東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第128話 散策

 肩を落として図書館へ向かったフランを見送ってから数十分後、俺と望は紅魔館で暴れた事を謝る為にレミリアを探していた。

「いつもなら、すぐに見つかるんだけどな……」

 咲夜に呼んで来て貰おうかと思ったが、フランと俺が壊した廊下を修復するのに忙しそうだったのでやめたのだ。

「……いつもあんな無茶な戦い方をしてるの?」

 不意に望にそう問いかけられ、フランの剣を腕で防御していた事を言っているのだとわかった。

「今日は仕方なかったんだよ。指輪も使えないし、あの時はお前を抱えてたから結界も張れなかったし」

「大丈夫なの? 腕」

「ああ、俺の体は特殊でな。霊力を流せば一瞬にして治るんだよ。どんな怪我でも」

 望を安心させる為に袖を捲って傷跡すら残っていない事を確かめさせる。妹は恐る恐る手を伸ばし、俺が切断されたであろう箇所を撫でた。

「……痛みはあるんでしょ?」

「まぁ、な。あまりにも大きな怪我だと痛みだけ残ったりもする」

 フランに手を潰されたのもそれの一つだ。今も少しだけズキズキと痛む。しばらくは左手に無茶させないようにしなければいけない。

「ごめんね……私のせいで」

 どうやら、俺とフランが戦った(まぁ、防戦一方だったが……)のが自分のせいだと思っているらしい。

「いや、きっとお前が今日、ここにいなくても俺はフランと戦ってたよ。1週間も会いに来なかった罰としてね」

「で、でも……」

「それにお前が助けてくれたからこうやって、生きている事を実感できるんだ。痛みは出来るだけ感じたくないけど死ぬよりはマシだ」

「……うん」

 だが、まだ望は不安らしく俺の袖をチョンと摘まむ。振り払う理由もないのでそのまま、紅魔館の廊下を歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 途中で会った妖精メイドにレミリアがどこにいるか聞くとどうやら、食堂にいるらしい。この時間はお茶をしているそうだ。

「で、何であんたたちまで飲んでるのよ」

「「そこにお茶があるから」」

「仲の良い兄妹ね」

 対面に座っているレミリアは苦笑いしたまま、カップを傾ける。隣に座っている望も紅茶を飲み、『美味しい……』と呟いていた。

「そうだ。忘れてたよ。悪かった。紅魔館、結構壊しちゃった」

「大丈夫だと思うわ。咲夜も頑張って直してるだろうし」

「咲夜に謝っておいてくれ」

 お願いすると1度だけ頷いて煎餅(お茶を貰う代わりにお菓子を要求されたのであげた)を手に取った。

「それで? フランはどうなったかしら?」

「私と同盟を結びました」

 俺が答える前に即答する望。

「同盟? ああ、なるほど」

 最初は首を傾げたレミリアだったが、俺を見てニヤリと笑った。

「まぁ、私もあの子をどうしようか悩んでたし」

「そんなに荒れてたのか?」

「ええ。ろくに食事もせずに美鈴と戦ってたわ」

「美鈴さんに八つ当たりですか……」

「あいつもよくフランの部屋に行ったよな」

 普通なら近づこうとすらしないと思うんだが。

「ああ、それは美鈴が寝てる間にフランの部屋に放り込んでおいたのよ」

「「ひどっ!?」」

「そうでもしないと紅魔館を破壊しかねなかったでしょ?」

 確かに先ほどのフランは異常だった。

「よく生きてたな……美鈴」

「まぁ、美鈴だから」

 それだけで納得出来てしまうのは何故だろう。

「それにしてもこの紅茶、美味しいですね」

「咲夜が淹れたお茶だからね」

 辺りを見回しても咲夜の姿はない。廊下の修復途中でレミリアの為に淹れに来ているようだ。さすが瀟洒なメイド長。感心しつつ、スキホから紅茶によく合うショートケーキを2つ、取り出して望と俺の前に置いた。

