鎌を振り降ろして妖怪を土にしてすぐにバックステップ。俺がいた場所に別の妖怪が突っ込んで来た。回避された事で硬直している内に鎌で攻撃し、また土にする。
シンクロすると普段より強くなる。フランの時は『攻撃力』。『禁銃』もそうだが、フランのスペルである『禁弾』も遥かに威力が上っていた。まぁ、遊び用のスペルの攻撃力が上がっても微々たるものだったが。
そして、小町の場合は『スピード』だった。電気の力で筋肉の動きを極限まで上げる『雷輪』には負けるが十分、速い。それに手に持っている『デスサイズ』はかなり小型の鎌。小回りも効くため、相性はバッチリだ。
「よっと」
黒いエネルギーの刃を飛ばして3匹の妖怪をまとめて倒す。それを見ながら持ち手の内側にあるボタンを1回だけ押し、刃を俺の背後に向ける。そのまま、突進して来た妖怪に刺さり幽霊を拡散させた。今度は2回押して刃の向きを前に戻す。腕を振り上げて迫って来た妖怪を一刀両断する。
『なかなかやるね』
(お前のおかげだよ。小町)
頭でお礼を言う。このスピードと鎌は小町とシンクロしているから得られた物だ。
『いやいや、この力を使いこなせているのが不思議なくらいだ。だって、トールから話を聞いた限りじゃね』
「え!? ま、まさか能力名も!?」
『さすがの我でも学習はするぞ……言っておらん。お主が他の人に説明するような感じで説明しただけじゃよ』
トールの言葉を聞いて安堵の溜息を漏らす。
「それにしても……これ、何だと思う?」
妖怪を斬った後に2人に問いかけた。俺の目に鎌の持ち手が映っている。そして、その中央――輪の中心に浮かんだ『120』と『69』言う数字。前者は変わらないのに対して後者は1秒毎に1ずつ減って行く。
『見るからにカウントダウンじゃな』
(でも、何の? このスペルがブレイクするまでの制限時間とか?)
そうだった場合、大変だ。後、1分ほどしかこの鎌が使えない事になる。
『それはどうだろう? さすがにそれはないと思うけど』
だが、小町がトールの意見を否定した。
「はっ!」
とにかく、話し合いは2人にまかせて戦闘に集中する。時間差で襲って来た妖怪をステップと反射神経で回避。躱すと同時に鎌を振りかぶり、切り裂いた。幽霊が勢いよく真上へ逃げて行く。
「ん?」
『どうしたんじゃ? 響』
「いや……何でもない」
何で、幽霊は上へ逃げたのだろう。今までなら一目散に森の中に消えていったはずなのに。思い出せば俺が小町とシンクロしてから、もしくは結界を貼ってからなのかはわからない。でも、きっとその時からだ。根拠があるわけでもないが何となくそう思った。
「おっと!?」
考え事をしていたら、頭上から妖怪がダイブして来ていた。体を捻りながら鎌を真横に薙ぎ払う事によって回避しながら妖怪に鎌を当てる事に成功する。すぐに幽霊が散らばり視界が一瞬だけ真っ白になった。
「なっ!?」
その隙を突かれてしまったらしい。前後左右だけではなく、上からも一斉に数十匹の妖怪が飛びかかって来た。この距離では上手く行っても鎌を横に大振りに振って左右と前の妖怪しか倒せない。後ろと上から攻撃されてしまう。その攻撃がただの噛み付きならまだいいが、こいつらの口が白く光っている。直接、魂を撃ち込んで来る気だ。
『響! カウントがゼロになるよ!』
小町の声でチラリと持ち手を見ると同時に『0』になった。
(ここで鎌が消えたら打つ手が!?)
背筋に冷や汗がたらりと流れる。しかし、鎌が消える代わりに目の前に新たなスペルカードが現れた。左手で乱暴に掴み取り、スペルを宣言。
「死神『セカンド・デスサイズ』!!」
それと間髪入れずに妖怪たちの牙がキラリと光る。
「おらっ!!」
急に重くなった鎌を振り回す。持ち手は何故か棒状になっていたが、そんな事を気にしている暇はない。丁度、鎌の刃は下を向いていた。それを確認し、すかさず前にいた敵は鎌を縦に振る事で消滅させた。突然、後ろが重くなったが気にせず、すぐにボタンを押して刃の向きを右にする。体を無理矢理、回転させて右側から突っ込んで来ていた妖怪にヒットさせた。
(な、何だ?!)
