東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

169 / 543
第164話 青怪鳥

「ま、マスター! 目の前が真っ白になってます!」

 桔梗が僕の右腕のしがみ付きながら叫ぶ。どうやら、時間を移動しているのはわかるらしい。

「いつもこんな感じなんですか?」

「う~ん……前は一瞬だったけどね」

 今は真っ白なトンネルを飛んでいる感覚だ。自分の能力を自覚したからこんなに長く感じるのかもしれない。

「こうやってマスターは時間を移動していたのですね」

 落ち着きを取り戻したのか辺りを見渡ながら桔梗。

「まぁ、ね」

 頷いた瞬間、景色が白から青に変わった。時間移動が終わったらしい。

「……って!?」

 無事に移動出来た事に安堵していた束の間、重力に従って地面に向かって急降下し始める。出た場所が空中だったのだ。

「き、桔梗! 翼!」

「はい!」

 急いで桔梗が僕の背中に移動し、翼に変形する。ゆっくりと翼を広げて何とか、止まる事に成功した。

「あ、危なかった……」

 もし、桔梗がいなかったら僕はどうする事も出来ずに地面に叩き付けられていただろう。

「マスター、大丈夫ですか?」

「ありがとう、桔梗」

「いえいえ、これぐらいお安い御用です」

 桔梗は嬉しそうにそう言う。僕の役に立つのが嬉しいようだ。

「そう言えば、この翼って桔梗が操ってるの?」

「いえ、操縦はマスターの意志です。私はただ、マスターの意志を感じ取って翼を動かしているだけですよ」

「そうなんだ……あれ? でも、翼って動いてないよね?」

 翼と言えば鳥をイメージする。鳥はもちろん、翼を動かして空を飛んでいるが桔梗の翼は動いてなどいない。

「重力を操ってるようですね。私にも詳しくは説明できませんが……」

 詳しく説明されても僕に理解できるとは思えない。

「そっか。まぁ、飛べるなら大丈夫だね」

「はい!」

「じゃあ、移動しようか」

 まずはここがアリスさんと会った時代より過去なのか未来なのか知る必要がある。

「見た目はあまり変わりませんけど……」

「幻想郷は変わらないんだね」

 適当に飛びながら下を見て何か見覚えのある物を探す。僕の場合、見覚えがあるのが紅魔館と三途の川、そして博麗神社のみ。そう簡単に見つからないだろう。

「ま、マスター! 右を見てください!」

「ん?」

 焦った様子で桔梗が叫んだ。すぐに右を見ると何かがこっちに向かって来ているのが見えた。

「あれって……炎!?」

 このままでは直撃してしまう。急いで翼を動かし、旋回。何とか、炎を回避した。

「な、何だったんでしょうか? 今の火球」

「さ、さぁ?」

 炎が飛んで来た方を見るとオレンジ色の大きな鳥が誰かと戦っているのがわかる。しかし、ここからでは鳥を戦っているのがどんな人なのか見えない。それほど、遠いのだ。

「ここからでもあの鳥が見えると言う事は相当、大きいね」

「はい、マスターの何倍もあるみたいです」

 見れば、鳥は森に向かって何度も火球を放っている。どうやら、あそこに獲物がいるようだ。

「マスター、どうしますか?」

「助けに行こう」

 鳥に襲われているのが人間か妖怪かはわからない。でも、目の前で殺されるのを見逃すのは嫌だった。

 翼を操作して鳥の方に移動し始める。この距離なら3分もしない内に到着するはずだ。何もなければ――。

「ッ!? マスター、下に回避!」

「え?」

 桔梗が悲鳴を上げたのですぐさま、急降下。その刹那、僕の体すれすれを火球が通り過ぎて行く。桔梗がいなかったら直撃していた。

「ま、まさかッ!?」

 火球が飛んで来た方向を見ると見た目は同じだがオレンジ色の鳥ではなく、青い鳥がいた。いや、ここまで大きければ怪鳥と言った方がいいかもしれない。そんな青怪鳥が僕たちを凝視していた。これは狙われている。

(に、逃げなきゃっ!)

 翼を動かして青怪鳥から距離を置こうとした。しかし、翼は言う事を聞かない。

「ど、どうして!?」

 桔梗は言っていたではないか。僕の意志を感じ取って桔梗が動かしていると。ならば、僕が右に行こうとすれば翼が勝って動いてくれるはずだ。それが言う事を聞かないと言う事は――桔梗に何かあったと言う事になる。

「桔梗!」

「……」

 すぐに声をかけるが嫌な予感が的中し、桔梗から何も反応がない。もしかしたら、先ほどの火球が翼に当たっていたのだろうか。そのせいで桔梗が動かなくなってしまったのかもしれない。

(いや、動かなくなってしまったのなら、こうやって浮かび続けていられないはず……なら、どうして?)

