金色の娘は影の中で   作:deckstick

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魔法先生重羽ま編第06話 あと1年ちょっと

 春だ。

 桜の季節だ。

 出会いと、別れの季節でもある。

 

「だが……まさか、お前から来るとはな。

 造物主の差し金か?」

 

 というか、それ以外にこいつ……フェイト・アーウェルンクスが来る理由が思いつかん。

 本来は1年程後に京都で余計なことをするはずだが、天ヶ崎千草も宿儺も幕田……麻帆良にいるせいで色々な影響が出たのか?

 

「そうとも言えるし、僕の判断とも言えるね。

 僕も造物主も、君達がやろうとしている事は聞いているし、長い時間をかけて万全の準備を整えている事も知っている。

 その上で、代案のつもりなのだろうね。何やら怪しい魔法を作り、僕に渡してきたわけだ」

 

「ふむ。持っていけ、とは言われていないのか」

 

「そうだね。ただ、有効に使えと渡されただけだよ。

 間違いなく言える事は、今の僕達に、君達と敵対しながらこれを発動させるだけの力はないという事だね」

 

「随分と正直だな。

 私のところに持ってきた目的は、協力の要請か?」

 

「可能であるなら、そうだね。

 可能性はあるかい?」

 

「内容も知らない魔法の是非を答える事はできん。

 私達を説得できる内容だと思えるなら、説明してみるといい」

 

 もっとも、原作の【完全なる世界】なら、アウトだと思うが。

 散々改変しているし、ミラクルが起こっている可能性もある……のか?

 

「そうだね。

 まず、この魔法の目的は、不幸と感じる人を減らす事だ。その上で、魔法世界が崩壊しても当人達の魔力で維持が可能なレベルにまで消費を抑えているよ」

 

「疑問は3点だ。

 1つ目、不幸を削減する手法は?

 2つ目、人の選別方法は?

 3つ目、発動にはどの程度の準備や魔力が必要だ?」

 

 現時点でかなりアウトな臭いがしているが、大丈夫なのかこれは。

 

「順に答えるよ。

 まず、個々の人が望む小さな世界を作り、魂の状態でそこに送り込む。

 そうすることで、少なくとも大きな不幸は減らせるだろう」

 

「ある意味で夢や仮想現実のようなものか?

 いや、魂の状態になるという事は、肉体を失うという事か。人によっては、何らかの物語に転生したような内容になってもおかしくなさそうだが」

 

「体についてはその通りだよ。内容の可能性も、否定はできないね」

 

 否定できないのか。

 ポヨポヨ言っている方のザジの魔法でも現実とは異なる内容の世界を用意していたのだから、それが行きつくとこまで行けば、やはりそうなるのか。

 

「人の選別は、ほぼ不可能と言っていいね。

 せいぜい、範囲を指定できるくらいだ」

 

「やはり、無条件か。まあ、範囲を制御できるなら、まだマシか」

 

「最初は魔法世界全体を対象にするつもりだったようだから、これでも妥協したのだと思うよ。

 これにも関わるけれど、準備はかなり大掛かりになるだろうね。現時点で不幸な人が、国を超えて移動できると考えるのは楽観的過ぎるだろうから」

 

「対象となる場所を多くする必要があるから、個々はともかく全体としては大掛かりになるのか」

 

 内容はやはり、原作の【完全なる世界】に準拠しているようだな。

 少なくとも現時点では全体に対して行使する予定ではない事と、そう言えるだけの根拠として範囲制御が可能な事が、差異になるのか。

 

「ああ、もう1つ追加だ。

 夢に囚われた魂に対して、外から手出しは可能なのか?

 何らかの形で連絡できるのか、と言い換えてもいい」

 

「原則として不可能、と言っていいだろうね。

 世界を閉じる事で魂を連れ戻すことは可能だけれど、気軽な方法でないのは確かだよ」

 

 手を出せば夢が破綻する以上、そうなるだろうな。

 となると。

 

「そうか。それならば、私達はその魔法を支援することは難しいな。

 肉体を捨て、連絡が取れないのであれば、それは死と同義と判断されるだろう。それに加担するのは殺人に加担するのと同じだ、という意見に反論可能か?」

 

「無理だね」

 

 だろうな。

 だが、考える余地すら無しなのか。

 

「ならば、可能とするよう変更する気は?」

 

「分かっていて言ってるだろう。

 迂闊に介入すれば、世界の秩序が崩壊する。本人の認識の齟齬もあるだろうから、問題を出さないのは不可能だよ」

 

「即答する程度に理解しているなら、なぜ私のところに来た?」

 

