「き、桔梗! 来たよ!」
「え!? もしかして、時空移動の兆候ですか!?」
「へ? 時空移動?」
桔梗の言葉に首を傾げるにとりさんだったが、今はそれどころじゃない。
「桔梗、捕まって!」
「はい!」
「ちょ、ちょっと! どうしたの?」
僕たちが慌てているのでにとりさんも何かあったとわかったようだ。
「すみません、そろそろ僕たちは行かなくちゃいけないんです」
「ありゃ、急だね」
「コントロールできてませんので……にとりさん、何から何まで本当にありがとうございました!」
「いやいや、私も面白い物が見れたし大丈夫だよ!」
そこで光が一層、強くなった。時間がない。
「にとりさん、またいつか会いましょう!」
「うん! またね、キョウ、桔梗!」
手を振ってくれたにとりさんに向かって左手を上げた瞬間、視界がホワイトアウトした。
「……」
目を開けると何度目かは覚えていないがすでに見慣れた博麗神社の天井があった。
(過去の記憶……か)
いつものように俺は過去について考察する。
今、気付いたが過去の俺が青怪鳥と戦っていた時代は俺が怪鳥と戦っていた時代だ。つまり、約1年前。多分、青怪鳥を見る前に遠くの方で戦っていたのは俺だと思う。過去の俺が見た鳥の特徴は俺が倒した怪鳥とそっくりなのだ。
(あの時、過去の俺も戦っていたんだ……)
その後、にとりと出会った。俺も何度かにとりの依頼を受けているので話したことがある。そう言えば、昔『のびーるアーム』をなくしたと言っていた。桔梗が食べたのが原因だろう。そして、あの鋼の拳を手に入れた。
(これで桔梗は翼、盾、拳に変形できるんだな……あと、振動)
順調に桔梗を強化している。しかし、俺は少しだけ違和感を覚えた。
「なんか……時空移動が素材を集めさせてるような」
アリスの時だって桔梗が『自分の体を変形させる程度の能力』を手に入れ、自分に時空移動の力があるとわかったすぐ後に時空移動した。まるで、時間がないので必要最低限の情報を手に入れたから移動させたように見える。紅魔館の時もフランの血を飲んで移動していたし、小町も鎌の修行が終わって移動していた。
(何だ……これは)
これでは誰かが意図的に過去の俺を時空移動させているように見えるではないか。
「でも、時空移動の能力は俺が持ってるし」
これは自信を持って言える。証拠とかはないが、何故か断言できた。
「じゃあ、どうやって……」
「あら? 起きてたの?」
突然、障子が開いて霊夢が顔を見せる。
「ああ、さっきな」
そう答えながら起き上がろうとするが、力が入らず失敗に終わった。
「あ、れ?」
「無理しなくていいわ」
霊夢はぶっきらぼうに言い、そのまま部屋に入って来て畳の上に正座する。
「あ、ああ……」
「まずはお礼を言わせて貰うわ。氷河異変を解決してくれてありがとう」
「いや、これも仕事だから」
「じゃあ、建前はこれぐらいに本音を言わせて貰うわね」
「お礼って建前に入るの?」
俺の素朴な質問はスルーされ、霊夢は後ろ手で障子を開ける。そちらを見ると霊奈が涙目で仁王立ちしているのが見えた。
「あ、霊奈」
「響……貴方、めちゃくちゃ危険なこと、したんだって?」
「危険なこと?」
「闇を自分の魂に移植させたことよ」
俺の疑問に答えた霊夢も怒っているようだ。
「今までは体の傷だったから万が一のことがあっても永琳に頼めば何とかなったわ……でもね? 魂はそうはいかないの。魂は自分自身の力でどうにかしなくちゃいけないの。それなのにあのままだったら貴方は闇に飲み込まれ、氷河異変がまた起きるところだったのよ?」
「うぐっ……」
霊夢の言葉に対して反論できなかった。確かに移植は成功したがその後、闇が俺を飲み込もうと暴走。俺も抵抗したのだが、全く歯が立たなかった。
「あれ? じゃあ、今は?」
俺が気絶する前の痛みなどどこかへ行ってしまっていた。
「封印したのよ。ルーミアと同じようにね」
「封印? あ、あの時の人ってお前だったのか」
霊夢は俺の質問に頷くだけで答える。倒れた俺に話しかけていたのは霊夢だったらしい。
「まぁ、封印って言ってもルーミアのように力の大部分を封印するんじゃなくて闇の暴走を抑える感じかな?」
霊奈が霊夢の隣に座って説明してくれる。しかし、どうして霊夢じゃなくて霊奈が答えたのだろうか?
