金色の娘は影の中で   作:deckstick

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魔法先生重羽ま編第11話 新年

「「「あけましておめでとー!」」」

 

 年が明けた。

 深夜だというのにパーティーをしているように見える小娘達がいるが、それぞれの家や保護者が賛同した場合のみ参加可となっている以上、親公認で集まっているという現実が泣けてくる。本来は若者だけの親睦会なのに、保護者枠で私も参加することになっているし。

 あやかが発案し条件をまとめ、その時点でこうなる事を予想して手配も開始していたらしいが。

 関係者に説得力のある説明ができたあやかが優秀なのか、ホイホイ釣られるこいつらが単純なのか、立場やらを考えると当然の帰結なのか……

 

「というわけで、とうとう本番の年になりましたわ。

 わたくし達の使命は、魔法及び魔法世界公開後の混乱を最小に止めるため、組織や派閥を超えた連携を可能にすることですわ。

 そのために必要な、現状で得られた協力者の皆様が間もなく到着しますから、盛大な拍手でお迎えして下さいな!」

 

「「「おー!!」」」

 

 ……協力者?

 いや、あやかが皆と協力して色々と声をかけると言っていたから、その関係か。

 私に話が来ていなかったのは、こいつらがメインの親睦会だからであり、上層部の連中が動く内容ではないから……だよな?

 まさか、急に決まったからとか、サプライズのつもりとか、という事ではないと思いたいが。

 

「エヴァさん、なんだかムスカしい顔をしてませんか?」

 

「ネギか。

 ……ムスカしいとは、どんな顔なんだ。目がー、とか言っていればいいのか? それとも、悪だくみしてそうな薄笑いを浮かべればいいのか?」

 

「あ、間違えました。この前DVDで見たんですよ。

 えーと、無理にこじつけるなら、若い色気が目の毒、とかです?」

 

「私から見れば、80の老人も年下なんだが。

 色気という意味でも、一応は女の体を持つ私に何を求めているんだ、としか思えんぞ。精神的な男色に走る気も無いしな」

 

「でも、薄い本になりそうな関係でもいいって人に、複数心当たりがあるんですけど」

 

「お前自身を含めて、だろうが。

 頭がピンクな点も、若さに含むのか?」

 

「それも人生、ですよ」

 

 そんな事を言っている間も時間は過ぎていき。

 あやかが言っていた“協力者”が到着したわけだが……

 

「……どうしてお前達なんだ?」

 

 会場に入ってきた人物に見覚えがある時点で、大問題だ。

 

「世界各地の組織に関係する若者という条件は、少なくとも外見上は満たしているわ」

 

 以前、シベリアの方で眷属にした少女、クレメンティーナ。

 当然ながら今のロシア方面で月の一族の組織を作った本人であり、そのトップに君臨しているはずだ。

 

「もちろん、混乱に対応するためです」

 

 フランスで眷属にした、ジャンヌ・ダルク。

 眷属にした順序的にフランス方面で二位のはずだが、知名度を考えると影響力は月の一族でもトップクラスになる。

 

「この人選であれば、それなりに広い範囲をカバー出来ると思いますよ」

 

 イギリスで眷属化しアメリカ開拓に参加した中の1人、トッシュ。

 確か、ハーバードあたりで色々やらかしていたはずだ。

 

「世界各地の組織、という条件は満たしてると思うぜ?」

 

 中東で眷属にした中の1人、モジタバ。

 一時は王として、以降も影の王として中東をまとめて来たグループの一員であり、石油的な意味で経済への影響が強い人物だ。

 

「言っている事はわかる。

 だが、どうして組織のトップレベルの連中がホイホイ来ているんだ。自分の組織はどうした」

 

「きちんと組織を作っちゃえば、あとはずっと監視してなくても大丈夫だし?」

 

「トップが簡単に抜けていいのかと聞いているんだ。

 特にロシア方面は目を離すと暴走する連中が多いんじゃないのか、クレメンティーナ」

 

 おそロシアなどと言われる地域だ。

 一筋縄でどうにかなるほど大人しいとは、とても思えん。

 

「いやん、昔みたいにティーナって呼んで、お姉様。

 昔より通信も発達してるし、元々シベリアは密接な連絡とかみんな集まってとか、物理的に無理だったから。情報を回す先が1か所増える程度、どうってことないわよ」

 

「はぁ……ジャンヌは?」

 

「私は元々、トップではありません。

 眷属となるタイミングが少し遅かったことに感謝ですね」

 

「だろうな……トッシュは、人を育てるのにはまって、部下が増えすぎていたんだったか?」

 

「ええまあ、人が育つ様はよいものですからね。

 教え子たちもそれぞれに頑張っていますし、そろそろ親離れするのも良いでしょう。年寄りが重荷になってもいけませんし、少々お節介が過ぎているとも感じていましたので」

 

「へぇ、それで搾取する自由のある国になってちゃ世話ねーな」

 