また、後ろの方に衝撃。いや、この衝撃は鎌から伝わって来ているらしい。
「え?」
チラリと後ろを見るとそこにいるはずの妖怪がいなかった。いや、土に戻っていたのだ。
『響! 上だ!!』
トールの叫びに本能的にボタンを押し、刃を上に向けた。背中から地面に倒れ込むようにして空を見上げ、鎌を振り上げて何とか倒す。
「うわっぷ……」
上から土が降って来て顔面にかかる。左手で払い除け立ち上がった。もう一度、周りを見るが先ほど襲って来た妖怪を全て倒せている。しかし、最初の立ち位置から見て後ろと左側にいた妖怪に手を出した覚えはない。
「何で……」
『おい、鎌の形が変わってるぞ!?』
「何!?」
小町の言葉で鎌を観察する。明らかに姿形が違った。
柄が持ち手の輪を貫通し、後ろまで伸びている。そして、輪を中心とすると前後に刃が付いていた。それぞれの刃の向きは逆――つまり、前の刃が上を向いている時、後ろの刃は下を向いているような構造。今度は輪を貫通している棒が持ち手になっているのだ。その姿は1回転しても同じ形、『点対称』だった。
多分、前の妖怪を倒した時、後ろの刃が背後の妖怪の当たっていたのだ。左の敵も同様、鎌の長さは俺の身長ぐらい。いや、それ以上。リーチも十分だ。
「……今度は『240』か」
持ち手である棒の脇にまた、数字が浮かんでいた。
『なるほど……この鎌は段階を踏んで姿を変えるらしいの。その数字はそれが可能になるまでに必要な時間なんじゃ』
この鎌の名前に『セカンド』が付いていた。で、この前は『ファースト』。では、『サード』もあるはず。
「じゃあ、それまでこの鎌を振り回すとするか……」
大きくなった分、スピードは遅くなるだろうがこの大きさなら問題ない。それに攻撃の幅が広がったのだ。警戒したのか妖怪たちが半歩下がった。
「そんな短い後退じゃすぐに倒させるぜ?」
そう呟いた瞬間、俺は前に駆け出す。輪にではなく棒にセットされたボタンを1回、押す。刃の向きが左になり、俺は霊力を使って低空飛行を開始した。妖怪たちの隙間を縫って少し開けた場所でホバリング。俺の周りにいた妖怪たちが驚愕する。当たり前だ。わざわざ、敵が密集した所で止まったのだから。
「鎌符『大車輪』」
シンクロ用ではなく自分で考え付いたスペルを唱え、その場で高速回転。
「発射!!」
回転速度が最大になった所で2枚の刃から衝撃波をいくつも繰り出す。俺を中心に無数の刃が妖怪たちを襲い、土に戻った。
「次! 成長『ロングサイズ』!!」
回転を維持したまま、別のスペルカードを発動させる。2枚の刃が急激に伸びて遠くの方にいた妖怪を八つ裂きにした。
「鎌撃『爆連刃』!」
伸びた刃が突如、爆発。鎌の破片が四方八方に散らばり、妖怪たちに当たる。シンクロ前の鎌ではさすがに魂を狩る事は出来なかったはずだ。しかし、破片が当たった妖怪が苦しみ出し、幽霊を拡散させた。その時、鎌のカウントが『ゼロ』になる。
「死神『サード・デスサイズ』!」
手に持っていた鎌が光りを帯び始め、形が変化して行く。前後で2本ずつあった柄がもう一本、増えた。2枚だった刃も3枚になり、それぞれの刃は等間隔――つまり、3枚のプロペラのようだった。持ち手の棒は消え、また輪っかに戻る。
「もう、鎌とは言えないな……」
大きさはかなり大きい。持ち手となる輪は俺が乗れるほどだ。
(乗れる……そう言う事か!)
鎌を地面に置き、輪の上に乗る。すると、3本の柄が高速で回転。本当にプロペラだったのだ。回転速度が上がるとふわりと浮かんだ。幸い、輪は回転していないのでバランスを取りながら前を見る。下を見てカウントが『480』だと確認した後、スペルを構えた。
「死霊『デスボール』」
本日、2枚目となるシンクロ用のスペルだ。指先が黒く光る。こいつの条件は『時刻が4時44分になった時に宣言する事』。本来ならわかるはずのない条件。しかし、俺は直感でわかった。
プロペラとなり、宙に浮く鎌。例外なくその刃も回転している。巻き込まれたら大けがするだろう。
その上に指先を黒くした死神。その指から小さな黒い球体が生まれる。
「近づけば鎌の刃が……遠くに逃げたら死の球体が……お前らに逃げ場はないぞ」
そう呟いた時、妖怪たちの恐怖が手に取るようにわかった。