金色の娘は影の中で   作:deckstick

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少し短めデス


魔法先生重羽ま編第12話 リリカルな?

 ゆったりと、時が過ぎていく。

 心配していたような原作関係のアレコレは、ほぼ無いと言っていい。ネギや私、その代役であろうトッシュやダイアナは、確かな実力と立場の自覚がある。ネギのパートナーとして騒動の中心付近にいる明日菜は記憶を失わずクール系のままだし、エロオコジョはメスになってエロ分が消えている。

 もちろん、小さなトラブルや、原作イベントとのニアミスはある。

 ネギが女子寮の大浴場に招かれたりとか。中身が女性だと知っていて子供の体に萌える趣味のない者だけが一緒に入って、特にトラブルなく終了したらしい。

 体育の授業で2Aとウルスラが同じ運動場になり、ボールが当たったとかで揉めかけたりとか。ネギやトッシュという景品が無かったせいか、ちょっと険悪になったものの普通に謝罪して終了したそうだ。

 

「で、何でこんなところまできて項垂れてんだよ」

 

「お前なら、さっき知った事実を愚痴っても、ある程度は共感してもらえそうだと思ってな」

 

 そしてここは休憩室で、目の前にいるのは長谷川千雨だ。

 

「権力者の悩みなんか、共感できねーぞ?」

 

「今回は、そっち方向じゃないんだ。

 まあ……この資料を見れば、わかるんじゃないか?」

 

 取り出したのは、割と分厚い資料。

 表紙に書かれているのは、髪を水色にした高町なのはのようなキャラクターのラフ画。

 

「これ……あー、魔法に関する先行公開の一環で作るって言ってたやつかな。

 デバイスとか始動キーとかは本物に近い形で使いたいとかで、相談されたんだよな」

 

「ストーリーとか、登場キャラについては?」

 

「いや? 相談されたのはだいぶ前で、主人公っぽい魔法とか、カッコいい敵役らしい魔法とか、そういう魔法関係の……あー、魔法少女で使えそうな魔法のイメージとか、そういう話を雑談みたいな形で話しただけだぞ?」

 

「具体的な内容は聞いていないのか」

 

「そりゃまあ、魔法から性格を決めるとか言ってたような時期だったみたいだし。

 けどまあ……その様子だと、キャラ設定が問題なんだよな?」

 

「そうだな」

 

 本当に、こうなるとは思っていなかったが……

 まあ、実際に頭を抱える理由を見せた方が、話が早いだろう。

 

「まず、この写真を見てくれ」

 

 取り出したるは、1枚の写真。

 魔法を練習している、戦国時代にイギリスから来た第2世代眷属メイドの姿だ。

 

「……うわ、この人が主人公のモデルなのか。

 ラフスケッチでもこの人だろうってわかるレベルって、まずいんじゃ?」

 

「こいつはノアといって、私のメイド部隊にいる人物でな。お前達とすら接点がないくらい裏方に徹しているから、本人が了承しているなら問題はないんだ。

 たとえアニメのタイトルが【魔法少女リリカルなノア】となっていようがな」

 

「…………うわぁ…………」

 

 うん、普通は呆れるよな。外見だけでもどうかと思うのに、名前までそのまま使うとか。

 あのアホ共は何を考えているのやら。

 

「で、だ。

 資料のこのページを見てくれ。こいつをどう思う?」

 

「……すごく……エヴァ様です……って、マジか!?

 外見と名前そのままっていいのかよこれ!!」

 

「少なくとも、私は何も聞いていないぞ。

 資料を見て変な声が出たくらいだ」

 

 ぱっと見が【魔法少女リリカルなのは】なのは、ヴァンやアルが噛んでいるならわかる。デバイスを作っていたくらいだし、最初からこうするつもりだったのだろう。

 主人公がノアなのは、駄洒落なのか外見が似ているからなのかは別として、少なくとも広告塔としての知名度を稼ぐ目的なら、分からなくはない。

 どうしてフェイトが私になり、おまけに儀式用デバイスを持った絵まであるのかが、理解できない。アルフの代わりに雪花──翼と髪が白い剣士でセツカなんて名前では間違えようがない──のようだし。

 ついでにフェレットことユーノは、アルベルティーヌ……オコジョになったようだ。

 

「うわぁ……これはあれだな。関係者の冥福を祈っておけばいいんだよな?

