東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第239話 地霊殿

「ここ?」

「そう、ここ」

 勇儀とヤマメに案内されたのは大きなお屋敷だった。

「地霊殿って言って、この地底でも一番の嫌われ者が住んでる所なんだ」

「嫌われ者……」

 確か、地底に降りて来た奴らは地上で嫌われていた奴らだった。その中でも一番、嫌われているという。

(どれだけ、嫌な奴なんだろう……)

「まぁ、根は良い奴だからそこまで気を張る必要はないよ」

「なら、どうして?」

「能力が、ね……響は大丈夫だと思うけど」

「何で?」

「響は干渉系の能力が効かないって話だから」

 つまり、嫌われ者の能力は干渉系なのだろう。

「それじゃ、私たちはここで」

「え!?」

「私たちには能力が通用するからね。じゃあねー!」

「あ、ちょっ!?」

 そう言うと勇儀とヤマメは帰ってしまった。

「……仕方ないか」

 ここでうだうだしていても何も変わるわけではないので、俺は地霊殿に入った。

「うわ……」

 地霊殿の中はとても綺麗だった。地底には太陽の光はないのが、明るい光がステンドグラスを通して俺を照らしている。

「あ、おじゃまします。誰かいませんかー?」

 少し、大声で呼びかけた。しかし、無反応。

(まぁ、結構、広いみたいだし、出て来るまで時間がかかるのかも)

 そう思った俺は軽く地霊殿の中を見て回ろうと歩き始めた。

「ちょっと、いいですか?」

「え?」

 歩き始めてすぐ、誰かに呼び止められる。振り返ると小学高学年ほどの少女が立っていた。

「貴方は一体?」

「ああ、勝手に入ってすまん。ちょっと、聞きたいことがあって」

「いえ……そう言うことではなくて、どうして私の能力が効かないのかってことなのですが……」

「能力?」

 じゃあ、この人がこの地底で一番、嫌われている人なのだろうか。でも、想像と違って人もよさそうだ。

「はい、私は『心を読む程度の能力』を持っています」

「心って……じゃあ?」

 俺が今、思っている事も読まれているのだろうか?

「いえ、貴方の心は読めないんですよ。どうしてかはわかりませんが……」

「ああ、俺、干渉系の能力、効かないんだよ」

 ヤマメの言う通りになったようだ。

「そうなんですか? 珍しい人もいるんですね」

「やっぱり、読めるのが当たり前なのか?」

「はい。まぁ、そのせいであまり人と会えないんですよ。こうやって、相手の心を読む事もなく、お話しできるのは新鮮で楽しいです」

 そう言いながら少女はコロコロと笑った。

「あ、すみません。お名前を聞いてもいいですか?」

「俺は音無 響。地上で万屋をやってる」

「響さんですね。古明地 さとりと言います」

 さとりがスッと右手を差し出して来る。俺も右手を出してギュッと握った。

「それで、何か聞きたいことがあると言っていましたが?」

「えっと……ちょっと長くなるんだけど――」

 俺はそう前置きしてこれまでに起きたことを説明する。

「なるほど……確かにそれは変ですね」

「一言で言ったら、無意識の内にここまで来てたって感じなんだよ」

「無意識? もしかして、こいしと何か関係があるのですか?」

「……待て。こいし?」

「私も妹である古明地 こいしです。あの子の能力が『無意識を操る程度の能力』なんです」

 補足してくれるさとりだったが、俺は別のことを考えていた。

(俺が気を失う前……確か、俺が変身したのは――)

「さとり、こいしって黒い帽子に黄色いシャツ。緑色のスカートを着てないか?」

「え? どうして、それを?」

 驚いたようでさとりは目を丸くしている。

「俺の能力は説明しただろ? それで、俺が気を失う前にこいしに変身したんだ」

「じゃあ、本当に無意識状態でここに?」

「多分……」

「何の話?」

「響さんがこいしに変身してここに来たって話……ってこいし!?」

 さとりはビクッと俺の背中に飛び付いている少女を見て驚いた。

「うおっ!?」

 俺も驚いてしまう。いつの間に背中に飛び付いたのだろうか。

「あ、キョウ久しぶり!」

「え? あ、おう」

 背中のこいしが笑顔でそう挨拶するが、俺たちは初対面だ。そう言ってやろうと口を開くも俺の意志とは全く、別の言葉が出て来る。

(あれ? 何で、俺、頷いたんだ?)

