東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第167話 氷河異変

「ルーミア、どこにいるんだろうね?」

 準備を終えた俺たちは幻想郷の上空を飛んでいた。その時、不意に霊奈が問いかけて来る。

「多分、幻想郷で唯一、氷漬けになってない所だ」

「え? どうして?」

「あいつは俺たちを待ってる。俺たちと戦うつもりなんだよ。でも、地面が凍ってたら動きにくいだろ?」

「なるほど……でも、何でそう思うの?」

「勘だ」

 霊奈の疑問を一言で片づけ、目線を幻想郷に戻す。

「……あ! 響ちゃん、あれ!」

 突然、霊奈がある方向を指さしながら叫ぶ。そちらを見ると氷漬けになっていない木がいくつかあった。

「あそこだな。霊奈、最後に確認しておく」

「何?」

「今のルーミアは相当、強い。怪我だけじゃすまされないかもしれないぞ?」

「何言ってるの? 私は自分の意志でここにいるの。そんな心配しなくても大丈夫。“覚悟はできてるから”」

 頷きながら霊奈。

「……よし! 行くぞ!」

「うん!」

 進路を変更し、ルーミアがいるところへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 数分で目的地の広場に到着。着陸した俺たちの前にはこちらに背を向けている女性がいた。

「やっと、来たか。音無 響」

 気配でわかったのか女性が振り返る。

「……ルーミア、なのか?」

「ああ、そうだ。わからない?」

 右手を腰に当てながらルーミア。しかし、その姿は前のルーミアとは大きく異なっていた。

 金髪はショートから腰まで伸びている。服装は前と同じで黒いワンピースとYシャツ。それに赤いネクタイ。

 確かにルーミアが成長した姿だと言われたら納得がいく。だが、頭には何も付いていない。そう、お札が外れているのだ。

「まぁ、お前がルーミアなのはわかった。じゃあ、聞くけど何でこんなことしたんだ?」

「この“氷河異変”のこと? 簡単だよ。お前と戦いたかったんだ。まぁ、なんかおまけがいるけど……」

 霊奈を邪魔だと思っているようでギロリと睨んだ。あまりの眼力に霊奈が半歩だけ後ずさる。

「お前に霊奈の何がわかる?」

 すかさず、霊奈の前に出て反論した。

「決まってる。意志の強さだ」

「意志?」

 意味がわからず、首を傾げてしまう。

「気持ちだよ。気持ちが強くなければどんなに強大な力を持っていても宝の持ち腐れ。100%の力を発揮できないどころか自分の身を滅ぼすことになる。だから、邪魔」

「わ、私だって覚悟ぐらいできてる!」

 バカにされ続けるのに嫌気が差したのか霊奈が叫んだ。

「……まぁ、いい」

「ん?」

 今、一瞬だけルーミアの顔が歪んだような気がする。その表情は怒りではなく、悲しみだった。

(でも……何で?)

 この状況でそのような表情を浮かべる理由がわからない。ただの見間違いだったのだろうか?

「響、準備はいいか?」

 問いかけながらニヤリと笑うルーミア。

「ああ、そうだな。氷河異変……だったか? そいつを早く解決させちゃおう」

 構えながら俺は頷く。霊奈も大量の博麗のお札を投げて両手両足に鉤爪を装備する。

「おっと、その前にやることがあった」

 そう言ってルーミアが指をパチンと鳴らした。その刹那、青かった空が真っ黒に染まる。

「な、何!?」

 霊奈が目を見開いて驚愕するが、俺は動けなかった。

「……お前、やってくれたな」

「邪魔者はこれ以上、いらないからな」

 俺を見下すような笑みを浮かべるルーミア。

 ルーミアは闇の力で俺たちを囲ったのだ。だいたい半径50メートルの闇のドーム。

「響ちゃん、これは?」

「闇のドームだよ。これのせいで外部と完璧に遮断された」

「え? それってまさか!?」

「……この空間から出ないと俺は雅たちを呼べない」

 ドームが展開された途端、いきなり雅たちとの通信が切れたのだ。丁度、事情を説明し召喚しようとしていたのですぐに気付いた。

(これは……まずい)

