東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第13話 逆転の一手

「れ、霊夢!?」

 後ろで妹紅の叫び声が聞こえた。

「あら? 貴女たちもいたの?」

「いたぞ。それにしてもどうやって妖怪の事を?」

 慧音から質問されて霊夢の代わりに俺が答えた。

「半霊だよ。白い幽霊を博麗神社まで飛ばしたんだ」

「なっ!? あの戦いの中でか!?」

「ああ。でも、伝わるかどうかわからなかったから不安だったのは確かだ」

 曲が終わるまでに半霊が博麗神社に着くかどうかも心配だったし、着いたとしても霊夢は無視するかもしれない。本当に運がよかった。

「博麗の巫女は勘がいいのよ。状況は?」

「倒したら復活する妖怪。復活する度に強くなる。復活するのに仲間の助けが必要」

「一網打尽にするしかないって事ね」

 黙って頷いて答える。因みにこの会話中、俺は人形を使って妖怪を薙ぎ払い、妖怪に襲われそうになった人形を霊夢が結界とお札を使って守っていた。

「……なぁ? 慧音?」

「なんだ?」

「コンビネーション良すぎじゃないか? あの2人」

「私も思っていた所だ」

 後ろでこそこそと内緒話をしている妹紅と慧音。内容までは聞こえないがこちらをちらちらと見ている。

「で? 具体的な方法は?」

「まだだ。考えながら戦ってる」

「……駄目ね。私も思いつかないわ」

 少し考えてから霊夢は首を横に振る。

「じゃあ、どうすれば……」

 

 

 

 ~ネクロファンタジア~

 

 

 

 そばにいた人形は消えて紫の姿に変身する。

「げっ!? 紫かよ!」

 紫は俺を幻想郷に閉じ込めた張本人だ。苦手意識は多少ある。

「……」

「? どうした?」

「それよ……スキマを使えばいいのよ!」

 一度に何十枚ものお札を投擲しながら霊夢が俺に微笑みかけた。少しドキッとしてしまう。

「す、スキマって……紫が使ってるあの空間の裂け目の事か?」

「ええ」

 霊夢は頷いてその先を続けようとするがそれを妖怪が邪魔した。牙が霊夢の首を狙う。

「妹紅!」

「わかってるって!」

 俺は叫ぶと後ろから炎の弾が妖怪目掛けて飛び、炸裂する。

「使い方は!? わかるの!?」

 少し離れてしまい、霊夢が大声で確認してきた。

「わからない! 少し時間をくれ!」

 紫の能力は見るからに難しそうだ。出来るかどうかもわからない。

(時間は――4分か……)

 PSPの画面を盗み見て時間を確かめる。

「妹紅! 霊夢! 私たちで響を守るぞ!」

「おう!」「わかったわ!」

 慧音の指示通り俺の周りを囲むような陣形を取る3人。それを見てから集中するために目を閉じる。この力が俺たちの勝利を掴む事を願いながら――。

 

 

 

 

 

 3分後――。

「「「はぁ……はぁ……」」」

 霊夢、慧音、妹紅の3人は肩で息をしていた。

「本当に……強くなっているわね」

「ああ、もう私の炎を弾き飛ばすほどにな」

「弾幕も効かないしどんどん速くなっている……私たちの体力も尽き掛けている。それにスペルも消費し尽くした」

(響は……響はまだなの?)

 霊夢はチラッと後ろで目を閉じている響を見た。

「霊夢!? 危ない!?」

「え?」

 妹紅の叫びを聞いて前を見たがもう妖怪が目の前まで来ている。鋭い歯がギラリと光る。

「しまっ――」

 今からではお札を投げる前に噛み殺される。スペルを使いたいがもうない。万事休す。突然すぎて目すら閉じられなかった。スローモーションで妖怪が近づいて来る。

「――え?」

 しかし、霊夢は噛み殺される事はなかった。目の前にどこかで見た事がある空間の裂け目が現れ、妖怪を飲み込んだのだ。

「これって……」

「すまん。霊夢、妹紅、慧音。遅くなった」

 後ろを振り返ると扇子を片手にニヤリと笑う響の姿があった。

「本当に遅いわね」

「せっかく助けたのにお礼はないのかよ……」

 呆れた様子で響が呟く。

「……ありがと」

 少し恥ずかしくて明後日の方向を向いてお礼を言う霊夢。

「はい、よくできました」

 まるで、兄が妹を褒めるように響は霊夢の頭に手をポンポンと乗せた。

「で? 出来そう?」

「ああ……でも、お前らのスペルがないのがきついな。スキマを展開してる時、俺スペル使えないし」

「……きついって言うのなら何かはあるのね?」

「そう言うこった……まぁ、賭けって奴だよ」

「本当に大丈夫なのか?」

 霊夢と響との会話を聞いていた慧音が心配そうに聞いて来る。妹紅は妖怪を近づけさせないように炎を乱射していて会話に参加するどころではない。

「これしかないんだ。やるしかない」

 そう言うと響は2人の返事も待たずに扇子を広げた。

 

 

 

 

 

(残り時間は20秒)

 頭の中で確認した後、妹紅のおかげで遠くの方にいる妖怪たちの方を見る。

「行くぞ!!」

 気合を入れる為に怒鳴り、扇子を閉じ、横に振るう。

「バウッ!?」

 妖怪の足元にスキマが展開され、落ちた。その後も続々と落ちる妖怪たち。

「妖怪たちの行き先は!?」

 霊夢が慌てたように聞いて来る。

「それは――」

 ――残り10秒

 

 

 

 

「上だ!!」

 

 

 

 

 

 俺たちの遥か真上に放り出された妖怪たちは態勢を立て直せずに落ちて来ている。

(後、5秒!)