「私一人でもそんな複雑な効果を持ったお札なんて作れなかったから二人で協力して作ったのよ」
「あ、そうだったのか……あれ? でも、俺が気絶する直前に霊夢、何かしてなかったか?」
「……まぁ、色々あったのよ」
何故か、目を逸らす霊夢。俺は代わりに霊奈の方を見るが霊奈も霊夢と同じ方向を見て無視していた。
「お前ら、本当は仲が良いだろう……」
「ほ、放っておいてよ!」
まだ、怒っているのか霊奈がそっぽを向きながら言い放つ。
「はぁ……とにかく、異変は解決したんだな?」
「ええ。氷も解けたし、ルーミアもさっき目が覚めて帰って行ったわ。貴方に感謝していたわよ。まぁ、全てを覚えてるわけじゃなくて何となくみたいだったけど」
「人里の人たちも何ともなかったよ。少しの間、気絶してた感覚だったらしいよ」
「そっか……よかった」
安堵のため息を吐くと突然、霊夢の眼が厳しくなった。
「……ねぇ? そろそろ、教えて貰えないかしら? 今回の黒幕」
「そう言えば、他に首謀者がいるってルーミアも言ってたよね?」
霊夢の質問に疑問を持った霊奈が更に質問を重ねてきた。
「……ああ、今回の異変の元凶。ルーミアに闇の力を無理矢理、詰め込んで暴走させた奴がいるんだ」
「で? 誰?」
「あいつだよ。関係を操る式神の主だ」
「また、なの?」
「ああ、何でかはわからないけどな……」
あの女の子は俺の命を狙っている。しかし、その理由まではわからなかった。
「これからも攻撃して来るわね」
「多分な」
「あ、あの? 私にはさっぱり何だけど……」
手を挙げて言った霊奈に呪いにかけられたことや能力を奪われたことを説明する。
「そ、そんなことが……」
顔を青ざめさせながら霊奈は驚愕していた。
「まぁ、生きてるからいいんだけどさ」
実際、俺はしぶとく生き残っている。
「これから、どうするの?」
不意に霊夢からそんな問いかけが飛んで来た。
「どうするも何も俺は万屋の仕事をするだけだよ」
「だ、大丈夫なの!?」
「今までも大丈夫だったし、大丈夫だ。今じゃ仲間もたくさんいるしな」
「今回みたいに式神を抑えられたら?」
「俺の仲間は式神だけじゃないよ。魂の奴らもいるし、お前らだっている」
「「――ッ」」
俺の言葉を聞いて霊夢も霊奈も目を見開いた。
「……はぁ。貴方は頑固ね」
「そうか?」
「まぁ、子供の頃も響は譲らないことは譲らなかったし……」
「そうだっけ?」
「とにかく、敵からの貴方への攻撃の手も増えて来てる。気を付けて」
真剣な表情で霊夢が忠告して来た。それに対し俺は頷いて答える。
「……じゃあ、次の問題ね」
「次? まだあるのか?」
「貴方の闇の力についてよ」
忘れていた。
「封印したって言ったよな?」
「ええ、今も封印中よ」
「どうやって封印してるんだ? ルーミアみたいにお札で?」
「うん、そうだよ。でも、頭にお札なんか付けてたら外の世界で変に思われちゃうでしょ? だから、別の物に封印術式を組み込んでカモフラージュしてるの」
「別の物?」
その単語が気になって繰り返したが、二人とも何も答えずに次の話題に移ってしまった。
「できるだけそれを外さないようにしなさい。1~2時間なら体への影響も少しだけだけど長い時間、取ったままだとまた闇が暴走し始めるわ」
「体への影響って?」
「……知らない方が身のためだと思うよ」
目を逸らしながら霊奈が俺の疑問を弾く。
「いい? 人前で取ったらダメよ? 絶対にね」
「りょ、了解……」
まず、何が封印術式なのかわからなかったが、二人の剣幕に圧倒されて質問できなかった。
「じゃあ、後はゆっくり休みなさい」
「またね、響」
それだけ言って二人は部屋を出て行った。
「……闇の力、か」
そう呟く。
「?」
その時、魂の中で何かが動いた。しかし、それが何か俺にはわからなかった。吸血鬼たちでもなかったし、闇でもない。別の何か。
(まぁ……いいか)
急に睡魔に襲われ俺は思考を止め、眠りに落ちた。
この時に気付くべきだったんだ。あいつが、動き出したことに。