東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第185話 厄神様

「……」

 俺は自覚している。最近、イライラしていると。

 原因は主に二つ。

 一つ目はこの前のファンクラブの件だ。霊奈の言う通り、ファンクラブは非公式から公式にランクアップしていた。まぁ、それだけで俺に何も影響はなかったのだが。

 二つ目は――。

「~♪」

「何が楽しいんだ?」

「だって、貴方の傍にいたら暇なことがないのですもの。やっぱり、貴方は面白い人わね」

 ニコニコしながら青娥が言った。俺のイラつき度が50上がった。ステータス、カンスト。

「いいから向こう行け」

「嫌よ」

 即答されてしまった。溜息を吐く。

「今日の依頼は?」

「お前に言う義務はない」

「そう? 手伝えることもあると思うけど?」

「ないよ……」

 こいつはどうしても俺の後を追って来るつもりらしい。

(……ああ、もう!)

「狂眼『狂気の瞳』!」

 スペルを発動させ、青娥の目を見た。

「え?」

 青娥は驚いていたが、すぐにその目から光が消える。

「今の内!」

 手ごたえから青娥の動きを止められる時間は1分ほど。さすが、邪仙。吸血鬼の姿のまま、俺は急降下して森の中に身を隠した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 しばらく、気配を消して(薬を飲んで元に戻っている)身を潜めていたが青娥が来るようなことはなかったので安堵のため息を吐く。

 その時、背後の木が突然、俺の方に倒れて来た。

「ちょっ!?」

 咄嗟に右手から雷撃を飛ばして木を粉々にする。しかし、俺が放った雷撃が別の木々に当たって連続で倒れて来た。

「くそっ!」

 これは俺の運が悪かったとしか言いようがない。仕方なく、懐からスペルを取り出して唱えた。

「神箱『ゴッドキューブ』!」

 俺がスペルを宣言した瞬間、俺の周りに白い壁が――出現しなかった。

『響! トールは今自分の部屋に帰ってるわ!』

 頭の中で吸血鬼の叫び声が響いた。普段、吸血鬼たちは魂の俺の部屋にいる。その時だけ、俺は魔力や神力が使えるのだ。つまり、吸血鬼たちが自分たちの部屋に戻っていたら力を使えなくなってしまう。

「部屋に戻る時は俺に言えって言ってたろうがああああ!」

 俺の悲鳴は木々が倒れた時に発生した轟音に掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうしよう……」

 私は茂みの中で焦っていた。薬草を取りに妖怪の山を下りて近くの森に来ていた。もちろん、この時間帯はこの森に誰もいないことなどずっと前から知っていた。というより、私が来ると噂を流したので近づいて来る人などいないのだ。

 でも、女の人は目の前で木々に潰されてしまった。突然、空から降りて来たので私にはどうすることもできなかった。話してここから離れて貰おうかと思ったが、私が近づけば『木が倒れるという軽めの不幸』よりももっと酷いことが起こっていただろう。

「とりあえず、様子を見て来よう」

 多分、あれだけ大きな木に潰されてしまったら生きている可能性はゼロ。でも、遺体ぐらいは救出してあげたかった。

 私は急いで木の傍に駆け寄った。その時――。

「ああああああああ!! もう!!」

「え?」

 木々が爆発した。木片が目に入らないように顔を両腕で守りながら状況を整理しようとする。

「何が!?」

「本当に最近、ついてないな! 俺が何かしたってのかよ!」

 木々の方を見れば文句を言いながら服に付いた木の破片を払う女の人がいた。

「あ、あれ?」

 確かに女の人は木に潰されたはずだ。地面にも血痕が残っている。

「ん?」

「あ……」

 とにかく、これはやばい。彼女との距離は約3メートル。このままでは――。

「うおっ!?」

 その場から離れようとした時、彼女の足元が割れた。きっと、さっきの爆発で地殻変動が――。

(起きるわけないじゃない!!)

「何なんだああああああ!?」

 自分にツッコんでいたら女の人が地割れに落ちて行った。

 しかも、割れた地面はどんどん閉じて行く。すぐに彼女は地面と地面に潰されてしまう。「仮契約『尾ケ井 雅』!」

 何か聞こえたような気がしたがそれを確認する前に地面が完全に閉じてしまった。

「う、そ……」

 これでは遺体を回収することもできない。

「私のせいで……」

 死ぬ直前、彼女はどれほどの痛みを経験したのだろう。それを想像するだけで私は眩暈がした。

 立っていられなくなり、その場にへたり込んでしまった。すると――。

「きゃあっ!?」

 急に紅いスカートが捲り上がった。突然のことで悲鳴を上げてしまう。

「あれ? なんか暗いぞ? 外に出たはずじゃないのか?」

「おかしいな? 感覚的には外なんだけど……」

 スカートの中で何かが暴れている。

「ちょ、ちょっとまっ……あっ」

 何かが私の変なところを触ったのでビクンと跳ねてしまう。

「は、早く、どっか行ってよぉ……あんっ」

「おい、雅。どうなってんだよ」

「もう一回、戻る?」

 それでも何かがスカートから出て来ないので我慢の限界が来た。

「いい加減にしなさい! 疵符『ブロークンアミュレット』!」

「「え?」」

 空中に逃げてスペルを宣言。スカートの中にいた奴らに向かって弾幕を放つが私は目を見開いてしまった。

(さっきの女の人!?)

