東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第194話 魔眼、開放

 望の目の色が紫色に変わった。つまり、今の望は能力を開放しているのだ。

 実は普段、望は能力を自分の意志で封じている。そうしないと穴を見つける度、能力が発動して望の体が壊れてしまうからだ。もちろん、最初からそんなことできるはずもなく、紫の力を借りて少しずつできるようになった。

 だが、それでも能力にはムラがある。能力を開放しても上手く発動しないこともあるのだ。そして、能力を開放している間は能力が発動した場合でも発動しなかった場合でも望の体は蝕まれていく。つまり、能力を開放するということは望の体を壊すようなものなのである。

(それでも……)

 望は能力を開放した。フランのために。

「……ありがとう」

 ならば、必ずフランを見つけなくてはいけない。いや、フランを助け出さなくてはいけない。フランのために。望のために。皆のために――俺のために。

「響、どうするの?」

「え?」

 考え事をしていると霊奈が問いかけて来た。

「フランは今頃、車に乗っているはず」

「どうしてそんなことが?」

「私の勘が言ってるの。フランはどこかに運ばれてるって」

 霊奈は博麗の巫女候補だった。博麗の巫女特有の勘も持っている。

(望の目と霊奈の勘……よし)

「二人とも、協力してくれ」

「「もちろん!!」」

 俺の頼みに即座に答える二人。これほど心強い味方はいないだろう。

「望、どうだ? 反応はあるか?」

「待って……」

 そう答えた望はぐるりとその場で回った。

「……駄目。反応なし」

「そっか。まぁ、そう簡単に発動しないよな」

「それに範囲が広すぎるんだと思う。望ちゃんの能力って視界に入ってる穴を見つけるんでしょ? フランがいる方向を見ていないならそもそも、能力そのものが発動しないと思う」

 霊奈の言う通りだ。フランのいる方向さえわかればグッと見つけやすくなるだろう。

「霊奈の勘はどうだ?」

「勘なんだから、そう簡単に発動しないよ……響の魔眼はどうなの?」

「俺の魔眼は探知系だけど遠いところまではわからないんだ」

 わかってせいぜい半径200メートルぐらいだ。もう、その範囲にはフランがいないことを確認済みである。もちろん、魔眼で。

「どうする?」

 不安そうに望が質問して来た。

(……待てよ?)

 そこで一つの可能性を思い付いた。しかし、ここでは使えない。

「二人とも、ここら辺に隠れられる場所を探してくれ」

「隠れられる?」

 霊奈が首を傾げた。

「ああ、霙に乗って上から探す」

「え!? でも、それじゃ上を見た人に見られるんじゃ!?」

 目を丸くする望。

「そこは俺の魔法で何とかする」

 パチュリーに魔法を習っておいて本当によかった。

「なら、私が人払いの結界でも貼ればいいんじゃない?」

 数枚のお札を取り出しながら霊奈が提案する。

「お前、そんな結界貼れるのか?」

「練習したの。外の世界で何か起きそうな気がして」

「なるほど……でも、ここじゃ駄目だ。遊園地の前にはすでに人がいる。人払いの意味がない」

「人気のない場所を探した方がいいかもね」

 そう言って望は再び、ぐるりと一回転した。

「あった」

「本当か?」

「うん。ここから歩いて十数分だよ」

「なら、走って数分だ! 行くぞ!」

「「了解!!」」

 望を先頭に俺たちは遊園地を後にした。

 

 

 

 

 

 

「ここだよ」

「工事現場?」

 望が案内したのは工事現場だった。しかし、今は人のいる気配がない。魔眼でも確認した。

「霊奈、いけそうか?」

「うん、数分頂戴」

「おう」

 霊奈は地面にお札を貼っている。工事現場に人はいないが、人が来ないとは限らない。念のために貼って貰おう。

 その間に俺は懐に手を伸ばしてスペルカードを取り出した。

「式神『霙』!」

 スペルを地面に叩き付けると狼モードの霙が召喚された。

「霙、さっき言った通りだ。頼んだぞ」

「バゥ!」

「頑張るって」

 望が通訳してくれる。

(いや、霙とは繋がってるからわかるって……)

「人払いの結界、貼ったよ!」

 そこで霊奈が叫んだ。

「よし、霙に乗れ!」

 俺の指示を聞いて望と霊奈が霙に乗った。俺もそれに続く。

(魔力、集中……)

「―――――――」

 パチュリーに習った姿消しの魔法の詠唱をしながら魔力を動かす。

「お、お兄ちゃんが見えなくなった!?」

 詠唱が終わると後ろから望の声が聞こえた。振り返っても望はおろか、霊奈も霙も見えない。パチュリーならもっと上手くできる(俺たち以外の人たちからは見えないが、魔法をかけられた人同士ならお互いに見えるなど)だろうが、俺にはこれが限界だった。

「上手くいったな。いいか? これからは声でしかコミュニケーションが取れなくなる。くれぐれも霙から落ちたりするなよ?」

 透明のまま、落ちてしまったら拾えないのだ。見えないのだから。

「さすがにそんなヘマしないよ」

 霊奈がそう言い返して来た。

「そう願ってるよ」

 そう言った後、霙の背中を叩く。

「バゥ!」

「うわっ!?」

 突然、飛翔したので霊奈が悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「望、駄目か?」

「うん。反応なし……」

「こっちも駄目みたい」

 数十分ほど経ったが、手掛かりは得られなかった。

(どうする?)