「おやおや、いくらエヴァ様に憧れていても、その前で無様な姿をさらすのはどうでしょうね」

 

「あぁン?」

 

「おや、違いましたか? 素敵な女性の前で悪ぶりたい若者、という印象なのですが。

 ああなるほど、違和感なく若者に混じることができるという点で適任というわけですか」

 

「何だ、ヤんのか?」

 

 こいつらの仲の悪さというか、相性の悪さは相変わらずか。

 モジタバが相変わらず悪ガキだから、その辺も問題なのだろうが……トッシュの言う通り、普段はそれなりにちゃんとしているらしいのが、弄られる理由なのだろうな。

 

「騒ぐのは後にしろ。

 あやか、こいつらについて、話は聞いていたのか?」

 

「はっきりとではありませんが、予想できる程度には聞いていましたわ。

 大人未満の外見と各地域でそれなり以上の影響力を持つ、エヴァ様と会話し守ることが可能な人物となると、こうなる事は想定の範囲内ですわ」

 

「……そうか」

 

 というか、こいつらが自分で動くために条件を設定したとしか思えん内容だな。

 他に問題があるとすると……

 

「……お前たちは、どういう名目で幕田に来たんだ?

 職や住居やらについては何も聞いていないが」

 

「大使館や商社などの関係者として来ると聞いていますから、住所などはそちらで処理されているはずですわ」

 

「他の国や組織との交渉や、文化の交流といった役目を担当する人員、という形ですね。

 当面は相手が特定されるだけで、嘘ではありません」

 

「実際、商売の話もありって話だしな。

 とはいえ、石油が足らねーってなるのは、運べなくなった時だと思ってるんだが」

 

「それはありそうですね」

 

 ふむ、国を巻き込んだわけか。

 そうなると……

 

「お前たちの役目は、非常時の対処だけではないな。

 何を任されてきた?」

 

「儀式を行う際の盾となる事、ですね」

 

「うるさいハエが寄ってくるのは確実、ってな。

 俺とトッシュがいりゃあ、経済的な圧力も簡単だぜ」

 

「宗教絡みの対処は私が。

 聖女という立場を使えば、動きを遅らせることくらいはできるでしょう」

 

「私は主に、物理的に寄ってくる小物の対処ね。

 これでも酔っぱらいのアホ共を黙らせてきたんだから」

 

「当然ですが、小物の対処は全員が担います。

 それだけの力を持つ事も条件ですので」

 

「今の守りに文句があるわけじゃねーが、儀式の時に月の一族も表に出るからな。

 休息やらの交代も必要だし、何より、何もしねぇのは納得できねーんだわ」

 

「それに加えて、最悪の場合は対策本部的な役目も担う、あたりか。

 幕田とイギリスとアメリカに拠点があればそれなりにカバーできるだろうし。マシューやジョンが来ていないのは、そういう意味もあるだろう?」

 

 アメリカに送った眷属は、複数いるしな。

 南米に行ったやつもいるから、そっちが中心になる事も出来るはずだ。

 

「対策本部の機能も考慮されてはいますが、かなり薄いですよ。

 想定している中で最悪のものは、月の一族の消滅です。そうなった場合、私達がどこにいようと関係ありませんから」

 

「ふむ……それは無い、とは言い切れないか」

 

「ええ。そして、そうなった場合はお手上げです。

 潔く主役の座を引き渡すだけですね」

 

 そうなるのは私の存在が消滅する時くらいだし、自滅してまで魔法世界を救おうとは思っていないが……心配する事は理解できる。

 それでも、あっさりと受け入れすぎのような……?

 

「エヴァ様への説明も終わったところで、改めて新年会と歓迎会を開始しますわ!」

 

「ああ、そういう集まりだったな。

 というか、こういう場合に騒がしそうなダイアナが、やけに静かだな」

 

「……ここまで重鎮が集まるとは、思ってなかったデース」

 

「……お前でも緊張するんだな」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 あいつらが来て、少しばかり日が過ぎた。

 既に冬休みが終わっているが、必要以上に絡んでくることは無いし、現時点で、大きな問題はないと言ってもいいだろう。

 

 なぜか、トッシュが麻帆良学園中等部に非常勤の英語教師として着任してきたが。

 外見は若いといっても不老になった年齢の日本人よりは年上に見えるし、学校を作って人を育てていたのだから教師としての能力もあるだろう。私が英語教師と密接に関わる事は無いし、問題はない。

 これが修正力やらの仕業でないと能天気に思えたら、という条件付きで。

 

「でもさー、現実問題として、原作の薬味少年よりはだいぶまともな人になったんじゃない?」

 

 そして、黄昏てるところを見計らったようにやってくる、ヴァン。

 こういう嗅覚は鋭いと感心するべきか、ストーカーばりに監視されてないか恐怖すべきか。

 

「まあ、デリカシーの無さや、制御能力の無さという欠点は無いな。

 むしろ、年齢的に昼ドラ的な展開にならないかを心配すべきなのかもしれん。思春期の乙女が暴走しなければいいが」

 

