東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第155話 正体

 怜奈と再会して2週間ほど経った。

 今日のバイトも終わり、暗い夜道を肉まん片手に歩いていた。

「ん?」

 丁度、肉まんを食べ終えた時、前に見覚えのある青いリボンが揺れているのを発見する。

「怜奈?」

「え? あ、響ちゃん……」

 俺の声が聞こえたのかすぐにこちらに振り返った怜奈。

「どうしたんだ? こんな夜遅くに?」

「あ、いや……少し買い物を」

「その割には何も持ってないけど?」

 今から行くにしても怜奈が向かっていた先にはヒマワリ神社がある山だ。あのような場所に店などないと思うが。

「い、いや……」

 怜奈が冷や汗を流しながら必死に何かを誤魔化そうとしているのがわかった。

「……ん?」

 何を隠しているのか聞こうと思ったが、その前に山の方に妖力を感じ取る。外の妖怪にしては強い。このままでは山を降りて来て、人を襲ってしまうかもしれない。

「怜奈。今日は帰れ」

「え?」

「ちょっと、用事が出来た。あ、すまん。これ、捨てておいてくれ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 肉まんのゴミが入ったビニール袋を止めようとする怜奈に押し付け、山の方に向かって走り出した。

 山に入ってから魔眼を発動。どうやら、妖怪は1匹ではないようで生き物の反応がいくつか見受けられた。

『どうじゃ? 行けそうか?』

 魂からトールの心配そうな声が聞こえる。

(満月が近いからいつものように妖力と神力は使えないけど……多分、大丈夫)

「いた……」

 茂みから妖怪の様子を窺う。数は4匹。見た目は小さなクマだが、爪が鋭く、頭には2本の角が生えていた。

(やっぱり、一人だと厳しいか……)

「仮契約『尾ケ井 雅』。式神『霙』」

 クマ達に気付かれないように仮式と式神を呼び出す。

「あれ? どうしたの、響?」

 首を傾げながら雅。仮式として呼び出された時は高校の制服なのだ。俺も山を登りながら高校時代の制服に着替えていた。普段着が破けてしまったら、修正できない。

「あれだ」

「……妖怪ですか?」

 外の世界では妖怪を初めて見たのだろう。霙が問いかけて来た。

「ああ、俺の仕事の一つに外の世界にいる妖怪を退治するってのがあってな。妖怪を見かけたら攻撃しろって命令されてる」

 まぁ、軽く痛めつけて『外の世界にはこんなに強い奴がいるんだぞ。外の世界で暴れたら俺が許さないから覚悟しておけ』と脅して人を襲わせないようにするのだ。今までにも何度か脅しているので今の所、妖怪が起こした事件は起きていない。

「なるほど……わかりました。懲らしめればいいんですね?」

「まぁ、ほどほどにな? それにあいつら、それなりに強いから油断するなよ」

「了解であります」

「オッケー。作戦は?」

「雅が霙に乗って、クマ達を撹乱してくれ。その隙を突いて俺が攻撃する」

 俺の発言に何も言わずに頷く二人。霙が狼になり、雅がその背中に乗ったのを確認した後、茂みから飛び出そうと立ち上がった。

「響ちゃん? どこ?」

 だが、俺が飛び出すよりも早く俺を探しに来たのかビニール袋を抱えた怜奈が現れてしまう。

(なっ……)

 暗い山の中、周りをよく見ようとキョロキョロしているのでまだ、怜奈はクマ達に気付いていない。しかし、クマ達はビニール袋に付いていた肉まんの匂いを嗅ぎ付けたのか、ゆっくりと怜奈の方を向く。

(まずいっ!)

 クマ達が一斉に怜奈の方に駆け出したのを見て俺も茂みから飛び出した。その後に続いて雅たちも追って来る。

「怜奈! 前だ!」

「え?」

 俺が声をかけた頃にはクマ達は怜奈を殺そうと鋭い爪で襲い掛かっていた。

(間に合えっ!)

