ですが、火曜日に投稿する小説の存在を忘れており、急いで執筆。
書き終わったのが11時59分。オワタ。
とりあえず、更新。間に合わなかったことを前書きで謝罪。
その後、ハーメルンで東方楽曲伝の予約投稿を忘れていることに気付く。←絶望
とりあえず、今日の正午にもう一本投稿します。すみませんでした!
「……嘘、だろ?」
もう何着目かわからないが、服を脱いだ俺の顔から血の気が引いて行くのがわかった。
『こ、これは……隠しようがないわね』
『ああ、もうほぼ全裸じゃの……』
『わーい! ビキニだー!』
そう、俺が手に持っているのはビキニ。つまり、水着だ。そして、段ボールの中には『後輩推薦服』と書かれた紙とパッドが転がっている。
「それにしても表面積、小さくないか?」
『ビキニってこんなに小さいのね……』
青いビキニを握りしめて俺と吸血鬼は感想を漏らす。
『過激じゃのぅ?』
『うわー! 私も付けたい!』
トールは首を傾げて、闇は何故か嬉しそうだった。
『多分、後輩たちは響の姿を見た人が少ないからこうなったのね……』
きっと、俺の姿は写真などで見たことはあるだろうが、生で見たことはないだろう。そのせいで俺に対して抱いている後輩たちのイメージは『少しだけ目付きの悪い女』だ。
「それでこれになったわけか……」
俺のファンの男女比率は若干だが、男が多いらしい。そして、そいつらに俺に来て欲しい服を聞いたらまぁ、こうなるだろう。男はエロいから。
「さてと……どうするっかなぁ」
悩んでいると突然、携帯が震える。確かめると悟からだった。
『内容は?』
「今、やってる出し物は吹奏楽でメドレーを演奏するからゆっくり着替えろ……だってさ」
『決心させる時間を与えてくれたのね……』
「……あー、一つ思い付いた」
不自然っちゃ不自然だけど、誤魔化せる方法がある。
「確認メールをするか」
『キョー? ビキニ、着るの?』
「……ああ、着てやろうじゃんか」
俺はギュッとビキニを握りしめて覚悟を決めた。
「……はぁ!?」
「どうしたの? 会長」
携帯電話に届いた響の返信を見た俺は思わず、大声を上げて驚いてしまう。それを見た幹事さんが声をかけて来た。
(あいつ、何を考えてんだ?)
メールには俺への頼みがいくつか書かれている。頼みは確かに叶えられるような物ばかりだが、しかし――。
(これは……うーん?)
正直、響の考えていることがわからなかった。あんなに嫌がっていたのにこんなことを頼むなど不自然だ。
「……でも、まぁ、仕方ないか。幹事さん」
「だから、私はもう幹事じゃないんだけど……何?」
「今から舞台を改造するための準備をする。男手を集めてくれ。力仕事になるから」
「舞台を改造?」
首を傾げる幹事さん。
「ああ、俺たちの女神からのお願いだ」
「え? 響様が?」
「そうだ。急いでくれ、時間がない」
「は、はい!」
幹事さんは人を集めるために携帯を取り出しながら走って行ってしまった。
「……俺もやるか」
出し物が終わるまで残り6分ほど。ギリギリ、間に合うか間に合わないか微妙だろう。俺は急いで携帯で電話をかけた。
『こ、これ、大丈夫なの?』
(わ、わからないけど……これしかないんだよ)
『そりゃそうだが……思い切ったのう』
『キョー! 可愛いよー!』
更衣室にある鏡で全身を確認し、ため息を吐いた。
「響様、そろそろ……」
そんなことをしているとお迎えが来てしまったようだ。
「な、なぁ?」
「はい、何でしょう?」
「変な格好だけど、笑うなよ?」
「? 響様がどんな格好でも笑う人はここにはいません」
「……なら」
俺は意を決して更衣室のカーテンを開けた。
「会長、これは?」
「これが響の頼み事」
舞台裏で男性メンバーがガヤガヤと準備を進めている。
「でも、これって……」
「ああ、完全に洋館だな」
そこにはまるで、“吸血鬼”でも出そうなほど不気味な洋館のセットがあった。大学内でお化け屋敷をやっていたグループから借りて来たのだ。
「何で、こんなセットを?」
「わからないけど、衣装に細工したいって。で、その衣装に合うセット……不気味な洋館を用意してくれって言われたんだよ」
「衣装に細工って……どんな服なの? 確か、順番的には後輩が決めた衣装だけど?」
「ああ、ビキニ」
「……ハァッ!?」
俺だって最初にアンケート結果を見た時は焦った。まさか、水着(ビキニ)が一番になるとは思わなかったからだ。
「え!? び、ビキニって!? あのビキニか!? そ、それを響様が!?」
「ああ」
「りょ、了承したんですか!?」
「細工するって言ったからには着るんだろ?」
正直言って俺も信じられない。あの時のメールで響が文句を言って来たならすぐにやめさせるつもりだったのに、まさか自ら進んで衣装を着るとは思わなかった。
「きょ、響様、と、とととと到着くくくくでででですすすすす!!!」
案内役の女子生徒がバグりながらこちらにやって来る。見るからに様子がおかしい。
「お、おい? どうしたんd――」
心配で声をかけたが、その後ろに見えた――悪魔に心を奪われてしまった。
