東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第138話 戦車

『敵、体を起こすのでその場で待機』

 追撃しようかと思ったが、望の指示が飛ぶ。結界があるとは言え、何度も攻撃されては壊れてしまう。なので、望を守るように望に背を向けてその場で立ち止まった。

「いてて……さすがに今のは効いたな」

 15メートルほど先で男が背中を擦りながら立ち上がる。言葉の割には平気そうだ。

「雅、あまり無理はするなよ? 今は俺の仮式じゃない。妖力切れになる」

 右腕から炭素がボタボタと落ちて行くのを見ながら隣で男を睨んでいる雅に忠告する。

「わかってる。あ、やっぱり崩れちゃうんだ」

「まぁ、お前の支配が解けたからな」

 こうなっては邪魔なので叩き落す。雅は地面に手を付いて新たな翼を作り出した。

「さて……お前らの準備が出来るのを待ったお礼にトリックを教えてくれない?」

 確かにあの男ならすぐに攻撃に移れただろう。

「……望」

『大丈夫です。教えても狙いはお兄ちゃんのままです』

 望が能力で察知してくれたので仕方なく話すとする。

「お前だって言ってただろ? 『五芒星結界』だよ」

「はぁ? 結界なら俺の怪力で壊せるはずだ。でも、さっきの結界は今までとは違った。頑丈だったし何より衝撃が凄まじかったぞ」

「そりゃそうだよ」

 そう言って望の前にあった結界を肉眼でも見えるようにする。

「……さ、三重?」

「そう言う事。スペル名は――」

 スペルを取り出して宣言。

「絶壁『三重五芒星結界』」

 『霊盾』は博麗のお札を5枚、使用する。そして、『鉄壁』は『霊盾』を5セット。つまり、25枚の博麗のお札を使う。更に『絶壁』は『鉄壁』を5セット。合計125枚のお札が必要になる。俺が持っていた博麗のお札は130枚。持ち運んでいるのはせいぜい20~30枚なのだが、家に保管していたのでたくさんあったのだ。『絶壁』と俺の体に貼り付けて結界を鎧のように纏うスペル「結鎧『博麗アーマー』」。もう、博麗のお札のストックはないが、あの男でも『絶壁』は一筋縄ではいかないようだ。これで望の安全は守られたと言ってもいい。

「弾幕ごっこは最初に宣言しないと駄目なんじゃないのか?」

「何言ってんだよ。これはただの殺し合いだっつーの」

 俺の言葉を聞いて『それもそうか』と男が納得したらしく、ニヤリと笑う。

「疑問も解消された事だしそろそろ続きを始めようぜ。殺し合いの」

「……雅、A&Gで」

 男の霊気が膨れ上がったのを感じたのですぐに作戦を伝えた。

「了解」

「望はタイミング、お願い」

『オッケーです』

 ここでは望の方にも攻撃の手が向かうかもしれない。

「俺が先行でいいな?」

「うん。頑張って」

「お互いにな」

 雅の方をチラリと見ると心配そうにこちらを見ていた。確かに今の俺は今までとは違う。きっと、弱くなっていると思っているのだろう。

(俺からしたらそっちの方がよかったんだけどな……)

