東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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今日3回目の更新です。
1週間分ほど予約投稿しておきますw


第193話 響、遊園地に行く

「……は?」

 ユリちゃんが来てから“2日後”。

「だから、明日、遊園地に行こうぜ!」

 大学の講義中、突然、悟がそう提案して来たので呆けてしまった。

「な、何で?」

「そりゃ、チケットがあるからさ」

「いや……でも」

「ちゃんと、望ちゃんたちの分もあるって! ほら、皆で行こうぜ!」

 俺の肩を揺さぶって悟が駄々をこねる。珍しい。

「あー、皆の予定を聞いて何もなかったらな」

「よっしゃ! さすが、幼なじみだぜ! 怜奈も誘うから!」

「おう」

 俺は呆れながら頷き、黒板の字をノートに刻み始めた。

 

 

 

 

 

 

「見事なまでに皆、予定がなかったんだな……」

「まぁ、高校1年って受験もないし」

 俺が住んでいる街の中でも一番、大きな遊園地の入り口で俺と望がそんな会話をしていた。後ろにはテンションが上がり過ぎておかしくなっている奏楽とフランを宥めている雅がいる。

 因みに霙は犬なので、お留守番だ。

「あ、響!」

 その時、霊奈が俺に気付いてそう呼んだ。

「おう、おはよう」

「おはよう。待ったかな?」

「いや、悟も来てないし」

 あいつがチケットを持っているので入れないのだ。

「言いだしっぺが最後って……まぁ、悟君らしいけど」

 呆れた様子で霊奈。しかし、フランの姿を見つけると目を見開いた。

「フラン、大丈夫なの?」

「え? 何が?」

 翼は消しているし、服も現代の物。見た目は金髪のロリッ娘だ。

「いや、太陽とか」

「あー、大丈夫だと思う。日傘も持って来てるし」

 手に持っていた日傘を見せながら言った。今は曇っているので日傘なしでも大丈夫なのだ。

「それにフランには必ず、誰か一緒にいるようにするつもりだし」

「それなら……大丈夫かな」

 そう言いながらも霊奈は少しだけ不安そうだった。

「ゴメン! 待たせた!」

 霊奈が一通り、皆に挨拶を済ませた直後、悟が息を切らせて走って来る。

「遅いぞ」

「すまんって!」

 両手を合わせて悟が謝った。

「悟君、おはよう」

「あ、怜奈。おはよう」

 霊奈と悟が挨拶を交わした後、望が前に出る。

「悟さん、おはようございます。どうしたんですか?」

「師匠、おはよう。チケットが1枚、足りないことに気付いて発注してたんだよ」

「あ、そうか。フランの分か」

「そうそう。チケットを貰ったのフランちゃんが来る前だったから忘れててさ」

「もう! 酷いよ、悟!」

 雅と手を繋ぎながらフランが怒る。もちろん、奏楽も雅と手を繋いでいた。完全に雅お母さんである。

「悪い悪い」

 苦笑しながら悟がフランに謝った。

「まぁ、いいや。ほら、早く行くぞ。遊ぶ時間がなくなる」

 俺は皆を促して遊園地の入り口に向かった。他の皆も俺に付いて来る。そう言う俺も少しだけテンションが高かったのかもしれない。

「……」

 だからこそ、俺たちの後を追っている奴らに気付けなかった。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 あれから6時間――時刻は午後3時(入場したのは午前9時だった)。俺はベンチでぐったりしていた。

「大丈夫?」

 その時、雅が自動販売機で買ったミネラルウォーターを差し出して来る。

「サンキュ……」

 力なく受け取り、一気に飲み干す。

「皆、元気だね」

「ああ、特に奏楽とフランがやばい」

 まさか、ジェットコースターに20回も乗るハメになるとは思わなかった。

 因みに奏楽もフランも身長は120cmを超えているので乗ることができた。フランはともかく、奏楽は小学1年生だが、体は小学4年生ぐらいなのだ。ユリちゃんよりも背が高かったのも覚えている。

 奏楽とフランは望にまかせて、雅は俺を介抱してくれていた。

「よく、付き合ったね……」

「フランが言ったんだよ……『一緒に乗ってくれなきゃ、壊すよ』って」

 さすがに遊園地を壊されたら弁償しようにも今まで稼いで来たお金でも足りないので、従うしかなかった。まぁ、フランも本気で壊すとは思わないが。

「あー、まだクラクラする」

 空になったペットボトルを近くのゴミ箱に捨て、俺は深呼吸した。

「……ねぇ? 響」

「ん? 何だ?」

 気持ち悪くてあまり頭を動かしたくなかったので空を見上げながら返事をする。

「私って……必要だった?」

「は?」

 しかし、雅が意味のわからないことを言ったので雅の方を見てしまった。

「いや、仮式になってそろそろ、1年でしょ? だから、どうなのかなって」

「……まぁ、楽しかったよ。お前と話してる時とか」

 まるで、親友と話している時と同じような気分だった。

「……そう」

 雅の顔を見ようとするが、俯いていたので表情まではわからない。

「なぁ? 急にどうしたんだよ?」

「……ゴメン」

「え?」

「私、今日で仮式、やめる」

「……は?」

 俺が呆けていると雅が立ち上がって1枚のスペルを取り出した。もちろん、俺との繋がりを意味するスペルだ。

「お、お前……何言って――」

 ――ビリッ!

