「え? 何? 何する気?」
遥か上空へ飛び上がった俺とリーマ。下を見れば神社が豆粒のようだった。リーマは不安そうに聞いて来る。
「何って……こうすんだよ!」
そう言いながら、頭を真下に向けて急降下する。
「ぎゃああああああああっ!!」
例えるならジェットコースター。リーマは迫り来る地面に恐怖を感じたのか悲鳴を上げながら何とか俺の背中から離れようとする。それを俺は右手で押さえた。
「離して! 離してくださいいいいいい!!」
「嫌だよ!! 俺だって怖いんだよ!!」
口論しながらも地面はもう目の前まで迫っている。
(1……2……3!!)
タイミングを計って前に縦回転。顔を空の方へ背中を地面の方へ向ける。回転の際に右手はリーマから離れていた。
「がッ……」
背中にいたリーマが境内に叩き付けられ、先ほど出来たクレーター以上の大きさのクレーターが出来る。
「ぐっ……」
直接、地面にぶつかっていないが俺にも衝撃が襲う。背骨が嫌な音を立てる。お互いに動けなくなり、数秒間そのまま倒れていた。
「ど、どうだ……これで」
何とか立ち上がってリーマの様子を伺う。リーマは目を閉じていた。気絶でもしたのだろう。
「へ……」
そう思った刹那、リーマがニヤリと笑った。
「しま――」
急いで離れようとしたが時すでに遅し。地面からツルのような植物が飛び出し俺の手足を拘束した。
「残念でした~!」
リーマはケロッとした表情で立ち上がる。そのしたにはばねのように螺旋を描いたツルが生えていた。あれで衝撃を吸収したらしい。
「せ、成長か……」
鬼の力で引き千切ろうとしたが思うように力が出ない。
「その通り! 私は自分の体だけじゃなくて植物の成長も操れるのだ! あ、そのツルの棘には神経毒が含まれてて力がいつもより出ないようになってるから気を付けて!」
「くそ……」
また新たなツルが飛び出し、俺の首に巻きついた。
「のわッ!?」
そして、後ろに引っ張られ仰向けに倒れてしまう。
「……こんな状況でも盃を離さないんだね?」
「離れないんだよ」
「? まぁ、いいや。どうやって殺そうかな? ツルで串刺し?」
「もっと安らかに眠られるような死に方にしてくれないか?」
時間を稼ぐのだ。鬼の力では太刀打ち出来ないのでは次の曲にかけるしかない。
「え~! どうしよっかな~?」
調子に乗っているリーマ。ニヤニヤしながらこちらを見て来る。
「……さんきゅな」
俺はリーマに向かってお礼を言った。
「え? 死にたかったの?」
「断じて違う」
もう感覚でわかる。次の曲に移行しようとしている事が。
~今昔幻想郷 ~ Flower Land ~
服が輝き、下は赤いチェックのロングスカート。上は白いシャツにスカートと同じ柄のベストを着ている。更に右手に日傘を出現した。
「うわっ!? 吃驚した!」
(頼む!)
祈りながら体に力を入れる。
「もう遅いよ!」
リーマの足元から鋭い棘を持ったツルが生えて真っ直ぐ俺の腹に向かって来る。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
目を瞑って絶叫する。力を入れてもツルは千切れなかったからだ。
(……え?)
このような大ピンチの状況で頭の中に浮かんできたのはヒマワリだった。しかも、一輪ではなくヒマワリ畑だ。何故か懐かしさを感じる。
「え?」
不思議に思っているとリーマの声が聞こえた。あれから何も起きていない。ゆっくり、目を開ける。
「っ!?」
息を呑んだ。俺を拘束しているツルからも俺を襲おうとしているツルからもたくさんのヒマワリが生えているのだ。
「な、何……これ?」
驚愕しているリーマの足元からもヒマワリが生える。他の所からもヒマワリが次々に生えた。
「こ、これは……」
自分自身も驚く。
「あ、ツルが……」
ヒマワリに栄養が取られた事によってツルはいとも簡単に千切れた。
「や、やばっ!?」
俺が立ち上がったのを見たリーマは空を飛んで逃走。
「逃がすか!!」
俺も空を飛ぼうとした矢先、神社を潰した大木からこれまた、たくさんのヒマワリがリーマに向かって伸び始めた。
「げっ!?」
ヒマワリがリーマに追いつき、手足に絡みつく。リーマは大人の姿に成長し手で引き千切っているが量が多すぎた。
(チャンス!)
