東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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お詫びの連続投稿。


第190話 妹、現代に入る

「「……」」

 朝だと言うのに締め切ったカーテン。仕方なく、電気を付けている。

 そんな中、ベッドの上で俺とフランが真剣な顔で見つめ合っていた。正座で。

「……さて、どうしてお前がここにいるのか説明して貰おうか?」

「いいよ。説明してあげる」

 ニヤリと笑ったフランが立ち上がった。

「昨日の夜、私はいつもの時間にベッドに潜り込んだわ」

 何とも健康的な吸血鬼だ。

「そして……ここで目を覚ましたの」

「……で?」

「え? それだけ」

「わかってないんじゃんか!!」

 俺も立ち上がってフランを睨んだ。

「仕方ないじゃん! 気付いたらここにいたんだもん!」

「……はぁ」

 睨み返して来るフランにため息を吐いた。

「響? 朝から何騒いで……え?」

 突然、雅が部屋に入って来るがベッドの上にいたフランを見て目を点にする。

「あ、雅だ」

「え!? あ、ええええ!? ふ、フラン!?」

 部屋に入って来た雅がフランの頬をグリグリして幻覚じゃないことを確認した。

「み、みひゃび! おひふいへ!」

「ほ、本物!? で、でもフランは幻想郷にいるはずだし! そ、それに響の部屋にいたってことは……まさか!?」

「成敗!」

「ぎゃふんッ!」

 混乱している雅の脳天に妖力を纏った拳を叩き込み、黙らせる。頭に雅が想像したことが流れ込んで来たのだ。

「お、お兄様と……きゃっ♪」

 頬を解放されたフランは顔を紅くしながらモジモジしていた。

「お前も殴られたいか?」

「はい、ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、居間。

 学校に行く時間まで少し、余裕があるので緊急家族会議が開かれていた。

「えー……まぁ、見てわかると思うが、何故かフランが外の世界に来てしまった」

「いえーいッ! いだ!?」

 とりあえず、軽くフランの頭を叩いておいた。

「私には全力なのに……」

 頭の上に大きなたんこぶを作って雅が呟くがスルー。

「フランも原因わからないの?」

 望が手をあげて発言した。

「うん。起きたらお兄様の胸の中だったの」

 頬を紅く染めてフラン。望、雅、霙の眼が一瞬だけ鋭くなったような気がする。

「そ、そうなんだ……でも、そろそろ帰った方がいいよね?」

「え?」

「だって、フランは吸血鬼でしょ? もし、外の世界でばれたら大変なことになっちゃう。それに日光だって当たったら困るし」

 確かにフランの背中には翼がある。外出したら目立つだけじゃすまされない。

「大丈夫だよ! 消せるし」

 そう言った瞬間、フランの翼が消えた。

「消せるのか……」

 少しだけ引きながらもう一度、フランを見る。これなら金髪ロリとしか思われないだろう。

「後は服だね。お兄様の話じゃ私たちって外の世界ではゲームのキャラなんでしょ?」

「あ、ああ」

「奏楽、服貸して!」

「え? いいよ!」

 フランのお願いに奏楽は笑顔で頷く。そう言えば、フランを紹介した時、奏楽はものすごくフランに興味を示していた。今では二人とも手を繋いでいる。どうやら、体の大きさが同じくらいなので親近感を抱いたらしい。

「これでどう?」

 ドヤ顔で望にフランは問いかける。

「いや、駄目でしょ。レミリアさんだって心配してるだろうし」

「お、お姉様ならわかってくれるもん!」

(何を?)

