迫る弾に私は全神経を集中させていた。これを切り抜ければ相手の残りスペル数は1枚。
姿勢を低くして弾を躱し、すぐに左に飛ぶ。そのまま2回ほど地面を転がって立ち膝を付く姿勢になる。また、弾が迫って来ていたので落ちていた石を拾って投擲。さすがに相殺する事は出来なかったが、弾の軌道をずらす事に成功し、弾は私のツインテール(左の方)をほんの少しだけ掠めて後方に飛んで行った。
「ああ! 躱さないでよ!」
「無理言わないで!」
理不尽なミスチーの要求に思わず、ツッコんでしまう。そのせいで逃げるのが少し、遅れた。
「きゃっ!?」
右肩にグレイズする。掠っただけなので被弾した事にはならないが、あまりの衝撃に後方に飛ばされてしまう。急いで起き上がった頃には辺り一面に弾が迫っている。隙間は――ない。
(う……そ)
こんな所で私は死ぬのか。その疑問がすぐに浮かび上がった。しかし、それも一瞬にして消え、お兄ちゃんの顔を思い出す。
「お兄ちゃん……」
ここに来たのはお兄ちゃんを探す為だ。それなのにまだ、情報すら手に入れてない。お兄ちゃんに会うまで死ねない。死にたくない。
そう思った時、弾と弾の間が少しだけ光ったような気がした。まるで、私を誘っているかのように。私は反射的にその光に向かって足を動かした。
「あ!」
光が消えると同時に隙間を見つける。すぐさまそこへダイブし、躱す。
「なっ!?」
ミスチーが躱されると思ってなかったようで声を上げて驚いた。だが、その先も弾幕の嵐が迫っている。どこかに穴がないか辺りを見渡しているとまた、光が現れた。
(何なんだろう? あれ)
とにかく、今は躱し続けよう。そう思いながら、光の下に到着した。弾幕を観察するとその場が弾幕の穴だと判明し、5秒間留まる。そこでスペルがブレイクしたようで弾幕が消えた。
「躱し切った!?」
ミスチーが目を見開いて驚愕する。その隙に足元に落ちていた石を拾ってダッシュした。NNNじゃやられる。自分からも攻撃しないと負けてしまうとわかったからだ。
「これも弾の一つだよね?」
念のため、走りながら石をミスチーに見せつけ確認を取る。
「え? えっと……多分?」
首を傾げるミスチーだったが、弾幕ごっこの途中だった事を思い出し通常弾を放って来た。スペルは残り1枚。きっと、温存させておくのだろう。
(今の内に!)
その判断が間違いだった事をわからせてやろう。通常弾はスペルと比べれば弾幕の密度は薄い。その隙を狙うのだ。
ここからミスチーまでの距離は4メートル。一応、中学の頃はソフトボール部でピッチャーをやっていたので届くはずだ。でも、普通に投げても躱されるだけ。どうにかしてぶつけないと。
(ん?)
弾を躱しながら作戦を考えていると地面に何かが落ちているのを発見する。通り過ぎ様に拾うと白紙のスペルカードだった。どうやら、ミスチーが落としたらしい。見れば木の枝にでも引っ掛けたのだろう。服が破けている。あそこから落ちたようだ。
(これは、使える!)
もちろん、私にはスペルがない。外来人だから。向こうだってそう思っているはずだ。
「仕方ない! 使いたくなかったけどスペルを使うわ!」
そう、叫びながらわざとらしく、白紙のスペルカードを掲げた。もちろん、文字が書かれているか確認させないためにミスチーに縦に――つまり、表面を見せないようにだ。
「え!? あ、あんたスペル持ってんの!?」
ミスチーは空中で器用に後ずさる。
「持ってなかったら弾幕ごっこすると思う?」
「た、確かに……こ、こうなったら私も!」
私の策略に面白いようにハマり、スペルを取り出すミスチー。
(後はタイミング……)
スペルを左手に持ち替え、右手の石をギュッと握った。早かったら通常弾に弾かれ、遅かったらスペルに飲み込まれる。
「――」
でも、不思議と落ち着いていた。まるで、“誰かがタイミングを教えてくれる”事を予知しているかのように。それを証明するかのようにミスチーに光が集まって行く。
(3……2――)
無意識にカウントダウンを始めた。時間が進むにつれ、光がどんどん強くなる。
(――1!)
