「本当にありがとうございました」
「いいのよ」
頭を深々と下げてお礼を言う霊奈。それに永琳は笑顔で答えた。
「俺からも言うよ。あの傷は外の世界じゃ治せないから」
「貴方も気を付けなさいよ? 動けなかったのは貴方だって同じなんだから」
「え?」
「あ、バカッ!」
『ブースト系』を使うと俺の体は弱体化してしまい、自分で動く事が出来なくなってしまう。幽香と戦った時も大変だった。
その事は霊奈に言わないでおいたのに永琳にあっさり暴露されてしまう。
「響ちゃん? どういう事?」
「響は『ブースト系』のスペルを使うと数日間、動けなくなるのよ」
「また、お前は……」
「だ、大丈夫なの?」
「まぁ、歩く事は出来るけど走れないだろうな……霙」
玄関で靴を履いた後、入り口の方に声をかける。外の世界から霊奈を運んだ時、霙に手伝ってもらったのだ。帰そうとしたが、その前に気絶してしまい、そのまま幻想郷に事になった。まぁ、一生懸命俺のお世話をしてくれたからありがたかったのは確かだ。
「はい、こちらに」
「すまん。俺と霊奈を背中に乗せて運んでくれないか? 霊奈は元々、飛び方を知らないし俺も本調子じゃないから」
「了解であります!」
笑顔で頷いた霙はすぐに狼の姿に変化する。さすがに玄関で霙の背中に乗るわけにも行かず、外に出た。
「1週間後、2人揃って来なさい。診察するから」
「おう」「わかりました」
霊奈に手伝って貰いながら霙に乗る。すぐに霊奈も俺に続いた。
「じゃあ、またな」
「ええ。今度は元気な姿で来て頂戴」
手を振りながら永琳。俺たちも手を振り返したのを見て霙が走り始める。
「霙、地上を走ってたら迷うぞ。空を飛んだ方がいい」
「バゥ!」
頷いた霙はすぐに空を飛んだ。
「うわぁ……」
竹林を抜け、眼下に緑豊かな大地が広がる。それを見て霊奈が声を漏らした。
「これが幻想郷だ」
「すごいね……」
「霊奈、ちょっと寄りたいところがあるんだけどいいかな?」
「え?」
「いや、ここ数日仕事出来なかったから、心配してる人もいるみたいで治ったら顔を出すように言われてて……」
とりあえず、紅魔館には行かなくてはいけない。また、フランのご機嫌は斜めだろう。
「私はいいけど」
「おう。じゃあ、まずは……人里かな?」
俺が一番、長い時間過ごしているのは人里だろう。
「人里?」
「ああ、あそこだよ。人間たちが住んでる場所だ」
「幻想郷にも人間がいるんだね」
意外そうに霊奈は呟く。
「いなきゃ妖怪が生きていけないからな」
「食べ物、ないもんね」
「それは違うよ」
すぐに否定する。
「?」
「妖怪が存在して行く為には人間の恐怖が必要なんだ。元々、妖怪の産まれた理由は人間の恐怖。だから、人間がいなければ妖怪も死んでしまうんだよ」
「そうだったんだ……」
「じゃあ、人里に向かうぞ。霙」
俺の指示に鼻を鳴らす事で答えた霙はすぐに人里に向かって飛んだ。
「すごかったね……」
「ああ……想像以上だった」
人里である程度、挨拶しまた霙の背中に乗って移動中。俺と霊奈はくたびれていた。
霙に乗ったまま、人里に降りてしまった為、人里の人たちが集まって来てしまったのだ。
色々と質問攻めにされて霙が神狼だと話すと今度は霙を撫でたり、お肉を与えようとしたり、拝み始めたりと大変だった。
最近、守矢神社や命蓮寺など信仰を集める人たちが増えたので人里の人々も信仰の大切さを理解しているらしい。
「よかったな、信仰増えて」
霙の背中を擦りながら言う。これで霙の力も増えたはずだ。
「次はどこに?」
「三途の川だ」
小町の修行をしなくてはいけない。最近、何かとほったらかしにしていたのだ。
「へぇ……え!?」
「ああ、大丈夫。渡ったりしないから」
「そ、そうなんだ。てっきり、自殺しに行くのかと……と言うより、三途の川あるんだね。幻想郷」
「冥界もあるぞ」
「すごい所だね……本当に」
その時、後ろから一つの弾が右側を通り過ぎる。
「霙! 旋回!」
「バゥ!」
「え? え? 何!?」
困惑している霊奈。申し訳ないが、今はスルーさせていただく。すぐに旋回した霙のおかげで襲って来たのがルーミアだとわかる。
「目標、ルーミア! 水圧弾、発射!」
霙の口から巨大な水弾が射出された。だが、ルーミアの放った弾に弾かれてしまう。
