「……」
3本の刀と大剣が同時に粉々に砕けた。それに続けて他の大剣も砕ける。
「へぇ……狂気と一緒に上昇したのは狂気の技の威力を上げるため。そして、自分自身の技と他の皆の技を共鳴させて全ての技の威力を上昇したってわけか」
要約すると俺の3本の刀にそれぞれ魔力、妖力、神力を纏わせた。そして、3本の大剣を止めていた吸血鬼たちの技――吸血鬼は魔力を纏わせた銃弾。狂気は拳から妖力を飛ばし、トールは神力を混ぜた雷の威力を俺の刀が増幅させた。まぁ、言ってしまえば吸血鬼たちの技はギターで俺の刀はアンプの役割を果たしていたのだ。
「でも、どうやってやったの?」
首を傾げながらルーミア。
「ここは魂だぜ? 言うなれば、俺たちのホームグラウンドだ。技同士を共鳴させることぐらい簡単だよ」
「……じゃあ、これはどう?」
ルーミアは背中の手から再び、大剣を出現させ今度はバラバラに攻撃して来た。俺の刀は吸血鬼たちの技を共鳴できる範囲に限界がある。それを見抜いて大剣の配置を変えて来ていた。これでは先ほどのコンボは使えない。
「トール! 同時に行くぞ!」
即座にトールの隣に着地した俺は両手を前に突き出しながら叫ぶ。
「わかっておる!」
俺と同じような構えを取りながらトールが頷く。それを見て吸血鬼と狂気が俺たちの背後に回った。
「「神箱『ゴッドキューブ』!」」
スペルを宣言すると俺たち4人を囲むように神力で創られた箱が出現。その刹那、4本の大剣がほぼ同時に箱と激突する。
大剣がぶつかった時に少しだけ箱に皹が走るが壊されずに何とか持ち堪えてくれた。しかし、ルーミアは何度も大剣を箱に叩き付けて来る。強引に箱を破壊するつもりだ。
「吸血鬼!」
「まかせて!」
大剣の斬撃が凄まじく、外の様子を見ることはできないが『フォーカスサーチャー』のおかげでルーミアの居場所はわかる。吸血鬼たちとは魂の中ならば雅たちと同じように情報を共有することができるので吸血鬼の視界にあるマーカーも俺たち全員が利用可能となっている。
『フォーカスサーチャー』を使ってルーミアの居場所を突き止め、吸血鬼の立ち位置から一直線上になるように箱に少しだけ穴を開ける。丁度、銃弾が通り抜けられそうな大きさだ。
穴が開いたのを確認した吸血鬼はその手に吸血鬼の身長を超える狙撃銃を手に出現させ、地面から土台を盛り上がらせる。『イメージ力』さえあれば、空間の改変も可能だ。まぁ、それをするにはかなりの集中力が必要になるが、吸血鬼が今からやろうとしていることの方が集中力を必要とするのでこれぐらいできて当たり前だ。
土台に狙撃銃を乗せ、穴に標準を合わせる。
「どうだ?」
「……大丈夫」
「おう」
短い会話で吸血鬼が集中モードに入っているのがわかった。
「トール、後どれくらい持つか?」
「そうじゃのう? ざっと、1分じゃな」
俺とトールが確認し合っている間にも大剣によって皹はどんどん大きくなっていく。
「すぅ……はぁ……」
狙撃銃のスコープを覗き込み、吸血鬼が一度だけ深呼吸する。そして――。
――ダンッ!
