東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第157話 3人の式神

「仮契約『尾ケ井 雅』! 式神『霙』!」

 霊奈に貫かれた腹を押さえながら、仮式と式神を呼ぶ。

「やっぱり、私たちの力が必要だったん……ちょっと! 本当にやられてるじゃん!」

「ご、ご主人様!? 大丈夫ですか!?」

 駆け寄って来る雅と霙を手で制止させる。その時には腹部の傷は治っていた。

「ねぇ? これってどういう状況?」

「待って。今、説明する」

 頭の中で今まであった事をまとめ、二人の頭に送る。

「……『神箱』が破られたんだ」

「ああ……多分、あの爪は相当、威力が高い」

 『神箱』は『霊盾』の次に硬度が高いスペルだ。そう簡単にスペルブレイクされたりしない。

「霙、狼モードだ」

「了解であります!」

 霙がジャンプして狼の姿に変わる。

「よかった。やっと、本気になってくれたんだね?」

 待っていてくれた霊奈が安心したように呟く。因みに、霊奈は爪を俺の腹から抜いた時にバックステップして距離を取っていた。だいたい、6メートルといった所か。

「雅。お前の炭素も切り刻まれるかもしれないから気をつけろよ」

「作戦は?」

「雅が霊奈の動きを止めて霙と俺が攻める」

「了解!」「バゥッ!」

 頷いた二人は霊奈に向かって走り出す。

「せいっ!」

 まず、雅が6枚の翼でドリルを作り、一気に伸ばした。霊奈は両爪で迎え撃つ。ドリルと爪がぶつかり合い、火花が散る。その隙に霊奈の左側に移動した霙が口から水圧弾を発射した。

「無駄だよ」

 霊奈はそう言って左足を上げ、水圧弾を蹴る。そして、水圧弾が弾けた。

「マジかよ……」

 霙の水圧弾はドラム缶をぺしゃんこに潰すほどの威力だ。それを鉤爪が付いているからと言って蹴りだけで消滅させてしまうなんて。

「拳術『ショットガンフォース』! 飛拳『インパクトジェット』!」

 連続でスペルを発動。『飛拳』で空を飛び、霊奈の背後を取った。着地せずにそのまま、妖力を纏った右手で裏拳を霊奈の側頭部目掛けて繰り出す。

「――」

 しかし、それを予知していたかのような動きで霊奈が姿勢を低くした。そのせいで裏拳が空を切る。それだけではない。右足を上げて、俺の方につま先――つまり、鉤爪を向ける。次の瞬間、鉤爪が伸び始めた。

「なっ!?」

 このままではまた、刺される。でも、今の態勢では『飛拳』でも回避が間に合わない。

(霙!)

「バゥ!!」

 頭の中で式神の名を呼ぶ。俺の言いたい事が伝わったようで霙が再び、水圧弾を放った。霊奈にではなく、俺に向かって。

「ガッ……」

 爪よりも先に水圧弾が俺にヒットし、吹き飛ばされる。ドラム缶を潰すほどの威力だ。鎖骨と左腕の骨が砕けた。そのまま、地面を転がって霊奈から離れる。その間に霊力を流して骨を再生。

「やっ!」

 とうとう、霊奈が爪で雅のドリルを弾く。雅も急いで距離を取った。

「響ちゃん。少しは考えてみてよ。これでも私は博麗の巫女候補だったんだよ?」

 追撃はして来ないようで俺に話しかけて来る霊奈。

「博麗の巫女候補……そうか。勘か」

 霊夢の勘はあり得ないほど鋭い。それは霊奈も同じようで先ほど、俺の裏拳を躱す事が出来たのも勘のおかげだろう。

「うん。だから、ある程度の事は予知できるよ。だから、早く教えて。色々な事」

「俺と戦いたかったんじゃないのか?」

「もう、いいかな? 響ちゃんの実力はだいたい、わかったし」

 その霊奈の言葉に少しだけイラッとする。

「……すまんな。まだ、俺が満足してないんだ」

 とあるスペルを取り出しながら、断った。

「ちょ、ちょっと!? 響! そのスペル!?」

 スペル名が見えたのか雅が驚愕する。

「契約『奏楽』!」

 スペルを宣言すると、白いワンピース姿の奏楽が現れた。その姿は子供ではなく、大人だ。やはり、式神として呼ぶとこの姿になるらしい。

「奏楽、ゴメンな。呼ぶつもりはなかったんだけど……」

「大丈夫だよ。お兄さん。呼んでくれて嬉しい」

 微笑みながら奏楽。リーマも呼ぼうかと思ったが、あいつも仮式。仮式が二人もいてはすぐに俺の地力が底を尽いてしまう。

「頼むぞ」

「うん」

「奏楽ちゃんも響ちゃんの式神だったんだね」

 さほど驚いてはいないようで霊奈が冷静に状況を把握する。

「霊奈お姉さん。行くよ」

「どこからでもどうぞ」

 奏楽が裸足のまま、霊奈に向かって歩き始めた。それを見て少しだけ眉を顰める霊奈。

(ん?)