 記憶にはないけど本能的にこいしとは前に会っているかのような言いぐさ。

「覚えてない?」

 俺の表情から読み取ったのだろう。こいしが不安そうに問いかける。

「……子供の頃の記憶がないんだ」

「そっか……なら、仕方ないね」

 それだけ言うと彼女は背中から降りてさとりの隣に立つ。

「改めて、古明地 こいしだよ。よろしく!」

 俺が覚えていないことなど、気にしていないようでニコニコしながら手を差し伸べて来た。

「音無 響だ。よろしく」

 同じように手を伸ばして握手しようとした刹那――体の中で何かが疼く。

「っ……」

 そのせいで視界がブレ、バタリと倒れてしまった。

「響さん!?」「キョウ!?」

 二人の声がどんどん、遠くなる。

(この感じ……どこかで)

 遠のく意識の中、俺は気付いてしまった。

 そう、俺はこれを知っている。前にもこれのせいで倒れてしまったからだ。

 

 

 

「の、ろい……」

 

 

 

 望が解呪したはずの呪いがまた、俺の体を蝕み始めたのだ。

(させるかよ……)

 最後の力を振り絞って俺は霊力で自分自身の体を薄く覆う。そして、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

「な、何が?」

 突然、響さんが倒れてしまう。呼吸はしているので死んではいないようだが、何が起きたのかわからない。

「お姉ちゃん!」

 こいしの声で我に返り、響さんを見る。

「え!?」

 すると、倒れた響さんの体がどんどん、“石化”し始めていることに気付く。

(何これ!?)

 響さんは気絶しているようで、抵抗出来ていない。このままでは、全身が石になってしまう。

「さとり様!」

 そこへ、お燐が飛んで来る。

「今度は何!? って、ええ!?」

 お燐の心を読んで地霊殿に侵入者が現れたことを知った。

「こっちに近づいて来ています! あれ? この石は何ですか? 人の形をしていますが?」

「どうしよう! キョウが石になっちゃったよ!」

 お燐に説明しようとするが、横からこいしに腕を取られ、舌を噛みそうになり慌てて口を閉じる。

「こいし、落ち着きなさい! まず、お燐はお空を連れて来て!」

「さとり様、呼んだ~?」

 ゆで卵を口に咥えたお空がやって来た。

「お空、侵入者が現れたの。戦う準備しておいて!」

「あ、了解です!」

 お空はそう言うと制御棒を取りに向かう。

「お燐はこいしと一緒に響さんを安全な場所へ!」

 響さんが石化したタイミングで侵入者など、偶然にしては出来過ぎている。侵入者は響さんを狙っている可能性が高い。

「え? これ、もしかして人間ですか!?」

「お燐、早く!」

 こいしが響さんを持ち上げてお燐を急かす。お燐は頷いて猫車に響さんを乗せて地霊殿の奥へ飛んで行った。

「さとり様、お待たせしました!」

 制御棒を右手に装備したお空が帰って来る。

「……はぁ。折角、石にしてやったのにとんだ邪魔が入ったな」

「「っ!?」」

 それとほぼ同時に上から少女の声が聞こえた。だが、その声には不思議と威圧感がある。

「まさか、こんな所まで来るとは思わないって。そう、かっかなさんな、主人よ」

 上を見ると私ほどの女の子とアロハシャツを来た男が私たちを見下ろしていた。

(っ……この人たちっ!?)

 心を読んで二人の正体を知って私は目を見開いてしまう。

 この人たちが響さんを石にした犯人だ。更に男の方は前に響さんと戦って敗れている。

 そして、女の子は――。

「そ、そんなはず……」

「ん? ああ、あたしの心を読んだのか。まぁ、いいよ。好きなだけ読みな」

「え? あの小っちゃいの心、読めるの?」

「ああ、そうだよ」

「へ~……じゃあ」

 ニヤリと笑った男は目を閉じて何かを考え始めた。私はそれを無意識の内に読む。

「っ!? な、なんてことを考えているんですか!?」

「おお、本当に読めるみたいだな。顔を紅くしちゃって。妖怪でも初心なんだな」

「おい、お前は黙ってろ。そこの覚。石になった奴をどこにやった?」

「そんなこと、貴方たちに教える意味はありません」

 今、響さんをこの2人に会わせてはいけない。多分、このままでは響さんは殺されてしまう。

「……ほう。なるほど、そうかわかった。じゃあ、死ねよ」

「っ! お空!」

「爆符『ギガフレア』!」

「やれ」

「あいよ」

 お空が制御棒から極太レーザーを撃つのと同じタイミングで男が女の子の前に飛び出た。

 


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