東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第213話 自分勝手に皆、自分の我儘を突き通す

「わ、私……何で?」

「それだけ、フランが成長したって事だよ」

「せい、ちょう?」

「ああ、495年間も幽閉されてたんだ。人を愛することだってなかっただろ?」

 そりゃ、幽閉されていたのだから当たり前だ。

「う、うん……」

「きっと、戸惑ってるんだよ。愛する事にも愛される事にも……まぁ、レミリアはずっとお前のことを愛してたと思うけどな」

「え?」

「だって、【姉妹】だろ?」

「……うん」

 今ならわかる。お姉様は私を守るために地下に幽閉した、と。

「それにお前のことだって死なせやしない。これが俺の覚悟だから」

「覚悟……」

 やっと、わかった。お兄様が何を求めているのか。

 お兄様はきっと、『人』を求めているのだ。

 守りたい『人』。愛したい『人』。遊びたい『人』。

 その全てを守るためにお兄様は戦っているのだ。

「お兄様!」

「何?」

「私も頑張る! だから、お兄様も頑張って!!」

 そして、私にできることはそれを応援する事だけ。私はお兄様にとって【妹】であり、【守りたい人】なのだ。それを私が“壊す”わけにはいかない。

「……おう!」

 お兄様も力強く頷いてくれた。

「フラン?」

 その時、お姉様の声が聞こえた。どうやら、もう帰る時間らしい。

「じゃあ、お兄様! またね!」

「おう、またな」

 お兄様に挨拶してお姉様の元へ駆け寄った。

「あら、フラン。どこに行ってたの?」

「お兄様のところ」

「また? 本当に響が好きなのね」

「うん!」

(でも、お姉様もお兄様と同じくらい好きだよ!)

