そうだな。

 

 

 

 

 

 

 こいしさんたちと旅を始めて早1か月。

 最初の頃は僕たちを見るとビクビクしていた子供たちも今では笑顔で話しかけてくれるほど仲良くなった。特に桔梗の人気がすごい。

「キョウ、これ運んで」

 こいしさんの前には大きな木が倒れている。こいしさんが手刀で折ったのだ。

「はい」

 すぐに桔梗【翼】で空を飛び、木を持つ。桔梗【翼】は重力を操って空を飛んでいるので木の重さも関係なくなるのだ。

「いつ見てもすごいね」

「そうですか?」

「だって、5歳児が空を飛んで大きな木を運んでるんだよ?」

 確かに、こんな5歳児はどこを探してもいないだろう。

「えっと、こいしさん、これどこに運びますか?」

「ああ、ゴメンゴメン。広場にでも置いておいて。皆で手分けして細かくするから」

「わかりました。桔梗、お願い」

「了解です!」

 ゆっくりと移動を始める。

「あ、キョウ君! お疲れ様」

 その途中で釣り道具を持った咲さんに会う。腰の籠にはたくさん、魚が入っていた。

「うわ、大量ですね!?」

「うん。ここら辺、魚がたくさんいたの」

「でも、一人ですか?」

 今日の朝に空から偵察して妖怪はいないと言ったが、さすがに一人で出歩くのは危ないと思う。

「近くにこいしお姉ちゃんもキョウ君もいたから安心かなって」

「安心って……すぐに駆け付けられないんですからもうちょっと、警戒してくださいよ」

「はーい」

 返事をする咲さんだったが、顔は笑っている。それを見て僕は思わず、ため息を吐いてしまった。

「あ、そうだ。乗って行きます?」

「え? いいの?」

「はい、この木に跨ってください」

 木を地面に置くと咲さんは素直に木に跨る。すぐに木を持って浮上した。

「おお! すごい!」

「ゆっくり行きますが、落ちないように気を付けてくださいね?」

「うん!」

 それから僕たちは話しながら広場に向かう。しかし――。

「よ、妖怪だあああああああ!」

「「っ!?」」

 もう少しで到着するというところでそんな悲鳴が聞こえた。

「咲さん! 僕に捕まって!」

「え!? あ、うん!」

 咲さんは僕の腕にしがみ付く。木から手を離して高度を上げた。

「しっかり、捕まっていてください!」

「わかった!」

 僕は咲さんを落とさないように急いで飛ぶ。

「なっ!?」

 広場に着くと大参事だった。手が4本生えた大きな妖怪が広場で暴れ回っているのだ。子供たちは逃げ惑っている。今は誰も殺されていないようだが、時間の問題だ。広場から死角になる場所に降りる。

「咲さんはここにいてください!」

「キョウ君!?」

「絶対、動かないでくださいね!」

 再度、釘を刺して広場へ移動した。妖怪の様子を窺うと子供を捕まえて今にも食べようとしている。

「やめろおおおおおおおおお!!」

 振動で加速し、背中の鎌で妖怪の背中を斬りつけた。妖怪が耳を塞ぎたくなるような声で絶叫する。

「大丈夫!?」

「う、うん」

「ここは危ないから逃げて!」

 指示すると子供は頷いて走り出した。

「マスター!」

 桔梗の声で振り返ると妖怪が僕に向かって突進して来ていた。

「【盾】!」

 即座に桔梗【盾】で防御するも3つの拳が同時に衝突し、吹き飛ばされてしまう。

「ぐっ……」

 何とか、空中で桔梗【翼】を装備し、態勢を立て直すもすぐに妖怪が連続で拳を振るって来た。振動を駆使して、ギリギリで躱す。

「マスター! 振動、そろそろ出来なくなります!」

「嘘!?」

 そうだ。振動を使い過ぎると桔梗はオーバーヒートを起こし、動けなくなってしまうのだ。

「しまっ――」

 桔梗の方へ気を取られてしまった。その隙に妖怪に接近され、胸ぐらを掴まれてしまう。

「……え?」

 まさか、掴まれるとは思わず、硬直してしまった。妖怪は大きく振りかぶり、思い切り、僕を投げる。

「ええええええええええええええええっっ!!?」

 凄まじい勢いで広場から離れて行く。

「き、桔梗! 止めてええええええ!!」

 更に回転しているのでもう、どっちが上か下かわからない。

「む、無理です!! 今、振動したらマスターの体が裂けちゃいますよ!」

「嘘おおおおおおおおお!?」

 そのまま、僕たちは回転が落ち着くまで飛ばされ続けてしまった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。