金色の娘は影の中で   作:deckstick

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魔法先生重羽ま編第20話 南へ

 修学旅行が終わった。

 原作的にはネギの弟子入りイベントやらがある時期だが、既に助手だし、騒動に発展する理由がない。

 図書館の地下にドラゴンが住んでいる、なんてこともない。そもそもナギと同居しているネギが、ナギの手がかりなんてものを求めるはずがない。

 南の島への旅行は……

 

「……いい天気だなぁ……」

 

「こうしてゆっくりとバカンスを楽しめるのも、今のうちですわ。

 忙しさやこれからの予定を考えると、次は当分先、下手をすれば不可能になるでしょう?」

 

「間違ってはいないんだが、よくクラスのほぼ全員を連れ出せたな。

 来ていないのは、麻帆良祭の準備やらで忙しい連中くらいか?」

 

 うん、これはあやかがやらかした、と言っていいのだろう。

 来ていないのは3人。肉まんと中華の屋台を出そうとして忙しい鈴音、それに巻き込まれた四葉、祭で発表する論文を口実に研究に邁進する聡美だけだ。

 関係者だけを連れてくることも出来たのだろうが、この辺はあやかの面倒見の良さと懐の温かさの為せるところか。

 その代償として、3Aに大きくかかわっていない者は、ほとんど参加していない。私とさよは教員という名目の保護者枠だし、純粋な部外者としてはネギがマスコット枠扱いで呼ばれたのと、話を聞きつけたクレメンティーナ……ロシア方面の眷属……が自腹で参加してきた程度だ。

 なお、男連中は自腹であっても参加を拒否したらしい。

 

「わたくしとしては、彼女たちこそ休むべきだと思うのですけれど。

 どう見ても根を詰めすぎですわ」

 

「研究者や職人を好きでやっている連中は、それが趣味だからな。

 あれだ、仕事で絵を描いて、息抜きで別の絵を描く、みたいなことになったりするやつだ」

 

「周囲から見て、何かわかりやすい目安でもなければ区別できませんわ」

 

「区別できるならマシだな。

 鈴音や聡美は、やるべきこととやりたいことを一致させやすい。そうなると、周囲が心配するレベルで没頭することになっても止まらんぞ」

 

「まさに現状ですわね。

 四葉さんも料理という方向で似たようなものですし……ままなりませんわ」

 

「無理強いはやめておけよ。

 人によって休息や気分転換の手法は様々だし、気にする点も色々だ。南国リゾートも、日焼けを気にする連中にとっては拷問になりかねんしな」

 

「ええ、ですから強制はしていませんわ。

 むしろ羽目を外さないよう注意し、自制する自信がないのであれば辞退してほしいと言ってあったのですが……」

 

 そんなあやかの視線の先には、サメの着ぐるみから生える褐色の足が。

 キャーとか言いながら逃げ回る様子は、どう見ても鬼ごっこだな。笑顔で砂浜を走り回っているのだから。

 身長や足の細さ、それにマナやザジの性格を考えると、中身は菲で間違いない。柿崎や釘宮、和泉といった面々も普通に楽しめているようだから、十分に手加減しているようだ。

 というか、マナとザジ、それに雪凪は休憩所にいるのか。雪凪の日焼け対策は厳重にしているようだが……魔法でどうにかしています、とは言えない面子も来ているから窮屈そうだな。綾瀬や宮崎あたりはアルビノが日差しに弱いとかの知識を持っていそうだし、他の連中も気付かない保証はない。

 

「まあ、こうやって遊べるのも今のうちか……」

 

「ええ。まあ、こうして遊んでもらえれば、裏の話もしやすいのですわ」

 

「聞かれる心配は、あまりなさそうだな。

 だが、普段の報告や雑談レベルの話は、普段からしているだろう。

 あえてここでやる必要はあるのか?」

 

 確かに近くは関係者……というか、あやかとクレメンティーナしかいない。

 だが、事故のようなものは無いとは言えないだろう。話に夢中で近付いている事に気付かないとか、そもそも大きな声を出して聞こえてしまう可能性はある。

 

「この様な開放的な場所だからこそ、ですわ。

 もちろん、あの計画に影響があるような、重大な話ではない……はずですし」

 

「そこは断言できないのか」

 

「ええ。計画そのものではなく、計画に関係する人物に関係する内容ですから。

 つまり、ネギさんとエヴァさんの掛け算についてですわ」

 

