東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第160話 響の授業

 ルーミアとの戦闘から数十分後、俺たちは三途の川の上空にいる。

「えっと……」

 小町を探しているのだが、見当たらなかった。いつもはそこら辺でサボっているのだが、珍しく働いているのかもしれない。

「あ、いたよ!」

 雅が指を指しながら叫ぶ。その先には木の根元で昼寝している小町がいた。

「やっぱり、サボってたか……」

「あの人は?」

 後ろから霊奈の問いかけが聞こえる。

「ああ、死神だよ」

「え!? し、死神!?」

「あ、大丈夫。死神と言ってもあまり人を殺したりしないから」

「あまりって……」

 霙の背中を叩いて地面に向かう。

「小町は幽霊を三途の川の向こうにある裁判所に連れて行くんだ」

「へぇ……裁判所って?」

「そこで幽霊を裁くんだよ。地獄に行くかどうか」

「じゃあ、その裁判所には閻魔様がいるんだ」

「ああ、ちっこいけどな」

 霊奈が首を傾げた所で霙が地面に降り立った。すぐに俺も飛び降りて、小町の肩を叩く。

「おい、小町」

「……ん? 誰だい? 私の昼寝を邪魔するのは……ああ、響か」

 大きな欠伸をした後、立ち上がる小町。

「体の方は大丈夫なのか?」

 目を擦りながら小町が質問して来た。

「え? 何で知ってるの?」

「ほら」

 俺の問いには答えずに新聞(文々。新聞だ)を差し出して来る。記事を読むと『俺が力を使い過ぎて永遠亭で休んでいる』と言うものだった。

「どこから情報が……」

「噂によると紅魔館の主が薬師と文屋に交渉したらしい。お前が倒れたり、動けなくなったら教えろって。具体的に言うと薬師が文屋に教えて文屋が記事にしろとか何とか……」

(まぁ、俺が行かなかったらフランが暴れるからな……)

 少しだけ申し訳なくなってしまった。後でレミリアに謝ろう。

「それで? 今日は何の用?」

「久しぶりに鎌の修行しようかなって」

「見た感じ、調子悪そうだけど?」

「まぁ、ね……ほら」

 右手に鎌を出現させようとしたが、形が創造された瞬間、弾けてしまった。

「そんな調子で修行、出来るのかい?」

「今まで対戦形式で教えてたけど今日は今までの復習。今、どれくらい出来てるか確認したかったんだ」

「なるほど……今更だけど、後ろの人たちは?」

 振り返ると霊奈たちが困ったような表情を浮かべていた。どうしたらいいかわからないらしい。

「ああ、紹介が遅れたな。左から順番に、雅、霊奈。狼は霙だ。雅と霙は俺の仮式と式神で霊奈は……俺の幼なじみだ」

「よろしく、私は小野塚 小町。死神だよ」

「よろしく」「よろしくお願いします」「バゥ!」

 雅はぶっきらぼうに、霊奈は丁寧に、霙は吠えて返事した。

「じゃあ、挨拶もすんだしそろそろ、始めるか。すまんが30分ぐらい、小町の修行をする。暇だったら、適当に遊びに行ってもいいけど……」

「ううん。私は見てるよ。響ちゃんの先生姿も見たいし」

「私もここにいるかな。小町がいるから大丈夫だと思うけど、念のためにね」

 霙に至ってはもうその場でお座りしている。

「了解。俺も調子悪いから今日は短めにする。小町もいいか?」

「ああ、幽霊も少ないからサボりたいし」

「……お前、少しは働けよ。映姫に言うぞ?」

「え!? そりゃないよ先生!」

 涙目になりながら小町。その手にはすでに鎌が握られていた。

「はいはい……じゃあ、始めるぞ」

「了解!」

 そう言って小町が能力を使って数メートル先にワープする。

「そうだな……最初はコンビネーションから」

 それから40分ほど、鎌の使い方を復習した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小町の修行が終わった後は白玉楼や守矢神社、途中ですれ違ったリグルやみすちーに挨拶した為、予定よりも紅魔館に向かうのが遅れてしまった。

「響ちゃん、すごいね」

「え?」

 もうそろそろ、紅魔館に着く頃。霊奈がボソッと呟いた。

「だって、幻想郷の皆に好かれてる。それってやっぱり、すごい事なんだよ」

「そうかな?」

 俺はただ普通に接しているだけだからあまり、実感できない。

「少なくとも私には無理。あんな風にすれ違っただけで話しかけられたりしないもん」

「幻想郷は狭いから。ご近所付き合いだよ」

「外の世界じゃご近所もなくなって来たよね」

 今はテレビゲームなど、家の中で遊べる物が増えて来た。その為、外で遊ぶ子供が昔より減って来ている。俺たちはゲームを持っていなかったので外で遊んでいた。それもあってかはわからないが、霊奈は寂しそうだ。

