明日は普通に投稿します。
「……」
霊夢と霊奈が再会して3日、経った。
それから、俺のスケジュールも少しだけ変わっていた。
日にもよるが朝から昼過ぎぐらいまで大学で講義を受け、その後は幻想郷で仕事。そして、夜は1~2時間ほど山で霊奈に攻めの結界と刀の使い方を習う。
「……」
確かに睡眠時間は少しだけ減ってしまったが、苦になるほどではない。むしろ、やる気が出ているほどだ。霊奈が言うには刀も含め、攻めの結界を使えるようになるには1か月から3か月ほどかかると言われてしまったがまぁ、許容範囲内だ。
「……」
今だって早く、外の世界に帰る為に万屋の仕事を熟している途中だ。時刻は午後5時。いつもより、依頼の量が多くてこんな時間になってしまった。さすがに今日は博麗神社には寄れそうにない。
「……」
そろそろ、現実を見よう。今、俺は荷物運びの仕事をしている。さすがに手で運ぶはきついので荷物はスキホに収納しているのだが、届け先に一度も行った事がなく、いつものようにスキマが使えない。その為、こうやって飛んで移動している。
「……」
そう、それはいいのだ。こういう事も何度かあったし、逆にこれからの予定を考える事が出来るのでありがたい。しかし、今日はいつもと違うのだ。
「……」
幻想郷に来てからずっと、感じる背後からの視線。人里は家が多いのでその視線を送って来る犯人はわからなかったのだが、今は後ろを見ればわかる。向こうも隠れようともしていないのだ。
「……なぁ?」
「何かしら?」
いい加減、我慢の限界に達したので振り返りながら犯人に声をかける。それに対して犯人は逃げも隠れもせず、微笑んで答えた。
「何か用?」
「いえ、何もないわ」
「じゃあ、何で俺の後を付けるんだよ。てか、誰?」
俺が呆れながらも質問をぶつけるが、犯人は黙ったまま、俺に接近して来る。服装は青いワンピースのような感じで、羽衣を身に付けていた。更に髪も青く、独特な髪型だ。
「ちょ、近いよ!」
俺の悲鳴が聞こえていないのか聞こえていても無視しているのか、犯人は俺の顔を至近距離で観察する。それから、俺の周りを一周して無言のまま、頷いた。
「……?」
「音無 響。万屋をしていて人里でよく、働いている。しかし、住んでいる場所は外の世界。仮式、式神共に2体ずつ使役していてここでもたまに召喚する。更に血の繋がっていない妹が一人。そして、紅魔館の悪魔の妹とは血が繋がっている兄妹。脱皮異変、狂気異変、魂喰異変を見事、解決した。少し前にとある男によって能力を消されてしまったが、無事に取り返し、今に至る」
「ッ!?」
幻想郷に来てから俺がして来た事を淡々と述べる犯人。すぐに距離を取って5枚のお札を構える。
「大丈夫。私は貴方を殺そうとしないわ」
今の一言で俺の性別が男である事も知っているのがわかった。お札に霊力を込める。
「だから、大丈夫だって。私は霍 青娥。邪仙よ」
その名前には聞き覚え――いや、見覚えがある。少し前に阿求の家で本の整理をしている時に見たのだ。
「その邪仙様が俺に何の御用で?」
「警戒しなくてもいいのに……そうね。一言で言ってしまえば“興味を持った”かしら?」
俺の嫌な予感が的中し、心の中で舌打ちする。阿求の本では青娥は気に入った人物について行く事があると書かれていた。対処法は向こうが飽きるまで無視する事。だが、俺はこうやって会話まで交わしている。
(まぁ、攻撃とかはして来ないみたいだし……無害っちゃ無害だけど)
「何で、俺の事をそんなに知ってる?」
「色々な所で聞いたり、貴方について行ったりしてわかったわ」
「今までにもさっきみたいに尾行を?」
それが本当だとしたら全然、気付かなかった。
「まぁ、壁の中を通ったりしてたから気付かなかったと思うわ。今日はお話がしたくてわざとわかりやすくしてたの」
「そうなのか……」
見た目はニコニコしていて優しそうだが、頭は切れるらしい。そう言えば、かなりの実力者と本にも書かれていた。
「それにしても……こうやって、近くで見ても男だって思えないわ」
「どこかで俺が男だって聞いたのか?」
何気なく質問する。
「いいえ」
しかし、青娥は首を振って否定した。