 勢いよく、雅がそのスペルを破る。その刹那、雅との繋がりが一気に弱くなった。

 スペルを破ろうと完全に関係が消えるわけではない。だが、俺は雅を召喚することはできないし、雅と通信も不可能になってしまった。

「何やってんだよ!」

 俺は立ち上がって雅に詰め寄る。

「……ゴメン。でも、これしか方法はなかったの」

「だから、一体、何があったんだって!?」

 何か理由がない限り、雅はこんなことをしない。それだけはわかっていた。

「……ゴメン」

 しかし、雅は俯いて口を閉ざしてしまう。これでは何もわからない。

「頼むから理由を――」

 その時、ポケットに仕舞ってあった携帯が震えた。

「こんな時に!」

 慌てて、携帯を取り出す。どうやら、電話のようだ。相手は望。

「もしもし! ゴメン、今、立て込んでて――」

 すぐに切るために言葉を紡ぐ。

『大変! フランが誘拐されたの!!』

「なっ――」

 望の一言は俺を絶句させるには十分だった。

「本当にゴメン!!」

 そのすぐ後に雅が走り出してしまう。

「あ! 雅!!」

『お兄ちゃん! どうしよう!?』

 電話の向こうで望が涙声で問いかけて来た。

「くそっ……」

 雅の謎の行動。フランの誘拐。

 俺は今、人生で一番、混乱していると思う。

(どうすればいい?)

 雅はすでに俺の視界から消えている。今から追いかけても間に合わない。

(仕方ないか……)

 優先順位は今、危険に晒されているフランだ。

「悟に代わってくれ!」

『う、うん……』

 指示するとすぐにごそごそと聞こえた。

『もしもし! 響! 聞いたか!?』

「ああ! フランが誘拐されたんだな?」

『そうだ! 突然、後ろから二人組の黒い奴らがフランちゃんを!』

「落ち着け! けいさ……いや、一旦、集まろう。遊園地の入り口に集合だ!」

 警察に通報しようかと思ったが、フランは幻想郷の住人。戸籍などあるわけもなく、色々と調べられてしまったら、お終いだ。

『わかった!』

 そう言って、電話が切れた。

(何がどうなってやがる……)

 混乱しながらも俺は集合場所に向かって駆け出した。

 しかし、これだけは言える。雅もフランも何かに巻き込まれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「響!」

 入り口に着くとすぐに悟たちのところに近づく。

「すまん、遅れた」

「そんなことより、どうする?」

 そこで皆の様子を窺う。

 悟は冷静を保っているように見えるが、冷や汗も掻いているし、相当、焦っている。

 望と奏楽は目を紅くしている。どうやら、泣いていたようだ。

 霊奈だけは俺の方を見て指示を待っている。

「あれ? 雅ちゃんは?」

 その時、望が雅の姿がないことに気付いた。

「……色々、あって今は別行動だ」

「フランのことを雅ちゃんは?」

 続けて、霊奈が問いかけて来る。

「いや、知らない。伝える前に別れちゃったから」

「おにーちゃん……フラン、大丈夫?」

 まだ、泣いていた奏楽が俺のズボンの裾を引っ張りながら質問した。

「ああ、大丈夫だ。もし、危険な目に遭ってても俺が必ず、助け出してやるから」

「……うん」

 俺の言葉を聞いて安心したのか、奏楽は少しだけ微笑んでくれた。

(まずは……フランを探さないと)

「悟。すまんが、奏楽を家に連れてってくれないか?」

「え?」

「もし、フランを誘拐した奴らがいたとしたら、多分、狙われるのは奏楽だ」

「で、でも……」

 きっと、悟は俺たちと一緒にフランを探したいのだろう。

「頼む」

 だが、フランを誘拐した奴らは異能持ちの可能性が高い。もちろん、フランを誘拐した理由は『フランは吸血鬼だから』。これしか考えられない。

「……わかった」

「サンキュ。後、雅が家に帰って来たらフランのことを伝えて、俺に電話するように言ってくれ」

「おう、まかせろ。奏楽ちゃん、行こうか」

「うん……おにーちゃん、フランを助けて!」

「ああ、わかってる」

 そう言って悟と奏楽は俺の家に向かって歩いて行った。

「私たちはどうする?」

 霊奈が即座に聞いて来る。

「……望、お前の力を貸してくれ」

「え?」

「お前の能力ならきっと、フランを探せるはずだ。体に負担をかけちゃうけど頼む」

 俺は頭を下げてお願いした。それほど、望の能力は危険なのだ。

「……何言ってるの? お兄ちゃん」

「は?」

「使うに決まってるよ。フランは私たちの大事な妹でしょ?」

 顔を上げると望の目にはもう、涙はなく、その目は紫色に輝いていた。

 


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