咄嗟に日傘の先をリーマに向ける。先端にエネルギーが充電され始めた。
「な、何だ?」
意味が分からないので止める事が出来ない。困惑している間にもエネルギーがどんどん膨れ上がる。
(も、もしかして……)
思い起こされるのは魔理沙の『ファイナルスパーク』や人里で妖怪を倒したあの技。
「もうどうにでもなれええええええええええ!!!」
腰を低くし、衝撃に備える。
「あ、あれは……やばい!?」
こちらに気付いたリーマは逃げる為にヒマワリを力いっぱい引き千切るがヒマワリも次々に絡みつく。
「いっけえええええええ!! 元祖『マスタースパーク』!!」
頭に浮かんだ単語をそのままスペル名にした。俺の声に合わせて日傘から極太レーザーが撃ち出される。レーザーは衝撃波を放出しながらリーマ目掛けで突進する。
「ちょ、ちょっと、ま――」
リーマが何か、言う前にレーザーが着弾した。
「いたた……」
「大丈夫か?」
戦いの後、俺とリーマは神社のお賽銭箱に腰掛けていた。
「本当に……あんなの躱せる訳ないじゃない」
「いや、だから撃ったんだけど」
大人リーマはぷんぷんと怒っている。レーザーを食らってかすり傷と少し服が破けただけで済んだのはすごいと思う。あの後、倒れたリーマの喉に日傘の先端を向けた結果、降参したのだ。
「で? これから私をどうするつもり?」
目を細めて聞いて来た。
「……さぁ?」
「さぁ、じゃないわよ!」
「仕方ないだろ? 俺はただお前を退治しろって言われただけなんだから」
「私から説明させてもらうわ」
「「うわっ!?」」
俺とリーマの間から紫が出て来た。
「や、八雲 紫!?」
「ごきげんよう。どう? 私の社員、強いでしょ?」
「あれは運がよかっただけだって……」
「彼女はそう言ってるけど?」
「彼女は謙虚なのよ」
「……あれ?」
紫のセリフに違和感を覚える。リーマは俺の事を女だと思っているから『彼女』と言っても仕方ない。だが、紫はどうだ。知っているのにも関わらず俺の事を『彼女』と言った。
「あ、少し待っててね」
リーマにそう言って紫が俺の腕を掴んで歩き始めた。
「お、おい!?」
「貴方に大事な話があるのよ」
紫がずんずんと前に進む。因みに境内は今、大量のヒマワリに埋め尽くされており綺麗だ。
「で? 話って?」
「はい、これ」
紫はスキマを展開させ、その中に手を突っ込んで何かを取り出した。
「これは?」
「万屋の仕事の時に使用可能なスペルよ。話の途中であの子が襲って来たからね。渡せなかったのよ」
「そうか……さんきゅ」
「後、これも」
先ほど貰ったスペルより何倍もの厚さがあるスペルの束を差し出して来た。
「こ、今度は何だ?」
「貴方がコスプレした人の名前が書いてあるスペルよ。貴方が何に変身するか相手が分からないと不公平じゃない?」
「俺も知らないんだが?」
「いいからコスプレした時に該当するスペルが貴方の目の前に出現するからそれを唱えればいいのよ」
「……わかった」
俺も自分が変身した人の名前を知りたかったのだ。丁度、良かった。
「いいか?」
「もう3つあるわ」
「まだあんのかよ……」
「1つ。貴方が外の世界から来ている事を幻想郷では言わない事。2つ。自分の能力名を言わない事。3つ。自分が男である事を言わない事。これだけよ」
「……」
1つ目はわかる。行き来している事がばれたら『外の世界に行ってみたい』みたいな依頼が来る可能性が高いからだ。
2つ目もわかる。自分自身でもよく分からない能力だ。言っても得する事なんてない。なら、言う必要などないのだ。
うん。問題は3つ目だ。
「な、何で男って言っちゃ駄目なんだよ!!」
「思い出してみなさい。弾幕を出していたのはどんな子だった?」
「ど、どんな子って……」
思い浮かぶ少女たちの顔。
(お、女だけ……だと……)
「そう言う事。まぁ、頑張って」
紫はそのままリーマの元へ戻って行った。
(う、嘘だろ……自分から言っちゃ駄目なんて……気付かれなかったらどうすんだよ)
一瞬、男でも女でも仕事に影響がないと気付くが首を振って否定する。俺がそれを認めてしまったら幻想郷で俺は女扱いされてしまう。
(待てよ?)
幻想郷で俺が男だと知っているのは紫、ミスティア。そして――。
「霊夢?」
霊夢との会話を思い出した。霊夢は途中から俺の事を『貴方』と言っていた。つまり、気付いている。
「でも……何で?」
紫とリーマが来るまでヒマワリ畑を眺めながら悩んだが何も思いつかなかった。