「……とりあえず、紅魔館に行こう」

「うん」

 霊奈が頷いたのを見て霙の背中を叩く。すぐに霙が速度を上げた。

「止まってください!」

 だが、突然美鈴が俺たちの前に立ちはだかる。

「美鈴! 俺だよ!」

「え? 響さん?」

 キョトンとする美鈴。

「どうしたんだ? いつもは寝てるのに」

「最近、フラン様が外に出たがるので警戒態勢なんです……誰かさんが永遠亭で寝込んでると文々。新聞に書かれていたので」

「うっ……」

 レミリアの作戦は確かに成功した。美鈴が言うにはフランは暴れていないらしい。しかし、今度は俺のお見舞いに行きたいと駄々をこね始めたそうだ。真面目にレミリアに謝ろう。

「ごめんな?」

「いえ、そのおかげで咲夜さんにナイフで刺される事も少なくなりましたし」

(そりゃ、昼寝していないからな……)

「それにしても吃驚しましたよ。見慣れない狼が近づいて来たんですから」

 美鈴は下から俺たちを見てここまで来たようだ。下からじゃ霙の背中に乗っている俺と霊奈の事はよく見えない。

「そう言えば、雅も紅魔館、初めてか?」

「うん。話では聞いた事あるけど実際に見るのは初めてかな?」

 他の一人と一匹はもちろん、初めてだ。

「……」

 そこで美鈴が霊奈を凝視しているのに気付く。

「どうした?」

「いえ……何やら、響さんの後ろのお方から博麗の巫女と同じような気を感じたので」

「っ!?」

 美鈴の言葉を聞いて霊奈が顔を強張らせた。どうやら、『博麗になれなかった者』の事は知られたくないようだ。

「これのせいじゃないか?」

 霊奈が着ていた上着のポケットに手を突っ込んで博麗のお札を取り出す。

「え?」

 それを見て驚いたのは霊奈だった。

「ああ、なるほど。確かに博麗のお札から博麗の巫女の気が感じ取れるのは当たり前ですね」

 美鈴が納得してくれて助かった。

 手にお札を持って霊奈のポケットに手を突っ込み、あたかもポケットにお札が入っていたかのように見せたのだ。美鈴の能力は『気を使う程度の能力』。すぐにばれてしまうかもしれないと思ったが、俺と霊奈の距離が近かった為、気付かれなかったようだ。

「美鈴、そろそろ中に入っていいか?」

「え? あ、はい! こちらからもお願いします!」

 美鈴が退いてくれたのでやっと、先に進める。霙に合図を出して紅魔館に向かった。

「あ! ちょっと待ってください!」

 しかし、すぐに美鈴に止められてしまう。

「何だ?」

「今、お嬢様と咲夜さんがおでかけ中でして……」

「おでかけ? どこに?」

「え、永遠亭です」

 申し訳なさそうに美鈴が教えてくれた。

「ああ、なるほど……すれ違いか。霙、急いで紅魔館の中に入るぞ」

「え? でも、レミリアいないんでしょ?」

「今は説明してる暇はない! 急げ!」

 雅の質問を無視して移動を開始したが、すぐに後ろに強大な霊気を感じる。

「雅、防御準備! 霙は水圧弾! 霊奈は出来れば鉤爪を出してくれ!」

「「「了解!!」」」

 すぐに3人に指示を飛ばす。俺も博麗のお札を取り出して印を結ぶ。

「霊盾『五芒星結界』!」

 星形の結界を出現させ、攻撃に備える。

「きょおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 遥か遠くからレミリアの絶叫が轟いた。そのすぐ後に赤い槍が飛んで来る。

「霙! 水圧弾、発射!」

 俺の掛け声に合わせて水圧弾が槍に向かって突進し、衝突した。だが、槍の威力が凄まじく、水圧弾を突き破る。

「雅、翼で防御!」

 雅の6枚の翼が槍を止めようとするが、数秒後には弾かれてしまった。

「はあああああっ!」

 もうすぐで槍が俺たちに襲い掛かる所で俺の結界と槍がぶつかる。水圧弾と雅の翼で威力が落ちているようだが、いつもの調子ではないせいか結界が破壊されてしまった。

「ッ!」

 その時、ジャンプした霊奈が結界で出来た鉤爪で槍を切り裂く。槍はバラバラになって消滅した。その後、霙の背中に上手く着地する。

「響! どこ行ってたのよ!」

 レミリアが超高速で俺の前まで来てそう叫んだ。

「い、色々な所だよ」

「まずはここに来るべきでしょ!」

「紅魔館に来たらフランと遊ぶ事になるだろ? その後、動けなくなるから先に他の所に挨拶しないとって」

「それは明日とかでもいいでしょうが! こっちはどんだけ大変だったかわかってるの!?」

「それはホントにゴメン」

 やっぱり、大変だったみたいだ。

「全く……で? 何で、こんなに大勢なの?」

 横目で霊奈たちを見ながらレミリア。

「とりあえず、紹介するよ。仮式の雅。式神の霙。幼馴染の霊奈だ」

「……まぁ、いいわ。早く行きましょ? そろそろ、パチュリーも限界だと思うし」

 どうやら、パチュリーがフランの相手をしているらしい。後でパチュリーにも謝ろう。

「貴方たちも来なさい」

「え? あ、はい」

 困惑したまま、霊奈が頷く。そのまま、俺たちは紅魔館に向かった。

 


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