「ちょっと! なんで、私には煎餅でそっちはケーキなのよ!」

「そりゃ、紅茶にはケーキだろ」

「だから、何で最初から渡さない!」

「2つしかなかったから」

 フォークを突然、現れた咲夜に貰って望とほぼ同時にケーキを口に運ぶ。甘い。

「私に寄越しなさいよ!」

「嫌だよ。俺のおやつなんだから」

「いいじゃない。一口、寄越せ!」

 テーブルを飛び越えてダイブして来るレミリア。

「おっと」

 咄嗟にケーキの皿を掴み、椅子を引いて回避。だが、着地した紅魔館の主は床を蹴ってもう一度、跳躍した。

「しつこい!」

 立ち上がって右に(左には望がいたので)向かって走り始める。

「このっ! 待ちなさい! 私のケーキ!」

「お前のじゃねーって!!」

 レミリアも俺の後を追って走って来るので仕方なく、逃げ続ける。時には回り込んで来るのでケーキを崩さないように躱さなくてはいけない。

「れ、レミリアさん! 私のを上げますから落ち着いて!」

「あら、そう?」

 望が苦笑してレミリアにケーキを渡す。

「全く、最初からくれたらこんな運動しなくてもよかったのに……」

「お前のせいだ。お前の」

「お兄ちゃんとレミリアさん、本当の兄妹みたいですね」

 確かにさっきのは兄妹喧嘩に見えなくもない。

「何言ってるの? 姉弟よ」

 きっと、望が言った兄弟は『兄妹』と書き、レミリアが言った兄弟は『姉弟』と書くのだろう。

「違うわ!」

 なので、ツッコんでおく。

「あ、だから咲夜さんはお兄ちゃんの事を『弟様』って言ったんだ……」

「そう言う事よ」

「もう、知らん……」

 諦めた。何回、注意してもレミリアも咲夜もやめようとしないのだ。

「んー、このケーキ、美味しいわね。外の世界の?」

「ああ……って何で知ってんの?」

「さっき、フランが落ち込んだまま、そう教えてくれたのよ。『お兄様は外の世界から来てるんだってー』って」

 後で一応、秘密だって事をフランに言っておかなければならないようだ。

「……ん? どうかした?」

 その時、レミリアがフォークを口に咥えながら望に問いかけた。左を見ると義妹は何故か、レミリアをジッと見ている。しかし、すぐに俺の方も見た。もしかして、能力が発動しているのかもしれない。

(俺とレミリアの共通の弱み……あ、結構前に2人で咲夜に隠れてつまみ食いした奴か?)

 あの時、咲夜に見つかりそうになってたまたま、キッチンにいた美鈴を囮に逃げ出したんだっけ。すぐ後に美鈴の悲鳴が紅魔館中に響き渡ったのは言うまでもない。

「……レミリアさん」

「何?」

 望の様子からどうやら、レミリアの穴を見つけたらしい。

(でも、何で俺の方も見たんだ?)

 そんな疑問を浮かべていると望がゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「何か、お兄ちゃんに隠し事……してませんか?」

 

 

 

「……何が言いたい?」

 目を鋭くして望を睨むレミリア。

「いえ、小さな隠し事だったらスルーしてたんですが、その隠し事がお兄ちゃんにとってとても大切な事のような気がして」

「それ以上、聞いたら殺すわよ」

 一気にレミリアの霊気が膨れ上がる。

「そう言う事、言うのはやめろ。レミリア。今の俺は手加減出来ないんだから」

 それと同時に俺も霊気を解放した。何としてでも望を守る。

「へぇ。吸血鬼の出来損ないが私に勝てるのか?」

「半吸血鬼、なめんなよ。霊力と魔力を操れんだから今まで以上に凶暴だ。それに狂気たちもやる気だぞ」

 今、俺の体では指輪を使う事は出来ない。その為、妖力と神力は使えない。逆に使える力が少ないので霊力と魔力は普段より量が多いのだ。危険になれば魂同調でもして妖力か神力を使えるようになればいい。

「そんなもんで勝てるとでも?」

 確かにそれでもレミリアに勝てるかわからない。

「……望、お前の力借りても?」

 望のオペレートがあればきっと、勝てる。トールと魂同調し、神力で手を創造。その手を使って望を抱き抱えておけば戦闘に問題はないはず。

「もちろん。なんか、私の能力、勝負の時に発動しやすいみたいだからいけるよ」

「……だ、そうだ。どうする?」

 紅茶を傾け、レミリアを睨む。

「望の能力によるけど……どうやら、こっちの方が不利そうだからパス。でも、望の質問には答えない」

「今更、誤魔化せると思うなよ?」

「誤魔化そうなんて思ってないわ。これを聞いたら貴方、絶対に“後悔”するから言わないの」

「勝手に決めつけんな。後悔するかどうかは俺が決める」

「……今日は帰って頂戴」

 席を立って、食堂を出て行こうとするレミリア。

「おい! 待てよ!」

 それを阻止する為に俺も望も立ち上がる。その時、一瞬だけ風が吹いた。

(え?)

「何度言えばわかる? 帰れ。じゃないと、本当に八つ裂きにするわよ」

 気付けば俺と望の間に立っていたレミリアが俺たちの首に尖った爪を突き立てていた。

「今日は満月。本当にこの日だけは理性を保つの大変なんだから。これ以上、私に努力させないで」

 そう言ってレミリアは手を引き、出て行った。

「望、見えたか?」

「ううん。能力の反応が出た時にはもう……」

「そうか……」

 どうやら、俺はレミリアを侮り過ぎたらしい。

 すぐに動く気になれなかった俺と望は数分経ってから食堂を後にした。

 




レミリアが隠していることについてはいずれ出て来ます。

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