「じゃあ、いってきま~す!」
「いってらっしゃ~い! お仕事、頑張ってね~!」
俺の学校が夏休みに入ってから3日が経った頃、とうとう依頼状が届いた。その依頼の為にこれから幻想郷に向かう。
因みにリーマとの戦いで負った怪我は幻想郷の薬剤師のおかげできれいさっぱり消えている。おかげで望にもばれずに済んだ。
「……に、してもこの依頼は何だ?」
『博麗神社に集合』
「これだけって……」
送り主は不明。内容も不明。集合時間は4時。
「時間だけわかっても……」
呟きながら近くの公園に到着する。急いでトイレへ駆け込み、個室に入った。
「はぁ~……」
誰にも見られないとはいえ、コスプレするのは嫌だ。だが、仕事なのだから仕方ない。ホルスターを左腕に取り付けてイヤホンを引っ張る。それを両耳に装着しスペルを取りだす。
「移動『ネクロファンタジア』」
出来るだけ小声で唱え、変身する。もう一度、溜息を吐いて扇子で空間を撫でた。博麗神社の場所が分からないので適当に座標を合わせる。そして、嫌な音を立てながらスキマが開かれた。
(そうだ……霊夢に会ったらあれ、聞くか)
そう考えながらスキマに飛び込んだ。
「……まぁ、こうなるわな」
いきなり、上空に投げ出された。下を見れば大自然が広がっている。
(このまま飛んで行ってもかまわないんだけど……)
この前、紫から貰ったスペルを確認する。
(これが『速達』でこれは『探し物?』。この曲って鬼になるんじゃなかったっけ?)
不思議に思ったが気にしない事にした。
「速達『妖怪の山 ~ Mysterious Mountain』!」
紫の服から天狗の服に早変わり。
(一気に行くぜ!)
翼を大きく広げて博麗神社を探す為に適当な方向へ移動し始める。何だかんだ言って楽しんでいる自分に気付かない俺だった。
「はぁ……はぁ……」
1時間後、ようやく博麗神社を見つけた。途中で唐傘お化けが現れて『うらめしや~』と脅かして来た。驚かなかったら半泣きになり機嫌を取るのに時間がかかってしまったのが原因だ。いや、あれでも20分ほどだったから迷ったのが一番の原因か。
「ギリギリね」
「あ?」
博麗神社のお賽銭箱に背中を預けていたら紫がスキマから出て来た。
「も、もしかして……」
「ええ。私が依頼主よ。何よ? 露骨に嫌な顔しなくても……待って! スキマを使って帰ろうとしないで!」
「冗談はさておき……要件は?」
耳からイヤホンを引っこ抜きながら聞く。
「その前に聞くわ。貴方、料理出来る?」
「……は?」
「たくっ……」
ここは博麗神社の台所。鍋の中でぐつぐつと豆腐が揺れているのを黙って見つめている俺。
「すいませ~ん! 湯豆腐、追加お願いしま~す!」
「今、やってるよ」
その時、居間の方から橙がやって来た。そう、俺は今料理を作っている。2時間ほど。
「後、酢豚とから揚げ、お願い。一人で無理なら2回に分けても大丈夫だから」
「はい! わかりました!」
豆腐をお湯から引き揚げながら指示を出す。橙は笑顔で返事をし、酢豚を持って行った。
「……本当に何しているんだろ? 俺」
紫からの依頼は宴会の料理を作る事だった。どうやら、博麗神社ではしばしば宴会が開かれるそうでその席で俺の紹介をしたいそうだ。だが、いきなり顔を出さずに料理で好印象を狙う作戦らしい。
(料理って……)
ますます女に見られそうだ。
「橙! 湯豆腐、出来たぞ!」
「はい! ただいま!」
汗だくになりながらも黙々と料理を作り続ける。2時間も働いていたら当たり前だ。それに博麗神社の台所は竈だ。最初に藍から使い方を教えてもらったが難しい。それも手助けしていつもより疲れていた。
(紫はいつ、来るんだろうか?)
『呼ぶまで作り続けなさい』と命令されているので下手に動けない俺だった。
一方、紫は――。
「もう、飲めないわよ~……むにゃ」
寝ていた。
「今日はやけに潰れるのが早かったわね?」
「そうだな。何やらはりきっていたし……何かあんのか?」
霊夢の呟きに魔理沙が答えた。
「ほら! 霊夢さん、空いてますよ!」
「ああ、ありがと」
外の世界で響と戦ったリーマが霊夢のコップに日本酒を注ぐ。リーマは現在、高校生ぐらいの年齢だ。紫に『幻想郷に来ないか』と誘われ、やって来たのだ。そして、霊夢が幻想郷での最重要人物と聞き、媚を売っている。
「に、しても外の世界にもまだ妖怪なんているんだな」
「数は少ないけどいるみたいね。私は会った事ないけど」
「私にはタメなのか?」
「だって、紫さんにそう言われたから」
「よし! 耳元でマスパ、放つか」
魔理沙がニヤニヤしながらミニ八卦路を取り出す。標準はぐっすり眠っている紫。
「え!? それはさすがに……」
「やめときなさい。死にはしないけど神社が壊れる」
(ゆ、紫さんより神社!?)
リーマは心の中でツッコむが口には出せなかった。
「湯豆腐、お持たせしました!」
元気よく橙がお皿を持って来た。
「……」
「霊夢?」
魔理沙が酒が入ったコップを傾けながら聞く。
「今、気付いたんだけど……料理、誰作ってるの?」
「誰ってメイド長とか?」
「私がどうしたの?」
橙から湯豆腐を受け取っていた咲夜が首をこちらに向けて問いかけて来た。
「……違ったな」
「?」
「じゃあ、妖夢……はあそこで酔っぱらいながら踊ってるし。後は藍……もあそこで紫の世話してるし」
「あ! アリスとかじゃ? 人形操ってさ!」
「あそこ……」
魔理沙の閃きを聞いた霊夢はちょんちょんと指さした。
「うげっ!?」
アリスは静かに壁に寄りかかって寝ていた。問題は人形たちである。アリスはどうやら魔力で出来た糸を放出したまま寝てしまったようで指が動く度に人形が弾幕を放っているのだ。
「あれはまずいぜ!」
「上海と蓬莱が半分自立していてくれたおかげなのか2体で押さえている状態だけどいつか、こっちにも被害が及ぶわね」
「お任せください!」
慌てている魔理沙とお酒を飲みながらから揚げを食べている霊夢の横で急に立ち上がったリーマ。
「行きますよ!」
返事を待たずに神社の畳に両手を付けたリーマ。その瞬間に畳から多数のツルが飛び出した。ツルは暴走する人形たちをぐるぐる巻きにし墜落させた。
「ふん! 霊夢さん! やりましッいで!?」
「畳に穴開けんじゃないわよ! どうしてくれるの!」
リーマにお札を投擲し、おろおろする霊夢。
「アリスでもないか……」
地面でまだじたばたしている人形を部屋の隅にどけながら魔理沙が呟く。
「じゃあ、誰が……?」
霊夢はざっと会場を見渡したが料理が出来る人や妖怪は仲のいい奴としゃべりながらお酒を飲んでいる。
「竜田揚げ、お待たせしました~!」
((も、もしかして……ちぇ、橙!?))
考えれば考えるほど訳が分からなくなる霊夢と魔理沙だった。