 咄嗟に弾幕を消そうとしたが間に合わず、弾幕が地面を抉る。

「あ、あああ……」

 あの女の人はどうにかして地割れから脱出し、地面の中を通って外に出ようとしていた。しかし、私のせいで私のスカートの中に出てしまった。

「わ、私が……」

 いつもの遊び用のスペルではなく、割と本気で撃ってしまったのだ。これではまず、彼女は助からない。

「あ、危なかった……」

「響、本当に何かやったんじゃない? これは崇りだよ」

 砂煙が消え、地面を見ると黒い球体があった。その中から声が聞こえる。

「ま、まさか?」

 驚愕で硬直していると黒い球体が解体されていった。

「よっと……」

 そして、その中から二人の女の人が出て来る。片方は先ほど、地割れに飲み込まれたポニーテールの人でもう片方はボブカットの女の人だった。

「まぁ、雅ありがとな」

「いえいえ、じゃあまたね」

 ポニーテールの彼女が手を横に払うとボブカットの人が消えた。

「式、神?」

「さてと……説明して貰おうか?」

 私の方を見上げた彼女だったが、見上げた瞬間、両目に鳥のフンが直撃する。

「ぎゃああああああああああっ!!?」

「だ、大丈夫?!」

 私は目を押さえて悶えている彼女に向かって声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「……で? 何がどうなってるの?」

 俺は丸太(さっき、俺を押し潰した木)に座って目の前で落ち込んでいる少女に聞いた。

「私は鍵山 雛。聞いたことない?」

「鍵山……雛?」

 聞き覚えがなかった。

「あら? け、結構、有名だと思うけど……」

「すまん、俺は外の世界から通ってるから」

「ああ、だからこの時間に森にいたんだ」

 目を丸くして雛がそう呟いた。

「つまり、どういったことで俺はこんな目に遭ってんだ?」

「まずは私について説明しなきゃね。えっと、私は厄神って言って人の厄を集めることが出来るの」

 厄――つまり、災難や不幸などを吸収できるらしい。

「でも、私の近くにいたら私が集めた厄がその人に集まっちゃうの」

「要約するとお前は人の厄を集めるありがたい神様だけど、近くにいたら厄をばら撒いちゃうやばい神様ってことか……」

「まぁ、そんな感じね」

「で……俺はこの姿にならなくちゃいけなかったわけだ」

 慣れない子供の姿で溜息を吐く俺。

 闇の力は『引力を操る程度の能力』。引力は『物を引き付ける力』だ。それを操れるということは反発させることも可能というわけだ。

 その力を使って雛から飛んで来る厄を弾いている。それをしないとさすがの俺でもいつか死ぬ。

「本当、吃驚したわ……まさか、子供の姿になるなんて」

「俺だって好きでなったわけじゃない。何か、物を突き放すことができないかって聞かれたからこうなったんだよ」

 因みに霊夢が言うには子供姿は何もしなければ1時間ほど続けていいらしい。しかし、戦闘だと闇の力を使うのでもっと時間が短くなるそうだ。戦闘面で期待していたのだが、これも切り札の一つにするしかない。

(切り札ばっかりだな……)

 『シンクロ』、『ダブルコスプレ』、『闇』。まぁ、あるに越した事はないが。

「本当にごめんなさい」

 考え事をしていたら雛が突然、謝っていた。

「え? どうして?」

「だって、私に近づかなかったらあんな目に遭うこともなかったし子供になることもなかった……」

「それは仕方ないことだろ? そもそも、俺がこの森に逃げて来なかったらよかった話だ」

 結論:全部、青娥のせい。

「それはそうだけど……あ! 思い出した!」

「な、何だよ。突然……」

 急に立ち上がった雛は目を輝かせていた。

「貴女、万屋さんね! 文々。新聞で見たわ!」

「ああ、どうも……なら、ちゃんと男だって書いてあったよな?」

「……男?」

 目をキョトンとさせる雛。

「男」

「……ないない」

「お前、ぺちゃんこになりたいようだな」

 闇の力を手に集めて米粒程度のブラックホールを作る。だが、それだけでも周りの小石が俺の手に集まって来た。

「ご、ごめんなさい」

 それを見て俺の言葉に嘘がないことがわかったのか雛が謝って来る。

「それでいい」

「あ、あの! お願いがあるんだけど!」

 ブラックホールを消した途端、俺の手を雛が握った。

「お、おい?」

 驚いて言葉が続かなかった。

 

 

 

「私と友達になってください!」

 

 

 

 その後、雛が放った言葉で俺は思わず、目を点にしてしまった。

 


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