「あわよくば、という気持ちがあったことは否定しないよ。

 本命は、どの程度なら見逃されるのかの確認だ」

 

「ふむ。

 わかりやすく言えば、計画の邪魔にならないのであれば好きにしろ、となる。間接的な影響がある場合なども排除や粛清の対象となるがな。

 分かりやすく言えば、希望者を勧誘する事自体は構わんが、魔法の公開を危険視する内容や、その後の不安を煽る内容の説明をする場合は排除対象となる。公開前に魔法の存在を広めようとする事も同じだな。

 この条件は大国や私であっても同じだし、意図ではなく行動内容や結果で判断される。

 参考になったか?」

 

「かなりね。

 結果的な妨害、例えば先に場所を確保してしまった、程度は許されるんだね?」

 

「確保の手法があくどいとか、手配していた場所を横取りしたとか、意図的に被せるようにしたとか、そういう事でなければな。

 魔法を知らない人や組織の一般的な活動の範疇であれば、問題とはならんだろう。実際にどこまで許されるかは、その地の組織次第だな」

 

 だがまあ、こいつや造物主が望むような活動は、難しいだろう。

 お得意の裏でこそこそ動くなら……見付かった時点でアウトか。

 

「細かい基準の指示はしていないのかい?」

 

「私は計画の中心近くにいるが、全体を仕切っているわけではない。

 計画に参加している連中もほとんどは利害や未来を見据えてであって、私の配下というわけでもない。

 指示など、無理な話だな。私にできるのは、依頼くらいだ」

 

「そうなのかい?

 最重要人物という話を聞いているのだが」

 

「重要……重要、か。

 計画の要となる儀式魔法の作成に深く関わったのは事実だし、長い儀式をやり切れると連中が信じられるのは私以外ほとんどいないらしいな。

 そういう意味なら、最重要と言われても仕方ない立場だが」

 

「技術面の柱なら、確かに重要ではあるね。

 聞いた話では、もっと政治寄りの理由だったけれど」

 

 やれやれ、こっちの事も探りに来ているのか。

 月の一族についてどの程度漏れているのかは知らんが、それなりに予想はしていると考えるべきだろうな。

 

「そうなのか? 政治……政治、か。

 幕田の裏方として、古い伝手も色々持っているせいか? 今回はそういう伝手も使って人を集めたし、その後も初期の人員や組織がそれぞれの地域で中心的な役目を担っているはずだ。その影響なのか?」

 

「いや、僕に聞かれても知らないね。

 少なくとも、かなりの影響力を持っているように見えたから、話をしに来たんだ」

 

「結果的には、私でなくてもよかった気はするがな。

 いや、危険な思想だと排除していないから、私で良かったのか」

 

「そうかもしれないね。

 もう少し動きやすい制限だと楽だったよ」

 

「お前達の都合に合わせた基準ではないからな。私達は穏便に事を進めたいから騒乱や紛争を望む者とは相容れないし、そういう者達に遠慮する余裕はない。

 そもそも、地球と魔法世界、双方の国と組織が多数協調して進めている計画だ。基準を変えるにはどんな手間が必要で、邪魔をするとどんな連中に睨まれるのか、想像くらいはできると思うが。

 これを甘く見て起こったのが、20年近く前の争乱だ。未だに燻る傷跡で孤児を保護してきたお前は、その無益さを知っているだろう?」

 

「そうだね。なるほど、君達の事情は理解したよ。

 その上で邪魔にならないよう活動するのは問題ないんだね?」

 

「それは好きにしろ、としか言えん。

 邪魔にならない行動まで縛るほど、暇じゃない」

 

 原作的な意味では、心配ではあるが……ここまで外れている以上、心配しすぎても仕方がない。

 

「それなら、確認しておきたい事がある。

 魔法の公開と、計画の実行。この間の期間は3か月で確定かい?」

 

「計画を変えるに値する意見は、出ていないな」

 

「魔法の公開は、大きな混乱を招くことになるはずだ。

 それが落ち着くまで待つつもりは、ないんだね?」

 

「魔法世界の余命は知っているだろう。そんな猶予は無い事もな。

 もちろん混乱はあるだろうが、これくらいの時間があればある程度情報が広まるだろうし、広める事になっている。その上で、保守的や野心的な連中が余計なことをする前に為すべきことを為すだけだ」

 

 少なくとも政治や経済の権力を持ち魔法に関わっていない連中から、魔法世界を狩場と考える馬鹿が現れるのは確実だ。

 そいつらが迂闊な事をする前に、事を済ませる必要がある。その意味で3か月が限界という結論に達して、その予定で動いているのだから、今更変えろと言っても不可能だろう。

 