 次期アニメの情報公開が始まる頃だから、制作も進んでるって事だろうし……」

 

「早めに知らせたら止められるけど、他から情報を知られるのは色々まずいと思って、この時期に持ってきたのだろうが……納得できるかぁ!!」

 

「うわ、ちょ、ストップ! 魔力、魔力がやばい!!」

 

「……すまん、ここしばらく巨大な魔力を扱う方向の鍛錬が多くて、細かい制御が甘くなっているんだ。

 それにしても……」

 

 大雑把なストーリーも書いてあるが、魔法世界の救済や聖域の魔力を使うといった、実際の計画に直結するようなキーワードがいくつも目に付く。

 消えた要素としては、ジュエルシード……これは聖域になったと見るべきだろうから別として、蘇生を目指す部分は無いし、襲撃やらのあからさまな犯罪行為も無くなっているようだ。

 じゃあどうやってノアを主人公に仕立てるのかというと、魔力の高まりで魔法的な存在が漏れ出して人に危害を加え始め、それを防ごうとするアルベルティーヌと出会って……という流れとなるらしい。これも予想されていて治安維持の一環として対策が計画に含まれているし、あってもおかしくない状況ではある。

 

「……何だろうな、この無駄な気合いの入りようは」

 

「これはあれだろ、魔法公開に関する情報公開の一環ってやつ?

 当面はアニメだからそういう設定なんだ、で済むだろうし……けど、放送途中で魔法の情報公開開始だよな?」

 

「そうなるな。で、あいつらの事だから、話をアニメの方に誘導するのは間違いない。

 舞台設定だけを見たら問題はないんだろうが……無断で私を使った事もそうだが、魔法世界の崩壊と一般人への被害の二律背反やらを前面に出しているのも、意図的なんだろうな」

 

「あー、まあ、実際そうだしな。どっちの立場に立つのかで正義が変わるってやつだ。

 それに、魔法の一般バレの話もありそうだな。隠れて使えるような魔法じゃないとか、自分だけが魔法を使える後ろめたさと優越感とか、かなりぶっちゃけたセリフもありそうだ。

 けど、実際言ってもおかしくなさそうな内容だと思うぞ」

 

「私のイメージ的にか?」

 

「いぐざくとりー、そのとおりでございます。

 てか、隠れてやれないから、横槍が大量に入るのを覚悟で魔法の公開に踏み切るんだろ? それに秘密の状態の魔法を知った一般人の感情って、そんなもんだろうし」

 

「身に覚えあり、か」

 

「まあな。

 あとは……魔法少女なのに単純な正義と悪の話じゃないって辺りで、人気がでるか微妙そうってあたりが気になるくらいかな。広報目的なら割と致命的な気もするけど、誘導でどうにかするからいいのか?」

 

「その辺は知らん」

 

 まあ、元々フェイトが悪かというと微妙な話ではあるし、魔法を公開する時点での人気は気にしていないのかもしれんし。

 それにしても、手法という面では普通に有効そうだと思えるのに、どうしてあいつらは私やノアといった要素を突っ込んで素直に感心できないようにするんだ。

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 春休みになり、年度が変わった。

 世間は、平和なものだ。それも、もうすぐ始まる魔法公開までなのだが。

 もちろん、魔法関係者は色々と慌ただしくなっている。長い時間をかけて計画していても、直前にならなければできない事など、いくらでもあるからだ。

 