「……しい」

「え?」

「欲しい……あの、嘴が欲しい……」

 あの時と一緒だ。僕の携帯を見た時と同じ感じ。桔梗の物欲センサーがあの青怪鳥の嘴を欲しているのだ。

「桔梗! しっかりして、桔梗!」

 叫びながら青怪鳥を見れば、頭を引いていた。火球が来る。

 桔梗は正気を取り戻していない。そして、ここは空中。鎌でガードしようにも火球が大きすぎて全てを防ぎ切れない。

「なら……」

 背中の鎌を手に取り、鞘を消す。

(アリスさんに習った魔力の扱い方……それを応用すれば!)

 鎌を両手で持って右側に引いた。刃は水平に。心を落ち着かせる為に目を瞑る。姿勢を低くして腰も右側に捻った。

「すぅ……はぁ……」

 体の中に意識を集中させ、魔力を探る。

「見つけた」

 見失わない内に魔力を鎌の刃に纏わせ、少しずつ大きくした。目を開けると同時に青怪鳥が火球を吐き出す。数秒で僕たちに着弾するだろう。横目で鎌の刃を確認すると刃が緋色から青に変わっている。魔力の色だ。

「はあああああああああああッ!!」

 雄叫びを上げながら鎌を一気に薙ぎ払った。刃が大きくなった鎌は火球を真っ二つに切り裂く。2つに分断された火球は僕たちを素通りし、遥か後方で爆発した。

「ッ!?」

 青怪鳥がそれを見て驚愕するのがわかる。

「ハッ……ま、マスター! この状況は一体……」

 先ほどの爆発音で桔梗が我に返ったようだ。

「桔梗! 青怪鳥の嘴が欲しいんだよね?」

「え? あ、はい! 正気を取り戻しましたが、今でも欲しいと思っています!」

「了解! じゃあ、倒すよ! 二人で!」

「ッ! はい! わかりました、マスター!!」

 刃が巨大化した鎌を構えて青怪鳥を睨む。

「ギャオオオオオオオオオッ!!」

 僕たちが逃げずに立ち向かって来るとわかったのか青怪鳥が絶叫。その声量に思わず、耳を塞ぎたくなったが我慢する。

「桔梗、トップスピードでお願い!」

「了解です!」

 桔梗が頷いた瞬間、僕の体は青怪鳥の懐に潜り込んでいた。

「ギャッ!?」

 あまりの速さに青怪鳥が遅れて驚きの声を漏らす。その隙に鎌を下から突き上げる。鎌の刃が青怪鳥の嘴を捉えた。だが、すぐに弾かれてしまう。

「硬いッ!?」

 弾かれた衝撃で手がビリビリと痺れる。

「マスター! あの嘴は相当、硬いです! 狙うなら胴体を!」

「了解!」

 もう一度、鎌を下から突き上げるが青怪鳥は翼を羽ばたいてバックした。その時に発生した風圧で僕たちも吹き飛ばされてしまう。

「くっ……」

 何とか、翼を駆使して態勢を立て直す。

「すみません、もう少し早く言っていれば」

「大丈夫だよ。それより、一先ず距離を置いた方がいいかも……」

 嘴を攻撃された事によって青怪鳥が切れたらしい。

「ギャオオオオオオオオオッ!!」

 青怪鳥が雄叫びを上げた後、火球をいくつも放って来る。さすがにこの数は鎌で捌き切れない。

「逃げるよ!」

「は、はい!」

 迫り来る火球に背を向けてスピードを上げた。

「マスター! 右!」

「うん!」

 どうやら、桔梗は後ろを見る事が出来るらしく、僕に指示を出してくれる。その指示通り、右に移動。その刹那、火球が僕たちを通り過ぎて行った。

(火球の方が速い……)

「桔梗! 青怪鳥は!?」

 火球を回避しながら問いかける。

「火球を吐き出しながらこっちに向かって来ています。スピードでは……こちらが負けています」

 どのみち、このままでは追い付かれてしまう。今の内に青怪鳥に対抗する術を見つけないといけないようだ。

「桔梗、少し考え事したいから翼の操縦、まかせてもいい?」

「わ、わかりました!」

 少し、緊張したように頷いた桔梗を尻目に僕は思考の海へダイブした。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。