「くっ……霊奈、少し揺れるぞ!」
「う、うん!」
忠告した途端、目の前に弾幕が広がった。
「魔法『探知魔眼』!」
『魔眼』を発動させ、情報を霙と共有する。すぐに霙の動きが変わった。
「響ちゃん! 上から来てるよ!」
「白壁『真っ白な壁』!」
真上に両手を伸ばして白い壁を創る。しかし、3秒ほどで壁が壊れてしまった。その間に博麗のお札を5枚、投げて印を結ぶ。
「霊盾『五芒星結界』!」
今度は弾を全て受け切る事に成功する。
(何だ……この違和感)
一瞬、頭によぎった違和感だが、何に対して違和感を覚えたのかわからなかった。深く考えようとしたが、ルーミアの弾幕がそれを邪魔する。
「くそ! 仮契約『尾ケ井 雅』!」
急いで雅を召喚。
「また、すごい事になってるね!」
6枚の翼で弾幕を防ぎながら雅が叫ぶ。
「すまん!」
「大丈夫だよ! それより今の内に攻撃!」
「ああ!」
実は雅は防御タイプなのだ。今までは俺に火力がないので戦って貰っていたが、今は霙がいる。雅が敵の攻撃を防ぎ、その隙に俺と霙で攻撃すると言う連携が取れるのだ。
弾幕が落ち着いた所を狙って霙がルーミアに接近する。雅もすぐに俺たちを守れるようについて来た。
「……」
やっぱり、何か違う。ルーミアの様子がおかしいのだ。
「闇符『ダークサイドオブザムーン』」
「雷雨『ライトニングシャワー』!」
ルーミアの弾幕と俺の弾幕が衝突し、爆音が轟く。
「なっ!?」
だが、ルーミアの弾幕が黒煙の中からこちらに向かって来る。雅の翼も間に合いそうにない。
「はあああああっ!」
その時、霊奈が前にジャンプして、ルーミアの弾幕を巨大な鉤爪で弾き飛ばした。全ての弾幕を弾いた後、霊奈の体は重力に従って落ちて行く。
「雅! 霊奈を頼む!」
「了解!」
雅の翼が霊奈を受け止めたのを見て目の前の敵に集中する。
「霙!」
霙の背中から離れながら霙の名を呼んだ。ちょっと、フラフラしてしまったが飛べない事はないらしく、浮遊しながらスペルを取り出す。
「はい!」
擬人モードになった霙が辺り一面に大量の小さな水の弾を出現させた。すぐに俺の右手から電撃を一番近くにあった水の弾に向かって放つ。すると、電撃が水の弾を伝ってルーミアの方に向かって突進して行く。
「水流『ウォーターライン』!」「電流『サンダーライン』!」
俺と霙の合体技がルーミアに炸裂する。体から煙を放ちながら森の中へ落ちて行った。
「……」
だが、勝ったと言うのにこの不安はなんだろう。
「どうしたの?」
霙がまた、狼モードに変化し、霊奈がその背中に乗るのを見ていたら雅が問いかけて来た。
「……なぁ? なんか、ルーミア変じゃなかったか?」
「そうかな? 最初から戦ってないからわからないけど……あ、情報頂戴」
「おう」
一応、記憶の共有も出来る。しかし、記憶は時間が経てば曖昧になって行くのであまり、共有した事はない。
今回はつい先ほどの事だったので無事に記憶を伝える事に成功した。
「確かに……弾幕の威力も上ってるし、雰囲気も違う」
「ああ、いつものように話しかけて来なかった。それに笑ってなかった」
ルーミアは俺と弾幕ごっこする時はいつも笑顔だった。でも、今日のあいつはどこか、苦しそうだった。
「響ちゃん、どうしたの?」
その時、心配そうに霊奈が近づいて来る。
「いや……何でもっ」
やはり、体の調子が悪いようでバランスを崩してしまい、浮遊感が消えた。
(まずっ……)
このままではルーミアが落下した森に俺も落ちてしまう。だが、その前に雅の翼が俺の体に巻き付いてそれを阻止してくれる。
「全く……ブーストを使うからだよ」
「後悔はしてない」
「はいはい。また、何かに襲われたら大変だから私もついて行くよ」
「すまん」
「いいって」
霙の背中まで運んでもらい、乗る。霙にも迷惑をかけてしまったので労いを込めて霙の背中を2回、軽く叩く。通じたようで、鼻を鳴らして答える霙。
「じゃあ、行くか」
「そう言えば、どこに行くの?」
首を傾げながら雅が質問して来た。
「三途の川」
「ああ、鎌の修行ね」
「鎌?」
今度は霊奈。
「行けばわかるよ。霙、頼む」
「バゥ!」
ルーミアの事も気になるが、満月が近いからだと納得し、三途の川に向かった。