 そして私は、大規模な儀式魔法を行使するまでは割と暇な状態が続くはずだ。

 魔法の公開に直接関与する必要は無いし、儀式魔法の練習や行使に向けた調整という名目で行使以外の表舞台を避ける事になっている。

 逆に言えば、入ってくる情報は日常的なものが多くなるという事でもある。

 テストがどうので出た野球拳だのといった話を、即座に叩き潰した話とか。ちょっとした悪ふざけとトッシュに色仕掛けのつもりだったらしいが、本人に「日本人は体の線が細すぎで、見ていて心配です。10年後に期待できそうな方々は、このルールでは脱ぎそうもありませんし」と言われて撃沈していたそうだ。

 テストに関しては、小学校からやり直しなどという制度に喧嘩を売るような話も流れたようだ。学校に伝わる怪談的な、先輩が後輩に発破をかける話としてのようだが。

 同時に、魔法の本の噂もあった。図書館島に探しに行って行方不明になる怪談とセットで。

 原作絡みのものが記憶に残りやすいのは、もはや病気と言ってもいいのかもしれん。

 

「でも、花見くらいは何も考えずにゆっくりとしたいですよね」

 

「そのためには、もう少し静かな環境が必要だな」

 

「ですよねー」

 

 というわけで、今日は関係者で花見だ。

 酌をしようと待ち構えているネギだけではなく、3Aになった連中もいるし、眷属連中やらも来ている。

 まあ……騒がしいだけで、原作云々が無いイベントは気楽ではあるが。

 

「余計な心配をしなくていいって意味では、何も考えずにゆっくりできるんじゃないかなー?」

 

「そうですね、ここしばらくは面倒だったり騒がしかったりしたことが多かったですから。

 エヴァちゃんは魔法の制御を訓練するのも相当に神経をすり減らしているはずですし、この辺で息抜きも必要でしょう」

 

 更に、ヴァンとアルが揃っている。

 私のいるテーブルにいるのは4人──私の斜め後ろで待機するリズはテーブルについていると言えない──だから、情報をぽろっと漏らしてもすぐに騒動になる事はない。その意味でも、何も考えずにいる事は可能だろう。

 だが。

 

「とりあえず、アルがいる時点でセクハラと罠に警戒したくなるから落ち着けん」

 

「わお、許されたッ!」

 

「セクハラはともかく、罠は警戒対象だからな?」

 

「敗訴! 逆転敗訴です!」

 

「全く……というか、いつからそんなキャラになった?」

 

「今日はいつになくハイだぜヒャッハー!

 ……うん、誰もノってくれないと寂しいよね」

 

「一緒に騒いでほしいなら、あっちの中学生に混じった方がいいと思うが」

 

「それもいいんだけど、暴走するよー?

 止め時が分からなくなりそうだから、それはそれで辛いかなー」

 

「それなら、最初からやらないという選択肢は?」

 

「んー、無いよー」

 

「無いのか」

 

 ヴァンも、何をやりたいのやら。

 久しぶりのゆったりした空気だから、気が抜けてるだけなのだろうが……息抜きという意味では正しい、のか?

 

「なんだか難しく考えてそうですけど、もっと気楽でいいと思いますよ?

 あの儀式魔法も、エヴァさんが失敗するようなら、他の誰でも不可能ですし」

 

「たとえそうだとしても、失敗したら私が後悔するのは変わらん。

 成功しても、あそこはもっと上手くできたとか、ああすれば良かったとか、反省点が大量に出るのは確実だしな」

 

「それはそうですけど、リラックスも大事です。

 緊張しすぎもよくないですよ? ここからは色々と予定がありますし、無理するとお体に触りますよ」

 

「気の抜きすぎも、同じ程度には良くないぞ」

 

 ネギの主張も正しいのは、頭では理解しているんだ。

 感情を捨てられるほど枯れていないと言えば、少しは慰めになるだろうか……って。

 

「いったい、何を触っている?」

 

「え? 無理すると触りますよ、って」

 

「そういう意味かっ!?」

 

 こいつはこいつで油断ならんな!!




2018/05/07 原作絡みにもの→原作絡みのもの に修正
2018/08/28 括弧が閉じていなかったのを修正

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