「掛け算言うな、腐女子とか貴腐人とか呼ばれるようになるぞ。

 まあ、いくら掛けられても、私がネギを恋愛対象と見ていないから0にしかならないんだが」

 

「ええ、それは見ていてわかります。

 ですが、ネギさんは積極的に動いているようですわ」

 

「動いている、か。

 少なくとも私に対しては消極的になってはいるが」

 

 ネギからの連絡は、業務的な内容のものが殆どだし。

 そのついでに雑談をすることはあるが、以前よりは落ち着いてきたような感じすらある。

 

「それは主にクレメンティーナさんのオハナシの成果ですわ。

 少なくとも積極的に動くのは計画が成功した後。今はその時に向けた魔法の調査や開発が主ですわね」

 

「ああ、やはりぽっと出の小僧に思うところがあるのか」

 

「お姉様が幸せになれるなら、年齢や出身なんて細事よ?

 ただ、精神の入れ替えは問題が大きすぎるから釘を刺しておいたけど」

 

「そうなのか?

 独占欲というか、変な虫が、的に思われても仕方ないと思うが」

 

 少なくとも、私をお姉様とか呼ぶティーナにとっては邪魔者だろう。

 雪花やイシュトも、諸手を挙げて歓迎しているわけじゃないし。

 

「肉体面と精神面で狂ったもの同士という説明は、まあ納得できるし。本人に悪意やらが見えないのも確かだし。今はまだ様子見よ。

 精神系の魔法の問題点を確認したら、ちゃんと納得してくれたし。今のところは、敵対や排除する理由がない、といったところね」

 

「……どんな説明をしたんだ?」

 

「精神系の魔法を研究するには、被験者が必要。特殊な月の一族、その中でも飛び切り特殊なエヴァ様に有効な手法を調べるにはエヴァ様自身を被験者とする必要があり、研究課程は決して安全とは言えない。そもそも、一族の仲間を実験動物のように扱うのは許容できない。

 本人も気付いていた内容を確認しただけよ?」

 

「内容に問題が無いのは理解した。

 別の手段については、何か聞いているのか?」

 

「割と最初からゴーレムやアンデッドを遠隔操作する魔法を研究してるみたいね。

 視覚や聴覚を飛ばせるものがあるし、触覚も似たようなものはあるわ。味覚や嗅覚は、対象がアレだからお察しください的な?」

 

「憑依する側が安静である必要がとか聞いた気がするが、それについては?」

 

「悩んでたわよ?」

 

「未解決、と。

 簡単に解決するとは思えんが、解決しない方が平和だったりするのか……?」

 

「研究してほしくないようなら止めるわ。

 マッドな連中は、ロボ操作の遠隔操作精度が向上しそうだから頑張ってくれとか言ってるけど」

 

「あー……そっち方面の発展に貢献する可能性があるのか」

 

 だが、ゴーレムの操作やらについては、それなりに実用的な水準にはなっているはずだが。

 ネギの用途だと……ロボでやる意味がないほど細かい操作、針の糸通しが可能なレベルを要求しそうだし。

 

「特に今の魔法だと、触覚のフィードバックも微妙よね。基本的に戦闘用だから、完全なフィードバックは逆に欠陥魔法とか言われそうだし」

 

「あー……今の遠隔操作だと、触覚はどんなレベルなんだ?」

 

「何かに触れている事が大雑把にわかる程度ね。

 点字を読むのは不可能、触り心地もかなり怪しいし、温度も暖かいか冷たいかくらいらしいわ。

 あと、痛覚何それおいしいの状態は許せないとかなんとか」

 

「大体分かったが、痛みは別に問題ないんじゃないか?

 遠隔操作だと、致命的な破損を痛みとして感じる必要はあるのかもしれんが」

 

「痛みは体の異常を知る重要な手段だとか、借り物の体に傷をつけたことにも気付けないのはだめだとか、ハカの痛みがどうとか、色々言ってたけど……まあ、異常を知るにはわかりやすい手段よね」

 

「さらっと下ネタが混じるあたり、ブレないな……」

 

 いやまあ、最初から頭の中がピンクではあった気がするが。

 隠す気がないのか、オープンなスケベで問題ないと思っているのか。まさか、気付かれないとか思っていないだろうな?

 

「下ネタなの? えーと、ハカってお墓の事じゃなくて?」

 

「お墓の痛みというのも意味不明だし、翻訳魔法なしで頑張っているからこそ気付かなかったのだろうが……あれだ。破瓜というのはロストバージンの意味もあり、私が処女だと断定した上で、体を入れ替えて性行為を行う気でいるという話だな」

 

「あー、そういう事ね。そうなると……やっぱり止めるべきなのかな?