 合成した魔力で雷を生み出し、瞬間的に運動能力を水増しさせる。そのおかげで爪が怜奈をズタズタに引き裂く前に俺はその間に割り込む事に成功した。

「ガッ……」

 だが、さすがにガードは間に合わず、俺の体から血しぶきが上がる。

「響ちゃん!?」

 後ろをチラリと見たら目を丸くしている怜奈がいた。

「雅、霙! やれ!」

 血だらけの胸を押さえ、仮式と式神に指示を飛ばす。

「了解!」「バゥ!」

 雅は6枚の翼で2体のクマを串刺しにし、霙は口から冷気を飛ばして残り2体のクマを凍らせた。ここまでする気はなかったが、仕方ない。

「響ちゃん! 大丈夫!?」

 ビニール袋を投げ捨てて俺の方に駆け寄って来る怜奈。正直言って来ないで欲しかった。

「え……」

 俺の傷がどんどん治って行くのを見て再び、怜奈は驚愕する。見られてしまった。

「俺は……大丈夫だから。今日は帰れ。明日、説明してやるから」

 雅と霙をスペルを解除することで家に帰してから立ち上がる。どうやら、怜奈は俺に集中していて雅たちを見てないようだ。

「……怜奈?」

 しかし、一向に動こうとしない怜奈。

「……響ちゃん」

「何だ? 説明なら明日って――」

 

 

 

「響ちゃん、『博麗』って言う単語に聞き覚えない?」

 

 

 

「――ッ」

 聞き覚えも何も昼間に行って来たばかりだ。博麗神社に。

「やっぱり……知ってるんだね?」

「何が、言いたい?」

 途中で言葉が詰まってしまった。突然、怜奈の体から膨大な霊気が漏れたからだ。

「ねぇ? 響ちゃん、教えてよ。博麗の巫女――霊夢について」

 ゆっくりと立ち上がった怜奈の霊力は俺以上、いや霊夢と同じくらい。

「何でお前が霊夢を知ってる?」

「知ってるんだね。霊夢の事。じゃあ、博麗の巫女については?」

 懐から数枚のお札を取り出しながら怜奈が質問して来る。

「……博麗の巫女は幻想郷を包んでいる2枚の結界の一つである『博麗大結界』を管理している」

「他には?」

「博麗の巫女は中立な立場である」

「他には!」

 どんどん、怜奈の霊力が膨れ上がって行く。

「博麗の巫女には2種類あって……先代の巫女が産んだ娘が受け継ぐパターンと、外の世界から連れて来るパターン」

「……それを知ってるなら霊夢が元々、外の世界に住んでた事も知ってるよね?」

「そう、みたいだな」

 怜奈は俯いてしまう。それと同時に怜奈から殺気が放たれた。

『響! この子、仕掛けて来るわ!』

 魂の中で警告を出す吸血鬼だったが、俺は動けずにいる。

「その話には続きがあるの……実は博麗の巫女になる可能性があった女の子は霊夢だけじゃなかった」

「え?」

「もう一人いたの。霊夢と一緒で外の世界にも博麗の巫女になれる女の子がもう一人」

 今までの怜奈の発言からして答えはわかっている。でも、信じられなかった。

「八雲 紫と先々代巫女の監視の中、霊夢とその女の子は修行をした。女の子は一生懸命、辛い修行に耐えた。博麗の巫女になる事こそ、その女の子に与えられた使命だと信じていたから。でも……巫女になったのは修行をサボってばかりいた霊夢だった。霊夢は元々、天才だったから女の子がどれだけ努力しても最終的には実力は互角だった。それでも、最後の決闘では勝った。ギリギリだったけど霊夢に勝ったの。それなのに……八雲と先々代が選んだのは霊夢。勝ったのに……勝ったのに!!」

 怜奈の悲鳴に反応するように霊力が地面を抉る。

「響!」「バゥ!」

 式神を解除したが、俺の事が心配になったようで俺の家がある方角から雅と霙が飛んで来た。

「ねぇ? 響ちゃん……貴方は何者なの? どうして、異能の力を手に入れちゃったの? 何で、式神がいるの? 何故――響ちゃんの体から博麗特有の霊気を感じ取れるの?」

 一歩、怜奈が俺に近づく。それに続けて雅と霙(擬人モードだ)が俺の前に出て怜奈を警戒した。

「……怜奈。お前は俺と悟の、幼なじみじゃなかったのか?」

 俺と悟の記憶が書き換えられたのか。紫の手によって。

「……ううん。私は響ちゃんと悟君の幼なじみだよ。私が黒い何かに飲み込まれるのを防いでくれた」

「じゃあ……博麗の巫女になれなかった女の子は誰なんだよ!!」

 頭の中がぐちゃぐちゃでどうしていいかわからず、そんな疑問をぶつけていた。それを聞いて怜奈が深呼吸し、俺の目を見てそっと告げる。

 

 

 

「私は――私の本当の名前は『博麗 霊奈』。“博麗になれなかった者”。さぁ、霊夢について知ってる事、全部話してください。さもないと……退治します」

 


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