「そこっ!!」「夜盲『夜雀の歌』!!」
夜雀がスペルを発動すると同時にアンダースロー気味で石を投げた。石は弾幕の穴を通り抜ける。掠りもせず、ただ真っ直ぐミスチーに向かって飛んで行った。
「え!? ぐはっ」
私が投げたショットは綺麗にミスチーの額にヒット。当たり所は良かった(向こうからしたら悪い)のかそのまま、ミスチーは地面に墜落。スペルもすぐに消えた。この勝負、私の勝ちだ。
「あは、あはは……」
何とか、生き延びたらしい。安心した私はへなへなと乾いた笑顔のまま、その場にへたり込んでしまった。
ミスチーとの激闘から5分が過ぎる。だが、夜雀は目を覚まさなかった。軽い脳震盪を起こしているようだ。
「う~ん……」
普段なら急いでこの場を離れるだろう。しかし、弾幕ごっこで勝った今、ミスチーに食べられる事はない。それにお兄ちゃんについて聞けるのだ。それが私が勝った場合の報酬だった。
「でも、起きないんじゃ聞きようが……」
仕方ないのでこの子が目覚めるまでここで待つしかない。溜息を吐いたその時、背後の草むらが揺れた。
(――来る!)
何かを感じ取った私は瞬時にミスチーをお姫様抱っこし駆け出す。間髪入れずに私たちがいた場所に大きなムカデのような妖怪が飛び込んだ。あのままだったら、食べられていただろう。
「な、何なのよ!! もう!!」
憧れの幻想郷は危険が一杯だ。諦めが悪いムカデだったようでしつこく私たちを追いかけて来た。
「はぁ……はぁ……」
ソフトボールで鍛えた足が震えだす。女の子とは言え人――いや、妖怪一人を抱えながら走っているのだから。これでムカデの足が速かったら襲われていた。実際、ムカデのスピードは今の私と同じくらい。ミスチーが起きるまで死ぬ気で逃げ切れば助かる。
「ミスチー、早く起きてえええええ!!」
私の悲鳴を聞いてもミスチーはうんともすんとも言わない。どうやら、死の鬼ごっこは当分、続きそうだった。
「ん?」
迷いの竹林から出て来た私は木々が倒れる音に気付いた。人里にいる慧音と約束があったのだが、もしかしたら人間が妖怪に襲われているのかもしれない。
(仕方ないか……)
白くて長い髪をなびかせ、音がした方へ飛んだ。
(それにしても……輝夜が直接、私の挑戦を断るとはな)
先ほど永遠亭に行き、憎き輝夜に殺し合いを申し込んだ。いつもなら挑戦を断る時、 永琳か鈴仙が出て来るのだが、今日は本人が『今は忙しいの』と言い、扉を閉めたのだ。
(何が起きてるんだ?)
ここ1週間、響の姿を見てないのも気掛かりだ。響とは意外に馬が合うのでお喋りする。それも頻繁に。
更に慧音も響がどこにいるか知らないのもおかしい。響に来る依頼はほとんどが人里の住人からだからだ。さすがに1週間、響と慧音が会う、もしくは慧音が響を見かける事がないなんておかしすぎる。
「早くうううう!!」
「おっと……」
忘れていた。今はあそこでムカデに追いかけられている女の子を助ける事に専念しよう。
「このやろう!!」
右足に炎を纏わせ、ムカデの脳天に踵落としを決める。ムカデの頭部が地面に埋まった。
「もう一発!」
動けなくなった敵の腹まで移動し、炎を纏った右手をギュッと握って真上に突き出す。その威力のあまり埋まっていたムカデが空中に放り出され、遠くの森に不時着した。
「大丈夫か?」
これでムカデはしばらく動けないと判断した私は後ろで目を見開いていた女の子の方を見て問いかける。
「も、もこたん……インしたお」
「は? てか、そいつミスティアじゃないか!?」
女の子の言葉より彼女が抱えていた妖怪に注目する。ぐったりとしていたが、気絶しているだけのようだ。
「よ、よかった……助かった~!」
しかし、向こうは私の問いに答える気はないらしく、安堵の溜息を吐いている。
「?」
改めて質問しようとした時、ツインテールの女の子が着ている服がどこか、響の服装に似ている事に気付いた。
望の服装は高校の制服です。響も万屋の仕事をする時は高校時代に着ていた制服を着ているので妹紅は2人の服装が似ていると思いました。