東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第127話 妹VS妹

 空中で器用に1回転し、右手に持っていたレーヴァテインを真っ直ぐ振り降ろして来たフラン。このままでは俺も望も炭になってしまう。本能のまま、俺は左手を前に突き出してそれを受け止めた。咄嗟に離れようとした望を右わきに抱える。離れた所をフランに狙われてしまったら対処できるか分からない。

「くっ……」

 俺の手から黒い煙が立ち始めるが更に力を込めて剣を制止させる。

「お、お兄ちゃん!?」

「お兄様……何か、いつもと違うね」

「今日、は……お前と同じ、種族だ……からな」

 痛みで言葉が詰まってしまう。だが、『超高速再生能力』と半吸血鬼化のおかげですぐに傷が治る。俺の手では火傷を負うのと治るのを繰り返していた。

「へぇ? じゃあ、吸血鬼なんだ」

「半分、だけ――な!」

 『だけ』の部分でフランがいきなり、力を込める。俺も負けじと対抗するが、廊下の方が耐えられなくなり、皹が入り始めた。

「ん? その子は?」

 今更、俺の右わきに抱えられている望に気付いたらしい。

「俺の妹だ」

「い、もうと?」

 その瞬間、フランの目が細くなった。

「ああ……今日はここに案内しに来たんだけどっ」

 俺が喋る毎にフランが力を加える。これ以上、俺の腕も廊下も持たない。ならば――。

「フラン、続きは下の階で、だッ!」

 右足で思い切り、廊下を踏みつける。その瞬間、あまりの脚力(半吸血鬼化+霊力、魔力で身体能力を水増し)で紅魔館が震えた。そのせいでフランがよろける。その隙に今度は左足で廊下を蹴った。

「きゃッ!?」

 とうとう、廊下が耐え切れなくなり、底が抜ける。望が短い悲鳴を上げた頃には一つ下の階に到着していた。

「待ってよ! お兄様!」

 レバ剣で廊下を破壊し、俺たちの前に着地するフラン。

「右上!」

 それも一瞬の事でフランは吸血鬼の身体能力を最大限に活かし、目にも止まらぬ速さで斬りつけて来た。しかし、望の能力のおかげで斬撃の軌道をいち早く知る事が出来たので咄嗟に左腕でガード。

「ぐぁ……」

「お、お兄ちゃん!!」

 剣を腕なんかで受け止めたら切断されるに決まっている。その証拠に俺の左腕はくるくる回って後ろの方へ飛んで行っていた。すかさず、バックステップして左腕を歯で噛んで掴み、そのまま何度もステップ。7メートルほどフランと距離を置いた。

「だ、大丈夫なの!?」

「ふぁふぁ、ほれふらいのひふははれへる!(ああ、これぐらいの傷は慣れてる!)」

 望を降ろし、右手を使って噛んでいた左腕を掴んだ。急いで傷口にくっつけ再生させる。

「ッ! 上!」

「魔力、硬化!」

 また、フランの斬撃を腕でガードする。今度は魔力で皮膚を硬くする余裕があったので切断される事はなかった。

(でも、このままじゃいつか望にも……)

「お兄ちゃん、私に任せて!」

 どうやら、フランの暴走を止めると言っているようだ。もしかすると能力が発動し、穴を見つけたのかもしれない。

「ああ、頼む!」

 その間でもフランは攻撃して来るだろう。それを完璧に防ぐのだ。俺は望の前に跳び出して左目に集中する。

「魔法『探知魔眼』!」

 望の能力よりは性能は落ちるが、ないよりはマシだ。フランの斬撃を次々と両腕で受け止める。

「フラン! あなたはお兄ちゃんの妹なの?」

「うん」

 望の質問に素直に答えるフラン。少しだけ嫌な予感がした。

「私もお兄ちゃんの妹よ。血は繋がってないけど“戸籍”ではそうなってる。でもね? 戸籍は外の世界にしかない。つまり、フランがお兄ちゃんの本当の妹になるには血が繋がってなきゃ駄目なの!」

 望の言葉が廊下に響き渡る。俺もフランもそれを聞いて硬直したのだ。

「……あれ?」

 変な空気が流れているのに気付いたのか望も冷や汗を流している。

「じゃあ、私とお兄様は本当の兄妹なんだね」

 この空気を壊したのは勝ち誇った様子でそう言ったフランだった。

「ど、どういう事? それじゃまるで、お兄ちゃんと血が繋がってるみたいじゃ……」

「悪い……言うのが遅れたけど俺とフランは血が繋がってるんだ」

 トドメは俺。我が義妹の顔から生気が抜けていくのが目に見えてわかる。

「何で? どうして? どうやって?」

「俺が怪我をして瀕死の時にフランが血を飲ませてくれて吸血鬼の治癒能力を得たんだよ。まぁ、飲んだ量が少なかったから普段は人間のままだけど。この半吸血鬼化もフランの血を飲んだからだ」