「じゃあ、どうやって?」
「そりゃ、あんな立派な物を見れば男だってわかるわ」
右頬に手を当てて顔を紅くする邪仙。
「……ちょっと待って。言っている意味がわからないんだけど」
「もう、女性に言わせようとするなんて貴方も男なのね」
「……わかった。言わせないから教えろ。いつ見た?」
幻想郷で俺のあそこを見るタイミングなど皆無にも等しい。
「貴方が博麗神社に義妹と泊まった時に」
「ああああああっ!?」
確かに望と一緒に博麗神社に泊まった時に博麗神社の露天温泉に入った。まさか、あの時に青娥に尾行、そして見られていたとは。今更、恥ずかしくなり、顔が熱くなっていくのを感じる。
「あらあら、可愛いわね」
「う、うるさい! 誰のせいでこうなってると――ッ!?」
そこまで言った所で後ろから邪悪な気を感じ取って振り返った。
「どうしたの?」
そんな俺を見て不思議そうにしている青娥は気付いていないようだ。
「い、いや……何かいたような」
何か、体の内側を抉り取られるような感覚。全てを飲み込もうとする威圧。そのような感じだった。思い出しただけでも冷や汗が止まらなくなる。
「大丈夫?」
「あ、ああ……」
「依頼を済ませて博麗神社に戻りましょ?」
確かに少し疲れてしまったので遅くなってしまうが博麗神社に寄ろう。
「付いて来るの?」
「もちろん」
笑顔で頷く青娥を見て俺は溜息を吐いた。
「貴方も不幸ね。その邪仙に気に入られるなんて」
「助けてくれない?」
「無理よ、諦めなさい」
そう言って霊夢はお茶を啜った。
「ほら、早く外の世界の話を聞かせて頂戴」
俺の右腕を引っ張って急かす青娥に嘆息しつつ、湯呑を傾ける。
「えっと……どこまで話したっけ?」
「霊奈の所までよ」
左から霊夢が教えてくれた。
「ああ、そうだった」
「それなら知ってるわ。私も聞いていたもの」
「あの時、いたんだ……」
「ええ、あの子の事も気になってるの。今度、連れて来てくれない?」
「それは無理かな」
面倒くさいので。
「なら、万屋の仕事としては?」
「報酬による」
「何か欲しい物、ある? もしくは、して欲しい事」
「俺から離れて欲しい」
「それは無理な相談ね。まぁ、いいわ。これから貴方について行けばいつか、会えるもの」
こいつは本当にストーカーするつもりらしい。
「……」
「霊夢?」
青娥に呆れながら左を見ると霊夢が下を向いている事に気付いた。
「ねぇ? 最近、ルーミア見た?」
「ルーミア? ああ、3日前に弾幕ごっこしたけど……」
「どんな様子だった?」
「どんなって……おかしかった」
「具体的に」
何となくだが、霊夢が焦っているような感じがした。まるで、手遅れになる前に対処しようとするかのように。
「普段よりも強かったかな。それと笑ってなかった」
「……響。明日から1週間、こっちに来ない方が良いわ」
「え?」
「紫には私から言っておくから万屋を休みなさい。どうせ、明日は満月だからこっちには来れないけど」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。いきなり言われてもわかんないよ!」
立ち上がって霊夢の正面に立つ。
「これは博麗の巫女としての忠告よ」
「……勘って奴か?」
「まぁ、ね。万が一、間に合わなければ貴方に託す事になるけど……貴方なら出来るわ」
間に合わない? 託す? 俺には全く、意味がわからなかった。青娥の方を見るが青娥もわかっていないようで首を横に振る。
「ちょっと、出かけて来るわ。湯呑とかはそこに置いておいていいから早く帰りなさい」
「霊夢」
飛び立とうとする霊夢を止めた。
「何?」
「……俺に、どうにか出来るのか?」
「それは私にもわからない。でも――信じてる」
そう言って、霊夢は凄まじいスピードで飛んで行った。
「……青娥。少し、頼み事があるんだけど」
「何かしら?」
「霊夢について行ってやってくれ。どうせ、万屋の仕事も終わったし、今日は帰るだけだ」
「はいはい。了解したわ」
青娥が霊夢の後を追って飛んで行くのを見守りつつ、俺はスキホからPSPを取り出す。
その夜、紫から『1週間、万屋を休め』と言うメールが届いた。