 自分の体に発情するのか、という問題もありそうじゃない」

 

「自分のというのも問題だが、そもそもロリコンになった覚えはないな。

 年齢詐称薬も併用とかになると、いっそ各々が好きな体を作って操作した方が楽そうだ。ゼロほどの性能を求めなければ、デザインも好きにできるだろうしな」

 

「それもそうね、その方法なら本体は安静にって点も問題ないわけだし。

 その方向で話をしてみようかな」

 

「話は、手助け目的か?

 思ったよりも気にしているようだが」

 

「マッドな連中は、適度に軌道修正しておかないと、後で酷いことになるのよ?」

 

「それはわかるが、ネギも同類……だな。

 うん、間違いない」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 そして、夕方。

 腹ペコ軍団は、雪広家のスタッフが準備した、日本式とアメリカ式のバーベキュー……雑に言えば焼肉と燻製肉のような差がある代物だが、とりあえずそれらに群がっている。

 

「アメリカ式だとサイドメニューも重要だし、ちゃんと用意されているんだが……皿の上は随分と肉々しいな」

 

「若さゆえの過ちとかいうやつです。

 近い将来、早ければ明日にでも後悔するですよ」

 

 呆れた目で眺めていたのが気になったのか、近くにいた綾瀬が話しかけてきた。

 そういえば、生活指導くらいでしか関わりが無かったな。京都で魔法バレのイベントもなかったし。

 

「むしろ、この後の風呂で腹が膨らんでいたら、指をさして笑ってやろうか。

 そうすれば、今日中に後悔できるかもしれん」

 

「仲のいい友達なら笑って許せても、先生だとシャレにならないですよ」

 

「生活指導担当としてみっちりねっちり説教するよりは、マシかつ効果的だろう」

 

「太っているおばちゃんなら反論できるですけど、美人でスタイルのいい先生に笑われたら、へこむか反発するですよ」

 

「私と争えるスタイルの中学生が複数いるんだし、そいつらにやられるよりはマシじゃないか?

 まあ、食べすぎとは言えても、肉以外を食べていないことは証明できんのが問題だな。栄養のバランスも大事だ」

 

「どんな栄養をとれば、そこまで育つです?」

 

 いや、ただでさえジト目気味なのが、完全なジト目になっているぞ。

 お子様体型の綾瀬から見て……どころか、元男として大人モードの自分を見ても、素晴らしいスタイルの良さだとは思う。

 ただこれは、食生活云々と言うより、本来のエヴァンジェリンの素質でしかないからな……とりあえず、ここは一般的な話をしておけばいいか。

 

「基本的に、バランスが取れていることが大事だぞ。

 人間の体は、何かをしたからこうなるなんて単純な構造はしていない。何らかの効果が得られたとしても、大抵は余計な結果もついてくるものだしな。

 その意味では、その皿の内容は悪くないぞ」

 

 綾瀬が持っている皿の上には、コールスロー、焼き野菜、パン、肉がある。少なくとも、ここに用意されているものを考えると、野菜が多めと言える内容だ。

 少なくとも、今も肉に群がっている集団が持つ皿よりは。

 そして、もう一方の手にある、飲み物とは思えないナニカを見なければ。

 

「食べ過ぎると眠くなるですよ。

 あと、こっちはお汁粉です」

 

「夜更かしは翌日に影響しない程度にな。

 というか、汁粉は飲み物だったのか……?」

 

「夜食に向くものではあるです」

 

「いや、今は夕食だからな」

 

 小豆由来のビタミンや食物繊維のおかげで、一般的な洋菓子よりはいいと聞くが……少なくとも飲み物扱いするようなものじゃないはずだ。いや、満腹感目的で食事前に食べるのはありなのか?

 ……よく見ると、あやかや千鶴などの中学生らしからぬスタイルの連中は、肉食獣と化していないな。一番食べているのは菲だが、運動量的には妥当な気もするし。それなりに考えて食べているような感じもするから、口を出す必要はなさそうか。

 ネギも普通に輪に入っていて、見たところエロや魔法バレのイベントも発生する様子はない。これならまあ、安心して見ていられるか。




間に合ったッ……!
なんだか、とても眠いんだ……
なお、次話は1文字も書けていない模様。


2019/02/20 以下を修正
 以上→異常
 魔法ばれ→魔法バレ
 ティーナのとって→ティーナにとって
 関り→関わり

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