「「「「………………」」」」
その場にいる全員がその姿に魅了されている。俺も幹事さんもセットを運んでいる男性メンバーも皆、動けない。
「悟、これで出てもいいか?」
案内役の子を追い抜いて俺の前に出て来た響が問いかけて来る。
「ぁ、え……あ、ああ」
「そうか。すまん、やっぱり恥ずかしいから視線を散らせるためにこんな感じになっちゃって」
なるほど。響はビキニに視線が集まるのが嫌で、大掛かりなセットと細工を使って視線を散らせる作戦のようだ。
「で、でも……その恰好は?」
「そこら辺にあった物を使って作ったんだよ」
「そこら辺にあった物でそれが出来るのか!?」
「ああ、頑張ったからな」
話していると観客の方が騒がしくなっている。どうやら、舞台の出し物が終わってしまったようだ。
「……セット! 急いで、時間がない! 幹事さん、これナレーションの台本! あそこの階段を登ればちょっとした放送スペースがあるからそこに移動して! 響、お前はそこで待機! あと、風邪ひくかもしれないからこれを羽織ってろ!」
着ていたパーカーを響に投げながら指示を飛ばす。
「「「「は、はいっ!」」」」
我に戻った全員がドタバタと行動を開始した。
(本当にお前にはいっつも狂わされる……)
目の前でパーカーを羽織ろうと四苦八苦している響を見ながら呆れる。
(まぁ、そういうところが面白いんだけどな)
だから、俺はいつまでもお前の味方で居続けようと改めて思った。
「……すぅ、はぁ」
悟から借りたパーカーを羽織っている俺は深呼吸する。そして、後ろにいた悟に頷く。向こうも頷いてくれた。
『本日は皆様、文化祭にお集まりくださって誠にありがとうございます。ここまでの出し物、楽しんでいただけましたでしょうか?』
スピーカーから幹事さんの声が聞こえる。ナレーションをやっているようだ。
『さて、次の出し物ですがしばらくお待ちください。本日、ファッションショーを開催してくださった響様の案でとある演出をすることになりました。先ほど、私も響様の姿を見ましたがそれはもう、言葉を失ってしまうほど美しい姿でした』
悟が即興で書いた台本を読む幹事さん。
「あー、あいつ。アドリブ入れてるな……」
「そうなのか?」
「まぁ、ナレーションの目的は準備中、お客さんを帰らせないための時間稼ぎだから好都合だけどな」
『では、そろそろ……とある洋館。そこには一人の美女が住んでいます。しかし、その美女は人間ではありません。そう、悪魔。その姿を見た人を魅了し虜にしてしまう悪魔です』
そこで悟が手を挙げて合図する。それに対して頷いて舞台に出た。でも、スポットライトは俺を照らさない。まだ、その時ではないからだ。
『その悪魔を見た人は最期。もう、帰ることが……いえ、帰ろうと思いもしません。その美女をずっと見続けたい。その美女に尽くしたいと思うからです』
お客さんの様子を見ると舞台に出て来た俺には気付いているが暗くてよく見えないようだ。因みに俺は半分でも吸血鬼なのでバッチリ見えている。
『今日は、そんな美女に頼み、その美貌を最大限に引き出せる衣装を着て頂きました。それでは、その姿にどうぞ、存分に魅了されてください!!』
ナレーションが終わった瞬間、両端から白い煙が発生した。どうやら、そういう演出も悟が考えてくれたようだ。
(あの短時間でよくここまで出来たなぁ……)
そんなことを思いながら俺は顔を下に向けてパーカーを掴む。スポットライトが俺を照らした。上はパーカーで、下は白い煙で俺の姿はまだ、お客様には露見していない。
(さぁ、行くぞ)
タイミングを見計らってパーカーを脱いで背後に投げる。そして、白い煙が吹き飛ばされた。
「誰だい? 私の生贄になりたい愚か者は?」
会場全体に響くほどの声量でセリフを言う。
「さぁ、私の姿を見て、魅了されなさい。感動しなさい。平伏しなさい。さぁ、お好きなように、お好きな順番で、血を吸ってあげるわ」
バサリ、と背中から音がする。もちろん、『俺が黒い翼を大きく広げた音』だ。
俺は堂々と黒い翼を外に出している。胸もパッドなのではなく、悲しい事だが自前だ。つまり、『青いビキニを来た半吸血鬼』という姿で舞台に立っている。
「ほら、優しく吸ってあげるわ。いらっしゃい」
歩きながら右手の平を上に向けながら前に差し出す。こちらに誘うように、引き込むように。
「……あら? 誰もいないのかしら? 残念ね。せっかく、優しくしてあげようとしたのに……じゃあ、強くして欲しいかしら?」
俺が台詞を紡ぐ度に会場から感嘆の声が漏れる。能力を使っているわけではないのでこの姿に息を呑んでいるようだ。
「さてと、少しここは眩しいわ。そろそろ、帰るわね。あ、もし、私から離れたくないって人がいたら私はいつまでも待っているわ。ここでね」
そこまで行って俺は舞台から降りた。
その後すぐに今までで一番大きな歓声が会場から聞こえる。どうやら、成功したようだ。
「……ふぅ」
『お疲れ様』
(ああ、本当に疲れた……)
ため息を吐いた後、更衣室にダッシュで向かった。もちろん、着替えるためである。