「僕達の視点でまとめると、勧誘やその準備自体を止められはしないが、君達から目障りに見えたら対決することになる。その上で、地球で広く勧誘ができる期間は3カ月。

 間違い無いね?」

 

「無いな」

 

「なるほど。無駄かもしれないけれど、造物主には伝えておくよ」

 

 

 ◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 春だ。

 出会いと、別れの季節だ。

 しかし2Aになっても、クラスのメンバーはある点を除けば変わっていない。

 

「開発してる人たちが色々とやらかしまして、チャチャさんの外見がちょっと変わりましたー。

 今回も試作だったりテストだったりするそうなので、ちょっとだけ気を付けてくださいねー」

 

「「「「はーい」」」」

 

 その変化は、ようやくチャチャの皮膚素材が全身分できて、より人間らしい外見になった事だ。もはや人形的な関節は見えず、頭部のパーツを除けば普通の女性と変わりないようにも見える。

 もちろん、中身……頭や身体能力に関しても、順調に進化している。ダイアナとの契約に含まれていた料理の技術は、いつの間にか四葉五月を先生として迎え入れて発展させているらしい。

 そのついでというか、技術の検証と有効利用という名目で屋台の超包子(チャオパオズ)を開いているし、鈴音の行動はやはり原作にある程度準じるらしい。

 

「それでは、入学式と始業式があるので、移動してくださいー。

 騒いだり遅れたりしたらダメですよー」

 

「えー! ボク達がいつも騒いでるみたいだよっ!?」

 

「今も騒いでますよー。

 というわけですから、ちゃんと来てくださいねー」

 

 そんな話があった日の夕方。

 世界文化交流部……あやかの案が元になった、学校の枠を超えて魔法関係者が集まるクラブの部室という名の家に、2Aの関係者がそこそこ集まった。

 

「さて、計画の実行まで、あと1年少々となったわけだが。

 今のうちにやっておきたいことはあるか?」

 

「あー、今のうちに思い切り遊んどきたいっスね……」

 

「遊んでいる暇などありませんわ! 今のうちに可能な限りの準備をしておくべきですわ!」

 

「でも、観光を兼ねて別の国の組織に顔見せしに行くのは、ありデース!」

 

「そこまで金がかかる話は、ちょっと遠慮してーんだけど……」

 

「大丈夫、たぶんスポンサーがつくよ!」「あのお仕事の格好だと、確実に!」

 

「ぜってーしねーよ!」

 

「ファンも多いと聞いているのでござるが……」

 

「だからだよ!!」

 

「だが、顔見せ自体は悪くない。

 関係者で協力者も連れていくことは可能か?」

 

「コウキさんデスね? もっちろんOKデース!」

 

「でもダイアナさん、麻帆良から出れへんよね?」

 

「ニホンの式神の技術は、凄いデース。

 旅行が実現した場合、千草さんが協力してくれる事になってマース」

 

「あー、あのお姉さんが協力してくれはったん?

 イギリス旅行に釣られたんやろうなぁ」

 

「それは秘密デース!」

 

「でも、バレてますよね?」

 

「雪凪殿、これは公然の秘密と言われる類の話でござるよ」

 

「ああ、千雨さんのコス「待てー!!」……なるほど、確かに」

 

「千雨さんの衣装「そっちも待てよ!!」……は置いておくとして、海外となると、時期は問題ですわね」

 

「ある程度の期間を確保する必要があるでござるな。

 急ぐならゴールデンウィーク、現実的には夏休みが妥当でござろうか」

 

「それなら下見に行きたいー!」「先触れとしての挨拶もできます!」

 

「うーん、見た目で侮られそうやない?」

 

「小学生にも見えるでござるからなぁ」

 

「「そんなー!」」

 

 うん、予想通り、カオスになったな。ダイアナに話を振ってもらったし、一応行く方向で話は進むとは思うが。

 というか、今年の間に息抜きというかバカンス的な休暇を入れておかないと、来年度以降は本気で忙しくなるはずだから楽しむ暇は無くなる可能性は高い。魔法を公開した後で、海外へ安全に行けるのかという問題もある。

 その辺は、気付いていないのだろうな。




サンマぁ……あ、チラ裏で艦これ二次、始めてました(過去形)
不定期かつエタ予定(プロット無し終わり方の案無し)で、現状ではWeb小説風設定資料みたいな代物ですが。


2018/02/20 なるなる→なる に修正
2020/01/29 ―(横線)→ー(長音符) に修正

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