東方楽曲伝   作:ホッシー@VTuber

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第104話 言い訳

 俺は一つだけ忘れていた事がある。『魂喰異変』も解決し、気が緩んでいたのだろう。しかし、この状況はかなりまずい。

「で、どういう事?」

「……色々あったんだよ」

 俺と【魂喰者】の奏楽は俺の家に帰って来た。そう、帰って来たのだ。ここまで言えばわかるはず。

 

 

 

 俺は奏楽の事をどうやって説明するか全く考えてなかったのだ。

 

 

 

 玄関を開けて『ただいま』と言った瞬間に冷や汗が流れた。博麗神社で望に送ったメールは奏楽の事を書いていない。それもそうだ。何故なら、その時はまだ『奏楽』と言う名前すらこの子に付いていなかったのだから。

 待っていた望と雅は笑顔だったが、すぐに俺の右手に繋がれた幼女を見て硬直。すぐに居間に連行され、正座させられた。

「お兄ちゃん? 出張だったんだよね?」

「お、おう……」

 何故だろう。望が怖い。黒いオーラが見える。

「何でこんな小さい子を?」

「え、えっとだな。色々あって……」

 今度は雅。何故だか、奏楽を睨んでいる。どうやら、奏楽が妖怪だと気付いて警戒しているようだ。

「おにーちゃんが助けてくれたの!」

 俺の背中にくっ付いて離れない奏楽が満面の笑みを浮かべてそう言い放った。

「「助けた?」」

 奏楽の一言で状況が更に余計、ややこしくなったのを一瞬で理解する。出張先で何から幼女を助けたのか。どうして、そうなったのか。どうやって、助けたのか。何故、連れて来たのか。無理だ。さすがにここまでの嘘を短時間で考えられるはずがない。

(お、お前ら! 助けて!!)

 仕方なく、魂の中にいる3人に救助を求めた。

『そうね……まず、奏楽を捨て子にしましょう』

「実は……この子――奏楽って言うんだけど捨て子なんだ」

 吸血鬼の案を採用し、すぐに目の前で仁王立ちしている2人に言う。妹と仮式は目を丸くする。

『次じゃ。出張先で道に迷ってしまい、うろうろしていると偶然見つけてしまった……と言う事にしよう』

 続いて、トール。すぐにそう話す。

『最後。可愛いから連れて来た』

「可愛いからってバカッ!?」

 ただの変態誘拐犯である。まさか、狂気が俺を陥れようとするとは思わなかった。多分、3人は俺で遊んだのだろう。魂の中から笑い声が聞こえる。

「可愛いから……どうしたって?」

 しかし、そのせいで俺の前にいた妹が修羅になってしまった。冗談ですまされる事じゃない。後であの3人に何かおしおきしなくては。

「あ~……お、俺の事が可愛いって言って付いて来ちゃったんだよ」

 苦しい。苦し過ぎる。何だよ。可愛いから付いて来るって。俺は玩具か。

「おにーちゃん、可愛いよ~」

 何という事でしょう。奏楽が俺の頬に頬をくっ付けてすりすりして来ているではありませんか。

「……本当みたいだね」

「確かに響はそこら辺にいる女の子より可愛いけどさ」

 男して何かを失った気がしないわけでもない。

「さすがに黙って連れて来たら誘拐になっちゃうから警察とか色々な所に行って何とかして来た。まぁ、そのせいでこんなに遅くなったんだけどな」

 戸籍とか紫の冬眠が終わってからやって貰えばいい。

「……奏楽ちゃんだったかな?」

「うん……おねーちゃんはだれ?」

 少し、怯えた感じで奏楽が望に質問する。

「私は望。お兄ちゃん……君を助けた人の妹だよ。それより、一つ質問いいかな?」

 望の問いかけに奏楽は頷いて答えた。

「お兄ちゃんの事、好き?」

「うん!! 大好き!」

「そう、それなら良かった」

 奏楽の言葉に嘘がない事がわかったようで望が微笑む。

「おねーちゃんたちは?」

「「へ?」」

 奏楽からの不意な質問に戸惑う2人。奏楽は黙って2人の回答を待ち続けている。

「うん。好きだよ」「まぁ、嫌いじゃないかな?」

 望は素直に、雅は恥ずかしさからか少し顔を紅くしてそう答えた。

「わかってくれたようで何より。奏楽。挨拶しなさい」

「音無 奏楽です! よろしくね、望おねーちゃんと……仮式!」

「「なッ!?」」

 奏楽はまだ、雅の名前は知らない。それならば、『お姉ちゃん』とでも呼べばいい。だが、この子は『仮式』と言った。それを知っているのは俺と雅ぐらいだ。奏楽はもちろん、望だって知らない。その証拠に首を傾げていた。

