こちらの小説は4年前から書き始めたもので、第1章、第2章はとても読みづらい文章になっています。
後々、まだ読める文章になるので出来れば最後まで読んで欲しいです。
これからよろしくお願いします!
第1話 現実から幻想へ
「とう……ほう?」
俺――音無響(おとなし きょう)は首を傾げながら聞き返す。
「そう、東方! 知ってる?」
腐れ縁であるツンツン頭の影野悟(かげの さとる)が笑顔でそう言った。今は学校帰り。帰路についている最中に悟が聞いてきたのだ。
「映画?」
「違う!? 宝じゃねー! 方角の『方』だ!」
(東……方……)
「神起?」
「韓国人でもねーよ! projectだ! 東方project! シューティングゲームの!」
悟の説明を聞いてもピンと来なかった。
「知らん」
軽く突き放す。知らない事を説明されてもはっきり言って迷惑だ。
「そんな事言わずに! ほら、曲聞いてみろよ!」
「曲?」
「そう! 同人ゲームにしてはクオリティー高いんだよ」
音楽プレイヤーを取り出しつつ言った。
「えっと……何にするかな~♪」
嬉しそうに画面を見つめる悟。申し訳ないが少し引いた。
「よし! これだ! ネクロファンタジア!」
どうやら曲が決まったらしく俺の耳にイヤホンを突っ込んできた。
(ネクロファンタジアね……)
少し待つと軽快な音楽が流れ始める。最後まで聞いて俺はゆっくり感想を述べる。
「これ、本当に同人ゲームなのか?」
「おお!? お前も驚いているようだな!」
そうに決まっている。ここまでクオリティーが高いとは思ってもみなかった。
「他にもオーエンとかマスパもいいぜ!」
「マジか!? 聞かせろ!」
俺の家に着くまで東方の曲を聞き続けた。途中でヴォーカル曲も聞いたが俺は原曲が好きらしい。
「……」
そんな俺たちの様子を遠いところで見ている人物には気付かなかった。
「~♪」
パソコンを開きつつ俺は最初に聞いたネクロファンタジアを鼻歌で歌っていた。どうもハマってしまったようだ。頭から離れない。
「東方、と」
ある動画サイトで検索する。ハマってしまったからには自分の音楽プレイヤーにも曲を入れたい。因みに俺が使っている音楽プレイヤーはPSPだ。ゲームも出来るし家ではインターネットも出来る。ここまで高性能なのだ。使用しない手はない。
「あった」
まず初めにお気に入りであるネクロファンタジアを発見する。早速、ダウンロードしPSPに移す。他にも曲を取る。さっき聞いたものからまだ聞いた事のない曲まで。
「やべ……容量ねー」
東方の曲は意外にも沢山あり容量オーバーしてしまった。
(今までの曲、全部消しちゃえ!)
人間とは怖い。ここまで大胆な行動まで取れてしまうのだから。俺のPSPは一瞬にして東方色に染まった。
「ふぅ~……」
満足げにため息を吐く。全曲とはいかないがほとんどの曲は取った自信はある。しかも全て原曲だ。達成感しかない。
「お兄ちゃん? 起きてる?」
「あ、ああ」
急いでパソコンを閉じ、返事をする。
「お母さんが晩御飯だって」
「おう。すぐ行く」
ツインテールの妹――望(のぞみ)が部屋に入ってきてそう言った。気付けばお腹はペコペコ。望と一緒に部屋を出る。
深夜2時。やっとレポートを書き終えた俺はベッドに横になる。手にはPSP。耳にはイヤホンが付いている。
(やっと聞けるぜ)
晩御飯の後、望の宿題を手伝ったり、明日の宿題をしている内は聞けなかった。いつもは音楽を聞きながら作業するのだが今日だけは何もせずに聞きたかった。部屋を真っ暗にしてPSPの電源を付ける。この時間、家族は全員寝ているが念のためだ。聞いてる最中に入って来て欲しくない。
(まずはネクロファンタジアだな)
お気に入りといってもまだ一回しか聞いていない。正直言って一回だけじゃ良いか悪いかわかるわけがない。確かめるために聞くのだ。ネクロファンタジアを選択してボタンを押す。すると、軽快な音が流れ始める。
(やっぱりいいな、この曲)
画面を暗くし目を閉じる。少し音がでかいと思ったがこの曲にはこれが合っているような気がした。
「……あ」
もうそろそろ曲が終わるところでPSPの充電が切れた。
「マジか」
不完全燃焼。ため息を1つ、吐いてから充電器を取り出しPSPに差す。真っ暗な部屋でもこれぐらいなら出来る。
(いいところだったのにな……)
少し鬱になった。再度、曲をかけ直し何気なくPSPを撫でる。
「ん?」
PSPをよく見たら充電が終わっていた。
(おかしい……)
頭の中に疑問が浮かぶ。これほど早く充電が終わるはずない。
「なんだ?」
更に不思議な事が起きる。今の俺の格好は半そで、短パン。部屋着だ。夏だからこれでも暑い。だが、肌触りから俺は長袖の服を着ている。電気を付けて確認する事にする。その時――
「!!?」
浮遊感を感じた。咄嗟にPSPを掴むがそんな物を掴んだところで何にもならない。俺は突然、開いた穴に落ちた。
「何なんだよ! これ~~~~!」
叫ぶ。俺も人間なのだ。突拍子もない事が起きれば吃驚するに決まっている。周りを見ると大量の目玉が浮かんでいた。しかも、全て俺を見ている。
(本当に何なんだ!?)
困惑。ただただ困惑していた。とりあえず、落ちている方向――下を見た。薄っすらと光が見えた。出口だ。
「――ッ!」
目の前には大地が広がっている。森、滝、山、川。大自然がそこにはあった。
「マジかよ!!!」
そう俺は大空に放り出されたのだ。人間は空を飛べない。つまり、俺は助からない。それでも諦めたくない。こんな状況でも冷静な事に少し驚きながら思考を続ける。
「?」
そこで俺の着ている服が目に入った。あの時の違和感通り、長袖だった。それだけじゃない。
「ゴスロリ?」
紫を基調としたゴスロリ服に俺は身を包んでいた。もちろん、俺にはこんな趣味はないし着たくもない。
(何なんだよ……これ?)
訳が分からない。地面まではまだ相当な距離がある。でも、その間にする事など何もない。飛べないのだから――。
「何だ、これ?」
懐にお札があった。取り出してみる。
「式神……『八雲藍』?」
書いてあった文字を読んでみた。
――ポン!
「「え?」」
急に目の前に女性が現れた。右手にはお箸を。左手にはお茶碗を持っている。しかも尻尾みたいな物が9本、生えている。女性の方も目を丸くしていた。お互い、見つめ合いながら落下していく。
「―――」
女性の方が正気に戻るのが速く、口が動いた。だが、まだ音楽を聞いていたので何と言ったかわからない。急いでイヤホンを外す。
「!」
その途端、服が光り輝きいつもの部屋着に戻った。
「「……」」
また沈黙が流れる。地面まであともう少しだ。
「あの……」
女性が戸惑いながら口を開いた。
「何だ?」
「……助けようか?」
「……お願いします」
俺はバランスを崩しながらも深々と頭を下げた。