「お、おい!? これからどうすんだよ!」

 妹紅が慌てているが無視する。余裕がないのだ。一方、妖怪たちはやっとバランスを取り戻し、こちらを凝視している。

(チャンスは一度きり。運が良かったら俺の勝ち。運が悪かったら妖怪たちの勝ちだ!)心の中で言うとこの戦いを締めくくる最後の変身を迎える。

 

 

 

 ~霊知の太陽信仰 ~ Nuclear Fusion ~

 

 

 

 体が光り輝き、白いシャツの胸の所には赤い大きな目のような装飾があり、下は緑のスカート。頭にも緑色のリボン。背中からは今までで一番大きな黒い翼。そして――。

「な、何だ!? この棒!?」

 右手に棒状の何かが装着されている。重くて支えきれず地面に叩き付けてしまった。

「響! 妖怪がバラバラに移動するわ!」

 霊夢に言われ、上を見ると妖怪たちはいくつかのグループに分かれて移動しようとしていた。

「どうにでもなれ!!」

 制御棒を真上に向けて懐から1枚のスペルカードを取りだす。

 

 

 

「爆符『メガフレア』ああああああああああああああああああッ!!」

 

 

 

 俺の大声に反応して制御棒にエネルギーが凝縮され、辺り一面に爆風を撒き散らしながら『ファイナルスパーク』と同等の威力を持ったレーザーが撃ち出される。そして、一か所にいた妖怪たちを飲み込んだ。一匹残らずに――。

「れ、霊夢、結界を! これでは人里にも影響が!」

「もうやってるわよ!?」

「私も炎で爆風を抑える!」

「余計、暑くなるだろう!!」

 後ろで霊夢たちが慌てているのがわかったが俺もこの威力は予想外だった。威力がすごすぎて右腕の骨が軋み始める。下手したら折れるかもしれない。

「くっ!?」

 右手だけでは支えきれず、左手で棒を安定させる。人里が心配だ。この爆風に煽られ、家が大破する可能性もある。それに熱気がすごいのだ。このままでは人里が灼熱地獄になってしまう。

 心配しているとレーザーは小さくなり、妖怪たちが落ちて来た。あの攻撃を受けても焼失しなかった事に驚く。因みに腕は折れていなかった。

「ひ、人里は!?」

 急いで振り返って確認すると汗だくで地面に座り込んでいる3人と俺が来た時と何も変わっていない風景がそこにあった。

「よ、よかった……」

 安心した途端、力が抜けて俺もその場に座ってしまう。

「ほ、本当よ……もう少しで人里が灰になる所だったじゃない!!」

 そこへ文句を言いに霊夢がやって来る。

「す、すまん、まさかあれほどの威力とは……」

 これからは知らないコスプレをした時、慎重にスペルを使う事を心に誓った。

「まぁ、いいわ。何事もなかったのだから」

 呆れ半分安心半分でそう言い、手を差し伸べて来る。

「さんきゅ」

 反抗せずに手を掴んで立ち上がった。

 

 

 

 ピシッ!

 

 

 

 その瞬間、後ろからガラスが割れたような音が聞こえる。

「嘘!? まだ復活するの!?」

 霊夢が焦ってお札を取り出したがそれを手で制止させる。

「安心しろ。あいつらは仲間がいないと復活出来ない」

 それを証明するように背中に皹は入っているがそれから何も起こらなかった。

「終わったのね?」

「ああ、そう……だ」

 肯定する為に頷こうとしたが急に目の前が歪んだ。まともに立っていられず霊夢に寄りかかってしまう。

「ッ!?」

 霊夢の体がビクッと震えた。それほど驚いたのだろう。その拍子に霊夢の体が移動し俺を支える物がなくなり、地面に倒れてしまった。

「きょ、響!?」

「悪い……寝る」

 あの時と一緒だ。『ファイナルスパーク』を放った時と。俺の異変に気付いた慧音と妹紅も駆け寄って来る。霊夢の顔がひどく歪んだ。眩暈のせいではない。

「寝るって!? どういう事!? 返事して!! 響!!」

(そんな顔して……心配してくれるのか?)

 神社の時とは全く違う。霊夢は俺の体を起こして揺すっている。

(なんだか……懐かしい匂いがする……でも、どうして?)

 疑問に思いながらも霊夢の叫びも空しくゆっくりと目を閉じた。

 


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