 このままじゃフランは――。

 悪い妄想を首を振って消し去る。

「お兄ちゃん、どうしよう!?」

「落ち着け……何か、あるはずだ」

 フランを見つける為には何をすればいい? 俺はどうすればいい? 考えろ。考えろ。

(あいつの痕跡を……霊力の残滓を見つけられれば)

 だが、望の能力でも霊奈の勘でもそれは無理だ。

二人の能力はどのタイミングで、【どの穴を見つけられるのか】、『どんな勘を得られるか』、わからない。いや、コントロールできないのだ。

(でも――)

 俺ならできる。そうじゃない。“俺がやらなくちゃいけない”。

「……」

「響?」

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 黙りこくった俺を心配したのか二人が声をかけて来た。

(集中……魔力を、集めるんだ)

「ぐっ……」

 不意に右目に激痛が走る。

「響!? 何しようとしてるの!?」

 魔力の流れを感じ取ったのか霊奈が叫ぶ。

「だ、いじょうぶ……絶対に見つけ、るから」

 右目に魔力を集中。時間が経つほど痛みが酷くなる。

「霊奈さん、お兄ちゃんは?!」

「魔力で何かしようとしてるみたい!」

 後ろで二人が話し合っているが俺は無視した。

(もっと、もっと……集めろ)

 イメージするのはトンネル。魔力でできたドリルで岩を削り、突き進む。

「あ、ぐ……」

 声が抑えられない。それでも、俺はやめなかった。

(フラン……フラン!!)

 思い浮かぶのはあいつの無邪気な笑顔。泣き顔。辛そうな顔。不貞腐れた顔。嬉しそうな顔。全て、俺の中にある思い出。それを絶対に失くすわけにはいかない。

「うおおおおおおおおおっ!!」

 無意識に雄叫びを上げてしまう。

 

 

 

 全ての魔力が俺の右目に集まり、突き破った。

 

 

 

(頼むぞ、この力があいつを救う手助けに!)

 

 

 

 

「と、透明化が解けた!?」

 望の声で下を見ると霙の背中が見える。魔力が乱れて魔法が解けてしまったらしい。

「―――」

 すかさず、魔法をかけ直した。先ほどよりも早く。

「何がどうなって……」

「望」

「え?」

 声をかけられるとは思っていなかったようで望が変な声を漏らした。

「俺たちの家とは反対方向。山がある方だ」

「何が?」

「遊園地からフランの力がそっちに向かってる。霊力の残滓を追いかければ追い付ける」

「れ、霊力の残滓って……私ですら感じ取られないほど微かな霊力を察知した!?」

 霊奈が驚愕する。

「お兄ちゃん……何をしたの?」

「説明は後だ。霙、頼む!」

「ガㇽッ!」

 霙は俺が言った方向に向かった。

 

 

 

 

 

 

「……くそ」

 霊力の残滓を追いかけて来たのは町はずれの森だった。この辺りは薄暗く、霊脈でもあるのか他の霊力の残滓と混ざり合って、追跡ができなくなってしまった。

「一旦、降りるぞ」

 俺の指示通り、霙が森の中に降り立った。霙から降りて透明化の魔法を解く。

「お、お兄ちゃん!? 目が……」

 すぐに望が俺の顔を見て気付いた。

「響、両目で魔眼を発動できるようになったんだね」

「まぁ、な」

 霊奈の言う通り、俺の両目は青色に光っているだろう。

 今まで、魔力不足で左目でしか魔眼を開眼できなかった。実は3か月前には魔力も増えて来たのでいつでも両目で魔眼を発動することができた。だが、『狂眼』を発動するために右目には妖力の道ができていたのだ。そのせいで魔力を通そうとすると右目に激痛が走るようになってしまった。

 なので、今日まで両目で魔眼を発動出来なかったが、フランを見つけるためには必要だった。だからこそ、俺は右目に魔力を通した。

「大丈夫?」

 俺の目を見ながら望が問いかけて来る。

「ああ、大丈夫」

 そう答えたが、実際、右目は霞んでいた。先ほどまで気力で魔眼を発動して来たが、さすがに無茶をしすぎたようだ。

「望、後は頼んだ」

 魔眼を解除しながらお願いする。

「まかせて!」

 元気よく頷いた望はジッと森を観察。

「見つけた。この先に大きなお屋敷があるみたい。そのお屋敷の中にフランがいるよ」

「さすがだな」

 素直に感想を漏らす。体に負担がかかるとはいえ、望の能力は強力だ。

「えへへ」

「そのお屋敷の特徴とかわかる?」

 霊奈が質問し、望はもう一度、お屋敷があるであろう方向を見つめた。

「うーん……なんか、古いね。もしかしたら、廃墟になったのかも。そこをアジトにしてるみたいだね」

「廃墟か……暴れても誰にも見られなさそうだな」

「そうだね」

 そこまで話し合い俺たち3人+1匹はそのお屋敷を目指して歩き始めた。

 


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