 どうして、そのような表情をするかわからなかった。俺が疑問に思っている間に奏楽が霊奈の前まで移動する。だが、何故かそこで立ち止ってしまった。

「来ないならこっちから!」

 霊奈が鉤爪で奏楽を襲う。

「―――」

 それに対して、奏楽は口から俺には理解できない言葉で何かを呟く。その刹那、奏楽の目の前に半透明の壁が生まれる。そのまま、爪が壁にぶつかり、“霊奈を弾き飛ばした”。後方に吹き飛ばされながら目を見開いて驚く霊奈。

「―――」

 また、奏楽が言葉を紡ぐ。そして、吹き飛ばされていたはずの霊奈が空中で止まり、奏楽の方に引き寄せられる。

「ハッ!!」

 タイミングを合わせて、奏楽が霊奈の鳩尾に軽く叩いた。

「~~~~~ッ」

 一瞬、空中で動きを止めた霊奈だったが、1秒後に声にならない悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。そのまま、咳き込む。気絶はしていないようだが、相当なダメージを受けたらしい。

「何、あれ?」

 いつの間にか俺の隣まで来ていた雅が問いかけて来るが、俺はただ首を振った。俺もわからないのだ。

「奏楽さんは霊奈さんの魂を揺さぶったようです」

 狼モードから擬人モードになって霙が説明してくれる。

「魂を揺さぶる?」

「はい。物理的ではなく、精神的な攻撃です。例えば、対象者のトラウマなどを思い出させたり、恐怖を与えたり」

「トラウマとかどうやってわかるんだよ」

「奏楽さんの能力ですよ。『魂を繋ぐ程度の能力』。霊奈さんの爪が奏楽さんが生み出した壁にぶつかった時に繋いだのでしょう」

 そこで俺は一つ、疑問が浮かんだ。

「なんで、そんなに詳しいんだ?」

 確か、奏楽の能力名は霙に言っていないはず。

「……一度だけ、奏楽さんと戦った事があるからです」

「「はぁっ!?」」

 衝撃の事実に声を出して驚く俺と雅。

「ご主人様に会う前に……その時、コテンパンにやられました」

 悔しそうに霙。奏楽を見れば、黙ってまだ立ち上がれない霊奈を見ながら涙を流していた。

「きっと、霊奈さんの過去を見たのでしょう……あの子は優しい子です」

「……じゃあ、さっきの壁とかは?」

 今度は雅が質問する。

「周りの幽霊を固めた物だと思います。密度が濃ければ濃いほど頑丈になるみたいです」

「霊奈を引き寄せたのは?」

「幽霊を操って引き寄せたように見せた。まぁ、こちらの世界では幽霊は肉眼で視る事が出来ないのであたかも霊奈さんの体が勝手に奏楽さんの方に引き寄せられたように見えたんです」

 霙の冷静な分析に驚いてしまう。ずっと、アホキャラだと思っていた。

「? そ、そんなに見つめないでください……恥ずかしいです」

 そう言いながら体をくねらせる霙。前言撤回。

「っ! 奏楽!!」

 雅の悲鳴に奏楽の方を見ると丁度、奏楽が倒れた。

「奏楽っ!?」

 急いで奏楽の元に駆け寄る。体を起こして呼吸を確認。息はしているが、苦しそうだ。

「能力の使い過ぎです! ご主人様! 奏楽さんを返してあげてください!!」

 急いでスペルを解除。奏楽が目の前から消えた。

「はぁ……はぁ……」

 息を荒くしたまま、霊奈が立ち上がる。見るからに限界だ。それなのに構えた。まだ、戦う気らしい。

「お前も休め」

「い、やだ……まだ、負けてない」

「何で、そこまで」

「響ちゃんに勝てなきゃ、霊夢にだって勝てない」

「……俺は何もしてない。式神のおかげだよ」

 霊奈に触れる事すら出来ていないのだ。

「違うよ。雅ちゃんだって、霙だって、奏楽ちゃんだって……響ちゃんがいたから今がある。それぐらいわかるよ」

 その時、霊奈の爪が音を立てて砕けた。奏楽の攻撃によって霊力のコントロールが効かないらしい。

「響ちゃんの強さは純粋なパワーじゃない。その心なんだよ」

「心?」

「響ちゃんの周りの人は響ちゃんに支えられて生きている。望ちゃん、悟君、そして式神の3人。それだけじゃない。私だってそうだ……この青いリボンがあったからここまで頑張って来れた。これを付けていれば響ちゃんが近くにいると思えた」

 ポケットから青いリボンを出して再び、髪を結う。しかし、今度はポニーテールではなく、サイドテール。丁度、フランとは逆側に括り付けた。

「いい? 私は全力で響ちゃんに攻撃を仕掛ける。だから、一撃だけ響ちゃんも本気を出して」

 そう言うと霊奈は先ほどとは比べ物にならないほどのお札を取り出す。

 


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