「あー、表面的には優し気なイケメン系だもんねー」

 

「魑魅魍魎が蔓延る政界と財界の荒波を乗り越えて来た人物が、優しいだけで済むはずがないからなぁ。幕田に来て解放された気分なのか、どうもはっちゃけている気もするし……

 あいつらのノリだと、ホイホイ付いていきそうだ」

 

「若者の性の乱れがーって、昔も地域とか身分とかによってはアレだったよ?」

 

「邪馬台国から続くロリの国とかいう話もあったが……あれだな。あいつと組み合わせても違和感のない外見がちらほらいるあたり、あのクラスはおかしい」

 

 あやかや那波、楓辺りは、トッシュの横にいても見劣りしないだろう。

 

「つるぺたからきょぬーまで、選り取り見取りだもんね。しかも売約済みまで混じってるしねー」

 

「商品じゃないんだから、婚約済みとか許嫁の方がいいんじゃないか?

 今時は言葉狩りも流行っているようだぞ」

 

「ここには2人しかいないし、言葉狩りを気にするなら許嫁も昔の意味だと問題だよー」

 

「その辺はまあ、今の意味だと言い張れなくはないだろう。

 それで、今回は雑談だけか?」

 

「んー、良いかもしれない話と、悪い話と、雑談。どれからにする?」

 

「まだ雑談があるのか……とりあえず、悪い話から聞こう」

 

 こういうのは、良いものから聞くと上げて落とされるし、雑談から入ると終わらないからな。

 

「おっけー。

 世界樹の発光についてだけど、魔力の規模が想定してた上限を更に超えそうだよ。

 まだ未確定だし、デバイスの強化も研究し始めてるけど、魔法の難度は上がっちゃうかも?」

 

「そうか……確かに悪い話だな」

 

 ただでさえ扱う魔力やら術式の複雑さやらで高難度だったものが、更に厄介になるか。

 発光の時期をずらそうと手を出していたから何らかの影響はあると思っていたし、方向性としては想定していたから、驚く話ではないが。程度が予想以上になりそうなだけで。

 

「それなら、良い話は?」

 

「それも発光に関してだよ。

 タイミングは8月上旬でほぼ確定みたい? 遅くても中旬には光るだろうし、誤差とか余裕とかを考えると、ほぼベストじゃないかなー」

 

「8月上旬から中旬、か。7月になる事は考慮しなくていいのか?」

 

「んー、たぶん?

 天気予報みたいなものだし、半年後の話としてはそこそこの精度だと自負してるんだけどねー」

 

 色々と手を出しているし、今まで蓄積してきた情報とは前提が一致していないのは確か、か。

 いくらヴァンが世界樹と同化しているといっても、半年後の自分の体調などわかるはずも無い。半月程度の範囲で予測しただけでも大したものなのだろう。

 

「8月の後半になると不安が残るが……まあ、7月なら想定の範囲内だし、これ以上遅くならない事を祈っておけばいいか。

 計画に直接影響する話は、これくらいか?」

 

「うん、そだねー。というわけで、残りは雑談かなー」

 

「雑談に爆弾が混じっていたりするから、油断ならないんだが……」

 

「それはまあ、仕方ないって事で。

 でも、造物主とか完全なる世界とかの動向って、気になるでしょ?

 正式な報告書にすると大ごとになっちゃうしさ」

 

「やっぱり爆弾じゃないか」

 

 雑談という形式で済ませた方がいい内容、という意味での雑談か。

 まったく……敢えて持ってくる雑談はこれだから。

 

「まあまあ。

 それに、大して心配しなくていいよ? 造物主は自分では動いてないし、フェイトは新興宗教を作って信者集めしてるけどそれほど捗ってない、って話だから」

 

「それはまあ……それで済むなら平和なんだが、捗らなすぎても余計な行動に出そうだぞ?」

 

「全く集まってないわけじゃない、って辺りがミソかな。

 今のプランを捨てるほど壊滅的ってわけじゃないみたい。国やらも特に手を出してないし、それはフェイトも理解してるから、すぐに暴走する理由はないかな」

 

「要注意のまま、ずるずると行ってくれるのが一番か……」

 

「ま、そういう事。

 ほら、雑談レベルでしょ?」

 

「まあ……そうだな」

 

 蒸し返す必要も、藪を突く必要も無い。その意味では、本当に雑談レベルなんだな。

 わざわざ警戒させるような言い方をしたのは、心構え的な理由なのか、悪戯なのか、どっちなんだ……?




白い悪魔(雪)に続き、黄色い悪魔(花粉や黄砂)ががが。
おにょれ、自然はそんなに人をくるちめたいか…ヘクチッ

そんな感じで気分的に滅入ったり体が不調だったり艦これに逃避したりしていたので、どうも出来が微妙な気がします。


2018/08/28 以下を修正
 心配するの事は→心配する事は
 ロリの国というとかいう話も→ロリの国とかいう話も
 難易度→難度

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