 溜息の代わりに全力で男に向かって駆け出した。男も同じようにこっちにダッシュする。

「二人で戦わなくていいのか!」

 そう問いかけながら男が正拳突きを放って来た。

『右に受け流し』

「――ッ」

 望の指示に従い、左手で男の拳を軽く右方向に叩く。それと同時に頭を左に傾けた。男の左手が俺の右頬を掠る。

『すぐにバック。LRLLで来ます』

 淡々と望の指示が飛ぶ。

「なんだよ! ガードするだけか?」

 ニヤニヤしながら男が叫ぶ。

「……」

 男はそうやって俺の心を乱そうとしているのだ。だから、黙って男の拳を躱し、蹴りを受け流し、攻撃をガードし続けた。これが俺と雅の戦法なのだから。

『雅ちゃん!』

「響!」

「おう!」

 男の足が俺の左わきに浅くヒット。『結鎧』のおかげでダメージを軽減し、脇で挟んだ。

「炭削『カーボンドリル』!」

 後ろで雅がスペルを発動。俺の首すれすれを通り過ぎて男の胸に突き刺さる。男のスピードなら躱せただろうが、俺が足を掴んでいるのでそれは不可能だった。

「ガッ!?」

 男の顔が痛みで歪む。その隙を突いて俺は――男の足を離してバックステップで距離を置いた。

「今度は私だよ!!」

 俺と入れ替わるように雅が前に出る。

「このっ! やってやろうじゃねーか!!」

 ドリルのせいで胸から血が出ている男。しかし、見た目はひどいがそれほどダメージは入っていないらしい。

『お兄ちゃん、20秒後です』

「了解」

 目の前で雅が男の攻撃をガードしている。

「雅! 自分の腕や足に翼を巻き付けろ! そっちの方が妖力を無駄にしなくて済む!」

「ラジャー!」

 俺のアドバイスを聞いて雅が自分の翼を腕や足に巻き付け、コーティングした。

「そんな小細工、通用しないぜ!」

「ぅっ……」

 男の拳を雅は左腕でガードするが、衝撃が強すぎるのだろう。うめき声が聞こえた。

『お兄ちゃん、5秒後。膝でお願いします』

 それを聞いて俺は膝に霊力を注ぎ、頑丈にする。

「せいっ!」

 やられっぱなしだった雅が足に巻き付けていた翼を伸ばし、男に足払いを仕掛けた。

「うおっ!?」

 攻撃に夢中だった男は足を引っかけられ、前のめりに倒れる。

「どらっ!!」

 それにタイミングを合わせて俺が膝蹴りを放ち、男の顎にクリーンヒット。そして、『拳術』の要領で霊力を一気に放出し、インパクトする。それを見た雅は俺の後ろに回り、今度は俺が前に出た。

「くっ……なるほど、そう言う事か」

 吹き飛ばされた男は顎に手を当てながらのろのろと立ち上がる。

「ガードナーが敵の攻撃をガードし、隙を作る。そして、アタッカーがその隙を突いて確実に一撃を決める。『ヒットアンドアウェイ』を改良した戦法か……」

「俺は『アタックアンドガード』。A&Gって呼んでる」

 この戦法は2人専用だ。しかし、普通の人間には出来ないだろう。ガードナーの負担が大きすぎるのだ。

「でも、一方が響のように『超高速再生能力』を持っていて一方が式神だった場合、響は傷ついてもすぐに治るし、式神は響に力を注いで貰えば戦い続ける事が出来る。お前らにしか出来ない戦法ってわけか」

「こんな短時間で色々と暴き過ぎなんだよ」

 『結鎧』、『絶壁』。そして、A&G。

「まだ、あるぞ。そこの結界の後ろにいるオペレーターがトランシーバーとかでお前らに指示を出してガードのサポートやアタッカーに攻撃するタイミングを指示してるんじゃないか?」

 そう、望は俺たちに指示を出す為にトランシーバーを改造し、俺の左耳に入っているコードレスのイヤホンに声を届ける事が出来るようにしたのだ。雅の右耳にも同じようにイヤホンが取り付けられている。しかも、俺たちが混乱しないように俺のイヤホンだけに声を届かせたり、はたまた雅の方だけだったり、両方のイヤホンに声を届かせるように選択できるような仕組みになっているのだ。

「まぁ、A&Gじゃいつかはガス欠を起こすだろうからこのまま戦ってもいいんだが、それは面倒だ」

 A&Gのいい所は相手が常に攻撃側に回るので体力を消耗させる事が出来、尚且つ、こちらの攻撃をほぼ確実にクリーンヒットで当てられる事だ。しかし、この男は式神と言っていた。力を注いで貰えばすぐに体力も回復するし傷だって癒える。ガードナーに回る俺たちの体力が尽きる方が早いだろう。

「よし……なら、面白い物を見せてやろう」

『っ!? お兄ちゃん、雅ちゃん! 逃げて!!』

 望の焦った声が耳に響く。

「「え?」」

「俺の能力は響が言った通り、『関係を操る程度の能力』。じゃあ、この大気中に含まれている酸素と関係を繋ぎ、一時的に操る事が出来たら?」

 そう言いながら男はアロハシャツの胸ポケットからジッポライターを取り出す。

(酸素? それにジッポライター……火?)

「――ッ!? 雅!!」

 望の指示を聞いて硬直していた雅の腕を掴んで右方向に走り始めた。

「知ってるか? 酸素にはな? 『助燃性』って言われる性質があるんだよ」

『前と後ろに1発ずつ! それの1秒後に真ん中に着弾! 当たります!!』

「くそったれがあああ!!」

 思わず、叫んでしまった。

「ほら、燃えろ」

 男がジッポライターに火を灯す音が聞こえる。それと同時に男の方から3つの火球が望の指示通りの軌道を描いて俺と雅に向かって飛んで来た。




戦車



正位置の意味
『向上心。成功。発展。行動範囲が広がる』など。

逆位置の意味
『強引。過労。停滞する。甘く見ている』など。

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