 ルーミアから感じられる力は俺を遥かに凌駕する。それどころか霊奈の霊力よりも大きい。

 その対策として数でルーミアを翻弄し、少しずつダメージを与えようと思っていたのだ。しかし、それも封じられた。

「ここからは私とお前の真剣勝負だ。覚悟はいいか?」

「……ああ!」

 封じられたのなら仕方ない。こうなったら、全力で戦うしかない。

「じゃあ、行くぞ!」

 ニヤニヤしながらルーミアが右足で地面をドン、と蹴った。その瞬間、地面から黒い柄が伸びる。

「はぁっ!」

 その隙を逃すまいと霊奈が一気に跳躍した。

「霊盾『五芒星結界』!」

 印を結び、星型の結界を展開。霊奈に危険が迫った時、すぐに助けられる場所に配置した。

「無駄だ!」

 柄を握ったルーミアがそのまま、上に引く。地面からとてつもなく刃幅が広い剣――大剣が出て来た。その剣は光さえも飲み込みそうなほど黒かった。

 霊奈が横薙ぎに右爪を振るう。しかし、鉤爪はルーミアに当たる前に大剣と衝突。甲高い音が森に響き渡った。

「くっ……」

 悔しそうな表情を浮かべる霊奈を尻目にルーミアはやっと、地面から大剣を抜いた。

(な、何なんだよ……あの大きさ!?)

 ルーミアが手に持っている大剣は持ち主の身長など軽く超えている。

「さぁ、死にな。雑魚」

 今まで笑っていたルーミアの顔から全ての感情が消えた。

「霊奈っ! 逃げろ!」

 俺が叫んだ時には闇を操る妖怪は大剣を霊奈に向けて振り降ろしていた。このままでは霊奈の体は叩き斬られてしまう。

 すかさず、『五芒星』を大剣の前に移動させる。だが、2秒ほどで一刀両断されてしまった。

「あ、ありがとう」

 大剣と『五芒星』がぶつかっている間に霊奈はバックステップで俺の隣まで避難することに成功。

「これで終わりだと思うなっ!」

 大剣を構え直したルーミアが俺たちに向かって突進して来ていた。あんな重い武器を持っているとは思えないスピードだ。

「開放『翠色に輝く指輪』!」

 『五芒星』でさえ、ルーミアの一撃には耐えられない。出し惜しみしていたら負ける。すぐに指輪のリミッターを解除し、スペルを構えた。

「神撃『ゴッドハンズ』! 拳術『ショットガンフォース』!」

 両手を巨大化させ、それに妖力を纏わせる。

「はあああああっ!」

 少しでも時間を稼ごうとしてくれたのか霊奈が鉤爪で地面を抉り取り、ルーミアに向かって投げた。

「小細工なんか効かないっ!」

 岩を大剣で粉々に砕き、速度を上げるルーミア。

「魔法『探知魔眼』!」

 霊奈のおかげで『魔眼』を発動させる時間ができた。後は頑張るだけ。

「はあああああっ!」

 ルーミアが雄叫びを上げながら左手に持った大剣を右から左に払う。それに合わせて俺も大剣に向かって裏拳を放つ。流れもルーミアと同じ、右から左。

 

 

 

 ――ガキーンッ!

 

 

 

 大剣と拳がぶつかった瞬間、凄まじい衝撃波が生まれ、地面を穿つ。それでも俺とルーミアは力を注ぎ続けた。

「このっ!」

 霊奈がルーミアの背後に回り、鉤爪で攻撃。

「邪魔だって言ってるだろ!」

 動けないルーミアは舌打ちした後、大剣の柄を両手で掴み、力を込めた。

「うおっ!?」

 先ほどまで均衡していたのにもかかわらず、俺の拳は簡単に弾き飛ばされてしまう。その拍子に『神撃』が解除されてしまった。

 そのままルーミアは勢いを利用し、背後の霊奈に反撃する。

「がっ……」

 霊奈はすぐに両手両足の鉤爪を大剣にぶつけることで体への直撃は避けたが、近くの木に叩き付けられた。

「やっぱり、お前から殺す」

 ルーミアが大剣を地面に突き刺す。そして、そこから黒い衝撃波が地面を割りながら痛みで動けない霊奈に向かって突進する。

「霊奈っ!」

 これは弾幕ごっこではない。ただの殺し合いだ。なので、スペルを宣言する必要はない(スペルを唱えた方がイメージしやすいので何もない時はいつもどおり宣言するのだが)。心の中で【飛拳『インパクトジェット』】を唱え、黒い衝撃波を追い越し、霊奈の前に着地した。

(衝撃波を防げるようなスペルは俺にはない……なら!)

 神力で創った鎌を手に出現させ、地面に突き刺す。

「うおおおおおおおおおっ!!」

 そのまま、鎌の刃を伝って地面に霊力を放つ。地面が爆発した。

 黒い衝撃波も地面が割れたせいで軌道が変化し、俺たちのわずか右を通り過ぎていく。

「へぇ……あの状況からよく守ったな」

「はぁ……はぁ……」

 余裕なルーミアに比べて俺はすでに肩を荒くしていた。指輪のリミッターを外したことによっていつもより使う力の量が増えているのだ。

「よっと……じゃあ、続きと行こうか」

 大剣を地面から抜き、ルーミアが言う。

「……ああ」

 俺も頷き、鎌の刃を地面から抜いた。

 


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