後ろから炸裂音が轟いた。
「あぐっ!?」
木霊する炸裂音の中にルーミアの短い悲鳴が紛れ込む。それに合わせて大剣の斬撃が止まった。
吸血鬼は斬撃の嵐の中に銃弾を撃った。銃弾は一撃も斬撃を喰らわずにルーミアにヒットさせたのだ。もちろん、偶然ではない。吸血鬼の集中力の賜物だ。
「狂気!」
俺が合図するころには狂気は箱を突き破ってルーミアに向かって直進していた。両手に妖力を纏わせて。
「ガッ!?」
再び、短い悲鳴。その後、地面が揺れた。狂気に殴られて地面に叩き付けられたのだろう。
「……やっぱり、そうか」
地面が抉れており、そこからルーミアがゆっくりと出て来た。
「響が近距離ってのに違和感を覚えてたんだけど、ようやくわかったよ。トールは防御。吸血鬼は遠距離。狂気は近距離。響は――オール」
ルーミアがニヤニヤと笑いながらそう言う。
「すごいな。よくわかったね」
ルーミアの言う通り俺は防御も遠距離攻撃も近距離攻撃もできる。そのため、その状況に応じて俺の持ち場は変わるのだ。
「そりゃ、近距離だった奴がいきなり、防御に回ったらわかるでしょ。それにしても……響だけじゃなくて皆、色々なことができるんだね」
自分の体に貼り付いているマーカーを見ながらルーミア。
「ああ、魂の中は暇だからたまに模擬戦をやってるんだってさ」
俺が大学で講義を受けている時など3人でドンパチやっているらしい。実際に見たことはないが。
その模擬戦で最も成長したのが吸血鬼だった。模擬戦で吸血鬼は『イメージ力』が優れていることがわかり、トールの神力を駆使しても完璧に創造できなかった銃系統の武器さえも魂の中だったら生み出すことができるのだ。
次に『フォーカスサーチャー』を習得。『フォーカスサーチャー』のおかげで魂の残骸と戦った時、奏楽の核を傷つけずに済んだのだ。確か、あの時のフォーメーションはトールが防御と援護。狂気が近距離で核以外の部分を削ぎ落とし、俺と吸血鬼が遠距離からの精密射撃で核に近い部分を破壊したのだ。
吸血鬼だけではない。狂気は妖力の扱い方をマスターしたし、トールも防御技の他にも色々なことができるようになった。
「でも」
だが、それでもルーミアの口から笑みは消えない。
「私には勝てないよ」
そう言ってゆっくりと浮上する。
「闇は全てを飲み込み、潰す。ブラックホールのように」
呟きながら両手を合わせて徐々に両腕を引いて両手を離した。
「っ!?」
その両手の中に小さな黒い球体がある。しかし、その球体は今までルーミアが出していた物とは性質が違った。破壊するための物ではなく、引き寄せるための物。
「皆、何かに掴まれ!」
俺がそう絶叫している間にもルーミアはどんどん球体を大きくしていく。そして、少しずつ風が吹き荒れ始めた。風向きはルーミアにとって向かい風。俺たちにとって追い風。
「何かってここは魂の中だ! 掴まる物なんて何もないぞ!」
狂気が叫び、地面に妖力を纏った両手を突っ込む。俺も鎌を再び、創って地面に突き刺した。トールは吸血鬼を脇に抱いて地面から神力製の円柱を何本も生み出し、体を支えている。
「響! まさか、あれは!?」
トールに必死にしがみつく吸血鬼が俺に質問をぶつけた。
「ああ! あれは小さいブラックホールだ! 絶対に吸い込まれるなよ!」
そうは言ったもののこの中で一番、やばいのは俺だ。鎌の刃は突き刺すことにあまり適していない。仕方なく、ポニーテールを刀にして鎌と同様、地面に突き刺して固定する。
「これだけで終わると思うなっ!」
上からルーミアの大声が聞こえたと思った矢先、大量の黒い球体が俺たちを襲う。この状況では回避はおろか、防御すらままならない。
――ダダダンッ!!
しかし、黒い球体は吸血鬼の2丁拳銃によって駆逐される。
「サンキュ、吸血鬼!」
「でも、これ以上の弾幕だとさすがに庇い切れないわ! どうにかしなさい!」
どうにかと言われてもさすがにすぐにどうにかできるような状況ではない。
「……わかったよ! 皆、援護頼む!」
鎌から手を離し、イメージする。すると、頭にはあの白いヘッドフォン。そして、両腕にはそれぞれ紅と黒のPSP。
「そ、それって!?」
「ああ! やってやるよ! これ以外、この状況を打破する技はないからな!」
ルーミアのブラックホールに吸い込まれ体が宙に浮くがポニーテールが俺の体を引きとめてくれている。それを確認した後、両手をクロスさせ、一気にスライド。スペルカードが目の前に出現する。
「おおっと!!」
そのスペルさえ、ルーミアに引っ張られるが何とか掴み、大声で宣言した。
「プレインエイジア『上白沢 慧音』! 月まで届け、不死の煙『藤原 妹紅』!!」
暴風が吹き荒れる中、俺の体が光りに包まれた。