 言葉で言うにはまだ、勇気が足りないので心の中で言う。

「じゃあ、帰りましょうか」

「はーい!」

 最後にお兄様を見ると笑っていた。

『聞こえてたぞ』

「あ……」

 そうだった。私とお兄様は魂が繋がっている。更に『シンクロ』のスペルを通せばいつでも会話ができるのだ。

「うぅ……」

 恥ずかしさのあまり、私が唸ってしまう。

「どうしたの?」

 それを見たお姉様が首を傾げながら問いかけて来た。

「何でもないッ!」

 お姉様の顔を見たら爆発しそうなので一足先に飛翔して紅魔館を目指す。

「え? あ、ちょっと! フラン! どうしたの!?」

 お姉様が慌てて私を追って空を飛んだ。

「い、いや! 来ないで!」

「えええええ!? 何で!?」

 しばらく、私とお姉様は鬼ごっこした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……楽しそうだな」

 空を飛んでいる吸血鬼二人を見て一人、ごちた。

「そうだね」

 いつの間にか俺の隣に座っていた望が答えてくれる。

「……なぁ、望」

「何?」

「これからもよろしくな」

「……うん」

 望はわかっていた。多分、俺とフランが『ラバーズ』を発動している時に視たのだろう。

「まぁ、フランには大げさに言ったけどそこまで危険な物じゃないし」

「何言ってるの……お兄ちゃん、ものすごく辛そうだよ」

「……ああ」

 『ラバーズ』の力はチートだ。肉体強化はもちろん、触れた相手の傷を癒す治癒能力。更に負の力を完全に打ち消す能力。

「でも、『ラバーズ』を使うためには愛した相手も戦場に立たなくちゃいけない」

 そう、『ラバーズ』は愛し合った者同士が近くにいないと発動しない。

「しかも、愛した人のためなら相手は戦場に立つことだって拒否しない。だから、辛いんでしょ?」

「……お前には隠し事はできないな」

「だって、お兄ちゃんの妹ですから」

 胸を張って望が自慢した。それを見て思わず、苦笑してしまう。

「で? 今後、『ラバーズ』使う?」

「使うわけないだろ。あいつを危険な目に遭わせるわけにはいかない」

「こっちのセリフだよ。お兄ちゃん」

「え?」

 望の低い声に驚いて間抜けな声を漏らしてしまった。

「私――いや、私たちだってお兄ちゃんを危険な目に遭わせたくないの。だって、皆、お兄ちゃんに助けられたから。私たちだってお兄ちゃんを守りたいんだよ?」

「……」

「でも、お兄ちゃんはそれを拒む。それってかなり、卑怯だと思うけど?」

「……わかってるよ。それぐらい」

 今回の雅の件で思い知らされた。あいつは俺たちを巻き込まないためにガドラに一人で会いに行ったのだ。そう、俺たちを守るために自分の身を犠牲にした。

「雅ちゃんのやったこと、私は許せない。だって、相談もなしに行っちゃうんだもん。でも、気持ちはわかる。お兄ちゃんを守るためにやったんだから」

「……ああ」

「私だって同じ状況に立たされたら同じ行動を取ってたと思う。だって、お兄ちゃんを守るためなんだから」

「……………ああ」

「……お兄ちゃん。それでも、私たちを守る対象にする?」

 最後の問いかけが俺の心を力強く鷲掴みした。俺が今まで考えて来なかった『守られる側の考え』なのだから。

「……ちょっと、厳しいかもな」

 『守る側の気持ち』は今まで、十分すぎるほど抱いて来た。でも、今回、雅が取った行動で俺は初めて『守られる側の気持ち』を抱いたのだ。

 守る側の人が心配で、相談してくれなかったことが悲しくて、そんなに自分が頼りなかったのかと悔しかった。こんな気持ちを望たちにずっと、抱かせ続けていたのかと思うとゾッとする。

「じゃあ、これからどうするの?」

「……変わらないよ」

 確かに『守られる側』が辛いことはわかった。それでも、俺は皆を『守る』。だって、俺が『守られる側の気持ち』に怯えて、何もせずに皆が傷つけられるのを黙って見ている方が辛い。それこそ、【魂の残骸】が暴走してしまうほど負の感情を抱くだろう。

「俺は守る。どれだけ、お前たちに悲しい思いをさせても俺は何も変わらない」

「……いいんだね?」

「ああ、これは俺の“ワガママ”だから」

 守りたい人がいるのも、それを守るのも、守られる人たちのことを考えずに戦うのも全て、俺の“ワガママ”。これだけは譲れない。

「あーあ……お兄ちゃんは頑固だからね。私が何を言ってもその気持ちは変わらないよね……」

「すまん」

「大丈夫。それは知ってたし。それにこっちの考え方も“ワガママ”だから」

 そう、良かれとやったことはただの自己満足。自分の“ワガママ”を突き通すためなのだ。

「じゃあ、お互い様だな」

「うん、お互い様だね」

 俺たちはそれからしばらく、黙った後、ほぼ同時に笑い出した。

 俺は自分勝手に皆を守る。

 そして、皆は自分勝手に俺を守る。

 それは全て、自分のため。自分がそうしたいからそうするだけ。

 だから、俺は止めない。俺から助けを求めることはないけど、俺を守ろうと動く人たちを止めることはできない。

 だって、それはさすがにワガママが過ぎるから。

 だから、俺たちはお互いにお互いを守るために戦う。

 最終的に、それは自分のためになるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷での宴会から1日が経つ。私は一人でガドラと戦ったあの山に来ていた。通信は

切ってある。これから行く場所を響にも見られたくないのだ。

「はぁ……」

 しかし、私の気持ちは沈んでいた。もちろん、奏楽が簡単に響と憑依してしまった為である。

(確かに、奏楽なら憑依できると思ったけど……あんなに簡単にやっちゃうなんて)

 私とか式神になるまで1年。奏楽はたったの5分だ。もう、何が悲しくて仮式を1年も続けて来たのか誰かに問い詰めたいほどである。この1年は無意味だったのかと疑ってしまう。

「……違うか」

 無意味なのではない。その期間があったからこそ、私は式神になれて、憑依を身に付けた。それに響は奏楽を戦わせることを極力避けているようだから、彼女が憑依する事はほとんどないだろう。

(いや、私や霙も出来るだけ召喚しないようにしてるみたいだし……)

 だが、私は自分の意志で響の元に召喚出来る。多分、仮式期間が長かったから変な契約を結んでいるのだろう。そこら辺はよくわからないが、紫が言うには少しだけ私は特別らしい。

「……よし」

 なら、私は自分の意志で響を助けよう。いや、響と戦おう。『助けられた』と思うのは響しか決められないが、『一緒に戦う』って言うのは事実となる。そう、それが私の意志で、覚悟だ。どれだけ、響に拒否られても私は響と一緒に戦い続ける。

「到着っと」

 山頂に辿り着き、開けた広場に出た。そして、その中央付近にある物に私は近づく。

「ガドラ、私は強くなるよ」

 その中央にある黒い暮石にそっと手を置いて私は呟いた。こいつには散々、酷い事をされて来たが、こいつがいたから北海道からここまで逃げて来て響に会えた。まぁ、そこら辺は感謝している。

「……じゃあ、また来るね」

 そう言って、私は山を下り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十年後、この山に登ったとある研究者がこの墓石を発見し、調べたところ未発見の炭素だとわかり、その墓石に刻まれていた名前を取って『ガドラ炭素』と呼ばれるようになるのはまた、別の話。

 




これにて第6章、完結です。
明日から第7章が始まります。

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