 俺の説明を聞いていた望がぷるぷると震え始めた。

「あ、でも、その子はお兄ちゃんと血が繋がってないみたいだね? 外の世界じゃ血の繋がり以外で兄妹を証明する方法があるみたいだけど、残念ながらここは幻想郷。“そんな常識は通用しない”んだよね!」

 言い終わると同時に望に向かって剣を振りかざす妹。それを何とか、真剣白刃取りで受け止める。受け止める前に両手に霊力を纏わせる事が出来たので、火傷はしていないがこのままだと押し斬られる。

「俺にとっちゃお前も望も大切な妹だ!! 血の繋がりも何も関係ない!」

「あちゃ~……お兄様にフォローされちゃ負けたのも同然だよ? 義妹さん」

(……フランってこんな性格だっけ?)

 今は精神的に不安定なので仕方ないのはわかるが、望に当たり過ぎだ。

「……もん」

「え? 何?」

 望が小さな声で何かを呟いた。だが、俺にもフランにもその声は届かず、フランが聞き返した。

 

 

 

「義妹は血が繋がってないからお兄ちゃんと結婚できるもん!!」

 

 

 

「はぁッ!?」

 とうとう、義妹までも壊れてしまったらしい。俺が驚愕してしまい、変な叫びを上げてしまった。

「へ?」

「血の繋がった兄妹は結婚出来ないもん! だから、フランはお兄ちゃんと結婚できないんだ!」

「ふ、ふん! そんなのここじゃ通用しないって言ったじゃん!」

「でも、お兄ちゃんは外の世界で生きてるから外の常識を最優先にするもんね!」

 その時、フランの剣を消えた。怒りで制御が出来なくなってしまったようだ。

「そ、外の世界? だってお兄様はここに……」

「お兄ちゃんは外の世界と幻想郷を行き来できるんだよ!」

「そ、そんな……で、でも! 兄妹って結婚できないんじゃ?」

「フランは血が繋がってるから出来ないよ! でもね? 私はお兄ちゃんと血が繋がってないから結婚できるんだよ!」

 望の発言を聞いてフランが数歩、後ずさった。

「こ、この! 壊れちゃえ!!」

 フランが右手を前に突き出す。望の目を集めて破壊するつもりらしい。

「やめろっ! フラン!」

 すかさず、左手でフランの右手を握り、能力の使用を妨害するがフランの怪力によって俺の左手が潰れた。

「がぁッ……」

 皮膚は破け、骨は砕け、血が滴る。痛みには慣れて来たと思っていたがやはり、痛い物は痛い。短い悲鳴を上げてしまった。

「お、お兄ちゃん!?」「あ、お兄様……」

 望が涙目になり、フランは目を見開いている。フランも望んで俺の手を潰したのではないようだ。

「だ、大丈夫……」

「ちょっと! お兄ちゃんになんて事するの!?」

「だ、だって仕方ないじゃん!!」

 だが、またもや妹たちは喧嘩を始めた。

「いい加減にしろッ!!」

 俺もとうとう、堪忍袋の緒が切れる。普段、大声を出さないので望もフランも肩をビクッと震わせて驚いた。

「フラン! 寂しかったとは言え、望にも攻撃したんだ! 謝れ!」

「だ、だって……こいつが」

 口を尖らせてボソボソと言い訳するフラン。

「謝れ」

 それに対して俺は翼を大きく広げ、威圧感を与える。両目に『魔眼』とは違う魔力を送り、『狂眼』を発動させ、紅くした。

「ひぃっ……ご、ごめんなさい」

「望も! フランが一番、好きなキャラだったんだろ! なのに、あんなひどい事を言って! お前もごめんなさいしろ!」

「うぅ……ごめんなさい」

「全く……どうして、喧嘩したんだよ」

 お互いに頭を下げて謝ったので安堵の溜息を吐く俺。それから気になっていた事を二人に問いかけた。

「「だ、だって……お兄ちゃん(お兄様)の妹だって言うから」」

 どうやら、美鈴や咲夜が言っていた通り、望とフランを会わせない方がよかったかもしれない。少なくとも会う前にフランの機嫌を直していたらこんな事にはならなかったはずだ。

「さっきも言ったけどお前たちは俺の大切な妹だ。だから、もう喧嘩しないでくれ」

 右手で望の頭を、左手でフランの頭を撫でながら言う。

「「うん……」」

 二人はお互いに目配せした後、ぎこちなく握手。これで仲良くはなれないかもしれないが、喧嘩はしないはずだ。

「あ、ところでお兄様?」

「ん?」

「結婚するならどっち?」

 フランの口からとんでもない言葉が飛び出した。

「いや、二人は妹だから結婚しないよ」

 その瞬間、望とフランが同時に廊下に崩れ落ちる。

「私たち……敵じゃなかったんだよ。味方だったんだよ」

「そうだね……望。私たち、友達だね」

 俺が首を傾げている中、二人は涙目になりながら抱き合った。

 


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