「そ、奏楽? 今、なんて?」

 まだ、聞き間違いの可能性が残っている。それを確認する為に奏楽に問いかけた。

「ん? よろしくねって言ったの!」

「その後」

「望おねーちゃん」

「その次」

「仮式!」

「ちょっと、望。ここで待ってて」

 勘違いじゃなかったようだ。俺が奏楽を担ぎ、雅が望にそう言った後すぐに2階へ移動。俺の部屋に入って奏楽をベッドの上に降ろした。

「ここは?」

「俺の部屋だ」

「おにーちゃんの部屋!」

 急にキョロキョロし出す【魂喰者】。興味があるらしい。

「ねぇ? 本当の事を教えてくれない?」

「あ、ばれてる?」

「仕事で毎日、異世界に行っているんだよ? 出張以上の事をしてるじゃん」

 確かに。

「まぁ、時間がないから手短に話すけど事件があったから解決する為に働いてた」

「後で詳しく教えてね」

 倒れた事を言いたくなかったのだが、仕方ない。望が寝た後にでも話すとしよう。

「ああ……とにかく今は奏楽の事だ。奏楽? どうして、この人の事を『仮式』って呼んだのかな?」

 机の引き出しの中に頭を突っ込んでいた奏楽を発掘し、問いかけた。

「え? だって、おにーちゃんがそう言ってたから」

「……響?」

 奏楽の言葉を聞いて雅がギロリと睨んで来る。

「奏楽にお前の事を話した覚えはない。なぁ?」

「うん!」

 元気よく頷いた後、奏楽は本棚の方へ行ってしまった。

「じゃあ、何で……」

「そこからは私が説明しましょう」

 机の引き出しから紫が出て来る。その姿はまるで某ネコ型ロボットだった。

「おっす。冬眠はもういいのか?」

 雅は口を手で押さえて悲鳴を上げるのを阻止している。大声を上げてしまったら望が飛んで来るからだ。俺は慣れているので何も言わずに質問する。

「まだ眠いわよ。でも、あの子の事を教えておかないと面倒な事になるから」

 紫はダルそうに奏楽を見ていた。一方、奏楽は紫が登場したのに気付かずに本棚から適当に引き抜いた本を読んでいる。

「大丈夫か? 雅」

「う、うん……何とか」

 息を大きく吸って落ち着きを取り戻そうとしていた。

「修行が足らないわね」

 何の修行なのだろうか。

「いいから。奏楽について話せ」

「あらあら。私が冬眠する前より勇ましくなってるわね」

「色々あったからな……で?」

「……多分、そこの仮式は気付いてると思うけどあの子は人間よ」

 言っている意味が分からなかった。あれほどの異変を起こせる人間などほとんどいない。しかも、あんなに小さい子がだ。妖怪なら見た目と実年齢が一致しないのは多いけど人間の場合、それは皆無。つまり――。

「奏楽は本当に5歳だってのか?」

「ええ。そうよ」

 あり得ない。そう思いながら雅の顔を伺う。しかし、俺の想像とは逆に雅は少し悲しそうな顔をして首を振った。

「……なら、どうしてあんな異変が起こせたんだ? 無理だろ」

「不可能ではないわ。彼女に何か特別な力があれば、ね」

「やっぱり、能力持ちだったか……」

 魂融合など普通の人間に出来るはずがない。いや、幻想郷にいる妖怪も無理だろう。

「その能力名は?」

 雅がそう聞いて答えを促す。紫は少しだけ俯いてから口を動かした。

 

 

 

「……『魂を繋ぐ程度の能力』。彼女は人の魂と共鳴し、繋ぐ事が出来るの。そして、その人が考えていることや過去がわかったり、力を吸収して自分の物に出来る。言うなれば繋いだ魂が多ければ多いほど強くなる……とても強力な能力よ」

 


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