 首を傾げる俺だったが、望たちは理解できたらしく唸り声を漏らす。

「でも、幻想郷の住人が外の世界に来たら問題があるんじゃないんですか?」

 即座に霙が質問した。

「きっと、大丈夫!」

 親指を立ててフランがウインクした。

「じゃあ、フラン行くぞ」

「お兄様! 無視するのは酷いと思うよ!」

 目を見開いて妹が叫ぶが、スキホからPSPを取り出していたので返事はできなかった。

「おにーちゃん、フラン帰っちゃうの?」

 不安そうに奏楽が聞いて来る。

「ああ、フランは幻想郷の人……っていうか吸血鬼だからね」

「そうなんだ……」

 奏楽はフランと遊びたいらしい。

「今度、紅魔館に連れてってやるからその時に、な」

「うん……」

 スキホをテーブルに置いて落ち込んでいる奏楽の頭を撫でた。

「そうはさせないよ!!」

 奏楽を慰めているとフランが突然、テーブルの上に立った。そして、右手を握る。

「しまっ――」

 急いでPSPをフランの視界から隠すために体の陰に移動させようとしたが、間に合わずにPSPが破壊されてしまう。

「お兄ちゃん! スキホ!」

 望の声にフランの方を見るとまだ、右手を引っ込めていなかった。

「くそっ!?」

 手を伸ばしてテーブルの上に置いてあったスキホを守ろうとするも、目の前で木端微塵に砕けてしまった。

 居間に沈黙が流れる。

「ふ、ふふふ……これで私、帰れなくなっちゃったね!」

「今、ここでお前を殺す」

 両手に妖力を纏わせ、フランの頭を鷲掴みにした。

「あだだだだだっ!!」

「お兄ちゃん、落ち着いて! さすがに吸血鬼でも死んじゃうから!」

 望の言う通り、フランの頭からミシミシと不気味な音が聞こえる。

「フラン、反省したか?」

「はい! しました! しましたのでどうかその手をお放しくださいいいいいい!!」

「……はぁ」

 ため息を吐きながら手を離した。

「はぁ……はぁ……こ、これが死の恐怖なんだね」

「フラン、外の世界に来てテンションが上がり過ぎてるみたいだね。キャラが定まってないもん」

 望が冷静に分析する。

「そうみたいだけど……どうすんだよ、これ」

 すでに霙が粉々になったPSPとスキホを片づけ始めていた。

「あ、霙待ってくれ」

「え? あ、はい」

 霙の手を止め、PSPの残骸からメモリースティックをサルベージするが、ひび割れていて使い物にならなそうだった。

「これじゃ、能力を使えないな……」

 もう一台のPSPはスキホの中にあるし、パソコンから曲をダウンロードしたくてもパソコンも去年の夏に望から取り上げてからずっとスキホの中にある。これでは『移動』が使えない。

「お兄様? じゃあ?」

「……気は進まないけど、紫がこっちの様子を見に来るまで一緒に暮らすしかないか」

「やったー!」

 両手を上げて喜ぶフラン。奏楽もフランと同じように万歳して喜んでいた。

「いいの?」

 そっと雅が聞いて来る。

「仕方ないだろ……戻れないとなればさすがに外に出すわけにはいかないし、昼間も霙は家にいるからフランを監視できる」

「そうだけど……」

 何故か、雅は不安そうだった。

「あ、そう言えば雅さん」

 その時、霙が雅に一通の封筒を差し出した。

「これは?」

「今朝、郵便受けに届いていました。フランさんの件で渡しそびれていましたので」

「そう、ありがとう」

 雅は封筒を受け取ってそのまま、ポケットに突っ込んだ。

「おにーちゃん、時間大丈夫?」

「え?」

 奏楽の問いかけで時計を見たらいつも家を出る時間だった。

「やっば! 皆、支度しろ!」

「朝ごはんは!?」

「そこら辺の菓子パンを持っていけ!」

 因みに奏楽は毎朝、コンフレークなのでもう食べ終わっている。

「フラン! 霙の言うこと聞くんだぞ?」

「えー……」

「言うことを聞かなかったらお前の頭はザクロのように弾け飛ぶからな」

「霙の言うことをちゃんと聞いて良い子にしています!」

 フランは顔を青ざめながら敬礼した。

「霙、通信は常に繋いでおけ。そして、少しでも言うことを聞かなかったり駄々を捏ねたら連絡しろ」

「了解であります!」

 霙も敬礼して頷いた。

「フランは外に出るなよ? 日光とかに当たったら大変だからな」

「お兄ちゃん! 時間!」

「ああ! じゃあ、行ってきます!」

 鞄を引っ掴み、俺たちは玄関を飛び出した。その後に望たちが続く。玄関先まで霙が出迎えてくれる。

「あ! 霙、すまんがフランに奏楽の服を着させておいてくれ!」

「了解であります!」

「響! オッケーだよ!」

「おう、サンキュ!」

 自転車を運んで来てくれた雅にお礼を言って奏楽を籠に入れる。

「はい、鞄」

「うん!」

 俺の鞄を奏楽に手渡し、サドルに腰掛けた。すぐに望が後ろに乗った。

「よし! 行くぞ!」

「やっぱり、私は走るんだね!?」

 雅が叫ぶが、それを無視して自転車が走り始める。

「行ってらっしゃーい!」

 玄関からフランの大声が聞こえた。外には出ていないようだが、ギリギリのところに立っているようだ。

(霙、とりあえずフランを家の中に)

『了解であります』

 まさか、こんな短時間に霙の『了解であります』を3回、聞くことになるなんて思わなかった。

 

 

 

 こうして、フランが少しの間、俺たちと一緒に暮らすことになった。

 


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